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死神といっしょ!
作:是音



第93話 死神のレッスン


 ボイスレッスン、ダンスレッスン、英会話レッスンなどなど、世の中にはいろんなレッスン教室があるよな。
 この前雑誌に載ってた趣味の通信制レッスンのページを見てみたら、そのあまりの多さに言葉を失ったもんだ。

 うん、盆栽レッスンにはビビッた。

 通信制は別としてレッスンというのはやっぱり講師が居る。
 個性溢れる先生なんつーのは人気だね。

 さてさて、オレが何でこんな話をしたのかってぇと・・・。
 これは地獄旅館へ行った時の話だ。

――――――――

―――――

 オレは死神と地獄旅館へ出かけていた。異世界でも季節はあるらしく、地獄アジア支部もさすがにもう冬シーズンという事で旅館中がぽかぽかとしていた。暖房が働いているのだ。
 都市クラスの巨大旅館全体に暖房が働いているっつーことは、エネルギー源となっている魔導高炉の強力さがうかがえる。
 でもって全支部のそれを安定させている伝説の六人の死神業者は、やっぱりすげぇと思った。

 そんな事を考えているオレと死神の現在地は地獄旅館五階。吹き抜けの手摺りに背中を預け、目線の先でせわしなく動き回る黒ローブを待っているのだ。

「ドゥドゥダ、ビビドゥダ、ババスババスバーン!」

 《ご機嫌ビート》ってやつらしいです。
 競馬が当たった収入で今日は地獄街で買い物なんだとさ。

「まったくディープイ○パクト様様ね〜♪」

 どこから持ち出したかわからない大金を単勝で賭けて、高確率に利益を得たのだ。危ないので皆はやめておこうね。

 で、死神は現在ゲルさんのド派手なお店、《カオスディメンジョン》で買い物中。
 そして荷物持ち係のオレは店の外で待機中ってわけさ。

「ゲルさーん!例のやつあるー!?」

 店の主人ゲルさんは死神の所望する品々を次々と運んで忙しそうだ。
 そしてその品々をこれからオレがまとめて運ばなきゃいけねぇんだとさ。

「あっ!あと《栄養願望アプローチ》もお願い!」

『・・・! (お目が高いねロシュ)』

 どんな次元だ。

「あとは、あっちのやつと、こっちのやつと、《どこの馬の骨かもわからんやつ》と・・・」

『・・・!(はいはい、ちょっと待ってね)』

「このくらいかなぁ?」

『・・・♪(まいどあり♪料金は59万4820円だよ)』

「うん、チョット足りないから準くんにツケといて♪」

『・・・(いいよ〜)』

 買い物は計画的にぃぃぃぃぃ!!

――――――――

―――――

―――

『おっと、失礼』
「こちらこそ」

 ぶつかってしまった餓鬼に軽く頭を下げる。
 しっかし相変わらず地獄旅館の廊下は広い。旅館というより都市だもんなココ。
 それでもせわしなく廊下を行き来する仲居や餓鬼達や、ぶらりと地獄を満喫する魂達の数が多く、今のようにぶつかってしまう事もある。
 オレが担いでいる荷物がでけぇってのもあるけどさ。
 肩凝りそう。

 温泉入りたい・・・。

・・・。

 あ。

 そうだ!オレまだここの八大地獄温泉入ったことない!

 八大地獄温泉。そこは死神と仲の悪い八人の温泉長、通称《ハーゲんだっつ(第13話)》が切り盛りする温泉で、二回程行ったことがあるのだが、二回とも入ることは無かった。
 一度目はオレと死神で暴れまわり、二度目は悪冬音と死神が暴れまわったからな。

 時季が時季だし、一度は入ってみたいのだが・・・。

 今日はもう財布が空っぽだから無理だよね。

 さて、ゲルさんの店で大量の買い物をした死神は荷物を全てオレに持たせ、ご機嫌で前を行く。
 向かっているのは六階の死神業者事務所で、ついでだから夜叉さん達に会っていこうという話になったのだ。
 ちなみにオレが担いでいる袋いっぱいの荷物は死神の重力魔法で軽くなっており、なんだかでっかいバルーンを持っているみたいだ。

「今日は良い買い物をしたねっ♪」

「お前のお小遣いから引いておくからな」

「えーっ!」

 チョット足りないどころか、かなり足りなかったぞ。
 それを聞いた途端、ふわふわ飛び回りながら猛烈に抗議を始める死神だったが、聞く耳を持たないオレ。

「お願いだよーっ!」

「駄目だ」

「ねぇ準くんてばぁ〜っ!ご飯は八分目にするからぁ〜!」

「先月もそう言ってただろ」

 そしてまた食費を増やしただろ。

「うぇぇぇん!」

「泣いても駄目です!」

「お母さんのバカ!わからずや!ごめんなさい!」

 普通に謝った!

「ぬぬぬ〜、これはどこかで収入が必要ね」

 死神は抗議を諦め、腕を組んで考え事を始めた。邪悪な事を考えている確率はかなり高いね。

 そしてそのまま夜叉さん達が居る幹部用の待機室へ向かったのだった。

 地獄旅館六階には死神業者やエリート餓鬼達のような治安関係の部署が設置されており、階全体をそれらが占めているという事は相当大規模なのだとすぐに理解できる。
 なにせ広さは一都市分あるのだ。

 そしてワープゲートを使って辿り着いたのが、死神業者事務所の中枢近くに位置する幹部休憩用和室《夜桜の間》だ。

 そこは主にアジア三強が仕事の合間に居る部屋で、オレは初めて来たのだがその豪華さに溜息が漏れた。

 閻魔さんの部屋程ではないがそれでも十分に広く、畳の敷かれた和室はいい薫りがする。
 その中には夜叉さんや白狐さん、カブキさんの馴れ親しんだ香りなんかも混ざっていた。

「こんにちわー!」

 最初に勢い良くふすまを開けた死神が元気いっぱい叫ぶ。

『おや死神殿に里原殿!』

『珍しいわね、こんなところにまで』

 中では夜叉さんと白狐さんが座っていた。
 さすがにオレ達の突然の訪問には驚きを見せた二人だったが、すぐにオレと死神を招き入れてくれた。

 それが夜叉さんの悲劇の始まりになろうとは・・・。

 なんとなく予想はしていた。

 夜叉さんと白狐さんは今まで何かを話していたようで、興味を持った死神はトコトコと二人の近くに言って座った。オレもドでかい荷物を降ろして座る。

「夜叉さん達、何話してたの?」

『それが・・・』
『合コンで失敗した話を聞いててあげたのよ』

 アホか。

 それを聞いた死神は、アジア三強の一人に向かってとんでもない事を言った。

「夜叉さんのダメ男ーー!」
『ガァァァァン!!』

 床に崩れ落ちるアジア最強の鬼。

「こ、こら死神!すいません夜叉さん!」

 死神は何故かプンプン怒っており、そして白狐さんはクスクスと笑っていた。ってオイ。
 夜叉さんがふらふらと立ち上がる。

『い、いえ。死神殿の言う通り。某、最近は任務の失敗も二回ほど続いておりまして、スランプ気味なのです・・・』

 うわぁ、深刻・・・。

 そんな鬼の耳元に甘く囁きかけた奴が居た。

 無論アホ神である。

「ねえ夜叉さん」

『な、なんですかな?』

「私のレッスンを受ければ、夜叉さんもモテ男に大変身だぜ・・・」

『!!』

「レッスン料はちょっと高いけど、これからの利益を考えたら安い安い♪」

『受けまーーーーーす!!!』

 まさに《死神の囁き》ーーーーーーー!!

『あらまあ』

 白狐さんは相変わらず狐面の下で笑っていた。

――――――――

―――――

―――

 何この状況?

 何故か正座で座らされた夜叉さん、白狐さん、オレ。目の前には死神先生が立っている。
 何でオレと白狐さんまで加わっているのか。

「じゃあレッスンを始めます」

『お願いしまーす』×3

 基本的には夜叉さん中心なので他のオレ達は聞くばかりだ。

「まず《何故夜叉さんはモテないのか》!」

 オイ。
 多分夜叉さんは相当モテるぞ。

「それはセンスが問題なのです!」

 お前が言うな。

『な、なるほど!』

 真剣に聞いてんだもんなぁこの鬼。

『盲点だったわね』

 真剣に聞いてんだもんなぁこの狐。

「じゃあ本日のレッスンはネーミングセンスについてやっていこうと思います!」

『お願いしまーす』×2
「お、お願いします」

 よもやネーミングセンスについてをこいつに説かれようとは思ってもいなかった。

――――――――
【LESSON1 《センスの良い剣撃》】
――――――――

「夜叉さん起立!」

『はい!』

 異様な光景だ・・・。

「なんか技を出して!」

 死神がこんな場所でいきなり無茶を言った。

『了解!』

 夜叉さんは無茶をあっさり聞き入れた。
 夜叉さんは腰に差した刀を引き抜き、マジで構えた。

『《狩魔カルマ鬼斬剣キザンケン!》』

ボカァァァァァァン!!

 全力な剣撃キターー!
 部屋なんてお構いなしか!

 華やかで和む筈の室内風景は一瞬にして吹き飛び、後から修理するエリート餓鬼は大変だと思った。
 白狐さんも〈本当にやりやがった!〉というリアクションをしている。

 片付けは死神に手伝わせます。オレも手伝います。

「はい準くん!今の技名の感想は!?」

「ぅえ!?」

 部屋を爆破された事に呆然としていたオレは、いきなり死神に当てられてビクッとした。

 感想?今の名前の感想か。

「えと、その・・・まぁ良いのではないかと」

 オレ結構今のネーミング好きだし。

「準くんダメ人間!」

「ガァァァァン!」

 死神先生は結構厳しかった。

「じゃあ白狐さんは!?」

『は、はい!(私に来た!)』

(ふむ。普通な事を言ったら里原くんみたいにロシュ先生に怒られてしまうわね・・・じゃあどう言ったら良いのかしら?)

(・・・)

(ここはノリを頑張ってロシュ先生好みに合わせようとするしかないわ)

 死神先生に当てられた白狐さんは腕を組んで激しく思考しているようだ。
 そして自分に一度頷く。何かを決心したように感じられる。

・・・。

 決心?

・・・。

 ま、まさか。

『えーっと・・・《キザンケンの〈ンケ〉の部分に若干の情熱を求め、世界は木漏れ日に舞う粒子で構成されているという私の大好きな歌詞の思想を取り入れてみたらサクサクした歯ごたえがすると思います》』

 びゃぁぁぁっこさぁぁぁぁぁん!!
 何言ってるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!?


『が、頑張ってみました』

 相当頑張ったのだろう。肩で呼吸している。きっと仮面の下の顔は恥ずかしさで真っ赤だ。

 しかし。

 死神先生へのウケは良かった。

「すばらしい!素晴らしいにゃぁぁぁ!!白狐さん!!」

 コイツの感性すげぇ・・・。

「じゃあ夜叉さん、今の貴重なアドバイスを取り入れてもう一回!!」

 さすがに無理だろ。つーか適当だろお前。

『必殺、《狩魔・ほっかむりレジェンド》!!』

 やりやがったぁぁぁぁ!!
 夜叉さんもスゲーー!!

「よくできましたーーー!!」

 あぁぁぁぁ。

――――――――
【LESSON2 《センスの良い分身》】
――――――――

「さて、次のレッスンは夜叉さんが得意とする分身です!」

『お、お願いしまーす・・・』×3

 LESSON1で相当なダメージを受けたオレ達生徒三人は、すでに疲労困憊していた。
 それでも死神先生だけは元気いっぱいで、先程ゲルさんの店で購入した《てぃーちゃぁステッキ》とやらを振り回している。多分ただの指揮棒だ。

「はい、夜叉さん分身して!」

『はい。分身!』

シュバババ!

 とてもスムーズなやりとりだけど、スムーズに夜叉さんが部屋中に現れるのもどうかと思うぞ。

「さて準くん、ただ《分身!》と言うだけではつまんないよね。何が足りないかわかりますか?」

 来た。普通に答えたらダメ人間にされてしまう質問。
 ここはノリを死神先生好みに合わせるしかねぇ。
 多分白狐さんもそう考えたはずだ。

 うーん。

 よし。

「えーっと・・・《身体を分けると書いて分身だから、もっとなんかこう気持ち悪さを大胆に引き出して、なおかつ華やかさを忘れないような名前。そう、例えば【桜舞い散るかのごとく身体ブッチブチバラバラの術!】みたいな・・・》」

『里原くぅぅぅぅぅん!!何言ってるのよぉぉぉぉ!!』

・・・。

「が、頑張ってみました」

 これは疲れる。疲れるぞぉぉぉぉ・・・。
 肩で息をしなければ苦しい。

 そして死神先生の反応は・・・。

「みぎゃぁぁぁぁ!見事!見事な発想だにゃぁぁ!さすが私の準くんね!」

・・・。

 うわぁ、すんげぇ誉められた。
 あんまり嬉しくないかと思いきやちょっと嬉しい。

「さぁ夜叉さん、今のを参考に!」

・・・。

『《ブッチバラ百花繚乱》!』

「いい感じの略し方だぜーーー!」

 もう頭痛ぇよ先生。
 白狐さんなんてらしくもない事したから座り込んで一人ブツブツ呟いてるよ先生。

『・・・母様・・・ごめんなさい・・・だって夜叉が・・・いえ私が悪いんです。ごめんなさい・・・』

 なんかすんげぇ思い詰めてる。

 ちなみに夜叉さんが《ブッチバラ百花繚乱!》と言って作り出した分身の数が通常より多かったのはどういう事なのか。

 本日大暴走の死神先生は疲れを知らないらしく、ひたすら夜叉さんの技名に大爆笑するばかり。

 夜叉さんは夜叉さんで、ヘンテコな名前にしたら技の質が上がってしまって少しヘコんでいた。センスががた落ちしているのは本人でもわかっているのだろう。

 ここでとんでもなく状況が悪化する事態が起こった。

 突然襖が開き、夜桜の間に居る四人に加え、《大暴走といえばあの人》が現れたのだ。

『フハハハハ、騒がしいぞ夜叉、白狐。今日はカブキが出張で居ないはずだが?』

 部屋に入ってきたのは白髪の着物姿。
 閻魔さんだった。

「あーっ!閻魔さん!」

『おぉロシュ、里原!よく来たなぁ。どうしたんだこんなところで?』

 ドカッと床に座った閻魔さんは崩壊した部屋には全く興味を示さず(オイ)、死神の話を聞いた。

『ふむ。なぁるほどな!夜叉は新しい芸を生み出したいのか』

 死神の説明がド下手なのか、閻魔さんがアホなのか。

『よしよし、閻魔先生とロシュ先生に任せな!』

 不安が二倍だぜ。

――――――――
【LESSON3 《センスの良い閻魔》】
――――――――

『ふざけんな!』×4人

ビシバシッ!バキッ!ゴキッ!

――――――――
【LESSON3 《センスの良い登場曲》】
――――――――

 登場曲?

『フハハハハ、やっぱり格好良さを出したいなら・・・』
「登場曲だぜー!」

 意味がわからん。
 ちなみにオレはもう呆れるばかりで部屋の隅に非難し、白狐さんも落ち着いたらしく、散らかった部屋の中でお茶を啜っていた。

 つまり夜叉さんという生徒一人の前に閻魔先生と死神先生が立っているというおかしな状況。
 どこから持ち出してきたのか、ホワイトボードまで用意しやがった。

『いいか夜叉。俺様とロシュが歌を作ってやったから・・・』
「心して聞きなさいー!」

『ご苦労さまです』

「なにせ私はあの大ヒットアルバム《ズラ・リジェクト》の作詞者なんだから!」

 うわぁ、衝撃の事実。

「それでは私と閻魔さんの合作、聞いて下さい」

 多分とんでもなく意味不明であることは確実です。
 死神の代わりにあらかじめオレが謝っておきます。ごめんなさい。



――――――――
――――――――
曲名:《知らなかったのよ》

作詞:閻魔・死神



 夜に思わず目が覚めた

 貴方が隣に居るはずなのに

 貴方はもう居ないのね

 今は貴方の事で頭がいっぱい

 貴方は怒って行ってしまった

 だって貴方は答えてくれなかった

 私は夜も眠れなかった

 何度も何度も訊いたのに

 答えてくれなかった

 だから自分から行動するしかなかった

 今では後悔ばかりが残る

 あの時叫んでしまった自分が憎い

 Ah...

セリフ:【覚えておきなさい!これは設楽したらって読むのよ!!】

 貴方はもう居ない………

――――――――
――――――――

 この歌詞うぜぇぇぇ!!

・・・。

・・・。

 つーか何これ?

 ちなみに曲調はまさかのアップテンポです。

・・・。

 ウチの死神がどうもすみませんでした。

『ウチの閻魔がどうもすみませんでした』

 白狐さんまで謝った。
 作詞した二人はメチャメチャ満足そうに聴いていた。アホだ。
 夜叉さんも満足そうに聴いていた。ってオイ。

『近年稀に見る良作だなロシュ!』
「うん!」

 このままアホすぎるレッスンが続くかと思いきや、閻魔さんが《歌詞のモデルは白狐だ》と口を滑らせた為、オレは死神と買い物した荷物を抱えて戦場を飛び出したのだった。

――――――――

―――――

―――



「あーーーっ!夜叉さんからレッスン料貰うの忘れたぁー!」

 やはりそれが目的か。
 死神がそれに気付いた時にはマンションの前あたりまで来てしまっていたので、諦めるしかねぇな。

 つーかあのレッスンが夜叉さんにとって有益だったのかが疑問だ。

・・・実際、技の質は上がったな。

 閻魔さんのレッスンは多分無意味だ。

「仕方ない、じゃあ今回は夜叉さんの登場曲をEDにして終わろう!」

 うん、やめて。

「ふんふふん♪夜に思わず目が覚めた〜・・・」

 あー、晩飯なににしよっかなぁ。

「覚えておきなさい!これは設楽したらって読むのよ!!」

 うっせぇ。












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