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別の入り口を作ろう

地底湖に落ちるイジメのような入り口を作ろう。


俺はそう決めてからさっさと通路を作った。タムズ伯爵の敷地まではただ地下を掘り進め、フルベルドから聞いていた森のような庭の中にダンジョンへの入り口を作る。


本当はアリの巣のようにダンジョンを広げたかったのだが、その辺りは諦めて罠だらけのアスレチック通路を作った。


古そうな石造りの通路。


罠に関してははっきり言って攻略させる気がないような極悪っぷりだ。


落とし穴、吊り天井、壁から矢、床から槍などなど。


だが、エリエゼルからは不満が爆発した。


「普通です。これでは面白くありません」


「面白くないか…確かにな。なら、やはり毒ガスか何か…」


俺はそこまで呟いて、ふと一つのアイディアを思い浮かんだ。


「水槽とかどうだ?」


「はい?」


俺の抽象的な問い掛けに、エリエゼルは不思議そうに首を傾げた。


「鎧を着ていようが、魔術士だろうが、皆がそこに入らないと先に進めない水槽だ。広くて長い水槽の中を進んで、出口を見つけられたら出られる」


「そうですねぇ…ただ水槽があるだけというのも…」


「時間が経つと水槽内の水温が上がるとか?」


「お笑い芸人が喜びそうですね」


「強アルカリ性の水は?」


「だんだん水槽が大変なことになりそうです…」


「エグい水棲生物を放つか?」


「それが無難でしょうか」


「あ、小さい生物なら良いんじゃないか?」


「小さい?」


俺が最後に言った案に、エリエゼルはそう聞き返してきた。


俺はエリエゼルを振り返り、首肯する。


「テレビで殺人アメーバとか体内に侵入してくるヒルとか見たことがある気がするけど、あんなモンスターは用意出来るか?」


俺がそう言うと、エリエゼルは顔を輝かせて両手を合わせた。


「殺人アメーバ! 素敵ですね! 体内に侵入して身体の中から内臓を溶かすスライムとか、身体中の穴という穴から侵入するワームとか…! 素晴らしいアイディアです!」


エリエゼルは陶酔したようにそう叫ぶと、ほんのり頬を染めて遠くを見つめる。


思った以上にエグい罠になりそうだが、これなら生半可なことでは突破出来ないはずだ。


俺はそう考えて実際に水槽を創り出した。


水槽と言っても、深さがかなりある五十メートルプール程度の大きさである。高低差をつけて通路を水没するように作った為、一度水槽内に入らないと先には進めない。


中に入っているスライムは放っておいたら増殖するコスト高めのものにした。召喚の際に使う魔素はそこまででもなかったが、スライムの割には高い方らしい。


体内侵入型殺人スライム水槽と名付けよう。


このスライム水槽を越えると、数メートル先にまた水槽があり、こちらの水槽には上から見るだけではっきりと分かるほどの大き目のミミズサイズのワームが泳いでいる。


ミミズプールと名付けよう。


正確にはスパルガヌムワームというらしいが。こちらも魔素はあまり使わなかった。


はっきり言って、俺はこの通路に関しては様子を見に来ることも無いと思う。


大いに気持ちが悪いからだ。


こんなダンジョン誰が攻略するものか、と俺は思うのだが、そうはいかないのだろう。


王都の中にダンジョンが出来たとすると、恐らく国が多少力を入れて攻略に乗り出すはずである。


つまり、兵士や冒険者などがダンジョン攻略を申しつけられるに違いない。


可哀想に。


殆ど攻略不可能だろう。


それに、通路を抜け切った後で地下大空洞に辿り着くのだが、地下一階分の浅い層から一気に地底湖の中心へと落ちることになる。


「あ、そうだ。地底湖にも水棲のモンスターを放さないとな」


俺がそう言ってエリエゼルを振り向くと、エリエゼルは満足げに頷いた。


そうと決まればと通路を戻り、地底湖の真上で立ち止まった。


この先には落とし穴があり、落ちれば地底湖だ。


普通ならば落ちるしか無いのだが、俺にはダンジョンマスターの力がある。


一時的な階段など簡単に作れるのだ。


気分は雪の女王である。


地底湖の前まで降りた俺達は、二人で向かい合わせになる形で座った。


例のモンスター図鑑を広げ、エリエゼルは目的のページを開く。


開かれたページには、頭が沢山ある凶悪な顔つきの龍の姿があった。


「ヒュドラ。神話にも登場する九つの頭を持つ水龍です。ヘラクレスに退治された後は海へび座になっているので、実際にはウミヘビ系のモンスターかもしれませんね。毒のブレスも吐けます」


そう説明して、エリエゼルは更に別のページを開く。毒のブレスの扱いが雑過ぎる気がしたが気のせいだろうか。


エリエゼルのページを捲る手が止まると、今度は足が沢山あるイカの化け物の絵が現れた。


「クラーケン。表面には吸盤以外にも硬い鱗や爪などもある巨大なイカのようなモンスターですね。足先まで入れると、なんと全長は二千五百メートル! この地底湖だったら問題無く飼える大きさですよね?」


そう言って、エリエゼルは輝くような目を俺に向けた。


犬猫を飼うみたいに言うな。


だいたい、これからまだ地底湖には塔を増やしたかったのに、クラーケンなんか飼ってしまったら塔を建てる度に気を使わないといけないじゃないか。


「他には?」


俺がそう尋ねると、エリエゼルは頬を膨らませてページを捲り始めた。


「赤鱏は…同じ理由でダメですね。ニーズヘッグは論外として…ケートスもバハムートもダメ…ラミア、ケルピーとかは小さいし。シーサーペントか、サンダーイールとかなら大丈夫でしょうか?」


「サンダーイールってなんだ?」


俺はエリエゼルの独り言の中から気になる単語を拾って反芻した。


すると、エリエゼルがページを捲り、青い蛇みたいな生物の絵が載っているページを俺に見せた。


竜と蛇の合いの子のような姿だが、魚に似たヒレもある。


「サンダーイール。鱗やヒレがあるウミヘビ型のモンスターですね。ただ、名前の由来である電気ウナギと同じく、自ら電気を発することが出来ます。電気を発する方法は二種類。身体の周りに帯電する方法と、水面から顔を出して雷のブレスを吐く方法です。大きさは色々ですが、通常は五メートルほどでしょうか。大きさに比例して強くなります」


「お、良いじゃないか。これなら上から繁殖し過ぎたスライムやワームが落ちてきたとしても大丈夫かな?」


「…落とし穴が作動するほど繁殖するのは恐ろしいですが、サンダーイールならば確かに撃退出来るかもしれませんね」


「よし、決定」


エリエゼルの説明を聞いた俺はモンスター図鑑の絵をしっかり確認し、地底湖に向かって目を瞑った。


ウミヘビ型ということを考慮して、骨からイメージを固める。


鱗は硬く触り心地は滑らかだ。


ヒレは鋭く、巨大な剣のように触れたものを切り裂く。


電気は確か、筋肉細胞によって発生していたはずだ。つまり大きければその分威力が増していく。


直列回路みたいだな。


俺のイメージがあっているかは分からないが、強靭で強大なモンスターの姿はイメージ出来た。


魔素をその形に出来るだけ凝縮して形作っていく。


目を開けてみると、既にエリエゼルは魔法陣を描いていたらしく青い炎と共に、地底湖の中から青白い霧が立ち昇っていた。


形は徐々に細部まで明確になっていき、その大きさも明らかになっていく。


「ふわっ!?」


エリエゼルの驚く声が地底湖に響きわたる。


目の前には、地底湖の方を見て固まるエリエゼルと、水面から顔を出して大人しくこちらを見るサンダーイールの姿があった。


水面から出ているのは顔だけなのだが、それでも驚くほど巨大である。


迫力は十分だが、果たしてどれほどの強さなのか。


俺がそんなことを思っていると、エリエゼルがこちらを見た。


「あ、あの…これはサンダーイールですか? 水龍の一種?」


「いや、大きめのサンダーイールだ。体長は五十メートル。塔の周囲に隠れることも出来るお手頃サイズだ。ちなみに、全部で十体いるぞ」


俺がそう口にすると、水面にはサンダーイールの顔が次々に現れた。


十体のサンダーイールから見つめられ、エリエゼルは唖然とした顔でまた固まった。



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