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その日の売り上げ。

夢中でパンケーキを食べたと思ったら、更には取り合うようにポテト類も完食し、プリンを食べて一人が泣いてしまった。


最後に皆でジュースを飲む時に至っては、もはや放心状態と化した四人を眺め、俺はニンマリと笑った。


勝利である。疑う余地の無い完全勝利だ。


そして、四人が帰る時に、ウィルとアルーが妙なことを口にして帰った。


「また、絶対に来るからね。多分、その時は三人くらいで」


「…悪かったわ。私が食べた事の無い美味しい料理だったもの。うちの料理長に推薦してあげるから、有り難く思いなさい」


二人のそんな言葉に、俺は丁寧に返答はしておいた。


「親とか連れてくるなよ? また子供らでオヤツでも食べに来い」


「嫌だよ、料理長。俺はここから動かないし、ここから出るくらいなら死ぬからな?」


俺が二人にそう返事を返すと、二人は愕然とした顔で固まってしまった。


「ほら、子供はさっさと帰れ帰れ。夕方には家に帰れ」


俺がそんな感じで店から追い出すと、テスカは大笑いで喜び、ラヴィははにかみながらまた来ると言って帰った。


要らんと言うのに四人の子供は一人三千ディールずつ置いていったために一万二千ディール増えた。


「意外と楽勝で貯まるな」


「いえ、これはやはりご主人様のセンスによるものでしょう。店の雰囲気、食事の珍しさと美味しさ。それに勿論ご主人様の人当たりの良さも大きな要因かと思われます」


「いやいや、そんなに持ち上げるなよ。大したことじゃないさ。はっはっは」


俺とエリエゼルはそんなやり取りをしながら笑い合い、夕食を食べた。


あっさり醤油豚骨のラーメンと炒飯、餃子のセットだ。


細い麺が旨味の強いスープによく絡み、醤油の風味が後を引く。


厚いチャーシューも甘辛い味が染みていて旨い。


炒飯はシンプルにニンニクと焦がし醤油が利いた五目炒飯だが、これもコッテリしていなくていくらでも食べられるような味わいだ。


餃子はニラ餃子。人の好みが分かれるらしいが、俺は思わず綻んでしまうほど好きである。


パリパリの皮に、中は柔らかくて肉汁が滴り落ちる。


ドリンクには冷たいウーロン茶だ。脂っぽくなった口の中がサッパリとして気持ち良い。


本当なら冷たい生ビールも良いのだが、夜にお客が来たらマズいからな。


俺とエリエゼルは食事を終えると、今まで集めたお金を集計した。


現在、お金は二万六千ディール貯まっているようだ。


これなら、後一日二日ですぐに五万くらい貯まるだろう。


俺はそう思って口の端を上げた。


その時、チリンチリンと軽やかな鈴の音が鳴り響いた。


「これを片付けますね」


エリエゼルは来客の報せを聞くや否や素早く席を立って食器を下げていった。


俺は食器を片付けるエリエゼルを尻目に、食堂の入り口に向き直って口を開いた。


「いらっしゃいませ。何人で…」


俺はそう言いながら固まってしまった。


あまりの事態に脳の処理が追いつかなかったのだ。


俺の視線の先、食堂の入り口には十を優に超える鎧姿の兵士達の姿があったからだ。


え? ダンジョンってバレた?


俺は真っ先にそんなことを思ったが、どうやら兵士達の顔を見る限り違うらしかった。


兵士達は物珍しそうに食堂内を眺めながらこちらへ歩いてくると、一際背が高い中年の男が俺の前で立ち止まった。


鈍い金属の色合いの鎧を着た、灰色の髪の男だ。顎にだけ髭を生やしたその男が、年齢の割に子供っぽい笑い方で笑みを浮かべ、俺を見た。


「交代の時間でね。知り合いのエルフに聞いたんだが、驚くほど美味い食堂があるというじゃないか。ちょっと人数は多いが、良かったら入れてもらえるだろうか?」


中年の男はそう言って後方で騒がしい足音を立てながら入店する兵士達を指差した。


つまり、衛兵か何かの団体で、夕方の休憩か何かなのだろう。


そして、この中年の男はその部隊の隊長的なポジションか。


俺はそう判断すると、男の顔を見て頷いた。


「ええ、どうぞ。何人ですか?」


俺が愛想良くそう尋ねると、男は笑みを深くして口を開いた。


「それは助かる。三十三人だ。おぉい! 外の者達も呼んできてくれ!」


男がそう言って後ろを振り向くと、一人の兵士が外に出ていき、帰ってくる時には増殖していた。


まさかの大人数に、俺は絶句して居並ぶ兵士達を眺める。


立ち食い蕎麦か何かに変更するか。


俺は一瞬そんな考えが頭をよぎったが、頭を振って思考力を取り戻す。


これは、注文が面倒過ぎるからな。団体客用のメニューを用意するか。


とりあえず、中年の男に適当に席に座るように告げると、厨房へ移動してメニューを即席で作った。


「それは新しいメニューですか?」


エリエゼルが怪訝な顔つきでそう言って俺を見る。


「ああ。中華にしようと思ってな。これなら大人数でも多少は楽だ」


俺がそう言って作ったメニューの束をエリエゼルに持たせると、エリエゼルは不思議そうに頭を捻りながらもメニューを手に食堂へ向かった。


俺は食堂と厨房の壁に空いたスペースから顔を出し、兵士達に向けてメニューについての注意点を口にする。


「そちらのメニューに載っている料理は大人数用のものです。一つのメニューを注文したら二人分以上はくると思って下さい」


俺がそう言うと、エリエゼルが頷いてこちらを見た。そう。中華料理ならチマチマ小皿で出す手間が無く、大皿を何品か出せば終わりなのだ。


俺とエリエゼルがアイコンタクトで頷き合っていると、先ほどの中年の男が嬉しそうに顔を上げた。


「おお、なるほど! なら、一つ頼めば丁度一人前分になるということだな。我らの腹的には! よし、好きなもんを頼め、お前ら! 俺の奢りだ!」


中年の男がそう言うと、周囲の兵士達は怒号のような歓声を上げた。


「うぉおお!」


「流石は兵長!」


「よっしゃ、食うぞ!」


あれ? 予定と違うぞ?


結局、俺は引っ切り無しに飛び交う注文を受け付けながら走り回ることとなった。


一人が大体、麻婆豆腐、唐揚げ、酢豚、餃子、炒飯、中華そば、エビチリなどのボリュームあるメニューから四品ほど食べた。


中には五品以上一人で食べた奴までいる始末である。


食堂は最早大食い会場の様相を呈したが、食後暫くしたらまた仕事らしく、酒までは呑まなかったのが唯一の救いだったといえる。


まあ、皆が大喜びで食べ、あまりの旨さに茫然自失とする者まで現れたから良しとするか。


ただ、荒くれ者と然程変わらない野郎ばかりの兵士達は、エリエゼルの顔を見て猿のように興奮していた。


言い寄るものはエリエゼルの一言に切って捨てられることとなったが。


結果、この団体客だけで売り上げは二十六万四千ディールを記録。


僅か一時間強で馬鹿みたいに稼いでしまった。


次回、アルーが来たらアルーよりお金を持っていると自慢してやろう。


顔を真っ赤にして地団駄を踏むに違いない。


ちなみに、夜は冒険者も三人来たため、二万ディール追加である。


今日の売り上げの合計は二十九万六千ディール。


なんと、大安売りの奴隷の檻を一ダース購入出来る金額となった。


へっへっへ。支出の全く無い反則のような店ならではの儲かりようだ。


なにせ、売れたら全て純利益だからな。


そんな下世話なことを考えながら、俺は金を数えてほくそ笑んでいた。


悪代官みたいだな、俺。



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