ダンジョンに住む奴隷達の衣食住
朝食
朝起きて最初に摂る食事のことを朝食と呼ぶ。
朝は胃や腸が活動的ではないため、消化に悪いものは食べない方が良いだろう。
朝ステーキ、朝カツ丼、朝ラーメン炒飯餃子セットなどなど枚挙に暇がない。
まあ、そんなもん朝から食えるなら食ってみよという話だが、会社の同僚に朝から豚カツ定食を食べて出勤した猛者がいるので人によるのだろう。
話が逸れたが、お手軽かつ朝食べるのに丁度良い食事の代表例といえば、そう、シリアル食品である。
グラノーラやコーンフレークなどのことだが、ミルクを入れてズバババッと食べて出勤したり登校したり出国したりするのである。
早い、安い、美味い。
そんな分かりやすい朝食であろう。
と、いうことで、少女達にはポピュラーなタイプのシリアルとミルクを配った。
言われるまま、皆は不思議そうにシリアルの入った皿にミルクを入れ、スプーンを使って食した。
「甘い!」
最初に食べたであろう誰かがそんな声をあげ、皆が眼の色を変えてシリアルを貪り食べる。
歓声や笑い声を耳にしながら、俺もミルクに浸されたシリアルをスプーンで掬い、口に運んだ。
まだ歯応えが残るシリアルを噛み砕き、ミルクと一緒に咀嚼して流し込むように飲み込む。
食べ易く、甘く、食感も楽しい。
俺としてはたまに食べたくなる味程度の話だが、少女達には随分な御馳走になったようだ。
我先にとシリアルを食べる皆を眺め、食べ終わった者にはお代わりを勧めておく。
ミルクに浸ったシリアルを食べ過ぎてお腹がゴロゴロなるかもしれない。
コーンスープでも用意してやるか。
うーん。
出来た。
「スープもあるぞ」
俺がそう言って温かいコーンスープの入ったマグカップを配ると、皆はそれにも夢中になった。
美味しい美味しいと感動する少女達も、暫くして満腹になったのか、落ち着きを取り戻していった。
全員が完食したのを確認し、俺は椅子から立ち上がる。
「それでは、皆の部屋割りを行う」
俺がそう口にすると、皆はキョトンとした顔つきで俺を見上げていた。
部屋割りと言われても理解出来なかったようだが、唯一人、ケイティは悪戯をする子供のように目を輝かせて笑みを浮かべた。
「こっちだ。付いてこい」
俺がそう言って居住スペースに戻ると、皆は慌てて付いてきた。
最初の廊下を少し進み、右側にある戸を開く。目の前にはリビングの景色が広がり、左側にはキッチンが見える。
そのリビングを真っ直ぐ横切り、俺はさも最初からありましたよと言わんばかりの木製の扉を開放した。
すると、後ろに付いてきていた少女達が長い廊下を見て感嘆の声を上げる。
「凄い…こんな広い部屋が私達の…?」
誰かがそんな言葉を口にした。
いや、それはもうケイティがやったネタだ。
俺はそんなことを思いながら廊下に足を踏み入れ、最初の横開きのドアを指差した。
「これがケイティの部屋だ」
俺がそう口にすると、皆の視線がケイティに集中する。
ケイティは照れ笑いを浮かべ、恥ずかしそうに口を開いた。
「あ、朝…ご主人様と…えへへ…」
おい。誤解を招く言い方をするな。
ケイティの意味深長なセリフに皆が今度は俺を振り返るが、俺は口を一文字に結び、不満を顔で表現して首を左右に振った。
「朝一番に起きてきたから一緒に作っただけだ。ほれ、お前達も部屋を選んで良いぞ。決まったら教えてくれ」
俺がそう言うと、少女達は驚愕して俺を見上げた。
そして、最年少のドーラが期待の篭った目で俺を見ながら口を開いた。
「…ドーラのへやもあるの?」
ドーラがそう呟き、俺が頷く。
すると、ドーラは満面の笑みを浮かべて走り出した。
すぐにケイティの部屋の対面にあるドアを開くと、部屋に飛び込んで歓声を上げる。
「うわぁ! ここがドーラのへや! ここがいい!」
部屋の中で叫び回るドーラの声に、他の少女達は慌ててドーラの部屋となった個室を見に動いた。
狭いながらも綺麗で格好の良い高級カプセルホテルの内装に、皆は茫然と佇んだ。
「あ、あの…これがまさか一人一人に?」
「ああ。決まったらケイティみたいに誰の部屋かわかるようにするからな。こんな感じで」
シェリルの疑問に俺がそう答え、ドーラの部屋のドアの隣の壁に手を置き目を瞑って念じると、皆が驚愕する気配が伝わってきた。
目を開けると、壁には四角い枠の中にドーラという名前の模様が出来ていた。
虎獣人なので、黄色の下地に名前の部分は黒くしてみたが、良い出来だ。とある球団のファンみたいで。
俺が満足していると、皆が騒つく声がする。
「凄い…! 私の部屋も貰えるの!?」
「夢みたい…」
皆が口々に呟く言葉のその中で、ピッパだけが目を見開いて他の者とは違う感想を口にしていた。
「…ど、どうやって…」
他の者は驚き感動するばかりだったが、ピッパは何が不思議な所なのか、しっかりと理解しているようだった。
俺がピッパの様子を窺っていると、シェリルが恐る恐る口を開く。
「あ、あの…私の部屋は、クーヘと同じ部屋にしていただけませんか?」
シェリルがそう言うと、クーヘが嬉しそうにシェリルの方向に顔を向けて笑顔を浮かべた。
「ふむ…なら部屋をどうするか」
俺は頷くと、ケイティの隣の部屋に向かい、壁に手を触れた。
目を閉じ、念じる。
出来た。
ドアを開けると、そこには隣の部屋とくっ付いた部屋が出来ていた。間の壁が無くなり、ベッドが左右の壁に分かれて置かれている。
まあ、ビジネスホテルのツインルームみたいになったが良いだろう。
「これでいいな」
俺がそう言うと、シェリルが胸の前で手を合わせて俺を見上げた。
「ありがとうございます!」
シェリルの感謝の言葉に合わせてクーヘも深々と頭を下げた。
「あいよ」
俺はそう返事をして壁にシェリルとクーヘの名を記した。
クーヘが分かりやすいように二人の部屋の壁にだけ手摺も設置している。
「よし、こんな感じだ。さあ、好きな部屋をとらないと無くなるぞ」
俺が皆を振り返ってそう言うと、まだ部屋が決まっていない皆は一斉に廊下の奥へ向かった。
僅か一分か二分程度で部屋割りは決まったのか、各ドアの前に一人一人が立ってこちらを見ている。
年齢が高い者は奥の部屋を選ぶ傾向が高いようだ。
俺は壁に皆の名前を表示していきながらそんなことを考えた。
と、俺は喜びながら自分や他の者の部屋を行ったり来たりしている皆のワンピース姿を見て、服装のことを思い出した。
交代で何人かには店にも出てもらおうかと思っていたが、流石にただのワンピースではおかしいか。
俺は皆の背格好を眺めて目を瞑り、両手を前に出してイメージを固めた。
どのようなものが良いか。
やはり、細部までしっかりと作り込まれた上で大人しい、清楚な雰囲気のものが良いだろう。
イメージを固めた俺は、念じた。
強く念じた。
多分、今日一番本気で念じた。
目を開くと、そこには大量のメイド服が山のように廊下の一部を占拠していた。
首元には皆の名前の刺繍が施されている。
俺はその出来にご満悦で頷いた。
ドン引きしている一部の視線など怖くもなんともない。
「言っておくが、お前らの服だからな? 俺が着るわけじゃないぞ」
俺は一応それだけは言っておいた。