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位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第三章『陰謀編』

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第五十二話『死が皆を分かつまで』

 ……がらがらがらと馬車の音を響かせ、僕は新しい住居を目指す。
 連合を窮地に陥れた塩不足。首都ガランシューを襲った小反乱。そして領内上空を浮遊していた生物兵器光獣(ラディアス)の撃破。
 全く地上に降りてからも、モモに語って聞かせる話のネタに困ることのない波乱万丈の連続である。
 そんな僕だが……あれから一ヶ月が経過して、先日フェズン公爵の手で正式に男爵位の受勲が行われた。
 今後は、お家取り潰しとなったバルギス男爵領に新築するお屋敷が新しい住居となる。

「別に今までどおりでもいいんだけど?」
「そうは行きません」

 答えてくれるのは眼鏡を掛けたクールな美人秘書と言った感じの、僕んとこの執事となるミータさんである。
 フェズン公の有能な執事であるノザルスさんに『新しい家を作るので、有能な家令をお願いします』と頼んだら送られてきたのが、ノザルスさんのお孫さんである彼女だった。……とはいえ、そこはさすがに公爵家の筆頭執事。エクエスに聞くと、親の欲目抜きで優れた人であるそうな。

「新しい領主様がお越しになると示すなら、やはり政庁と私宅を兼ねた屋敷を新たにするほうが、人々には分かり易いものです」

 そういうものか、と僕は頷く。
 メーコちゃんは、現在スヴェルナ商会での雑事を取り仕切っている。
 最近躍進著しい商会は、規模を増やそうという事で元バルギス男爵領……クーカイ男爵領への移転のために大忙しらしい。
 ギュスターヴはあの事故で受けた傷が悪くなる事もなく、垂直離着陸機能に関する操縦のマニュアルを製作していた。パイロットでなければ分からないことも多いから、そこは大助かりだ。

 ルコッチャは、妹のミルカさんとの結婚式に出席するために今はいない。僕にもお誘いの言葉は来たのだけど、腕が完治していないのと、色々やるべき事が多くて残念ながら出席を見合わせるしかなかった。なお、魔兵を狩った報奨金を使って立派に結婚の際の引き出物を用意したらしい。
 ミルカさんからは『今度はお姉ちゃんとシオンさんの結婚式ですね!』と笑顔で言ってくださった。13歳に何を期待している。
 商人ギルト総帥のバルロフ卿とフェズン公、そして冒険者チームのレグルスさんとキスカさんたちは、現在僕と組んで事業をする計画を立てている。
 そんな訳で、今現在僕と一緒にいるのは……。

「こんな形で……里帰りするとは思いませんでした」

 エクエスは馬車の窓から一望する景色に声を漏らした。
 馬車から見る景色は……あまり綺麗なものではない。用水路の工事跡が中途半端な段階で放置され、働いている農夫たちもどこか気力に欠けていて、通り過ぎる僕らの馬車に怪訝そうな視線を向けている。
 馬車の両脇には、僕らを守るための護衛の騎士たちが馬を走らせている。こういう風に僕個人に仕える配下を持つと、自分が貴族になったという実感がより強く感じられた。
 にしても、道路が整備されてないなぁ。がたごとする馬車に辟易しながら、僕は執事のミータさんに視線を向ける。

「墓は?」
「ご指示通りに」
「ありがとう」

 僕とエクエスは頷く。
 ……しばらくの後、僕とエクエスは侍従たちを置いて墓へと歩いていく。ここはバルギス男爵家代々の墓だ。
 男爵家それ自体は……今代のバルギス男爵の死をもって滅ぶが、血を引いているエクエスが生きているから、名前のみが消え去っただけだ。
 手にはお花をもち、墓前に捧げる。

「……ま、危ないところを庇ってもらったんだ」
「ええ」

 ドライゼンは……ここに眠っている。
 バルギス男爵の反乱に参加こそすれども、最後の最後で良心に目覚めたのだろうか。
 僕とエクエスは目を閉じ、しばし、一緒に黙祷を捧げる。
 とりあえず領地のほうは上手くやるから、安心していろよ。そう心の中で語りかけた。そして立ち上がる。

「エクエス。もういいかな」
「ええ。……行きましょう、シオン」

 エクエスは一度、ドライゼンの墓にちらりと視線を向けてから僕のほうに小走りに駆けてくる。
 天蓋領域に到達するために船を作る。その事は変わりない。けれども、同時に僕はこの地上で守るべきものも沢山見出した。

 それと共に、敵が存在する事も、はっきりとわかった。

 帝国の大商人ラゴン。そして光獣(ラディアス)を操っていた男の言う『あの方』。
 連合と帝国の平和を乱し。戦争を引き起こそうとするものども。
 そいつらは、今の時代で失われた魔獣を自由に操る技術を持っている。

 最初はただ単に、モモにもう一度会うため、天蓋領域まで到達する飛行機械を作るだけが目的だったのだが。
 エクエス、メーコちゃん、ルコッチャ。ギュスターヴ、ダナンさん、キスカさん。
 大勢守らなければならないものができた。

 けど、それは決して不快な事なんかじゃなかった。
 敵の力は未知数で、やるべき事は山済みであったけど。

 大勢の人々を、自分の持つ力と技術で幸福にする。
 男児の本懐ではないか。



「それにしても。良かったのですか? シオン」
「うん?」

 首を捻る僕に、エクエスは言う。

「ミオン=クーカイちゃんのことです」
「グワー?!」

 心臓を抑えて叫んだ。臓腑を抉るような屈辱の記憶が肉体を傷つける! まるで前世の頃の心臓のように胸が痛い!!
 僕が男性で、本来女性にしか使えない飛翔甲冑(メイル)を扱え、その上皇帝の血筋にしか発現しない銀色の髪を持っているという秘密一つを守るために、新たに僕は「ミオン=クーカイちゃん」というキャラを演じなければならなくなった。
 一度ついた嘘をごまかすために嘘を重ねる。なんだか泥沼の第一歩目を踏み出した気分だ、まったく。

「それはともかく、何で僕が男だと誰一人気づかなかったんだろう……」
「…………下手な女性よりもきれいなその顔で言うことかしら?」

 なぜかエクエスが酷いことをいった気がする。

「……でも、シオン。あなたは正体を隠し続けることができたはずです」
「ん?」
光獣(ラディアス)を倒す最後の戦い。あの戦闘ではあなたが無理をせずとも、連合の魔女騎士が大勢参戦していました。
 あなたが出撃しなければならない理由はなかったはずです」

 それは、そうだろう。
 僕以外にも光学迷彩(クローク)の魔術を習得している人はいただろう。生石灰グレネードがあれば相手の邪視は防げた。
 では、なぜそれをしなかったのか。

「戦闘中、僕はザスモーで魔女騎士を守った。あの時僕がいなければ、後ろにいた魔女は燃やされて死んでいただろう。
 僕のザスモーは大火力、重装甲、高機動力を兼ね備えている。僕の存在は大勢の負担軽減になったわけで……」

 いや、上手く言えない。
 口ごもりながら僕は言葉を続ける。どうにか心の中を言い表そうとして……ああ、たった一言で表現できる事に気づいた。

「ドライゼンとの決闘の時にも言ったろう。
 ……君のためじゃいけないのか、エクエス」
「ッ……」

 言いながら、僕は自分自身の心の言語化を試みる。言葉という形にする。

「まぁ、そうさな。確かに僕は魔女騎士として出撃した。その魔女である「僕」とクーカイ男爵領の当主、貴族のシオン=クーカイは同一人物では? と考える人もいるだろう。
 だからどのみち、僕は正体を隠すため「ミオン=クーカイちゃん」という偽者の魔女を演じる必要が、これから先出てくるだろう
 でも、だからこそ僕は魔女騎士の娘さんや、君の命を守ることができた。僕が出撃しないことで、君や他の娘さん達が傷つかなくて良かったと思っている。
 そのためなら……これから先、スカート履くぐらいがなんだ」

 あの履き心地、股間の辺りの頼りない感触は一生慣れまいが。

「とりあえずアレだ。僕の妹「ミオン=クーカイちゃん」は兄であるシオン=クーカイの庇護の下、屋敷のどっかに隠れ住んでいるという形にしとこう。それから……エクエス。エクエス?」

 僕は彼女が何の返答もしないことを不思議に思い、振り向くと真っ赤になった顔のエクエスが、固まったように僕を見ている。
 そして……しばらくしてからエクエスは、震える唇で、真っ赤になりながら僕を指差し手をぶんぶん振り回して言う。

「ずるいです、シオン!!」
「……なんでそうなるのさ?」
「そういうのはもっとこう違う雰囲気で……そう、『今から恥ずかしい台詞を言います』と事前に予告してください!!」
「何かすごく無茶言われてる気がする!!」

 なんだかかわいいなぁ。
 よし、いい機会なので言ってしまうことにしよう。

「わかった」
「ええ、わかってくださいましたか」
「では先に予告しよう、僕は今から恥ずかしい台詞を言います」

 僕の、いきなりの発言にエクエスは、ええっ?! と驚きの表情を見せたが……しかし、恥ずかしい台詞予告を頼んだのは自分自身である事を思い出し、仕方ないと考える。
 大きく深呼吸を行って、大丈夫、大丈夫。わたしはれいせいです、と自分自身に言い聞かせる。
 そして、よぉし、準備完了です! と腕に力を込めてエクエスは微笑んだ。

「さぁどうぞ、シオン」
「ああ。結婚しよう、エクエス」

 ふわきゃあああぁああぁぁぁぁぁぁ。

 エクエスの喉からあふれ出た悲鳴に僕は思わず何事なんだろう、と思った。
 彼女は、僕を指差して震える腕をふるふる上下させる。何かこう僕を責めたてたいけれども上手い罵倒の言葉が思い浮かばず四苦八苦している様子。いったいどうした。

「……どうしたのエクエス」
「どどどどど、どうしたもこうしたも!! ……なんですかいきなり、もうなんなのですか!!」
「いきなりという発言には訂正を求めるぞ? きちんと君の指示通り、事前に警告したじゃないか」
「ものごとには! なにごとも! 限度というものがあるんです!!」
「実際、僕はまだ若いから婚約という形に落ち着くとは思うけど。そんな事言われても」

 じたばたする彼女。
 どうしろと言うのだろう。
 以前の告白の返事をしただけだというのに。どうして僕が責められるのか。

「とにかくそう……つまりシオンが悪いんです!!」
「なにその超理論! ……じゃあ、どうしたら許してくれるんだ」

 とにかくエクエスが謎の狼狽をしているので、僕はどうにか宥めようと尋ねる。
 すると……エクエスは困ったように悩み、答える。

「……では、こうしましょう。屋敷に戻ったら、メーコとルコッチャの二人にもきちんと『結婚しよう』と答えること」

 ……………………。
 その時僕はどういう表情をしていたのだろう。恥ずかしいのと嬉しいのと、なんて言うべきか戸惑うのと、困ったぞ、どうしようとか、言ったら喜んでくれるかな、とか、とにかく様々な感情が一挙に押し寄せて。

 もうたまらなくなって。

 ただ。
 僕の顔を見たエクエスは……なんだか一瞬呆けたような顔をしたけど、少ししてハッと意識を取り戻し、興奮したように言う。

「し、シオンっ!」
「な、なぁに?」
「今の顔、今の顔もう一度見せてくださいっ!」

 そう言ってなんだかむず痒くなって目を背ける僕に、エクエスが引っ付いてくる。
 なぜだか僕の今の顔が心の琴線に触れたのか、エクエスは『もう一回、もう一回』とおねだりをしてくる。

「もう、いい加減にして」
「だ、だって、その……とにかくいいじゃありませんか、夫は妻の言うことを聞くものです!」
「夫婦間でも隠すべきことはありますー」

 そう言って僕は足早に駆け出していく。ちょっと、待ってくださいと言い募るエクエスはもちろん置いてだ。
 見せてくださいといわれても困る。僕だってどんな顔をしていたのかなんてわからない。

 ああでも。

 ただ、あの時の僕は、胸の奥底からあふれ出てくる幸せな気持ちで一杯だった。
 だからそう、ここから先、そういう顔を皆に見せる機会は沢山あるだろう。
 でも、なんだか僕は自分の喜ぶ顔を相手に見せるのが恥ずかしくなって、そのまま全力疾走で、ミータの待つ馬車へと逃げ出すのであった。
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