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ダンジョンに住む奴隷達2

食堂に居並ぶ少女達を眺め、俺は口を開く。


「さて、昨日よりは落ち着いたと思うし、自己紹介といこうか。俺はアクメオウマ。こっちはエリエゼルだ」


俺がそう名乗り、エリエゼルを紹介すると、少女達は視線を交わし合い口を開いた。


「わ、私はエミリーです。ヒト族の14歳です」


最初に口を開いたのは、今朝キッチンで掃除をしていた金髪の女の子だった。ヒト族ってのは普通の人って意味か?


俺がとりあえず頷いていると、その女の子を切っ掛けにして次々に少女達は口を開く。


一番歳上なのが十八歳、アリシア。茶色の髪の狐獣人だ。


十八歳は他に、淡い緑色の髪の犬獣人のシーマや、緑の髪のヒト族のソニアがいる。


十七歳は、黒い髪のヒト族のナナ、オレンジ色の髪のヒト族のドロシー、金髪金眼のヒト族のピッパ。


十六歳は、白い髪の兎獣人のティナ、白い髪の猫獣人のミア、青い髪の狼獣人のタバサ。


十五歳はおらず、残りは傷を負ったまとめ売りの子供達である。


一番歳上なのが十三歳で、俺が奴隷屋で話をした背の高い黒髪黒目の少女、シェリルだ。シェリルは片方の眼が無い。


同じく十三歳は、水色の髪のヒト族のブレンダと、白髪の鼠獣人のオーレリア。ブレンダは左手が無く、オーレリアは大きな耳の片方が無い。


十二歳は、最初に自室を手に入れたケイティだ。ケイティは黒髪と深い銀色の目をしたヒト族で、手と足の指が一部無かった。


十二歳は他には暗い茶色の髪のヒト族のクーヘがいる。クーヘは両目が無く、ケイティに手を引かれて歩いていた。


十一歳は灰色の髪の熊獣人のプリシラ、紫色の髪に赤い眼のヒト族のリタである。プリシラは顔に大きな火傷の痕があり、リタは体に無数の傷があるらしい。


十歳は見事な銀色の髪の狼か何かの獣人であるターナ、金髪碧眼のヒト族のシャルロット、明るい黄緑色の髪のヒト族のベラ。ターナは耳と尻尾が千切れて無くなっていて、シャルロットは足の指が無い。ベラは大きな傷が腹から背中にかけてあるようだ。


そして、最年少の九歳。黄色っぽい髪の虎獣人のドーラは右手の指が親指以外根元から無かった。


合計二十人を超える元奴隷の少女達である。


と、俺は人数が足りないことに気がついてエリエゼルを見た。


「ん、レミーアは?」


俺がそう尋ねると、エリエゼルは困ったように口を開いた。


「それが…他の子達に起きないと言われて様子を見に行ったのですが、フルベルドと同じベッドで深い眠りについておりまして…」


え? そういう関係になったのか?


俺はエリエゼルの報告に目を丸くしてそんなことを思ったが、エリエゼルは溜め息混じり自らの頬に手を添え、俺の想像とは違う説明を口にした。


「どうやら、フルベルドがレミーアを眷属にしてしまったらしく、二人とも最低でも夕方までは起きてこないかもしれません」


「は? 眷属?」


エリエゼルの説明に俺は唖然として眉根を寄せた。すると、エリエゼルがニッコリと微笑んでみせる。


「はい、眷属です。ヴァンパイアは真祖が始まりであり、その子供が第二世代と呼ばれます。そして、血を吸われてヴァンパイアになった者は、俗にいう眷属のヴァンパイアとなり、血を吸った本来のヴァンパイアが死ねば、共に死んでしまう半端な存在となります。ただ、血を吸ったヴァンパイアの力次第では第二世代とも戦えるほどの能力を得ます」


エリエゼルがそう口にすると、食堂に並んでいた女達が顔を見合せて口を開いた。


「…ヴァンパイア?」


「ヴァンパイアって…あの?」


「え? 誰の話ですか? フルベルド様?」


小さな小さな声で少女達がそんなやり取りをしているのを聞き流し、俺は腕を組んで唸った。


「困ったな。つまり、昼間は外だけじゃなくてこの中でもフルベルドは動けないのか」


俺がそう言うと、エリエゼルは何処か申し訳無さそうに眉尻を下げて頷いた。


「ヴァンパイアは夜の王と呼ばれ、昼間動けない代わりに夜、その力は絶大なものとなります」


そう口にして、エリエゼルは俺に頭を下げた。


「本当に申し訳ありません。先に伝えておくべきでした」


エリエゼルに真摯に謝られ、俺は苦笑しながら首を左右に振った。


「いやいや、予想して然るべき話だった。そうだよな、ヴァンパイアだもんな」


俺がそう言って笑うと、少女達の中の、歳が上の子らが俺を見上げて恐る恐るといった具合に質問をしてきた。


「あ、あの…フルベルド様は、ヒトではないのでしょうか?」


声を発したのは緑色の髪のヒト族であるソニアであった。


ソニアが怯えた表情を浮かべながらそう呟くと、黒い髪の隻眼のヒト族、シェリルが険しい顔をソニアに向け、ジッと睨んでいた。


俺はそんな二人を眺め、頷く。


「ああ、そうだな。どうする? 命を懸けてフルベルドとレミーアの存在を外で叫ぶか? 俺は止めないから、やりたかったら安心して行きなさい」


俺がそう言って笑うと、ソニアはビクリと身体を震わせた。


そして、食堂の出入り口であり、ダンジョンの出入り口に顔を向ける。


それを見て、椅子に座っていたエリエゼルが音も無く立ち上がった。


張り詰める空気の中、シェリルが奥歯を噛み締めて顔を上げ、口を開いた。


「…私は、フルベルド様に助けていただきました。そして、ご主人様にこの世のものとは思えない、美味しいお食事を頂きました。私達にとって、たとえヒトではなかったとしても、ヒトとして扱ってくれたのはフルベルド様とご主人様達だけです…! 私達は、ご主人様方が何者であろうとも、絶対に裏切りません」


シェリルがそう宣言すると、まとめ売りだった傷物の元奴隷の少女達は皆大きく頷いた。最年少の虎獣人のドーラですらしっかりと俺を見上げて頷いている。


俺はその様子に微笑み、他の者の顔を順番に見た。


「どうした? 此処を出ていくか、それとも残るか。好きな方を選んで良いんだぞ? まあ、此処に残る場合は店員として俺が作った料理を客に届けたり、後は外に買い出しをしに行ってもらったりと扱き使われるだろうがな」


俺がそう言って笑うと、僅かに室内の空気は柔らかくなった気がした。


皆を見回し、食堂の奥に目を向けた俺は思い出したように口を開く。


「ああ、そうだ。何人かにはあの楽器の演奏を覚えてもらおう。奏者がエリエゼルしかいないからな」


俺がそう言うと、一番にソニアが反応した。眉根を寄せて、食堂の奥にあるグランドピアノを見つめる。


「あれが…楽器、ですか? 私も見たことの無い楽器…?」


ソニアはそう言って不思議そうに首を傾げた。


その物言いから考えるとどうやら、ソニアは楽器に詳しいようだ。


俺は口の端を上げて、エリエゼルに顔を向けた。


「弾いてみてやってくれ」


俺がそう言うと、エリエゼルは驚いたように俺を見返したが、息を吐くように笑い、頷いた。


「畏まりました」


エリエゼルは困ったような笑みを浮かべたまま、グランドピアノの前まで行き、椅子に座った。


こういった形の楽器を誰も知らないのだろう。少女達は一様に興味深そうな顔を浮かべてグランドピアノと、ピアノの前に座るエリエゼルを見ていた。


そんな中、エリエゼルはゆったりとした動作で鍵盤の上に指を置き、演奏を始めた。


同じようなテンポ、音の繰り返しを行い、一拍の間を空けた後から水が流れるように溢れ出る美しい旋律。


これは俺でも分かる、有名な曲だ。


ラ・カンパネラ。フランツ・リストの名作であり代表曲の一つである。


この曲を目の前で演奏してもらったのは初めてだが、一つ思うことがあった。


指、めっちゃ忙しそう。


緩急をつけて右手と左手が別々の生き物のように動く様は、ピアノを弾けない人からすれば最早何をしているのかも分からないほど複雑だ。


僅か三分か四分ほどだろうか。


エリエゼルはしっかりとしたエンディングをつけて演奏を終えた。


「おお、やっぱり巧いなぁ」


俺がそう言って拍手をすると、弾かれたようにソニアが両手の手の平を痛そうなほど叩きつけて拍手をした。


その頬には涙すら伝い流れている。


そして、他の少女達も徐々に拍手に加わってきたが、その顔は呆然とした表情を浮かべている者が殆どに見えた。


純粋に輝くような表情で喜んでいるのは十歳以下の子供達だけだ。


「こんな、こんな音楽があるなんて…!」


ソニアが感極まったように涙声でそう口にするのを聞き、俺は笑顔で少女達を振り返った。


「さて、こんな風に楽器の演奏までしてもらうこともあるわけだが、此処で働くのが嫌な者は出ていって構わない。どうするね?」


俺がそう尋ねると、ソニアが縋るような目で俺を見上げ頭を下げた。


「此処で働かせてください! たとえフルベルド様やアクマ様が魔王だったとしても私は誠心誠意仕えさせていただきます!」


ソニアがそう言うと、少女達も頭を下げた。


いや、魔王じゃなくてダンジョンマスターですけど。名前もアクマになってるし。



また大量に人名が…!

登場人物紹介を次回載せます!


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