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リセルスの王都ルールド・レ・リセルス

何でも知ってるエリエゼル事典によると、リセルス王国の首都ルールド・レ・リセルスは、歴史ある世界有数の大国らしい。


そのため、この街は国民以外にも世界中の商会関係者や冒険者、旅人など、様々な業種の者達が行き交う大都市となっているとのこと。


だが、そんな華やかな街も、日陰者であるダンジョンマスターには地獄の一丁目に他ならない。


「…もう死ぬんだ。俺は何が何だか分からない内にもう死んでしまうんだね…」


俺がそう言って床に座り落ち込んでいると、エリエゼルが可愛らしいメイド服のまま俺の隣でしゃがみ込んだ。


「きっと大丈夫ですよ、ご主人様。逆に考えましょう。この地は、世界でも有数の魔素が溜まる地です。上手く魔素を使うことが出来れば、このダンジョンは世界一のダンジョンになることも夢ではありません」


エリエゼルはそう言って俺を励ました。


信じられないような美少女が俺のすぐ隣で心配そうにこちらを見ているのだ。


これは情けない姿を見せるわけにはいかない。


俺は奥歯を噛み締めて立ち上がり、自らの頬を両手で挟むようにして叩いた。


「よし! 気合いだ! やれば出来る! 1日20時間働くことに比べればこれくらいなんだ!」


俺はそう大声で怒鳴り、貧血を起こして床にへたり込んだ。


ダメだ。これは睡眠不足だ。


「ご、ご主人様! 大丈夫ですか?」


エリエゼルは俺の様子を見て慌ててそう声をかけてくれた。


早速エリエゼルに情けないところを見せてしまった俺は、照れ笑いを浮かべながらエリエゼルを見る。


少しは挽回しないと俺の威厳がマイナスにまでなってしまう。


「良い事を思いついたぞ、エリエゼル。ダンジョンに見えないように偽装しよう」


俺がそう言うと、エリエゼルは首を傾げた。


咄嗟の思いつきだったが、中々の妙案に思えてくる。


俺は自分のアイディアを自画自賛しながらエリエゼルに顔を向けた。


「この部屋を改造して、飯屋にするぞ。食堂でも居酒屋でも良い。いや、開ける時間を減らすために昼から夜までだけ開く食堂でいこうか。部屋の奥にキッチンと居住スペースを作り、隠し扉を設置しよう。隠し扉の向こう側は毎日ダンジョンとして拡張していけば…」


俺がそう言うと、話を聞いていたエリエゼルの目がどんどん開いていき、最後には嬉しそうな笑みになった。


「す、凄いです、ご主人様。そのような方法を実行したダンジョンマスターはおりません」


エリエゼルはそう言って前のめりに俺の方へ身体を寄せた。


近い。良い匂いがする。これはヤバイ。


俺は理性が崩壊しそうになるのをなんとか食い止めていたが、目の前で輝くような笑顔を見せるエリエゼルに我慢も限界を迎えつつあった。


と、そのタイミングで、奥から足音が聞こえてきた。


「っ! 誰か来ました」


瞬時に表情を一変させ、エリエゼルは立ち上がった。厳しい目付きで奥の出入り口を睨むエリエゼルを見て、俺は視線を出入り口へ向ける。


まさか、もう冒険者が。


俺は自らの想像に恐怖した。冒険者が来たなら、抵抗も出来ずに死ぬかもしれない。


自分でも驚くほどの心音が耳に響く。嫌な緊張感だ。


俺がそんなことを思っていると、ついに出入り口に人影がその姿を見せた。


奥から顔を覗かせたのは、10歳前後ほどの子供だった。


栗色の髪をした白い布の服を着込んだ男の子だ。


見た目からしても冒険者ではなさそうだ。


おれが安心していると、エリエゼルがそっと俺の耳元に口を寄せた。


「口封じしますか?」


どうやら目撃者を消す気らしい。だが、あのくらいの年齢の子が急にいなくなっても誰か親や警察に類似する役割の者が此処を突き止めてしまうだろう。


俺はそう思って、エリエゼルに首を振った。


「いや、俺が上手く説明しよう」


俺がそう言うと、エリエゼルは一瞬考えるように視線を落としたが、すぐに首肯してくれた。


俺は部屋を面白そうに見ている男の子に近づくと、しゃがみ込んで目の高さを同じにして口を開いた。


「遊びに来たのかい? それとも迷子かな?」


俺が微笑みながらそう言うと、男の子は丸い目を瞬かせて俺を見た。


あ、もしかして言葉が通じないのか。


俺は男の子の反応に少し不安になったが、男の子は俺の質問に答えるように口を開いた。


「う、うん。何かあるかなって…此処、お兄さんの秘密基地?」


どうやら、日本語で大丈夫らしい。俺は男の子の台詞に違和感を覚えながらも、何とか平静を装って頷いた。


「ああ。此処は今度ご飯を食べるお店になるんだ。だから、お店になったら遊びにおいで」


俺がそう言うと、男の子は嬉しそうに頷いた。


「うん! じゃあ、また来るね!」


「ああ、またいらっしゃい」


踵を返そうとした男の子に俺がそう言って手を振ると、男の子は「あっ」と声を上げて俺を見た。


「お兄さん、お店だったら服、着た方が良いよ? じゃあね!」


と、男の子は聞き捨てならない台詞を残して立ち去った。


服?


俺は何の気なしに下半身を見た。


日焼けしたような健康的で逞しい下半身が見える。つまり、服は着ていない。


「な、何っ!?」


え、なんで服着てないんだよ。というか、何故に今まで気付いていなかったんだ。


「ど、どうして俺の服が消失したんだ?」


俺がエリエゼルを振り向くと、エリエゼルは驚いたように目を開いた。


「まあ、てっきり気付いていて服を着ないのかと…申し訳ありません。ご主人様はその存在の殆どを作り変えられてこの世界に転移されました。本来なら、ご主人様がダンジョンを作成出来るようにするだけで良かったのですが、サービスで全てを最高レベルのモノに作り変えられたようです」


エリエゼルにそう言われて、俺は自らの身体を確認しようと口を開いた。


「か、鏡だ」


俺はそう呟きながら姿見用のスタンドミラーを想像し念じた。すると、目の前に細長い安っぽいスタンドミラーが出現する。


「まあ、素早い創造です。すっかり慣れましたね」


エリエゼルからそんな称賛の言葉を受けるが、俺はそれどころではない。


「お、俺、か?」


俺は鏡に映る人物に愕然としていた。


黒い髪は黒い髪のままである。長さは目の下ほどまで伸びていたが、それは許容範囲だ。


問題は、それ以外である。


少し出ていた腹が嘘のように筋肉質なスッキリした体型に変わっており、足も長くなっている。肌はサーフィンを趣味にしているような健康的な黒めの肌の色だ。


そして、顔が彫りの深い映画俳優のようなイケメンになっている。イケてるメンズである。


「お、俺が…イケメンに…?」


俺がそう言うと、エリエゼルは満足そうに首を左右に振った。


「いいえ、ご主人様はずっとイケメンです。魂の色は前も今もとても美味しそうな…」


「…俺が、イケメンに…年も20歳前後くらいか?」


エリエゼルが何か言っていたが、俺は鏡の中の光景に目を奪われたままだった。


もう何が何だか…。



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