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子供のオヤツを作るダンジョンマスター1

栗色の髪の少年に連れられて現れたのは、茶髪の少年と金髪の少女、そして赤い髪の少女の三人だった。


街を一度見てきたから分かるが、皆、それなりの品に見える服を着ている。


栗色の髪の少年はシンプルながら汚れ一つ見当たらない上品な白い服。短い茶髪の少年は模様の入った黒い服。ボブカットの金髪の少女は白と茶色の組み合わせられたシャツと長いスカート姿。そして、緩いウェーブのかかった長い赤い髪の少女は刺繍の入った青いシャツとスカートを着ていた。


よく見れば、全員あまり汚れていない革靴を履いている。


四人はお行儀よく一つのテーブルを囲むように座っているが、忙しなく店内を見回してそれぞれが感嘆の声を漏らしていた。


「珍しい内装だったかな?」


俺は四人の態度に苦笑しながらメニューを広げてテーブルに置いた。


すると、四人は口々に俺を見上げて声を上げる。


「うん、凄く珍しいし高そうだね」


「俺もこんな店見たことない」


「か、カッコいいです」


栗色の髪の少年、茶色の少年、金髪の少女はそう言ってはにかんだ。


だが、赤い髪の少女は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ふん。私はこの程度の店はいくらでも知ってる」


少女はそう言って俺を一瞬見ると、すぐに顔を背けてまた鼻を鳴らした。


こやつめ、照れているな?


俺はポジティブに少女の態度を受け止めると、少女に顔を寄せて口を開いた。


「ここは食事をする場所だからね。食事は他とは違う珍しいものが出るかもしれないよ?」


「っ! ち、近い! 勝手に近寄るな!」


俺が少女のすぐ隣で一言物申すと、少女は顔を真っ赤にして怒った。


ふふふ、照れているな?


俺は勝利を確信し、少女の頭を軽く撫でて笑った。


「むぁ!? か、髪に触るな!」


少女は耳まで赤くしながら怒鳴ると、自分の頭の上に乗った俺の手を両手で叩いて退けた。


照れておるわ、こやつ。


毛を逆立て怒る猫のように俺に牙を剥く少女を眺めつつ、俺は朗らかに笑いながら厨房へ向かう。


少しからかい過ぎたかもしれないが、あのくらいの子供ならばこれぐらいはコミュニケーションの内である。


まあ、俺が楽しいだけだが。


厨房に行くと、何か作業をしている風のエリエゼルが俺に顔を向けて口を開いた。


「随分と楽しそうでしたね」


「楽しい。ちょっと生意気なのに反応は素直だからからかうと面白いな。さぁ、何を頼むかな? 四人とも吃驚するような注文してくれるとまた楽しめるが」


エリエゼルの質問に俺がそう言って笑うと、エリエゼルは僅かに頬を緩めて頷いた。


「ご主人様がお喜びで何よりです。ただ、子供四人ですから、飲み物を注文するのが精一杯ではないでしょうか」


「ああ、そりゃそうか」


俺はエリエゼルとそんな会話をして、トレイの上に水の入ったコップを用意した。


四人のもとへそれを運んでいくと、四人は食い入るようにメニューを見ていた。


「なあ、アルーはこんな店いくらでも来たことあるんだろ? どれ頼めばいいんだよ?」


茶髪の少年が赤い髪の少女を責めるように見てそう尋ねると、アルーと呼ばれた赤い髪の少女は口を真一文字に結んでメニューを睨んだ。


「の、載ってるのが田舎料理ばかりだから分からないわよ」


アルーがそう言って苦し紛れの言い訳を口にすると、栗色の髪の少年が笑いながら首を傾げた。


「僕はお父さんと一緒に田舎にいったこともあるけど、こんな料理無かったよ?」


「う、煩い! もっと遠い田舎! 地の果てだからウィルも知らないの!」


アルーはそう言って、ウィルと呼んだ栗色の髪の少年を睨んだ。


ウィルがそれを見てまた笑っていると、金髪の少女が困り顔でアルーを見た。


「と、とりあえず何か頼みましょう? テスカ君、店長さんに聞いてみてよ…」


金髪の少女がそう言うと、テスカと呼ばれた茶髪の少年は嫌そうに顔を顰めた。


「お前が聞けよ、ラヴィ」


どうやら、金髪の少女はラヴィという名前らしい。


全員の名前が分かったところで、俺はそっとテーブルにコップを並べていった。


突然現れた俺に驚いたのか、四人は静かに俺がコップを並べる光景を眺めている。


俺は静かにコップを見つめる四人を見て、笑いを堪えながら口を開いた。


「メニューの説明をしようか?」


俺がそう言うと、アルーが真っ先に拒否しようと口を開いたが、ウィルが押し留めて俺を見上げた。


「お、お願い」


ウィルに頼まれた俺は笑って頷くと、メニューのデザートとドリンクのページを開いた。


「時間が中途半端だから、軽い食事か甘い物とかどうだい? 後は甘い飲み物か変わった飲み物とか」


「甘いものっ?」


俺の台詞にラヴィが一番大きな反応をした。


だが、テスカが眉根を寄せて口を開く。


「ラヴィ。あんまり甘い物は多分高くて俺には無理だよ。お前らは良いだろうけどさ」


テスカがそう呟くと、ラヴィは悲しそうに眉尻を下げた。どうやら、テスカは他の三人よりも少し金に余裕が無いらしい。


まあ、10歳くらいに見えるような子供がこんな食堂に来るのがおかしいのだが。


そう考えた俺はウィルを見て口を開く。


せめて子供らしい物を食べさせるか。


「皆でいくらぐらい出せるんだい? それに合わせて提案するよ」


俺がそう聞くとウィルは難しい顔で他の三人を見回した。


「皆お金持ってる? 僕、今日は三千ディールくらいしか持ってないけど…」


ウィルは深刻そうにそんなことを口にする。俺はウィルの言葉に首を傾げていたが、他の三人は予想外の反応を見せた。


テスカはホッとしたように歯を見せて笑い、ウィルを見た。


「なんだ、ウィルもそんなもんか。俺は五千は持ってるぜ」


テスカがそう言うと、ラヴィは困ったように笑いながら口を開いた。


「私は一万ディールかな」


ラヴィはそう言って照れたように視線を彷徨わせると、アルーが胸を張って三人を見回した。


そして、俺も含めて、皆の視線が自分に向いたのを確認して口を開いた。


「私は二十万ディール」


「はあっ!?」


アルーの財布の中身の告白に、俺は思わず目を剥いて大きな声を上げてしまった。


すると、アルーは勝ち誇ったような顔で俺を見上げると、他の三人を見回しながら口を開く。


「外で遊ぶならこれくらいは持ってないとね?」


アルーが決め台詞のようにそう言うと、ウィルとラヴィは失笑し、テスカは肩を落として項垂れてしまった。


「アホか」


俺はアルーの顔を見てそう言うと、愕然とした顔をするアルーから視線を外して他の三人を見た。


「お前らも持ち過ぎだ。そんな大量の金を持ってると知られたら誘拐されたっておかしくない。金を持ってたら偉いってわけじゃないんだぞ」


俺がそう言うと、三人は納得のいかない顔をしながらも俯いた。


だが、アルーは険しい表情で俺を睨む。


「なんで? お金はあればあるだけ良い。私の馬車と従者を連れてきてるんだから、誘拐だってされないでしょ。おかしいのはアンタよ」


アルーはそう言って俺から顔を逸らした。その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。


アルーからすれば俺が理不尽なことを言っているように感じているのだろうが、異世界の常識など知らない俺からすればアルーの論理は面白くない。


このままではアルーの性格は壊滅的なものとなってしまうだろう。


というか、10歳くらいの少女が二、三十万円分も金を持ち歩いているのが許し難い。ああ、羨ましい。


俺は不貞腐れるアルーを横目に、ウィルに顔を向けて口を開いた。


「そう思うなら好きにしろ。今日はお前たちから千ディール貰って料理と飲み物を用意してやるから、次からはそれ以上持ってくるなよ? 持ってきたら店には入れてやらんからな」


俺がそう言うと、ウィル達は顔を見合わせて目を丸くした。


「千ディールって…それじゃ何も…」


「やっぱり怒ってるんだよ」


「…ちょっとテスカ君、代わりに謝ってよぉ」


「なんで俺なんだよ、アルーが怒らせたんだから…」


三人はそんなやり取りをしながらアルーを横目に見たが、その会話にアルーは余計に憤慨してしまった。


肩を怒らせて三人を睨むアルーを見ながら、俺はさっさと厨房へ戻る。


四人が口論する声を背中で聞きながら厨房に戻ると、エリエゼルが難しい顔をして俺を出迎えた。


「…大丈夫でしょうか。十中八九、彼女は貴族の御息女と思われますが」


少し心配そうにそう言うエリエゼルに、俺は眉根を寄せて溜め息を吐いた。


「…カッとなってやった。後悔はしていない」


俺がそう言うと、エリエゼルは乾いた笑い声をあげて頬を引き攣らせた。


よし、ポテトチップスとホットケーキかプリンでも用意してやるか。


エリエゼルにも勝手なことをしたお詫びがてらケーキを出してやろう。



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