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Aランク冒険者パーティー、業火の斧

業火の斧。


Aランクの冒険者達だけで構成された超実力派のパーティーである。


王都の冒険者の平均ランクが他の街に比べて高いとはいえ、全冒険者の一%程度と言われるAランクの冒険者だけが集結したパーティーは他には無い。


総勢十人のAランク冒険者達は難関とされる様々な依頼を達成し、いまやリーダーのグシオンはSランク目前とされている。


実力だけならばSランク相当のメンバーが数人いると噂される業火の斧は、国からの緊急依頼のために王都帰還と同時に王の居城へと呼び出されていた。


圧倒的な実力と驚異的な依頼成功率をもって、僅か二十五歳という若さで業火の斧を結成したリーダーであるグシオンは、嫌そうに渋面を作り城内の廊下を歩いていた。


何処か歩き慣れた様子で廊下を進むグシオンと、その後を付いて歩く大柄な男、そして二人を囲むように歩く三人のメイド姿の女の一行である。


百八十センチはあるだろうグシオンよりも更に頭一つ分大きい大柄な男は、業火の斧の副リーダーであり、グシオンと同じ師匠のもと鍛えられた兄弟子でもある男、サヴノックだ。


業火の斧の二人はメイド達に連れられて、謁見の間の前に立ち、メイド達の合図によって中から開かれる重厚な雰囲気の両開き扉を眺めていた。


傷一つ無い鉄の鎧を身に着けた兵士二人が扉を開くと、二人の前には幅の広い赤い絨毯が敷かれた謁見の間の景色が広がる。


無骨なまでに装飾の無い石造りの壁と柱だが、それがかえって厳粛な雰囲気を作り出すことに一役買っているようだった。


奥には二メートル程の高さの階段があり、その階段の上に城の主が座るための、高い背凭れと分厚い肘掛けの白い玉座がある。


絨毯を挟むように直剣を腰に付けた兵士達が立ち並び、二人はその間を無言で歩いた。


階段の手前、数メートル程に来た時、階段の真下に立つ兵士の一人が口を開く。


「そちらでお待ちください」


兵士がそう言うと、二人は練習していたようにその場で足を止めた。


面倒臭そうに口を歪めて立つグシオンと、感情の起伏が分かりにくい無表情なサヴノックが並んで立ち、それを確認した兵士の一人が口を開く。


「バルディエル国王陛下の御入室です」


兵士がそう告げると、グシオンとサヴノックは何も言われずとも片膝をついて跪いた。


僅かな間を置き、階段の上、椅子の奥にある縦長の扉が開き、扉の向こうから豪奢な服に身を包んだ初老の男が姿を見せた。


白い服の上に銀の装飾が施された灰色のベストを着て、全面に刺繍がある深緑色のマントを羽織った男である。黄金の冠を頭にのせたその男が、大国リセルスの国王、バルディエル・ナイ・バラキエルである。


少し癖のある肩の位置よりも長い金髪を揺らし、口元から顎まである白い髭を片手で撫でながら、バルディエルは軽く頭を下げて待つ二人を見下ろした。


その目には特に感情の色は無く、まるで虫を見るかのように冷めた視線を二人の頭に向け、椅子に腰を下ろす。


「顔を上げるが良い」


低く重い声でバルディエルがそう口にすると、グシオンとサヴノックの二人は静かに顔を上げた。


顔を確認するように眺めたバルディエルは、浅く息を吐いてから口を開いた。


「この王都を代表する冒険者であるグシオンとサヴノックに来てもらったのは、とある依頼のためである。二人は今の王都で起きている事件をしっているか」


バルディエルがそう尋ねると、グシオンが頭を捻りながら返答した。


「ああ、ダンジョンが発見された、という奴ですか。ダンジョンが発見されたのは伯爵家の敷地内で、伯爵は既に亡くなったとか…」


グシオンがそう答えると、バルディエルは深く頷いて眉根を寄せた。


「…由々しき事態である。国の中心部にダンジョンが誕生するどころか、王都の中にダンジョンが誕生するなど、前例の無い事態だ。そのうえ、早々に上級貴族の当主が死体となって発見される始末…これでは、他国に付け入る隙を与えるどころの話ではない。現在大きな戦は起きていないが、油断すれば国内外においてこの国は窮地に立たされるだろう」


バルディエルはそう言うと、一度言葉を切って深い溜め息を吐いた。


「我が国の兵達にもダンジョンの調査をさせたが、結果は惨憺たるものだった。やはり、ダンジョンを攻略するには冒険者の力がいるのだ。現在、一流の冒険者は依頼のために王都を離れている者ばかりだが、偶然にも業火の斧の面々が街に戻ってくれた…これは天の配剤であろう」


バルディエルが声高にそう告げると、グシオンは片方の眉を上げて顎を引いた。


サヴノックは横目でそのグシオンの顔を眺め、小さく溜め息を吐く。


二人の反応を知ってか知らずか、バルディエルは険しい顔つきで口を開いた。


「業火の斧のリーダー、グシオン。そして、サヴノックよ。国からの緊急依頼である。タムズ伯爵家の敷地内に現れたダンジョンを攻略せよ」


語気を強めてバルディエルがそう言うと、グシオンとサヴノックは了承の返事をして頭を下げた。


二人の返事を聞き、バルディエルは浅く頷いて視線を近くに立つ兵士に向ける。


「国からの緊急依頼である故、業火の斧には国からの援助を約束しよう。ダンジョン攻略に必要な物は何でも言うが良い。勿論、人材も必要ならば冒険者ギルドにてその旨を伝えよ。こちらから話は通しておく」


バルディエルがそう口にすると、グシオンは今日一番の張りのある声で返事を返した。





「やったな、サヴノック」


王城から出て直ぐに、グシオンはサヴノックを見上げてそう言った。


「ダンジョン攻略か?」


主語が抜けたグシオンの発言にサヴノックが聞き返すと、グシオンは笑いながらサヴノックの背中を叩いた。


「国の援助に決まってるだろうが! ダンジョン攻略ってのは数年掛かるのが普通だ。なら、その間に掛かる費用として俺たちの衣食住は国が保障するってことだ。どういうことか分かるだろう?」


上機嫌なグシオンがそう尋ねると、サヴノックは溜め息を吐いてグシオンから視線を外した。


「…わざとダンジョン攻略を遅らせる気か」


サヴノックがそう口にすると、グシオンは肩を揺すって歯を見せる。


「バカ言うなよ。そんなの反逆罪とか言われるかもしれねぇだろ? とりあえず、冒険者ギルドでCランク冒険者を十人くらい集めて、安全第一でゆっくり攻略するとしようぜ」


「Cランク? 王都ならばBランク冒険者も相当数いるはずだが」


グシオンの台詞にサヴノックは不思議そうに首を傾げた。


それに、グシオンは深く頷いてから顔を上げる。


「そりゃそうだ。でもな、Bランク冒険者はもう独り立ちした奴らばっかりで俺達への対抗心も強いのが多い。その点、Cランクで伸び悩んでる奴らは壁に当たってる状態だからな。ダンジョンの攻略となれば二つ返事で頷く奴らが大勢いるだろ?」


グシオンがそう答えると、サヴノックは肩を竦めてグシオンを見た。


「…Cランク冒険者が大勢一緒なら、ダンジョン攻略が遅れても仕方が無いな」


サヴノックが含みをもたせてそう言うと、グシオンはまた笑いながらサヴノックの背中を叩いた。


「深読みするなよ、サヴノック。どうせAランクの奴等も王都に戻ってくるんだ。あんまりタラタラ攻略してると他の奴等に美味しいところを取られちまう」


「…他のパーティーの邪魔だけはするなよ?」


グシオンの話を遮り、サヴノックが低い声でそう言うと、グシオンは苦笑交じりに頷いた。


「そんなことしないって…あの頃とは違って今や王都でも有名な冒険者様だぜ? しかも、ここでダンジョン攻略をしっかりやればSランクだ。王都に出来たダンジョンの攻略…危険度、重要度を考えれば、俺たちのパーティーの内の半数がSランク昇格もあり得る」


グシオンはそう言って口の端を上げた。


それを見て、サヴノックは鼻を鳴らして目を細めた。


「…Cランク冒険者の育成にもなるし、冒険者の中での評判も上がるか。いつも通り、よく考えているな」


サヴノックがそうグシオンの思考を読むと、グシオンは呵々大笑して首肯した。


「だろう? 今日の夕飯は奢ってくれても良いぞ?」


「何処に行くんだ? 安らぎ亭か?」


「いや、なんかヴィネアが新しい店を発見したんだとよ。メンバー連れてもうその店に行ってるぞ。冒険者の間で密かに流行ってる地下食堂とか言ってたか」


「…なんだ、その怪しい店は」



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