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位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第四章『内政編』

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第二話『溢れるほどに金を使う』

 垂直離着陸(V-TOL)式の飛行機械は今後の輸送業を一変させる革新的なものと自負している。
 しかしそれらは、言ってみれば大型のダンプカーみたいなものだ。普通の人に手が出せるものではない。
 現在の民衆が利用する移動手段となると……この辺はやはり、中世ファンタジーと大差が無い。
 つまり、自分の足による徒歩。乗馬による移動。馬に引かせた乗り合い馬車などだ。帝国側になると、ここに古代王国時代に残された鉄道も加わるそうなのだが。

 魔術機関等を利用した、車に該当するものはないのかな? と思ったが……ここでネックになるのが『この世界では、マナは高い位置に移動しようとする特性がある』だ。
 つまりマナ密度の薄い地上を移動する車では、燃料代わりとなる十分なマナを得る事ができないのだ。
 それに加え、俊敏(クイック)などの強化魔術を掛けられた軍馬などはかなり速度が出るため、車に類する乗り物の技術はあまり必要はなく発展しなかったらしい。

 話が逸れた。
 民衆が使う移動手段は、今も変わらず徒歩か馬車であり、人や物資の行き来こそが活発な経済に必要と信じる僕は、帝国から招いた土木工事の専門家にさっそく自領内と首都ガランシューを繋ぐ道や、他領との道の舗装を依頼したのであった。

 つまるところ、街道は血管であり、血流は物資や行きかう人々。人の行き来が活発になればなるほど国とは豊かになるものだ。



 まず、役に立ったのが地図だ。
 それもただの地図ではない。モモが天蓋領域から撮影した高解像度の地図を用いることにより、道路を引く場所の選定が恐ろしくスムーズに進んだ。
 土木工事の専門家さんから『こ、こんな詳細な地図どこで手に入れたんですか?!』と驚かれたりしたが、企業秘密という事で押し通した。心底残念そうな顔をさせてしまったのは……なんかこう、ごめんなさい。
 それから馬車で移動して実際の場所を下見し、上空の確認においては貸し出したドローンを用いることでより正確な把握が可能となる。
 こうして一ヶ月が過ぎ、入念な調査が終わると共に工事が始まったのだ。


 道路はまず、なるべく平坦で坂は少なく、直線になることを心がける。
 その障害があるならば迂回ではなく、障害を破壊、撤去して可能な限りまっすぐを貫かせた。
 道を定めるとまずは地面を一メートル半ほど掘り下げ、砂利を敷き詰め、土を被せてその上から敷石をぴっちりと隙間なく詰めていく。
 道路はまず真ん中に幅四メートルの馬車、馬用の道路を建造する。その両側には幅3メートルの歩行者用の道路を二つ築く。

 道の両側に木々がある場合は可能な限り伐採する。
 成長する植物の根というのは、舗装されたアスファルトの道路さえ破壊する。この世界の歩道などひとたまりもあるまい。予め伐採しておくことで、メンテナンスの手間を省く。もちろん材木としても利用する。
 この際も火蜥蜴の氏族に譲った木材伐採用のメタルセイバー……いやもうチェーンソーというべきか。これのおかげで作業効率が劇的にはかどったらしい。
 なおこれも帝国や他領への輸出品目として利用できるそうな。やめといたが。


 平行して、水路の調整作業も始まった。
 こちらは門外漢なので口出しできる事は少なかったが……帝国から呼び寄せた農地開発者によると、良質で、大量の肥料があれば立派な田園地帯になるというお墨付きを貰った。
 死人は悪く言いたくないが……バルギス男爵は一体何をしていたのだろう。
 フェズン公から援助金を貰って、自領を豊かにする事を考えれば、もう少し金持ちになれたろうに。




 さて。
 ここでは書ききれないぐらい多くの事業を平行して書いていた訳だが、僕は男爵として赴任した当初から人をやって調べさせていることがあった。

 南方群島諸国のことだ。
 僕はいわば彼らにとっては親の仇に等しかろう。
 連合は今や豊富な岩塩鉱床を発見し、塩の自給自足が可能となった。その立役者である僕を恨むしかないのだろう。

 僕は、ミータ執事と農学の専門家をやって、ある支援事業を始めたのである。

 そう。
 イワシの爆買いだ。





 イワシ。漢字では『鰯』。魚に弱いと書いてイワシだ。 
 前世での江戸時代では『下魚』と見られていたお魚である。
 海上に上がるとすぐさま死んで腐るため食品にするにも不便な魚。僕も以前、魚屋で探してみたが『どこでも取り扱っていない』という返事を貰った。
 そんな事を思い出しながら、僕は執務室に招いたミータ執事の疑問に答える。

「イワシ……ですか? 旦那様」
「ああ。イワシをまず重石で圧迫して中のイワシ油を抽出する。
 それらを天日干しに掛けて乾燥させたものは軽く、効果の高い肥料となる。鰯油のほうも利用法はあったはず。魚の餌に混ぜ込むと食いつきがよくなったりとか。ただ放置しとくとひどい臭いがするから気をつけてね。……こっちじゃ干した魚を肥料にするって話はないのかい?」
「いえ。あります」

 ミータ執事は僕の言葉に頷く。

「そうか。基本的なところは雇った専門家さんと相談してくれ」
「あの……旦那様……」

 地引網漁に関する覚え書きを渡すように頼みつつ、椅子の上で背伸びする僕にミータ執事は少し困惑気味の様子で尋ねてくる。

「あなたはどうして、群島諸国に手を差し伸べるのです?」
「ん?」
「あなたは群島諸国の、塩による経済的な被害をこうむった彼らのために組織を起こし、船を買い与えて鰯の漁船団を編成させようとしています。確かに旦那様の指示通り干し鰯が有効な肥料となるのであれば、彼ら群島諸国のいくつかは貧困から回復するでしょう。
 しかしそのために、このクーカイ男爵領を発展させるための予算の中からかなりの割合の金額を出資しています。干し鰯を確実に手に入れるルートを作るためとはいえ、所詮は他領です。放置していても構わないのでは?」

 なるほど、と僕は頷いた。

「確かにそこまでする理由はないかもしれない。それに僕のやろうとしている事は……彼ら群島諸国の人から見れば偽善にうつるかもしれない」
「では、なぜ?」
「喰えなくなった人は最終的にはどうなる? もうどうしようもなくなって海賊になったりする。
 隣国の経済的、社会的な安定は、結果的に自領の安全に繋がる。
 山賊や海賊になる人ってのは……人を傷つけ奪うことが生き甲斐の真性の大悪人か、もしくは食べることに困り果て、もう略奪行為しか生きる目がないからだ。そして大悪人なんてそうそういるものんじゃない。大抵、人を傷つけ殺して奪うより、食べる手段があるならそっちを選ぶものさ」
「群島諸国の海路安定こそが目的だと」
「賊が生まれる土壌を放置して軍隊を出撃させるより、雇用を増やして生活ができるようにして賊の出現を防ぐ。そっちのがより安上がりだよ」

 僕はそう答える。
 この案をフェズン公に話した時、彼は快諾してくれた。
 塩田の収益で生計を立てていた人々に新たに自活の手段を与える。そして干し鰯事業が成功すれば、その最大の販売先は、これから農地の一大改革を行う予定の我がクーカイ男爵領である。そうなれば……困窮からの海賊出現も、帝国側に寝返ることも防げるのだ。

「……僕だって質問はあるぞ、ミータ。なんで自分から派遣員に名乗り出た」

 そのついでに僕も疑問に思っていた事を口にする。

「僕は、群島諸国の塩田で生計を立てていた人からは蛇蝎の如く忌み嫌われている。なんせ彼らの商売敵なんだからな」

 火蜥蜴の氏族との交易は、出資の重なる我が男爵家において数少ない黒字部門だ。
 その彼らとの交易ルートを確立し、彼らに大損をさせた僕は殺しても飽きたらないだろう。

「僕は恨まれている」
「そうでしょうか? あの状況では致し方ないかと」
「子供を売るほどまで追い込まれた人々が僕をどう思うのか、想像に難くないな。
 ……ミータ。さっきもいったけど、この事業のみはフェズン公も大きく関わっている。隣国の政情安定は彼にとっても重要だ。だからこそ……今回の説得役には僕の家臣ではなくノザルス執事殿にお願いしようと思っていたのだけれど。それなのに、どうして君は自分から大変な仕事を引き受けたんだ?」

 僕のそんな質問に対してミータは少しだけ、怜悧な美貌を緩めて微笑んでみせた。

「……微笑む要素が分からないよ。ミータ」
「いえ。旦那様は何かと理屈をつけてらっしゃいますが……つまるところ、群島諸国の方々を助けたいと思っておいでなのですね? あなたのような優しい性根の方に仕えることのできる幸運を喜んでおりました」

 ……なんだか本心を見透かされたような言葉に、僕は頬が赤らむのを感じて目を背ける。俯いた。
 ああそうだとも。僕の根っこは前世で培った善性が強く根付いている。だけども優しいだけでは人を助けることが出来ないし、クーカイ男爵領の貴族となった僕は近しい人を第一に考える必要がある。
 だからこそ人を助ける理由に細かく理論武装をしていただけだ。
 そんな僕を見ながら、ミータは言う。

「奥方様たちが……旦那様の事を大変かわいいと仰っておいででしたが……」
「初耳だよ!!」

 僕は憤然と唸り声を上げて。そんな僕の心理などお構いなしに、ミータは微笑んだ。

「私も、今少し旦那様の事をかわいいと思ってしまいました」
「気の迷いだ!」

 がるるる、と唸り声を上げて否定して、僕は仕事に没頭するのであった。
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