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位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第四章『内政編』

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第五話『真似をしてはいけない』

 昔話をしよう。
 前世で僕はテレビを見ていた。
 内容は発展途上国に自ら赴任した日本人医師を取り上げたドキュメンタリーである。
 そこで日本人医師は、自らシャベルカーを運転して土を掘り、井戸を作って上下水を作り、畑のための農業用水を引いていた。
 どうして医師がそんな事をするのか? とアナウンサーに問われると、その日本人医師は『人々が健康を維持するためには、清潔さを保つための上下水道を完備する事と、栄養価の高い食料を安定して供給できるようになることだ。だからこれは医者の仕事である』と答えた。
 前世の僕はひどく感銘を受けたことを覚えている。
 清潔と十分な栄養が健康に不可欠なのはヒポクラテスの昔から変わらない。衣食住を備えることは国家にとっては重要ごとなのだ。
 そしてまず、国家の支柱となる『栄養価の高い食料を大量に供給』するという目的の一つは果たされたように思う。


 僕らは飛翔船の上から大地を見下ろし……辺り一面を黄金色に染め上げる小麦畑に感嘆の声をあげる。

「うひゃぁぁぁ……綺麗やねぇ……」

 メーコちゃんが、飛翔船の手すりに身を預けて感動している。
 結果として言うと、干し鰯を用いた新型の肥料は素晴らしい効果をもたらした。軽いために飛翔船を用いた場合も大量の運搬が可能で、即効性もあり、前年より遙かな収益が見込めるだろう。
 僕の後ろにいるミータ執事が眼鏡をくい、と持ち上げながら言う。

「おめでとうございます。これで『かなり危険な赤字』から『少しマシな赤字』になりました」
「感動に浸らせろよ!?」

 憤然とした僕の声にミータ執事は『白金貨120枚という負債を抱えておきながら平気な顔をしている旦那様の胃腸がおかしいのです』と答えてくる。最近この女執事も僕に対するリアクションが遠慮なくなった気がするぞぅ……? 気安くなったというべきか、なれなれしいというべきか。

「豊作なのはとても喜ばしいことですね。義父も安堵する事でしょう」

 エクエスが微笑みながら言う。
 これほどの大豊作であるならば、連合内の小麦の値段も安定するだろう。

「君のおかげだ。ミータ。ここまで上手く行くとは思わなかった」
「恐れ入ります」

 ミータ執事を初め、文官の皆さんは自分達の仕事が失敗すると――このクーカイ男爵家が設立一年を待たずして潰れ、また給料5倍の仕事を失うともなれば凄くがんばって働いてくれた。
 現在、肥料である干し鰯の原産地では今まで二束三文で取引されていたイワシがお金になり、塩田による収益を失った人々はこぞってそちらに乗り換えつつあるそうだ。
 彼らの生活の糧を奪った罪滅ぼしになればいいんだが。

「ただ……群島諸国では今まで無視していたイワシがお金になると知り、こぞって我々に鰯を売ろうとしています。来年以降は少し値段が下がるかと」
「ある程度農地は広がるだろうが。ふむ」

 現在、既存の田園に加えて開拓も盛大に行っている。
 森を切り開き、田畑を増やす。新しい田園には無税であると伝えているためだ。その増えた農地にも干し鰯は有効だから、消費は増えるだろうけど。……しかしクーカイ男爵領のみで消費するには余りにも膨大な量になってしまうだろう。となると干し鰯が余ってしまう。

「いや。別に連合内のみで消費する必要もないのか」
「え?」

 隣で話を聞いていたエクエスは、なんだか嫌な予感がしたのか……顔を顰める。

「帝国へと売買のルートを築きたいところではあるけど……」
「……終戦に至ったとはいえ、元敵国の生産力を上げることはしたくはないのですね」
「ふむ」

 僕はちょっと黙る。
 確かに……干し鰯は優秀な肥料だ。多分ではあるが、山間の盆地であるクーカイ男爵領よりも遙かに需要は多いだろう。儲けが出ることは間違いない。
 しかし連合内部から『利敵行為』であると責められる可能性もある。

「その辺の問題はバルロフ卿、フェズン公とも相談を重ねないといけないな」

 あの二人は、クーカイ男爵領の発展に大いに寄与してくれている。
 発展計画は彼らとも相談を重ねたものだが、経済は水物で僕が膨大な負債を負って破滅する可能性もある。そうなってしまえば、僕に行った膨大な貸付は焦げ付くから、かなり力を貸してくれる。
 膨大な借金をすると、債権者のほうが僕のために働いてくれるものなのだな、と謎の感心をする僕。
 もっと借金をしたら、もっと働いてくれるのかしら? と思ったりもするのだが……残念ながら僕の周囲の人々は『借金などするべきではない』という真っ当な感性の持ち主だったので、考えを口に出すことさえできないでいるのだった。

「だが……これだけの豊作だ。色々とやり易くなる」
「はい。……そろそろ本命の一手を撃つべきかと」
「この分なら、追加の白金貨百枚の借金お代わりは必要ないかな」
「お願いですから止めてください」

 ミータは本格的に嫌そうな顔で僕の独白に答えるのであった。




 クーカイ男爵領が近年稀に見る豊作だった……という事は、大陸の中ではそれほど興味を引くニュースではなかった。
 連合の内部では『今年の小麦は安くなったねぇ』『バルギス男爵領の新しい領主様が色々と肥料を工夫しているらしいよ』という程度の、会話の延長で語られる程度であった。
 ただし……目端の効く商人は、クーカイ男爵領に目を付け始める。
 小麦の収穫量の増加。その原因である、群島諸国での干し鰯の生産。主食である小麦のみならず、様々な野菜類の質も量も豊富だった。

『へぇ。クーカイ男爵領だと今穀物が安いのか。……そういえば、そのクーカイ男爵領からウチらの村の近くに新しく道路を引いたんだったっけ』

 連合は鉱山資源が豊かであるけど、人間である以上食料は欠かせない。その食料が少しでも安く、大量に購入できるなら、少しぐらいの遠出をする気にもなる。
 オマケに立派に舗装された道が、連合の各都市へと血管のように伸ばされているなら躊躇う理由はなかった。

 なるべく平らに築かれた道は、商人が一度に馬車で詰める荷物の量を増やしてくれる。道の周囲の木々を伐採した事で見通しが良くなる。見通しが良くなれば、不心得者が身を隠し、襲い掛かることも難しくなる。
 群島諸国から飛翔船を使って運ばれる干し鰯などの肥料や、食料、加工された魚貝類も購入できる。
 それにクーカイ男爵領では、山奥の火蜥蜴の氏族より運ばれる鋼木という高級建材、ワイバーンの肝や鱗、高密度のマナを吸って育った霊草の類も比較的安値で手に入るため、商人の数も増えた。
 褐色の肌の高地人や帝国の商人、群島諸国の漁夫たち、連合の鉱山夫たち。大陸でも珍しい、多くの人種が集まる町。そんな人々が集まれば彼らを目当てに異国の酒や食事を出したりするお店も出来上がってくる。男の欲求を満たすためのいかがわしげな店もできてくる。
 そういうお酒を飲む立派な酒場や、大人のお店に通うため、足を運ぶものも増える。

 それに加え、人の行き来を盛んにするため、山奥の村々とクーカイ男爵領を繋ぐ垂直離着陸(V-TOL)機能を持った飛行機械の定期便を始めて人の行き来を増やしていく。何せ燃料はタダなのだ。魔力バンザーイ。
 そうすれば、飛行機械の定期便を実際に利用し、そのあまりの便利さに目を剥いた帝国商人やごく一部の貴族は、当然スヴェルナ商会へと直行する事になる。
 もちろんその間も丁寧に舗装された道路は新しく作り続けているため、商人たちは『直線距離のA領とB領に繋がる険しい山道を通るより、平らでまっすぐで、人の行き来も多いクーカイ男爵領を通ったほうが早く移動できる。儲け話も多いしな』などと言い出すようになる。
 それだけではなく、帝国の商人も『せっかくクーカイ男爵領まで足を運んだんだ。何か売れるものは無いか、他の領にも言ってみよう。幸い道路は立派なものがあるのだし』と考え、足を伸ばしていくことになる。
 そうすれば、クーカイ男爵領のみならず、周囲の貴族達の税収も増えるため、次第に好意的な貴族も増えてくる。少なくとも『たまたま武勲を立てて、分不相応な身分と領地を手に入れた』という陰口は徐々に小さくなった。
 人は他人の懐が豊かになれば嫉妬をするが、自分の懐も豊かになるなら大抵の事は許せる。

 
 連合内部へと蜘蛛の巣のように道路を張り巡らせた職能集団はそのまま道路建設から住居の建設へと仕事をシフトさせていった。
 大勢の人間がクーカイ男爵領の定住を決めると、今度は空前の建築ラッシュとなっていく。
 ノミや槌を振るう音はやむことなく、開拓のために切り出された木々はそのまま建築資材となって家へと移り変わる。
 帝国から招かれた職能集団は、『こっちなら仕事がたんまりあるぞ』と仲間に声を掛け、更に大勢が移り住む。
 まるで雨後の竹の子のように、にょきにょき生えてくる建物。
 人々の活気と豊かさを象徴するかのように、裏路地で残飯を漁る野良犬でさえ見事に恰幅よく太っていた。


 クーカイ男爵領は今や未曾有の発展の只中にあった。


 そして――領土が豊かになればなるほどに、僕の家臣団の仕事量は増加の一途を辿る一方。

「うーむ」

 頑張っている皆を励ますために、先日給料を基本の十倍に上げたが『金があっても使う暇が無い。休みが欲しい』と悲鳴を上げられる羽目となった。
 人員は随時募集しているが、即戦力となれる文官はそこまで多くはなく、育成には人手もいる。
 金はあっても休みは買えない。現代社会の病理を見た気分である。
 僕はブラック企業の社長みたいなことにはなるまいと考えていたのに、結局悪い雇用主になってしまうのであった。
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