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モンスター召喚

エリエゼルに言われるまま、俺は青白い炎で描かれた魔法陣の前に胡座を掻いて座り、魔法陣の外側の床に手を置いた。


「魔素ですよ、ご主人様! 魔素を溜めるのです!」


「全部か?」


「第二世代のヴァンパイアの中にも格があります。多ければ多いほど強いですし、知能指数も高くなりますよ」


俺はエリエゼルの言葉を聞いて唸り、魔法陣を見つめた。この召喚したばかりのモンスターには難しい仕事を頼むことになる。


ありったけの魔素を込めるか。


まあ、夜までにはまた魔素が溜まるはずだしな。


俺はそう思い、目を瞑った。


魔素の感覚はもうかなり掴んでいる自覚がある。恐らく、魔素の量もかなり多いが、俺は魔素の消費量が少ないのだろう。


これは、イメージ力に左右されると考えられる。


社畜時代初期。


俺は馬鹿みたいな短気先輩と、理不尽な短気先輩、そしてヒステリックな女上司の三人に鍛えられた。


僅か半年で心の病を発症する寸前、俺は悟りを開いて本当の社畜となったのだ。


その社畜への第一歩が、イメージ力である。現実逃避と言い換えても良い。


妄想に妄想を重ね、俺は妄想だけでストレスを解消する境地に達した。


気が付けば、俺は新人に教える立場となっていたのだ。


ちなみに、新人への教育はかなり優しくしている。怒ったこともない。


自分がやられて嫌なコトは他人にもしてはいかんのだ…何故そうしないといけないのか、理由は忘れたが。


と、変なことは考えずに魔素を込めなければ。


魔素は形の無い風船に近いかもしれない。


どこまでも柔らかく、どこまでも広がってしまう巨大な風船だ。


この風船を、自分のイメージの中の無数の手で形作る。


何処かを押さえ忘れたら、そちら側から魔素がドロドロと抜けていく。


イメージは詳細に、細部まできちんとしなくては無駄な魔素を使うことになる。


俺は顔や体の造形だけでなく、髪や肌の質感まで頭の中で作り上げていく。


出来た。


確かな手応えと、人の形に凝縮していた魔素が定着する感覚を受けて、俺は目を開いた。


すると、魔法陣を形作っていた青白い炎が立ち昇るのが目に入った。


青白い炎はぼうっと身体をよじるように巻き上がり、見る見る間に炎は人の形へと変化していく。


炎は背の高い人の形から徐々に細部まで実体化していき、肩よりも長いパーマのかかった黒い髪、光の無い黒い瞳、細いが筋肉質な身体が現れてくる。


同時に、黒い霧が辺りを包み込み、ヴァンパイアの身体に纏わりつくように集まり始めた。


炎と霧が空気に溶け込むように消え去った時、ヴァンパイアは完全に実体化を果たした。


古いフリルの付いたスーツの上に黒いロングコートという出で立ちをした、美形だが野性味のある顔つきのヴァンパイア。


まさに、映画に出てくるような迫力のあるヴァンパイアの姿である。


そのヴァンパイアを見たエリエゼルは、動揺を隠すことなく俺を見た。


「…ご主人様なら、驚くような美少女のヴァンパイアを召喚なさるかと思っておりましたが…」


どういう意味だ、エリエゼル。


失礼な台詞に俺が厳しい目をエリエゼルに向けていると、ヴァンパイアが首を回すような仕草で周囲を眺めた。


そして、目の前にいる俺を見下ろし、優雅に腰を曲げて一礼する。


「ヴァンパイアのフルベルド。これより御身の手足の代わりとなりて働かせていただきます」


フルベルド。名前があるのか。


俺は立ち上がると、フルベルドを見上げて頷いた。


「宜しく頼むぞ、フルベルド。お前には今日の夜、早速働いてもらうからな」


俺がそう言うと、フルベルドは片方の口の端を大きく引き上げ、歪んだ笑みを浮かべた。


「ありがたい…召喚されたばかりで、少々血に飢えておりますので…」


フルベルドはそう言うと、俺の首筋の辺りを眺めた。


「…どうやら、我が主は仮初めの姿のようで」


フルベルドにそう言われ、俺は子供の姿のままだったことを思い出した。


すぐに元の姿に戻ろうかと思ったが、俺はフルベルドの先程の態度を思い出して眉根を寄せる。


「お前、元の身体に戻った俺を襲う気じゃないだろうな? 言っておくが、体も魂も純潔じゃないからな?」


俺がそう言うと、フルベルドは喉を鳴らしてくつくつと笑った。


「このフルベルド、我が主に牙を剥くような獣ではありません。高貴なる貴族ですから」


フルベルドがそう言うと、エリエゼルは怪訝な顔を浮かべてフルベルドの背中を見た。


「…貴族? ヴァンパイアの真祖の直接の血を引く者でしょうか?」


エリエゼルがそう口にすると、フルベルドは表情を消し、ゆっくりと背後を振り返った。


だが、エリエゼルの姿を見て目を僅かに見開く。


「…これはこれは…我が主に先に召喚された先達の方でしたか…私はヴァンパイア族の貴族ではなく、元々貴族であった者ですよ。お間違いのないよう…」


フルベルドはエリエゼルにも一礼すると、やんわりとした口調で訂正をした。


それを聞き、エリエゼルの目が見開かれる。


「…ヴァンパイアになったということ? じゃあ、貴方は真祖のヴァンパイアなのですか? フルベルド」


エリエゼルがそう尋ねると、フルベルドは笑みを貼り付けて首を傾げた。


「そうなりますな。ヴァンパイアの真祖、フルベルド伯爵と、名乗っております」


フルベルドはそう言って肩を揺すり、笑った。


俺は腕を組み、フルベルドを見上げて唸った。


「真祖は呼べないと聞いたが、真祖呼べたな」


俺がそう呟くと、エリエゼルは呆然とした顔を俺に向けてきた。


「…普通は呼べないんですよ? このダンジョンを構築するために必要な全ての魔素を集めてもまだ足りないはずなのですが…」


エリエゼルがブツブツと何か口にしていたが、俺はフルベルドに片手を上げて居住スペースに足を向けた。


「ちょっと待ってろ」


俺はそう言って食堂から離れ、居住スペースの寝室に寝かせられた俺の本体の下へ向かった。


何故か体の上に掛け布団まで掛けられているが、俺は気にせずにベッドの上で目を瞑るイケメンの前に立つ。


戻りたーい。


戻った。


本体に戻った俺が食堂へ戻ると、エリエゼルとフルベルドがこちらを振り向く姿が見えた。


「よし、自己紹介だ。俺がアクメオウマ。こっちがエリエゼルだ。宜しく頼むぞ、フルベルド」


俺がそう言うと、フルベルドは魂が抜け落ちたような、呆然とした顔で佇んでいた。


「…どうした、フルベルド?」


俺がフルベルドの名を呼びながら歩み寄ると、フルベルドはびくりと身体を震わせて背筋を伸ばした。


そして、頬を染めて跪く。


「なんと、なんと美しい…まさに、人の心を誑かす悪魔のような美貌! 御名前に相応しい!」


アクマじゃなくてアクメオウマですが。


俺がフルベルドの態度に困惑しながら跪くフルベルドを見下ろしていると、勢い良く顔を上げたフルベルドが鼻息も荒く声を上げた。


「我が体、指、毛の先までも、いや、魂すらも御身に捧げましょう! アクマ様! 我が生命は貴方様に!」


「あ、アクメオウマですが…」


俺は輝くような目で俺を見上げる若干気持ち悪いヴァンパイアに名前の訂正を求めたのだった。



ホモヴァンパイア生誕!

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