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王都に流れる噂

「聞いたか、第八騎士団の話」


「ああ、騎士二人と雇った冒険者一人しか戻らなかったってやつか…」


そんな会話が聞こえ、俺は厨房から耳を澄ませた。


夕方、食堂には先日調査で来た二人の衛兵と、四人の冒険者が食事をしていた。


正確にはまだ食事は冒険者達にしか提供していないので、衛兵達は現在注文した料理が来るのを待っている状態だが。


「これ持っていってくれ」


「はい」


俺が注文されていた生ビールをシェリルに手渡し、シェリルはすぐに衛兵達の下へそれを運んだ。


さあ、酒を飲め。


酒精が身体を巡れば口も滑らかに動くに違いない。


俺はそんなことを思いながら二人の様子を眺める。


二人は運ばれてきた生ビールの入ったジョッキを軽く掲げ、同時に口に運んだ。


「…ぁあっ! 美味い!」


「これを呑むとエールが水みたいに感じるな…」


二人は口の周りに白い泡を付けてそんなことを言い合いながら声を出して笑った。


「他の酒も気になるな」


「いや、これより美味いものは無いだろう?」


「いやいや、見ろよ。あの冒険者達、皆呑んでる酒が違うみたいだぞ。生ビールは二人だけだ」


「…本当だな。いや、しかし、酒の種類が信じられんほどあるぞ? 普通ならミードと果実酒があれば充分だろ?」


酒を飲ませたせいで二人の会話は酒一色になってしまった。


俺は予定外の事態に眉間に皺を寄せて注文された料理を作る。


結局、二人が噂話を再開したのは料理を食べ終わってからだった。


どうやら、王都内を兵達の間ではタムズ伯爵の敷地に出来たダンジョンがかなりの噂になっているらしく、内容も事細かに口にされていた。


ダンジョンは洞穴のような形だが、中は石造りだったらしい。


罠が無数にあり、全ての罠が回避困難な上に即死級の罠だった。


ダンジョンに慣れているはずの冒険者ですら判別の難しい仕掛けが多かった。


そして、後退する時にだけ作動する落とし穴。


そんな話を二人はしていた。


一日半程度で中々良く調査が出来ている。


まあ、話を聞く限り地底湖に落ちるまでの通路の十分の一も攻略出来ていないようだ。


とりあえず、暫くはゆっくりダンジョンを拡張出来るだろう。


もしも、ダンジョン攻略の第一人者みたいな凄腕冒険者なんてのが招集されたら危険だが、他の冒険者の噂によるとトップクラスの冒険者とやらは大概が依頼のために街から離れているという話だ。


なんたる好都合。


心配していた魔術士だが、生活を豊かにする程度の魔術を使える者は多いが、モンスターを倒せるような殺傷力を持った魔術を使える者は案外少ないという。


つまり、一流の冒険者か、国や貴族お抱えの魔術士などでようやく戦える魔術士と言えるレベルである。


ちなみに、エルフは弓使いか魔術士が多いらしく、他の種族に比べると魔術士の割合が多いとのこと。


客が居なくなり、少女達が店内の清掃に勤しむ中、俺は一緒のテーブルについているエリエゼルに今更な質問をしてみた。


「そういえば、魔法って概念が無かったから今まで気にならなかったんだが、俺って魔術とやらはどれくらい使えるんだ?」


俺がそう尋ねると、エリエゼルはキョトンとした顔で俺を見返した。


「え? 使えませんよ?」


「え? 使えないの?」


エリエゼルの一言に、俺は思わずエリエゼルの台詞を繰り返してしまった。


地味に傷付いた俺は口を尖らせて目を細める。


「確か、最高の身体がなんたらとか聞いたんだけど…これってアレか? 労働契約違反か? それとも嘘情報ばかり載った求人案内に騙された方が悪いってやつか?」


俺が文句混じりの質問をすると、エリエゼルは納得したように頷いた。


「ああ、あの話でしたら…ご主人様の身体は確かに最高品質のモノに変化しておりますよ? ただ、ご主人様は職業的に魔術士として魔術を行使することが出来なくなっているだけで…」


声をひそめて、エリエゼルは俺にそう説明をする。


つまり、魔術が使えない代わりにダンジョンを作れる、ということか?


納得がいかん。


使えないと知ってしまうと使いたくなるのが人というものである。


「魔術が使えるマジックアイテムとか無いの?」


俺がそう尋ねると、エリエゼルは笑顔で首を傾げた。


「最低限の魔術を使えない人はマジックアイテムを使っても無理ですね」


ぐぬぬぬ。


どうやら魔術というものは俺には縁が無かったらしい。


俺は半眼でエリエゼルを眺め、自分の胸の辺りを指差した。


「じゃあ、ファンタジーな感じで何メートルも飛んだり跳ねたり、岩を殴って割ったり、走ったら音速出ちゃいましたみたいなのは?」


俺がそう聞くと、エリエゼルは可哀想なモノを見るような目を俺に向けて口を開いた。


「ご主人様…残念です」


「おい」


エリエゼルの返事に俺は一言で突っ込んだ。


残念ですが、まで言えよ。俺の頭が残念みたいじゃないか。


俺が不満であると全面に出してエリエゼルを見据えていると、エリエゼルは曖昧に笑って視線を逸らした。


「良いじゃないですか。その代わりご主人様は他の誰にも出来ないことが出来るのですから」


「…よし、俺は地下に潜る。この悲しみをぶつけてくるからな」


俺がそう言うと、エリエゼルは頭を下げて一礼した。


「本業ですね。それでは、彼女達は私が見ておきましょう」


エリエゼルはそう言って少女達を眺め、椅子から立ち上がった。


エリエゼルが少女達を集める中、俺は居住スペースへと足を向ける。


要望があったので、少女達の高級カプセルホテル風個室の奥にトイレを設置した。洋式トイレが十も並ぶ高速道路の人気サービスエリアのような大型のものだ。


ダンジョンもそうだが、居住スペースもかなり広くなってきた。


俺がそんなことを思いながら自室に向かうと、寝ぼけ眼を擦る半裸の美女、レミーアが歩いてきた。


「あ、アクマ様」


「誰がや」


寝惚けた様子のレミーアにシンプルに名前を間違えられ、俺は眉根を寄せてレミーアを見る。


白い大きめのシャツを着て黒いパンツだけを穿いたレミーアは完全に痴女である。


けしからんのでしっかりと見ておこう。


俺がそんなことを真剣に考えていると、その後方からゆったりとした足取りでフルベルドが姿を現した。


「おはようございます、我が主…どちらへ向かわれるのですかな?」


「ああ、おはよう…いや、こんばんはが正解か。下に行ってくるぞ」


俺がフルベルドにそう言うと、フルベルドは大きく頷いてレミーアの肩を叩いた。


「それでしたら、我々二人もお連れいただけると有難い。我々も闇に生きる身の上です。地の底には詳しくありたいと思います」


「え? 地の底?」


フルベルドの言葉に、レミーアはようやく目を覚ましたらしく、フルベルドの口にした不穏な言葉に眉を寄せた。


まあ、確かにヴァンパイアになったならレミーアもこちら側か。


少女達はもう少ししてから知らせるとしよう。


俺はフルベルドの台詞にそう納得すると、レミーアを見て口を開いた。


「よし、付いてこい」


俺がそう言うと、フルベルドは頷き、レミーアは慌てて口を開いた。


「は、はい! で、何処に行くんですか?」


レミーアの不思議そうな顔に俺は笑みを返し、答えた。


「ダンジョンだ」



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