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位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第四章『内政編』

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第三話『力をためている』

 最近は『男爵家を貰った若造が、なにやら私財を湯水の如く使って道路を作り、水を引き、海の向こうで鰯を採っているそうな』『馬鹿な小僧だ。だが税金を下げ、道路を作っているだけなら奴が破産するだけで害はあるまい』などと話しているらしい……とエクエスが噂話を教えてくれた。
 反面、民衆からの評判は上々である。
 何せ前の領主であるバルギス男爵は、他の領主の手前もあって過度の暴政を強いていたわけではないが、人々の生活改善のために何かする……という事がなかったのだから。
 僕の治世は何をしようとしてもこれ以上悪くなりようがない。
 男爵領の下賜から数ヶ月が経過したが、まだまだ効果は出ていない。
 現在は肥料である干し鰯を降ろし、また農具を『貸し出す』という形で与えている。
 干し鰯は即効性で、雇い入れた農学の専門家はその効果に目を見張り増産を強く進言してくれた。
 流石は干し鰯。前世で北海道の松前藩が豊かになった要因なだけはある。

 ……こういった新型の肥料や、通路、上下水のインフラ整備というものはそう簡単に効果を実感できるものではない。
 だが効果はじわじわと現れる……はず。
 僕を嘲る貴族達の噂話には耳を貸さず、ただ黙って『今に見てろよ』と微笑みながら、偉大な何かになろうと水面下で努力を続けるのみだ。

 そんな我がクーカイ男爵領ではあるのだけれど、数少ない黒字部門が火蜥蜴の氏族との交易だ。
 残念ながらここまでは道を通すことはできない。原住する魔獣は極めて危険で帝国のエリート建築家も匙を投げざるを得ない。僅かにでも足を踏み入れようとすれば、四方八方から人を殺すために魔獣が殺到するのだから。
 現状、移動手段は飛行機械を用いての空輸か、戦力を整えて地道に山道を歩くの、二つに一つしかないのだ。



 連合首都のガランシューを襲った小反乱から数ヶ月が経過した頃。僕は下賜された新領地の運営の中で何とか時間を捻り出して、火蜥蜴氏族の里を訪れていた。
 僕らは飛行機械のハッチを降りて、歩き出した。
 火蜥蜴氏族の里は、現状拡張の一途である。
 視線を向ければ、耕された畑の畝が見える。ちょこんと目を出した若葉の緑色は美しい。これも高地特有の高密度のマナの影響なのか、植物の発育は好調だ。
 また遠くではチェーンソーの伐採音が荒々しく響き渡っていた。
 鋼木の繁殖力が激しく耕作が難しかった彼らだが、チェーンソーの開発によって伐採は順調に進んでいた。
 伐採された鋼木は我がクーカイ男爵領が高値で買取っている。その金銭で、彼らの代表者を運んで物資を購入させたり、魔獣のすむ山を安全に降りることのできない女子供を観光目的で連合首都のガランシューに連れて行ったりする。
 山奥に住む高地人(ハイランダー)は、ガランシューに住まう人々からすれば謎めいた神秘の超人達だ。そして『謎』や『未知』は恐怖に繋がる。そういった偏見を無くすには、一緒に生活してお互いの事を知ればいい。
 ……褐色の肌の子供と遊んだ経験のある子供が大人になれば、きっとそういう恐怖は消え去るものだと信じている。
 そんな事を考えていると、僕の後頭部に柔らかいものがぶち当たる感触がした。ルコッチャの褐色の手が……あの鋭い爪は消えて、普通の女性の手が回されてくる。

「し、シオン。ちょ、ちょっと、き、緊張する」
「……ルコッチャ。僕の顔に抱きつくな」
「夫婦仲が結構で、羨ましいことだ」
「レグルスさんこそ、キスカさんとご結婚おめでとうございます」

 そんな訳で、ボアレス族長と会談を設けたわけで。僕の護衛兼交渉の助手として、ルコッチャとレグルスさんを連れている。
 会話どおり、先日レグルスさんは冒険者を退職する事に決めたそうだ。なら後はどうするのか……と聞くと、バルロフ卿の推薦もあり、クーカイ男爵領に新設される冒険者ギルトのマスターをやるそうだ。

「キスカとレグルスが結婚するの、喜ばしい。おめでとう」
「ああ。ありがとう、ルコッチャ。君には山に分け入る時はいつも世話になったよ」

 レグルスさんは静かに笑った。
 その気になればあと十年二十年は実戦で戦えたのだろうけど――あのワイバーンの群れに襲われた時から廃業は考えていたらしい。
『九死に一生を得てから、これ以上続けるのが怖くなってな。……そんな顔をするな。どこで野垂れ死ぬかわからん冒険者としては、最高とは言わずとも、最高から二番目ぐらいにはいい幕引きだったよ』と彼は笑って僕に話してくれた。
 パーティーの最年長者であったレグルスさんとキスカさんは結婚を機に廃業。傷だらけの鎧(スカーメイル)猛攻(ラッシュ)の面々は他幾人かが廃業し、残ったメンバーはチームを一つにして再出発するのだとか。
 レグルスさんは冒険者たちをサポートするため……今回の会談には意欲を燃やしているそうだ。 

 そうこうしているうちに、火蜥蜴の氏族へとやってくる。
 相変わらず木々の上に設けられた村だが、今では我が領や首都ガランシューからも建築家や農業の専門家もやってきており、褐色の肌に混じって普通の白い肌の人もちらほら見えるようになっている。

「族長がお待ちです。どうぞ」
「ありがとう」

 狩人の一人は僕に対して丁寧に頭を下げる。
 だが一瞬僕の後ろにいるルコッチャに不快げな視線を向けたのを見逃さなかった。

「ルコッチャ……」
「ん~」

 狩人の視線に気づいているのだろう、ほんの少し寂しそうな顔を浮かべるルコッチャ。背を伸ばさなければ頭を撫でてやる事実に愕然としながらも、手を握る。彼女は甘えるような視線で僕を見つめた。

「お姉ちゃんっ!」
「あ、ミルカ、マルカもっ!」

 いや、僕が慰める必要もないか。僕は……遠くから飛猿のような軽やかな動きでこっちへやってくる姉妹二人の姿に安堵した。大人の狩人はルコッチャの体にあった秘密を知っているがゆえに、あんな態度を取るのだろうけど……きっと秘密を知ったところで、姉を愛する気持ちに揺るぎないであろう家族がいる。

「久しぶりにご家族に会っておいで」
「うんっ」

 そう言うと、ルコッチャは妹たち二人の元へと駆け出していく。
 そんな姿を見送りながら、僕とレグルスさんは族長の待つ一室へと進むのであった。



「……久しゅうございますな。シオン=クーカイ卿」
「お久しぶりです。ボアレス族長」

 僕は頭を下げ、勧められた席に座る。テーブルはなく、床の上に敷かれた座布団みたいな敷物に腰を下ろすスタイルだ。
 部屋の中には僕ら三名とボアレス族長のみ。

「……我が氏族と、貴方達クーカイ男爵領との交易は現在順調のようですな」
「ありがたいことです。……今回は、新たな話を持ってまいりました」
「ほぅ」

 頷く族長の前に僕は地図を開ける。
 そして、僕の変わりに説明をするためレグルスさんが進み出た。
 冒険者パーティーのリーダーとして、山奥の活性水採取のため火蜥蜴氏族の里に寝泊りした事もある彼は、ボアレス族長とも親しい。それに今回の計画には、冒険者であった彼の見聞が広く生かされている。説明役には絶好の相手だ。

「レグルス殿か。最近キスカ殿と結婚なされたと聞いた。おめでとう」
「ありがとう。妻もきっと喜ぶだろう。
 ……さて、話に移ろう。俺達冒険者と、貴方達に関わる仕事だ」

 レグルスさんは口を開く。そもそもこの話の原案は、以前彼が僕に言った『縦横無尽(フラーヴィ)号、可能であれば魔女(ヘクセ)を貸して欲しい』という言葉だからだ。

「俺達冒険者は、この火蜥蜴氏族の里で宿を借り、更なる山奥へと踏み込んで魔獣を狩り、活性水を採取してきた。
 だが、山奥の魔獣は危険が多い。それは、この山奥での生活に慣れ親しんだ、あなた方高地人(ハイランダー)でさえ例外ではない」
「うむ……」

 ボアレス族長は頷く。

「それで、我が冒険者ギルトとフェズン公は一つの解決案を提示した」

 広げる地図は――巨大な基地の設計図。

「俺達は、この火蜥蜴氏族に隣接する形で魔女騎士(ヘクセリッター)の駐屯施設を建造したい」
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