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夜、なんか色々きた

本日4度目の投稿です。

ちょっと気持ち悪いヴァンパイアを召喚して魔素を使い切ったため、今日の食堂は休みにした方が良いかと思った。


だが、夜には余裕で魔素が溜まり、俺は冒険者八人に飯と酒を提供し、合計六万ディールの収入を得た。


ちなみに、ヴァンパイアのフルベルドは最後の冒険者が食事を終えて感極まって涙を一筋零した時に、流れる涙のように美しくも儚い足取りでダンジョンから出ていった。


あのターンを組み込んだ移動の仕方が気になって仕方が無い。


片付けをし、エリエゼルと話しながら生ビールとモスコミュールという、ウォッカ・ライム・ジンジャーエールという組み合わせのカクテルを呑みながらゆっくりしていた。


缶に入った製品ではない、その場で作られたモスコミュールは甘みと酸味が程良く、ジュースのようでいてしっかりとしたお酒の味がする良いカクテルだ。


だが、俺は生ビールを呑む。


キンキンに冷えたビールを一気に飲んでキューっとするのが良い。


と、そんなことを考えていると、食堂の戸を叩く音が聞こえた。


ノックを8回。フルベルドと俺の秘密の合図である。


だが、俺は首を傾げてエリエゼルを見た。


「…早くないか?」


俺がそう言うと、エリエゼルも怪訝な顔で頷いた。


なにせ、フルベルドが此処を発ってまだ二時間と少し程度だろう。


俺なんて奴隷屋さんに行って帰るだけで二時間以上かかったのに、フルベルドは二時間で貴族の屋敷に潜入して奴隷達を連れて帰ったというのだろうか。


俺はフルベルドが忘れ物をしたか、道に迷ったというパターンを想定し、戸を開けた。


すると、そこにはやたら迫力のある美形ヴァンパイアのフルベルドと、その後ろに階段に沿って並ぶ無数の女達の姿があった。


ナンパしたのか、貴様。


俺はイケメン許すまじの精神でフルベルドの後ろに並ぶ女達を眺め、何人か知った顔があることに気が付いた。


「…え? もう奴隷見つけてきたの?」


俺はその事実に愕然としながら、フルベルドを見てそう尋ねた。


すると、フルベルドは優雅に一礼し、頭を下げたまま俺を見上げた。


「我が主。与えられた使命、果たして参りました」


フルベルドはそう言うと、俺を見て口の端を上げた。


俺は得意顔のフルベルドに頷くと、フルベルドのすぐ後ろに立つ赤い髪の女を見て口を開いた。


「ああ、レミーアもいるな…なんで裸でお前のコートを着ているのか分からんが」


俺がそう言うと、レミーアが目を丸くして俺を上目遣いに見た。


「え…私の名前…」


レミーアの困惑する様子を見て、俺は自分が子供の姿でレミーアと会っていたのだと思い出した。


つまり、今の長身のイケメンたる俺の姿は、レミーアにとって初めて見るイケメンである。


俺は首を傾げるレミーアから視線を外し、咳払いをして皆を見回した。


服だけでなく、顔や髪まで薄汚れた奴隷達だ。


歳は高くても精々二十歳程度。若い者は十歳前後ほどの集団である。


痩せっぽちで傷だらけ。


なんとも頼りない面々だ。


俺はそんな奴隷達を見て、食堂の方向を指差し、口を開いた。


「とりあえず、飯を食うか。話はそれからだ」


俺がそう言うと、女達は騒めいた。どうして良いのか分からない様子の女達に背を向けて、俺は先に食堂の奥へ向かう。


「ほら、好きなテーブルに座って」


俺がそう言いながら厨房に向かうと、女達は先行するフルベルドに付いていくようにして食堂に足を踏み入れた。


「お帰り、フルベルド」


エリエゼルがそう言ってフルベルドを見ると、フルベルドは会釈をして笑った。


「ただいま帰りました、エリエゼル」


二人がそんなやり取りをして笑みを浮かべると、その様子を見ていた女達は顔を見合わせながらも少し安心したのか、徐々にテーブルの前に座り始めた。


年齢の高い者ほど、テーブルの側の床に座ろうとするが、俺は厨房から顔を出して注意した。


「椅子に座るんだぞ?」


俺がそう言うと、女達は慌てて返事を返し、躊躇いつつ椅子に腰を下ろしていく。


ちょっとレミーアが目に毒だが、仕方無い。


さて、もしかしたら酷い食生活で彼女らの胃は荒れてしまっているかもしれない。


何を食べれば胃に優しいだろうか。


俺は厨房から痩せた女達の顔を眺め、料理を考えた。


目を瞑ってイメージを固め、念じる。


刺激が無くてあっさり食べられる、うどんだ。


栄養も少し考えて肉うどんにしよう。長時間煮込んだ甘辛い肉を入れた肉うどんは、肉も蕩けるような歯応えで美味しく、あっさりしたスープによく合う。


俺が目を開くと、そこには人数分のうどんが現れていた。


厨房のテーブルの上に所狭しと並ぶうどんの入った器をカウンターの方へ置いていき、俺は皆に声をかける。


「よし、出来たぞ。順番に取りにおいで」


俺がそう告げると、皆は顔を見合わせていた。自分達の料理と思っていないのか、誰も立つ気配が無い。


俺がもう一度声を掛けようとすると、一人の少女がこちらを見て立ち上がった。


あのまとめ売りの少女である。


「…あ、あの、私達の料理、でしょうか…」


少女は緊張した面持ちでそう口にすると、俺の様子を窺った。違っても怒りませんよ、別に。


「ああ、早く来い。麺が伸びたら美味しくないぞ」


俺がそう言うと、少女は意を決したように俺の方に向かって歩き出した。


それを見て、他の者達も慌てて動き出す。


「あ、ありがとうございます!」


「ありがとうございます…」


「いいにおいがする!」


それぞれ何か言いながらうどんを受け取って帰っていく女達を見送り、最後にフルベルドを見た。


「フルベルド。お前の分もあるぞ」


俺がそう言うと、フルベルドは少し驚いたように目を見開き、足早に俺の方に歩いてきた。


「私にもあるのですか」


フルベルドにそう言われ、俺は笑って頷いた。


「当たり前だろ。もしこれが口に合わなければ言ってくれ。他のを用意してやるぞ」


俺がそう言うと、フルベルドは恐縮してうどんの入った器を手にした。


「我が主がお作りくださった料理です。私にとってみれば、それはどんなものであれ天上の食事でありましょう…有難く頂きます」


フルベルドはそう言ってうどんを手に、テーブルの方向を振り返った。


その背中を見て、俺は口を開く。


「ああ。今日はありがとうな、フルベルド。素晴らしい働きだったぞ」


俺が笑いながらそう言うと、フルベルドはうどんを両手に持ったまま勢いよくこちらを振り向き、子供のような笑みを浮かべた。


そして、うどんを持ったまま俺に頭を下げた。


「…勿体無い御言葉です」


フルベルドはそう言って、テーブルに帰っていった。


俺は首を傾げながら踊り出しそうな足取りで歩くフルベルドの背中を見た。


やたら喜んでいたな、フルベルド。


やはり、褒めて伸ばす雇用主の方が業績は上昇するのだろうか。


ダンジョンマスターとしてダンジョン経営の研究をせねばなるまい。


今度、エリエゼル副社長にも聞いてみるとするか。



次回は奴隷少女の視点でダンジョンでの一夜の予定です。

読んでいただけたら作者が飛び上がって喜びます。

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