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第65話 死神の両親 そのにっ!
 おいおい、大丈夫なのか?

 オレの見下ろす先には、陸地に上がり城の壁を長い足で攻撃する巨大なタコがいる。
 でも体の色や、足の本数からして正確にはタコではない。この世界にのみ存在する生き物なのだろう。

 とか考えている間にもデカタコは城の壁を破壊し続けている。
 セキュリティーのゴーレムはどうした?

「準くん!これ何の音!?」

 展望場へ死神が飛び出してきた。

「なんかよぉ、でっけぇタコがいるんだよ」

 死神もオレの隣で身を乗り出した。

「えー!何あれー!」

 どうやらコイツも知らないらしい。
 ギルさんはどうした?

 とか思った瞬間、目の前に背の高い黒ローブが下から飛び上がってきた。ギルさんだ。

『ハハハハ!正義の死神《ドクロー仮面》参上!!』

 痛い!痛いよこのお父さん!

 隣では死神がうつむいて顔を真っ赤にしている。
 珍しい姿だ。

「もぅ・・・お父さんのバカ・・・」

 あぁ、あれだ。
 授業参観にやって来た一風変わった父親を恥ずかしがる娘みたいな心境なんだろう。

「ギルさん!アレは一体なんなんですか?」

 ギルさんは空中で紫の呪文布に囲まれながら浮かび、腕を組んで怪物を見下ろしている。

『アレはね、周辺の海域に住む怪物だよ。いつもは結界が張られているからこの島へは近づけないのだが、結界が弱まった今日は偶然入ってしまったようだねぇ』

 仮面の下で『全く、困ったちゃんだ』とか呟くギルさん。

「落ち着き払ってて大丈夫なんですか!?」

「そうだよお父さん!」

 こうしている今もタコ怪物は城を攻撃し続けているのだ。
 だがギルさんは全く慌てていない様子。

『そういえば里原くん。昔人間界の資料を手に入れた時に目に留まった事があるんだ』

「な、なんです?」

『なんでも君達の世界には《五色のカラフルなタイツを着たTVヒーロー》がいるらしいじゃないか』

 どこで入手したんだ。

『アレを見た時は感心したよ』

「?」

『だって彼等、生身では放送終了10分前になっても敵を倒せないんだよ』

・・・なんだそれ?

「それのどこが感心なんです?」

『私が感心したのは放送終了ギリギリに登場する巨大ロボットさ。出てきて数分で敵を瞬殺じゃないか。最初から全部ロボットに任せたら良いのに。ハハハハ!』

 いいから早く怪物倒せよオッサン。
 人間界のテレビ局とチビッ子を敵に回す発言してんじゃねぇ。

つーか・・・

「何が言いたいんです?」

『うん、つまり《このドクロー仮面なら放送第1話目、開始3分で敵勢力を壊滅させられる》ということさ!ワハハハハハ!』

 ガキかアンタ!

 チビッ子TV番組に敵対心向けてただけかよ!

 死神はますます顔を赤くし、小さくなっている。父親の変人っぷりを他人に見られるのだけは恥ずかしいらしい。

・・・お前も変人だろうに。

「〜〜〜っ! もう!お父さんいい加減にしてよね!」

 ついに死神が怒った。

『わわわっ、娘が大激怒だ。わかったわかった』

 さすがの《ドクロー仮面》もビビったらしく、怪物の真上に浮かんだまま、右腕を振り上げた。

 ギルさんの右手の周りが紫色のぐにゃぐにゃした丸い空間に包まれる。

 そして小さなその球体を、下に落とした。

『海にお帰り♪《重力結界メガ・グラビトン》』

・・・。

・・・。

・・・。

 は?

「き、消えた・・・」

 そう。消えた。

 紫色の球体が炸裂し、怪物の周囲を包んだかと思うと、音もなく怪物が消えたのだ。
 それどころか島の一部まで、怪物が乗っていた陸地までが丸い形に消失した。

「な・・・っ」

「うひゃぁ〜」

 オレと死神は島にぽっかりと開いた巨大な穴を茫然と見つめている。
 穴には海水が入り込み、城の隣には湖が完成してしまった。

『ありゃ〜、強かったか。まぁ《メガ》が最弱だし、勘弁しておくれ』

「ギ、ギルさんすげぇ」

「お父さんすごーい!」

 娘の信頼を取り戻したドクロ仮面はハイテンションになった。

『ハハハハ!そうか!?だがお父さんはもっと凄いぞ!《メガ》ならこんな程度だが、《ギガ》や《テラ》になるともはや世界崩壊レベルだ!』

 いや怖い怖い。

 本当っぽくて怖いよ。



―――――――

 ギルさんの伝説っぷりを実感したオレと死神は、ルイさんがクッキーを焼いてくれたと聞いて食堂へ向かった。

『あらアナタ、お疲れ様♪クッキー食べてね』

「だからそれ準くんだよお母さん!」

 ルイさんに腕を掴まれたオレは死神の隣に座る。
 ギルさんはやはり向かい側だ。

『いやぁ今日は楽しい日だ!』

『そうね♪』

 皿いっぱいのクッキーを運んでくるルイさんは満面の笑みだ。

『ふむ、そういえばロシュ』

 ギルさんは死神の方を向く。そして皿から一枚クッキーが消えた。食べたのだろう。

「なぁに?」

『気のせいか、昨年会った時より魔力が・・・』
バガァァァァン!!

 うわぁぁクッキーの中にも《強化魔法爆薬》入ってたぁぁぁぁ!

「コラーお母さん!お皿一つなんだからみんな被害受けるでしょ!」

『ウフフ、今回は《強化魔法爆薬》じゃないわよ♪ズバリ、テレポートした瞬間に発動する《空間転移反応爆薬》よ♪』

 完全にギルさんのみを標的としたトリックだ!

「つーか何で毎回口の中に入れながら話すんですか!」

『ハハハ・・・』
バガァァァァン!!

 ダメだこの人!止まらねぇ!

「お父さん、何言いかけたの?」

『うん、そうそう。一年ぶりに会ったらロシュの魔力が急増しているなぁって思ってな』

『あら、そういえばそうねぇ』

 死神は両親の目の前に大鎌を出した。

「多分コレのおかげだよっ」

 大鎌を見た二人はひどく驚いた様子だ。

『おやおやコレは!死神シルビア・ナハトマンティルの愛鎌、ブラッド・デスサイズじゃないか!』

『あらあら、懐かしいわね♪』

 有名だなこの大鎌。

「ギルさん、そのシルビアって誰です?」

『うん? あぁ、シルビアはね、我々と違う家系の死神だよ。うーん、イトコみたいな感じだと言えばわかりやすいかな? フフッ、昔はよくイジったなぁ・・・』

『シルビアちゃん、リアクションが可愛いものねぇ♪』

・・・オレの中でほんの一瞬、そのシルビアという人に同族意識が芽生えた気がした。

 二人はそのまま思い出話に花を咲かせ始めてしまった。

「シルビア・ナハトマンティルの名前は知っていたけど、お父さん達の知り合いだったとはねぇ〜」

 死神はもぐもぐとクッキーを口に運びながら両親の会話を聞いている。

「うんうん、やっぱお母さんのクッキーは美味しいや」

「良かったな」

「うんっ」

 この後オレはルイさんのクッキーレシピを教えてもらったのだった。

――――――――

―――――

―――

 楽しい時間というものは早く過ぎていってしまうもんだ。
 あれからずっと死神一家と会話するうちに気付けば夜になっており、残念で仕方ないが帰る時刻になってしまった。

 現在《マーバス・ドミナント城》城門前。

 魚人船頭さんが時間通り遠くで船に乗って待ってくれている。

 オレは二人分の荷物を持っており、死神はギルさんに抱き上げられている。

『ロシュケンプライメーダ、また来年会おう』

「うん!お父さん、あんまり馬鹿やってちゃ駄目だよ?一応《伝説の死神》なんだからさっ」

『ハハハハ!まぁお前が言うのなら自粛しようかな?』

 ギルさんは死神を降ろし、死神は次にルイさんの元へ行く。

『ロシュ、あんまり里原くんに迷惑かけたら駄目よ?』

「はぁい、お母さんもイタズラばっかりしちゃ駄目だよ?」

 死神が注意するくらいだから相当なイタズラっ子なのだろう。

『あらあら、ロシュが言うなら仕方ないわね♪』

 ギルさんがオレの所へやってくる。本当に背が高く、雰囲気だって力だって伝説の死神に違いはない。

 なのに

『今日はわざわざ有難うな、里原くん』

 すげぇ優しい人。

「いえ、オレもギルさん達に会えて良かったです」

 うん、これは本音だ。

『本当はね、ロシュには悪いと思っているんだ。一年に一度しか会えなくなる事を知っていながら、我々はこの選択を取った』

「それはギルさん達が地獄の安全を願ったからでしょう?」

『だが親としては最悪だよ』

・・・。

「死神は、アイツは最悪だなんて思っちゃいませんよ。むしろ同じ死神業者として誇らしく思っているんじゃないですかね?」

 ギルさんは何故か笑った。

『ハハハハ!うん、そうか、そう思うことにしよう。全く、ロシュは本当に・・・うん、ハハハハ!』

・・・?

『里原くん、これからもウチの娘が迷惑をかけると思うが・・・』

 ギルさんは

 最後の最後で

 ドクロの仮面を外して素顔をオレに見せた。

『・・・宜しく頼むよ』

 それは、娘を想う優しい父親の顔だった。

「はい」

 オレは最高の死神であり最高の父親でもあるギルさんと、最高の笑顔で握手をしたのだった。

『あら、もう時間ね♪』

 ルイさんが言う。

 オレと死神は魚人船頭さんが待つ船に乗り込んだ。船頭さんは死神の両親に深々と頭を下げた。

『里原くん!来年も来たまえ!』

『良い報告を手土産にねっ♪』

 ?

「お父さーん、お母さーん!またねー!」

 死神は隣で大きく手を振った。

―――――――

《フレス・ベルグ駅》

 ホームのベンチに座ったオレ達は魔列車を待っていた。
 隣の死神は手に持った紙袋の中からルイさん特製クッキーを取り出してはモグモグと食べている。

「ほい準くん」

「さんきゅ」

 うん。んめぇ。

「レシピ聞いておいたから好きな時に作ってやるぞ。味はちょいと違うが」

「やったぜー!三食クッキーでも良いよ私!」

「うん、飲み物無しでな」

「・・・」

「・・・冗談だ」

 すると線路上に巨大なワーフゲートが発生し、魔列車がその巨体を表わにした。

「来た来た魔列車〜!」

 オレと死神は中へ乗り込んだ。

―――――

「あっ、おかえり死神ちゃん、里原くん」

 ラウンジ車両では彩花さんが座って紅茶を飲んでいた。

「ただいまぁ彩花さん!」

「お疲れ様でした彩花さん。バンプは?」

「バンプは遊び疲れて部屋で寝ちゃったわ♪」

「そうですか」

 すると死神がオレの裾を引っ張った。

「準くん、私も眠いよー」

「おー、荷物は後で運んでおいてやるから。お前も寝てこい」

「はぁい」

「おやすみ死神ちゃん♪」

 死神は寝台車両へと向かっていった。

 残ったオレは荷物を置いて彩花さんの向かい側に座る。

「どうでした?バンプの両親は」

 彩花さんは紅茶のカップを置いて頬杖をついた。

「さすが伝説の吸血鬼ってところだったわ」

「やっぱそうでしたか」

「うん、《あとチョットで配下にできたのに》タイムオーバーだったわ」

 何やってんだアンタ。

「でも良い人達だったわよ♪」

「こっちも同じ感想です」

 と、ラウンジ車両の中に添乗員の《パペット》がやってきた。

『お客様、ご注文は?』

「あぁ、オレは・・・」

「この人にはいらないわ」

 突然何を言いだすんだこの人。

「里原くん、部屋に戻ってあげなさいな」

「?」

「両親と離れたばっかりですぐに寝られるわけないじゃないの〜。私だってバンプが寝付くまで話相手になってあげてたわよ」

・・・。

 ふむ。

―――――

 部屋に戻ると案の定死神はベッドの上でゴロゴロしていた。

「あっ!準くんだ」

 死神が跳ね起きる。
 オレはもう一つのベッドに腰掛けた。

「楽しかったか?」

「楽しかったー!」

「つーかお前の父親すげーパワーだな」

「ふふふ、実はお母さんの方が強かったり」

 マジかよ。

「まぁ、両親と離れたばっかりだから沈んでいると思ったが・・・」

「何言ってんのさ準くん!来年また会えるんだし」

「・・・」

「・・・」

「・・・で、正直なところは?」

「寂しいかな〜」

「あっはははは!閻魔さん達に溺愛されてんのにそりゃ贅沢ってもんだぜ!」

「ぬ〜っ!何を〜!」

「はははっ!いやまぁ、それとこれとは別だな」

 オレはよいしょ、と死神の隣へ移動し、金髪の頭をペシペシ叩いた。

「《ホントに平気だぜー》なんて言いやがったらバッカヤローって言うところだったがな」

「ひどーい!大丈夫、今だけだもん」

「ふむ。じゃあ特別に今回だけオレがギルさんの物真似をしてやるよ」

「マジでー!?」

「嘘に決まってんだろー!」

「嘘つきサイテー!嘘つきサイテー!」

 うわー言わなきゃ良かった。

「よっしゃ、準くんの《お父さん物真似》まで、3!」

・・・。

「2!」

・・・。

「1!」

・・・。

「はい!」



『ハハハハ!里原くん、《ドクロー仮面》は娘LOVEなのだよ!ハーハハハ!』

「ギャー!似てねー!」

「うるせー!!」

 そんな会話をしているうちに、死神は眠ってしまった。

・・・。

ガッチリホールドかバカヤロー!

――――――

 魔列車が地獄駅に着くまではまだまだ長い。

 オレは帰ってきて部屋に来た冬音さんとナイトメアが死神を叩き起こすまで身動きがとれなかった。

〈うぉっ!死神テメー何やってんだぁぁぁ!〉

〈離れやがれバカロシュー!!〉

〈ふぇ!?何?何?〉

・・・。

何やってんだか。

 では今回はこの辺で。
皆様、今回多数の企画案の提供有難うございました! 圧倒的多数のご意見と、時期がお盆の帰省ラッシュということで死神の両親を出すお話に致しました。 企画話なのでいつもと違う雰囲気を目指してみたつもりでした(笑) それでは、今後も宜しくお願い致します。


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