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死神といっしょ!
作:是音



第94話 死神と不思議(郵便屋さん)


 さて、寒がりなオレの部屋には早くもコタツが登場したわけだが、死神はどうやらコタツを気に入ったらしい。
 コタツに入って本を読み、コタツに入ってテレビを見、コタツに入って飯を食い、コタツに入って電話をしたりしている。
 コタツ依存症なのかもしれん。

 今日も学校から帰ってくるとすぐにコタツに飛び込み、ゴロゴロしていた。本格的に冬に入ったらどうなることやら。

ドタバタドタバタ

 晩飯を終え、風呂に入っていた死神が戻ってくる。

「こったつー♪こったつー♪」

ズザァァァーーー!

 スライディングで飛び込むという上級技まで会得しやがった。
 オレもコタツは好きなのでテレビを見ながらまったりしていたのだが・・・。

 毎回こいつのスライディングに吹っ飛ばされる。

「とうっ♪」

「ぐはっ!」

・・・。

「ふぅ、あったかーい」

 頭から湯気を出している死神は既にパジャマ姿。

「あり?準くん何やってんのさ!早くコタツ入りなよ〜っ」

 こいつマジでぶっ飛ばしてぇ。

 ため息を吐きながら再び向かい側に入ろうとすると、死神が自分の隣の床をポンポン叩く。ここ最近毎度の事なので仕方なく隣に入る。

「何で毎回このポジションなんだ」

「いいでしょ!この方がテレビ見やすいもん」

――――――――

―――――

―――

「はぁ〜、これじゃあ冬は死んじゃうよ私達〜」

「全くだ。暖房費がかさむなぁ〜」

「金の亡者キタ〜」

「うっせ〜」

「・・・」

「・・・」

 やべぇ、寝そうだ。
 テレビをぼーっと眺めていたオレと死神はコタツ効果でダラダラに気が抜けていた。

「ねぇ準くん」

「ん?」

「今回、このまま終わっちゃうんじゃない?」

「それは駄目だろ」

 ちなみに死神はのんびりした口調で喋っているが、会話の合間に凄まじい速さでテーブルの上のクッキーを食べまくっている。
 太るぞ。

「しょーがない」

 死神はココアのカップを置く。

「イチャイチャしよう」

 ふざけんな。

「じゃあどうするのよ!このままのんびり過去最低文字数で終わるって言うの!?答えなさいよ準くん!なんか言いなさいよ準くん!!三笠くんに育毛剤買ってあげなさいよ準くん!このままじゃ《育毛罪》で彼、捕まっちゃうわよ!!」

 なんかいきなりキレてるーー!
 話題ズレかけてるーー!

「す、すんません」

 ノリで謝ってしまった。

「お話!お話!」

 痛い痛い。コタツの中で足をバタバタさせるんじゃねぇよ。

 うーん、話か。
 そうだ、コイツ一年もここに居るのに知らないだろうからあの事を話してやろうかな。

「死神、このマンションには幾つもの不思議がある事を知っているか?」

「不思議!?」

 死神は目を輝かせて食い付いた。どうやら興味をそそらせるのに成功したらしい。

「うん。さて、ここでオレが敢えて七不思議みたいに数を示さないのはだな・・・」

「うんうん!」

「住人でも幾つあるかわからねぇからなんだ」

「素敵っ」

 オレ達の住むこの高級マンション。セキュリティを始めとする設備は一級品で、泥棒(泥棒風死神は除く)など寄り付く気にもならないような場所である。
 そんな設備等を除けばどこにでもあるようなこのマンション。実は幾つも不思議が存在する。

「どんな不思議があるの!?」

「うん?そうだなぁ。一つお前も知っている筈の話がある」

「私も?」

「おう。フロントに新聞や手紙を取りに行くのは死神の係だよな?」

「うん」

「郵便屋さんを見たことがあるか?」

「・・・ない」

「ないよな。だってこのマンションの住人は誰一人として郵便屋を見た事がないからな」

「え!?じゃあ郵便屋さんは居ないの!?」

「いんや、郵便屋さんは確かに居る」

「よくわかんないよー?」

「はははっ、じゃあ話をしてやるよ」

――――――――

―――――

―――



 話っつっても噂話なんだけどな、信じる信じないはお前の自由だぜ。

(いいから早くぅ!)

 わかったわかった。
 これは以前、ここの設備がハイテクでない頃。ある二人暮しの住人《太吉郎たきちろう》と《花美子はなみこ》がオレ達みたいに見たことのない郵便屋さんに興味を抱いた時のことだ。

(一般的そうで変な名前だね)

 噂話に出てくる奴の名前って大概こんなもんだろ。

 そいつらも二人で話してたんだ。

『ねぇ、太吉郎。あなた《郵便屋さん》見たことある?』

『《風林火山》?』

『うん、風林火山。疾き事風の如しってね!』

『そういえば郵便屋さん、見た事ねぇなぁ』

『でしょー!』

(ねぇ風林火山の話いらなくない!?)

 噂話だ。気にすんな。

 気付いてしまった二人は郵便屋さんの事が気になって仕方がなくなった。

 それから二人は手紙を届けに来る郵便屋さんを待ち伏せる事にしたんだ。

(見れたの!?)

 いや、丸一日二人でマンションの玄関口に立っていたのだが一度も見られなかったそうだ。

(ふふ、でも帰ってみたら・・・)

 そう。当時は部屋の前に郵便受けがあったんだが、いつの間にか全ての部屋に郵便物が届けられていたんだ。

『なんで届いてるのよ!?』

『そりゃ届くだろ。郵便受けだし』

『それもそうね』

(この二人なんなの!?)

 噂話だ。気にすんな。
 あぁ、無論郵便受けの中が空だったのは最初に確認した筈だぜ。

(キャー不思議っ!)

 さて次の日、二人は今度は部屋の中に籠もって五分置きに郵便受けを確認する事にしたんだ。

(めんどくさっ!)

 それでもやっぱり郵便屋さんは現れず・・・

(郵便物だけが届いていたんだねっ!)

 そうなんだ。

『えぇぇぇ!?五分で届けたって言うの?全階を!?』

『ありえねーな。音速じゃん』

『じゃあ今度から《音速の郵便屋さん》って呼びましょうよ太吉郎♪』

『おっけー花美子♪』

(全然不思議を調べてるように思えないノリだよー。音速ってありえないよー)

 う、噂話だ。気にすんな。
 そしてその次の日、ついに二人は最終手段に出た。

(最終手段?)

・・・。

『こうなったらトラップ仕掛けましょう太吉郎!』

『おうよ!生死問わずだ!爆薬持って来い!』

『駄目よ太吉郎!木っ端微塵になったら住人を殺ってしまった場合に確認できないでしょ!』

(このカップルやる事が凄いにゃぁぁぁぁ!!)

 オレも聞いた時はツッコミの嵐だったよ。

 そんなわけで、二人は住人へ避難勧告を出して各フロア中にトラップを仕掛けたんだ。

(ほ、ほんとにやったんだ・・・太吉郎と花美子)

 ああ。
 さてさて、ここまでやった二人だったが、オチは本当にまさかのオチだった。

(うーん、太吉郎と花美子のどちらかが郵便屋さんだったとか?)

 いや。実を言えばその二人も死神と同じような考えで居たらしく、相手が白状するのを待っていたような感じだったんだ。

 だが。

 それは起こった。

ドガガガガガガガガァン!!ちゅどーーーーん!!ババババババババァァァァァン!!ズドドドドドドドド!!ベガンボカァァァァァン!!

(・・・!)

『な!?』
『え!?』

 それは一瞬の出来事だった。

(一瞬の・・・出来事?)

 そうだ。
 一瞬で・・・一階から最上階まで仕掛けてあった二人のトラップが全部発動したんだ。

(・・・て、ことは)

『・・・て、ことは』

『・・・て、ことは』

 ははっ。ありえねー話だが、

 マジで《音速》だったんだな。

――――――――

―――――

―――

「そんな馬鹿にゃぁぁぁぁ!」

 おー、良いリアクションを有難う。

「音速!音速だよ!?そんな人が人間界に居たとしたらとんでもない事だっちゃ!」

 死神はコタツのテーブルを叩きまくっている。否定しているかと思いきや目はキラキラと輝いていた。

「音速で移動できるのは現在あの最強猫くらいのものだよぉ・・・。ありえない!ありえないぜ!だって長年変わることのなかった《最速》の称号が入れ替わっちゃうかもしれないんだよ!?」

「まぁ噂話だしさ。作り話って可能性がでけぇし。何か別の理由があるんだろうよ」

「ふぬぅ〜」

 眉間にしわを寄せて難しそうな顔をしたままの死神は顔をベランダの方に向けて頭をコタツの上に置き、脱力した。

「ふぬぅ〜・・・ん?」

 死神がピクリとする。

「準くん、準くん!」

 顔は外へ向けたままオレを呼ぶ。

「なんだ?」

「雪が・・・降ってる!」

 言われてオレも外を見る。
 すっかり暗くなった外はしかし、部屋の中からの明かりに照らしだされた白い粉がしんしんと舞い落ちているのが見える。

 おーっ!初雪かぁ。だいぶ前から降っていたみたいだが気付かなかったよ。

 そういえば以前渡瀬が

【窓というキャンバスに暗黒の下地。しかしそれが故に優しく照らしだされた白い光達を一層幻想的に見せる。見せられた私たちは同時に魅せられるのです】

 とか言ってた。その時はイマイチ意味がわからなかったが、今はなるほどなって思う。

「雪ー!やったー雪だー!バンザーイ!」

 今までぬくぬくとコタツの中に入っていた死神は、嬉しさのあまり寒さそっちのけでコタツから飛び出してベランダの外へ出た。
 初雪ってワクワクするよな。なんでだろ?

 二人でベランダに出るとやはり随分前から降っていたようで、外はすっかり雪が積もっていた。しかも夜中なのでまだ誰も踏んでおらず、遊歩道は端から端まで一面真っ白。

「うわぁ見て見て!ヨーグルトだよ!ミルクプリンかな!?」

「ははっ、言うと思った」

ピンポーン

 あ、誰か来たみたいだ。
 飛び跳ねながらはしゃぎまくる死神を残して玄関へ向かう。

「はーい」

「こんばんわ里原くん♪」

 扉を開けるとそこには彩花さんが立っていた。

「初雪ね♪」

「ええ。死神は大喜びですよ」

「ふふっ、バンプも大はしゃぎだから外へ散歩に行こうと思ったの。そしたらほら♪郵便受けに入ってたわよ」

「あ、どうも」

 手渡されたのは何の変哲もない、ただの勧誘広告の封筒だったのだが、それと一緒に

《間違えて配達しておりました》

 と書かれた紙が添えられていた。若干水に濡れている。

・・・濡れている?

「準くん!準くーーーん!!」

 突然ベランダの方から呼ばれてオレと彩花さんは死神の所へ行った。

「どうした死神?」
「どうしたの死神ちゃん?」

 死神は若干のパニックを起こしながら必死でベランダから下を指差す。

「あれ!あれ!!」

「?」
「?」

「お客さん誰が来たのか気になって外からちょっと目を離したら・・・」

・・・。

・・・なっ!

 つい先程まで誰にも踏まれていなかった筈の遊歩道に降り積もった雪。

 マンションから一人分の足跡が、遊歩道の遥か遠くまで続いていた。

「あ、あらあら、これは・・・」

「ま、まさか彩花さんに聞いた噂話が本当なわけが・・・」

 しかし死神が目を離したのは一瞬。つまりそれだけの間で移動したっつー事だ。

 足で。

 そ、そんな馬鹿な。

 それじゃあ本当に音速じゃねぇか・・・。

「ねぇ準くん、彩花さん、アレ見てよ」

 さらに死神が足跡が連なる遊歩道のある一点を指差す。

・・・。

 その場所の雪が、人型に窪んでいた。

「ふふふっ、滑って転んじゃったのね♪」

「アハハハハ!音速の郵便屋さん可愛いーー!」

――――――――

 これはこのマンションに伝わるたくさんの不思議の一つ。
 不思議な噂で語られていた郵便屋さんは、本当に《音速の郵便屋さん》かもしれないという事がわかり、さらにちょっとドジであるという事が新たに加わった。

 しかし、やっぱり姿を見ていない郵便屋さんは不思議なままで、やっぱりこれからも噂話としてこのマンションに伝わっていくんだと思う。

「よーし彩花さん!雪合戦しようねっ!」

「石は必須ね♪」

 よし、ヘルメット買っておこう。












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