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流血の終焉
作:深月姫季



FILE.11 語られた過去


「お姉ちゃん、最近やけにお洒落に力が入ってるのね」

ドレッサーに向かい、新色の口紅をつけている姉を、シャロンは恨めしそうに見つめた。

資産家だった両親が交通事故でなくなってからはイギリスの大きな屋敷で、両親の遺産の元で悠々自適の二人暮しを仲のいい姉と共に楽しんでいたのだ。しかし、近頃は二人で買い物に行く事も少なくなり、まだ姉が恋しい年ごろのシャロンは寂しい思いを募らせていた。


「シャロンも、恋をしたら私の気持ちがわかるわ」

鏡越しに妹を見る姉の瞳は優しかったが、シャロンは口を尖らせた。

「私はもう大人だわ。子ども扱いしないで!恋って、誰に?」


「A Secret Makes a Woman Woman」

姉はいつもそうはぐらかし、決してシャロンに名前を告げようとはしなかった。今思えば、姉はシャロンが危険に巻き込まれないように、取り計らってくれたのかもしれない。でも、そんな事は知る由も無く、おとなしい姉が、あんなに輝く笑顔になるなんて。シャロンはますます面白くなく、一人ぼっちで部屋に篭ってむくれていた。

「シャロン、ごめんね。今日、少し帰るのが遅くなりそうよ。今度、埋め合わせするから許して」


お気に入りの香水を振り掛けて、家を出たその日。姉は、シャロンの前から姿を消した。そして埋め合わせの機会は、一度も現れなかった。


ロンドン警察もお手上げで、ただの失踪に時間を掛けていられないとばかりに数ヶ月で捜査は打ち切られることになった。そして数ヵ月後、シャロンは寂しさを埋めるように、前々から志していたハリウッドの道を進んだ。弱冠二十歳で栄光を手にし、日本に素晴らしい奇術師が居ると知り、特殊メイクなどの技術を身につけるために来日、弟子入りしたりと忙しい日々を送っていた。

そして、十年が経ったある日。奇術師を通して知り合った日本人の友人、藤峰有希子から、偶然、姉の情報がもたらされた。


姉、エレーナの居場所が―…



驚く事に、姉は、日本人の有名な研究者と結婚し、二人の女児をもうけていた。何か、犯罪めいた事をしているとも知った。しかし、姉はどんなに訪ねていっても、シャロンと会う事を徹底的に拒否し、結局は不慮の事故で姉が死ぬまで対面する事は無かった。


「お姉さんが、死んだ?何を言い出すのよ有希子」

電話口から聞こえた静かな声に、シャロンは愕然とした。

「Why! 有り得ない…間違いでしょ?」

どんな言葉も、シャロンが欲しがっているのとはまるで正反対だった。

「優作から聞いたのよ、研究中の事故だって」


ようやく電話を切ったとき、シャロンの胸には、ある疑惑と決意が生まれていた。姉の死は本当に事故なのか、何故犯罪に手を染めていたのか、そして、本当に死んでしまったのか。


それから、シャロンはハリウッドの仕事を減らし、変装し来日して組織の一員となった。

姉の死の真相を探る為に。


「最初は、下っ端と同じ仕事をしたわ。汚い、殺しの仕事をね。でも宮野厚司は私がある実験体になった事で、完全に私を信用したわ。何でもペラペラと話してくれた。自分の妻さえ不完全な薬の実験に使って、殺してしまった事さえも」

 「そして、私の復讐計画は始まった。私の願いは唯一つ。組織の存在其のものを消す事だった。ある時、私は宮野が姉を殺したのと同じ方法で、あいつを殺してやった」


シャロンはしっかりとした口調で天井を見上げた。その瞳は湿っていて、コナンは哀の方をチラリと見た。

「…貴女だったのね」


ハンカチで傷口を押さえながら無表情に発した哀の言葉が解せず、赤井とコナンは目を見交わした。


「灰原…?知ってたのか」

戸惑いながら、再び上着を破り自分も止血を施しながらコナンは蒼白い顔をした哀に、恐る恐る尋ねた。


「誰、という所までは知らなかったけれど、お母さんに妹が居た事は知っていたわ。あのテープの、最後の言葉」


姉が隠していった、母からの誕生日プレゼント。その一番最後に残された、声。

『志保、実は、お母さんね―妹が居るの。あなたにとっては、叔母さんね。私にもしものことがあったら、叔母さんを捜しなさい。イギリスの何所かに居るはずよ。志保、あなたが幸せでいられますように』

優しく、軟らかで暖かい毛布に包まれているような、懐かしい声。思い出すだけでそれは哀の心を締め付ける。哀は暗記してしまったテープの声を、ゆっくりと繰り返した。


「灰原を攫い、殺そうとしたのは、死んだと見せかけて灰原を助ける為だったのか…」

合点が行くと言う様に、コナンは腕を組んだ。初めから、不可解な点が多すぎたのだ。ベルモットが校医の新出に変装し、帝丹高校に潜入した時だって、その気になれば、灰原や自分を引きずり出す事は容易かっただろう。自分も、APTXを飲んでいたのなら。


「なぁ、ベルモット。さっき実験体、って言ったよな?と言う事は、飲んだんだろ? APTX4869をさ…」

今度は哀が驚く番だった。ベルモットは愉しげにコナンを見ていた。コナンは続ける。

「年を取らないから可笑しいとは思ったんだ。特殊メイクでその顔を作っているとも思った。けど、FBIと対決したとき、あんたの顔がオリジナルだと証明された…どういう経緯かは知らないが、あんたは薬を飲んだら若返り、年を取らなくなった。…そうなんだろ?」

「ご名答。あの男はね、私を邪魔者とみなした。毒薬と知らされずに飲んだわ。それからは恐くなったのか、私は自由に振る舞うことを許された」


全員がベルモットの話に耳を傾け、孤高の危険人物から目を離していたのはあまりに愚かなことだった。しかし、気付くには遅すぎた。


その一瞬、二度目の爆発音が室内に轟いた。












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