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位置が高いほど魔力の濃い世界で、空の彼方に生まれました~航空機チートによる物流革命~ 作者:八針来夏

第三章『陰謀編』

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第四十五話『彼女が舞台に上がる』

 次の日の朝。
 僕とエクエス――と、ルコッチャの3人は再びフェズン公のお屋敷へと進んでいった。
 そう。ルコッチャも、である。彼女は昨日からずっと僕のプレゼントした手袋と髪を隠す布飾りを纏って安心した様子だったけど……平地人の指導者であるフェズン公に呼び出しを受けて不安な様子できょろきょろしていた。

「し、シオン。シオン。わたし処刑されたりしない?」
「ルコッチャ……義父はそこまで冷酷ではありません」

 などと僕やエクエスよりも背が高いくせに、僕らの影に隠れてきょろきょろしている。

「でもなんだか血の臭いする」
「気のせいでしょ」

 僕はルコッチャの鋭い嗅覚に舌を巻きながら適当に誤魔化しをしておいた。
 血の臭いには心当たりがある。
 ……バルギス男爵の処刑は、今朝早く、つつがなく実行されたそうだ。
 普通、貴族の処刑ともなれば、もう少し煩雑な手続き等がありそうなものだけど……市民のいる市街地に魔兵を出現させて、人心を覆いに乱し、首都に兵馬を進めて反乱の意志を明らかにしたのだ。
 どれほど優れた弁護士が手を尽くそうとも『一番軽くて死刑』というフェズン公の判断を曲げられる訳もない。
 そうして……昨日暗殺騒ぎのあったフェズン公の前に、僕らはまた参上したのであった。

「……やぁ。君達か」

 通された執務室で、フェズン公は……恐らく一睡もせずに徹夜で事態の収拾に尽力していたのだろう。
 目には疲労の後のように隈が刻み付けられている。だが、その目に浮かぶ強烈な使命感が、肉体の疲労を押しのけ、指導者としての風格を漂わせている。内面から滲み出るような強固な信念は、さすが、一国の宰相に相応しいものだった。
 フェズン公は少し疲れた様子だったが……それでも両足で立ち上がり……僕らの後ろできょどきょどしていたルコッチャに深々と頭を下げた。

「え、え、え? あの、お、おうさ、ま?」
「君がルコッチャ君だな。……首都ガランシューに放たれた魔兵どもを率先して撃退してくれたこと感謝に耐えない。市民の被害をほぼゼロに押さえ込めたのは、君の尽力があってのことだ」

 フェズン公はそう言うと、傍らのノザルス執事に合図する。
 僕らの時も出てきた……金貨のどっさり詰まった袋がルコッチャに差し出された。

「え? な、に? なにこの……なに? 金貨たくさん、生まれて初めて見る……!!」
「事態の収拾の際、魔兵の首一つに付き金貨十枚の懸賞金を掛けた。目撃情報から正確に計算したつもりだが、不手際があったら申し訳ない。今はそれが出せる精一杯だ」
「え? そんな、お金もらうつもりじゃ」

 突然目の前に山ほど詰まれた金貨に混乱しているのか、ルコッチャは目を白黒させながら手袋に包まれた腕をぶんぶんと振る。
 僕は助言することにした。

「いいからもらって置くんだ。それをいただかないと、フェズン公は公言した約束を守れなくなってしまう。
 指導者の発言の重みは僕らとは違うんだよ」
「で。でもぉ」

 物々交換で生計を立てている高地人(ハイランダー)のルコッチャだが、首都ガランシューで商取引もしていたため金銭の価値は知っているのだろう。だから目の前の金貨の山が、今後何十年分かの働きに匹敵する膨大なお金で困っているのも分かる。

「じゃあ、ルコッチャ。とりあえず僕やエクエスがお金を預かるので。必要になったら渡そうか?」
「シオンにあげてもいい」
「……そうも行かない。大金が絡んでるんだから、きちんと管理しないと」
「シオンの事を信じてる。夫のことを信じるのは当たり前。それに手袋作ってもらった、お礼」

 さすがに手袋の代金としては、この魔兵討伐の報酬である金貨の山は貰いすぎなのだが。
 とりあえず金額が金額なので……僕やエクエスがこのお金を管理する事になったのだった。



 どうも身分の高い人と話すと気疲れするのか、ルコッチャを別室で休ませた後、僕らはフェズン公と話の続きを進めることにした。

「さて。バルギス男爵領の今後のことなのだが。シオン。君に領土として与えようと思っている」
「??? 僕みたいなただの技術屋になんでまた?」

 首を捻る僕であったが……隣でエクエスがなんだか奇怪なものを見る目で僕を見ている。
 なんだその目は。

「シオン。……今後、物資輸送の革命となるであろう、垂直離着陸機能を備えた飛行機械を生産し。火蜥蜴の氏族が欲していた木材の伐採機材提供で岩塩の安定供給を実現し。そして魔兵出現の折には、数的劣勢なフェズン公に付き従ってバルギス男爵の軍勢を突き崩し。そして男爵の残党の排除に貢献しました。
 領土を賜るのには十分すぎる勲功です」
「え。めんどくさいよ」
「ふっ、ぶはああははははっ! 面倒くさいかっ! そうだな、公爵なんて面倒だ、わたしが保証しよう!!」

 僕の言葉に、フェズン公はむしろ面白そうに大笑いを始めてしまう。
 とはいえ僕の台詞はまったく本心である。僕がやりたいのは天蓋領域に到達できる高性能の飛行機械の開発で、貴族様になって面倒くさい雑務を引き受けたいわけではないのだ。
 しかしそんな僕に、エクエスは、はっー、と溜息を吐いた。

「シオン。一つ質問なのですが……あなたは連合のみで飛行機械の開発をするおつもりですか?」
「? いいや? できるなら帝国のほうでも当てがあるなら手を広げたいね」

 これも本音。
 果たして天蓋領域に行くための飛行機械を作るにはどれだけのお金が必要かわからないし、市場は広げておきたい。

「では……一つ助言です。帝国では『空を飛ぶ事が許されているのは貴族のみ』という考えが蔓延しています。……そんな国では『貴族でないものが作った飛行機械は売れない』ですよ」
「馬鹿か?!」

 僕は叫んだ。
 だがエクエスを援護射撃するかのようにフェズン公が言う。

「残念だが事実だ。飛翔船(バードシップ)は有効な移動手段だと我々も考えているが、帝国では、平民が設計を手がけた船というだけで購入を見合わせるものも多い。そうでないものは少数だよ」
「うぬぬぬ。……仕方ない」

 僕は俯きながら頷いた。帝国という連合よりも遙かに巨大な市場を無視して、空の彼方に赴く夢を諦めるわけにはいかない。
 ふと視線を上げるとフェズン公とエクエスがハイタッチしていたように見えたが気のせいだろう。

「では……分かりました」
「うむ。正式な話はまただが、そのつもりでいてくれ」
「実務なんてできませんので有能な文官の手配をお願いします」
「ああ」

 頷くフェズン公。
 そして手元のお茶を一杯煽ってから……目に真剣みを煌かせて言う。

「では……次の話だが。……連絡は聞いている。我が公爵領の上空に、古代王国時代に生み出された、不可視の制空兵器が存在していると?」
「はい」

 そう。今回の議題で最も重要な事はそこだ。
 ギュスターヴが遭遇したという謎の攻撃の正体は
 フェズン公は、しかし目に一抹の不信を漂わせて尋ねてくる。

「だが、俄かには信じがたい」
「と、思うので――今回僕の師匠にお出ましいただくことになります」
「は?」

 僕はそう言うと――この会談の場に持ってきたザスモーのヘッドセットと増音器を繋いだ。
 連合上空に存在する怪物、光獣(ラディアス)
 ギュスターヴが命がけで掴んできた敵の名前を生かすには、僕もやれる限りの手札を晒さなければなるまい。

『……初めまして、フェズン=バルアミー公。姿をあらわせず、また声のみを届ける事しかできない事をお許しください』
「ん? 女性の声? どなたか」

 フェズン公の声に、彼女はこたえる。

『わたくしの名はモモ。そこにいるシオン=クーカイの母代わり、師代わりのものであり……彼に『あの』金貨を与えたものです』
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