大切なお話
「凌。だろ?」
翔が低い声のまま、目には悲しみを含ませてはなった一言。
私には一瞬何が何だかわからなかった。どうしてここで凌君?確かに前、凌君のことが翔に関係してるって聞いたけど。それは今言うこと?ってことはなんだ?翔との関わりって。
「誰だ」
おじさんは本当にわからないという顔をして翔を見つめている。
その時、おばさんが震えた声で言葉を放った。
「わたしの、子」
はい?
ちょっと複雑すぎてわからないんですけど。
ハッ!
まさか、隠し子!?
「・・・前の夫の。翔気の、お兄ちゃん」
馬鹿なことは考えるものじゃないね。
っていうか、お兄ちゃんいたんだ。ってことは・・・?
なに?翔と凌君は兄弟?頭が追い付かないけどなんかわかる気もする。
「どうして、知ってるの」
そこはさほど問題でもない気がするが、一応首は突っ込まないほうが身のためだ。
「凌に、聞いた」
おいおい、いつの間にそんな関係になってたの。
「隣の家」
「え?」
うん。そうだけどさ、そこは置いといてもいいんじゃないかな?それよりも今は翔が帰るかどうかではないのか?
「会いたいなら会って来れば?」
突き放したような言い方におばさんの顔は一瞬ゆがんだ。
「会いたい。でも。いまは、翔のほうが心配なの」
ゆっくりと、お母さん特有の・・・なんだろう。説得される感じ。
「どうして、家に帰ってこないの?」
「今までそのこと隠されてた俺の気持ち少しは考えろよ」
いつになく、乱暴だ。
「考えた」
翔の言葉におばさんがとっさに返した。
「考えたわよ。あなたが、孤独だと感じないようにどう話そうか。あなたが大切な存在だとどう説明しようか。お父さんのこと、認めてくれるようにするには?いろいろ考えたの!」
「落ち着け」
おじさんがおばさんの話を止めた。
「私は、お前の本当の父親ではない。それは、どうしようとも変わることのない事実だ。仕方がない。でも、そのことを言わずにいては何も変わらないと思ったんだ。所詮他人。もしものことがあったとき、そんな言葉で終わらせたくなかったんだ。お前の父親として何十年も生きてきた。でもお前のホントの父親だと、私は胸を張って言えない。それは、お前が本当のことを知らないからだ。伝えなかったら、きっと楽だったろう。でも、伝えなければいけない気がしたんだ。お前自身のことだったのと、私が父親だと認めてほしかったこと。身勝手だと思うかもしれない。でも、伝えてよかったと私は思っている」
ゆっくりと話し終わったおじさんは翔をまっすぐに見つめていた。
おじさん、いい人っぽい。っていうか、いい人やわー。
「丈は?」
翔が小さな声で言った。
「丈は知ってんのか?」
「いや、まだ」
誰のことを言ってるんだろう。丈?
「早く・・・言えよ」
翔がこぶしを握っているのが見えた。
「分かった」
おじさんはまだ、翔を見つめている。
翔は幸せ者だなー。
他人事だけど、他人事のようにそう思った。
「あの、今日のところはお引き取りしてもらっていいですか?」
今の今まで黙っていた大翔が口を開いた。いきなり何言うんだ、こいつ。
「明日には帰らせるんで」
「・・・はい。すみません。ご迷惑をおかけします。お願いします」
おばさんが返事をする。
とりあえず、おじさんとおばさんはいなくなった。
さて、一つかたずいた、かな?
なんかさっき感じたイライラはどっかいったし。
「おい。今日は寝んなよ?」
突然言い出した大翔に私と翔はただただ口を開けるしかできなかった。