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黒魔法少女 ★" ゴスロリーヌ! って、おいっ!?

作者: 駿河良文

 アニメ  黒魔法少女 ★" ゴスロリーヌ!


  第一話: えぇっ! 私が魔法少女!? 





 私、皆野アイ、14歳。花の思春期、中学生!

 成績は……オール2……、あ、でも体育は3! それに、美術だって、先生から「21世紀のシューなんとかリズムだ!」って褒められているんだから!

 あ、ゆとりっていったな!

 でも大丈夫、中学生の乙女の本文は、勉学にあらず、恋愛にあり! なーんてね!

 え? 好きな人……? まだ、いない。

 ていうか、だめだぞ! そういうの、不順異星交流、っていうんだよ!

 今は〜、年収1000万で身長180センチで、国立大学出身の素敵な王子様との出会いのために、自分を磨く、大切な時期なの!

 そう、そして、青山あたりの高級マンションでセフレな……じゃなかったセレブな生活を、むふ、むふっ、むふっふっふ……




「アイ! 起きなさい!! いつまで寝てんの!!」

「ふぁ?」

 ベッドの中で、ヨダレを垂らして、枕を抱きつぶしているのに、私は気づく。ハッとして起き上る。目の前に、オニババァ、じゃなかった、お母さんが睨んでいるのに気づいた。

「あんた! さっき起きてきたと思えば……、何、二度寝してんの! また遅刻するわよ!」

 お母さんに言われて、私は勢いよく目覚まし時計を掴む。

「ゲッ! 8時10分!?」

 一気に、低血圧の頭に血が昇る。あわててベッドからはね起き、パジャマを放り投げる。

「つか、なんでもっと早く気づいてくんないのよ!」

「なに言ってんの! 二度寝なんてするあなたが悪いんでしょ!」

 お母さんと怒鳴りあいながら、私は急いで制服を着込み、自慢の長い髪の毛をツインテールにする。

 腕時計をつけて時間を確認する。うわっ、8時12分! 

 せっかくの長い髪も、ブラッシングする暇がないじゃん!

 しょうがない。なんとしても連続遅刻記録更新はここで食い止めなければ。

 とりあえず、ダッシュでいけばまだなんとかなる時間。そのためには、体力を……

「お母さん、朝ごはん――」

「あんた、この時間から食べていくつもり? 今日は抜き!!」

 気がつくと、オニババによって玄関から放りだされている私。

 そして頭の上から鞄とお弁当箱が降ってくる。

 



 私は、とりあえず、ダッシュする。 

「うぇ〜、走らなきゃ、遅刻しちゃう」

 街の坂を駆けおりる。

「でも朝ごはんを食べていないから走れない」

 商店街を走り抜ける。

「でも走らなきゃ遅刻しちゃう」

 点滅する信号の横断歩道に一気に飛び込む。

 そして、目の前に、学校の正門。走りながら左腕の腕時計をみる。

 時間は……8時29ふん…… 


「勝った……、私は勝った!」

 そして私が顔をあげたその時だった! 黒ネコ!? が目の前に走り飛んできて……!

「「ふぎゃぁ!」」

 猫と私が同時に声を上げる。


 ずてぇん


 猫をよけようとして、ジャンプ、そして着地に失敗!?

 私……、頭からずっこけて……




「……」昔から、そうだ。私、大事なところでドジを踏む……。

 ネコは、にゃぁと言って、伏せている私の前から駆け出す。

…ああぁ、これって、きっとヒロインの運命なのね……って己の失敗を正当化している場合じゃないっ!

 

 顔をあげる。正門まで、あと一歩。

「あと、……あと少し!」

私は地面を這いながら、手を伸ばしたその時。


 りーん、ごーん!


……無情なチャイムの音が響く。


 

「ええええええ! ……そ、そんなぁ」

 私は、バッと起き上り、

「で、でも、これはセーフだよね、うん!」 

そして、正門に飛び込もうとしたとき。


「いや、アウトだ、遅刻だ」

 男の子の、冷たい声が響いた。

 見ると、髪の毛を今風の7:3にした、銀縁の眼鏡を押さえる、整った顔立ちの少年が、私の前に立ちはだかっている。

 そのキラリと光る眼鏡を押さえる左腕には、「生徒会長」との腕章があった。

 

 へぇ、うちの生徒会長って……顔、初めてまじまじと見るけで、結構かっこいいんだ……、なんて思っている場合じゃない。

 ちょーっと「8時30分までに正門をくぐること」に間に合わなかっただけで、遅刻確定は言い過ぎなんじゃない? というか、何で生徒会長?


「な、なんですか! だいたい、なんで生徒会長が門番やってんですか!」

 私は、ちょっとむぅっとして、喰ってかかる。

 すると生徒会長は、冷淡な目で私を睨む。

「取締強化期間でね。文化祭の予算増額の譲歩案として、生徒の風紀を生徒会自らが取り締まっているわけでね――」

 キラリと光る眼鏡を直しながら、生徒会長は続ける。

「――そういうわけで、生徒全員の幸せのためだ。厳しく行く。君は遅刻だ」


……うっ、そういえば、今年の生徒会長はかなり、やり手と聞く。

 とはいえ、私にも自身の遅刻記録の更新阻止という使命がある。 

「い、いいじゃないですかぁ? ちょっとぐらい、見逃してくれたって、ね?」

 下手に出てみる。だけど生徒会長は、

「だーめーだ。え…と名前!」

右手に持っていた名簿を左手に持ち替え、開こうとする。

「み、みてたでしょ。あそこでネコが飛び出してなけりや、そしてコケなけりゃ……」

 私は必死に抗議する。

「なんといおうが、遅刻は遅刻。名前とクラス!」

 冷酷で頭が堅そうな鬼生徒会長は、メガネを直し、右手にボールペンをもって、遅刻者名簿にチェックを入れようとする。

 ……その仕草、見れば見るほどいけすかない! もう、頭にきたっ!

「け……、ケチ! オニ! アクマ! ファ○ク野郎!!」


 

 その時、

「だめだぞぉ、皆川。女の子が汚い言葉をつかっちゃぁ」

との声に、私はどきゅんとして、その声のした方を向く。

 背の高い、甘い顔の、お・と・な・の男の先生の顔を見て、私はぶっとぶ。

「つ、連葦つらよし先生!」

 連葦先生は、新人の美術の先生で、独身、女子の人気を一気にかっらった先公界のプリンス、そして何よりも、私の担任! 


 先生は、顔が真っかっ赤なワタシの横を通り抜け、

瀬居木せいぎクン、どーしたの?」

冷酷生徒会長に話しかける。

 ああ、だめ、連葦先生、そんな鬼冷酷クソガキと関わってはいけません!


 瀬居木とよばれた冷血こまし野郎が、

「ああ、先生」

妙に落ち着きはらった仕草で眼鏡をなおす。

「いえ、この生徒が、ネコをよけたところでこけ……」


 お、おいおい、その言い方、なんかわたし、ドジっ子じゃん! いや、ドジっ子なんだけどね……そんな憤りに、口をふくらませるワタシを無視して、生徒会長の瀬居木は淡々と続ける。

「……おしいところですが校門に入った時点で8時30分15秒でしたので、遅刻として処理するところです」


 連葦先生は、はっはっはっと笑う。ああ、笑った顔も素敵……!!

 連葦先生が、先生にしておくにはもったいない爽やかな笑顔で言う。

「まぁ、瀬居木君、彼女は私が担任をしている生徒でね。ここは見逃してくれないかね?」

 さ、さすが、連葦先生!! 40人クラスの一人にすぎないワタシのこと、ちゃんと見ていてくれたのですね!! ぱぁっと明るくなるワタシ。さぁ、どうでるよ、鬼生徒会長!

 すると、瀬居木は、

「まぁ、先生がおっしゃられるのであれば、そういうことで」

すかさず腕時計をみて、そして、無表情で一礼をして、その場を立ち去る。


「……」へっ……? と、黙ってその後姿を見守るワタシ。

 と、

「これっ、何ボーッとしている皆野、ホームルーム始まる前に教室入らないと、ほんとに遅刻にするぞ」

連葦先生が、私の背中をバーンと叩いたもんだから、私はきゃっと前のめりになった。


 そのとき私は、正門の影からさっきのクロネコが、ワタシをじーっと見ているのに気がつかなかった。






 あっという間に退屈なゆとり教育の時間が流れ行き、終業のベルが鳴る。



 私は、

「うげぇ」

と腹の底から声をこぼしながら、とぼとぼと肩を降ろして帰宅の途についていた。


 今日は、朝から最悪だった。

 憧れの連葦先生には恥ずかしいところを見られるし……。 


 家の前にたどりついた私は、重々しく玄関の扉を開けて、でかいため息を放つ。

 数学のテストが帰ってきたけど、結果は最悪……。またベッドの下に隠さなくちゃ……。


「えーいっ!」

 こういうときは、ぱぁっと一っぷろ浴びてすっきりするに限る!

 私は家にあがると、ぽんぽんと、制服、下着(ああ、Bさ、なにか?)を脱ぎ棄てた。


 シャワーを浴びて、いやな気持ちはまとめて……、ついでに試験の結果が悪かった事実といっしょに、ぜーんぶ水に流してしまえ!

 すっぽんぽんになった私は、バスルームへと飛び込んだ。


「ふぅ」

 濡れた長い私の髪に、滴が伝う。

 私のぴっちぴちの腕を、お湯がつたう。

 自分で言うのもなんだけど、きっと今以上に「ないすばでぃ」になれる、と「将来性」に期待できる……未発達な体に湯気が絡む。


 そして読者サービスのために、精いっぱい艶っぽく、髪を振って滴を飛ばした時、

「!」

明らかな、読者以外の視線を、湯気とりの小さな窓の外から感じた。


 一瞬、どきっとしたが、むしゃくしゃしていた私は、

「このぉおおお!」

悲気づいた時には、悲鳴をあげる代わりに、近くにあった石鹸を窓に向って投げつけていた。


 私の手から離れた石鹸は、ブラインド式の窓の隙間をすり抜ける。

 次いで「うわぁ!!!!」との、いやらしい中年男のドラ声が響く。

 

 私は、洗面器で胸を隠しながら、じゃばら窓の隙間から外の地面を覗いて叫ぶ。

「変態!! よくも私のないすばでぃ……の予定になる体を――」

 そして「どこが、ないすばでぃだ!! このつるぺたがっ!!」とのドラ声の主、コブをつくって地面に倒れている……黒いネコ? の姿をみて、「……」私は固まった。




「え……と……」

 身を整えた私は自室に帰って、机に座り、床にふてぶてしく寝そべっているクロネコを睨む。

「んだよ。俺は覗きをしたんじゃないぜ。だって、お前の乳、あってないようなもんじゃん? 存在しないものを見たわけだから、それで性犯罪ってのは、冤罪……」

「……っ!」

とりあえず、のたまうクロネコに消しゴムを投げつける私。


「いってぇ。動物虐待だぞ」自分の頭を撫でるクロネコ。

「うっさい! 三味線にすっぞ!」吠える私。

「あ、それはヤめて。幼馴染がさぁ、200年前にそれ、やられたから。おれっちにとってトラウマだから、それ」頭を押さえて低くするクロネコ。

「……」ますます混乱するワタシ。



 と、

「アイ、誰か居るの? 数学のテスト、今日返ってきたんでしょ……」

と扉が開き、お母さんが入ってくる。うわっと、私は驚き、あわてて、中年ドラ声の黒猫を隠そうとしたが……遅かった。

 お母さん、黒ネコをガン見してるし……。

 

 と、その時、クロネコの紫の目がキラリと光る。

 そして、

「あら、アイ、あんまり“おにいちゃん”をいじめちゃだめよ」

とお母さんが言いだした。

「へっ、お兄ちゃん……? って……お母さん熱でもあんの?」

 私が目をパチクリさせると、お母さんは、一瞬、怪訝な顔をする。そして、ほんっとに心配そうな顔をして、

「あんた……、自分のお兄ちゃん……忘れたの? 大丈夫? あんたこそ、熱があるんじゃ……」

私の額に手をあててくる。

 へっ? お母さん……うち、一人っ子だよ? ときょどっている私。

 お母さんは、私に熱がないことを確認すると、

「ま……、疲れているのね……、ゆっくり休むのよ……」

数学のテストのことは敢えてつっこまないで、

「……“サブ”、あとでツナ缶あげるから、とりにきなさい……」

とクロネコに言う。

 クロネコは「ああ、サンキュー、ママ」と堂々としゃべりながら、部屋を出て行くお母さんを見守っている。



「……」目を点にしている私。

 その私にむかってクロネコは振り返る。

「あ! おめぇんちのツナ缶、ノンオイルだろうな? 最近、おれっち、メタボで……」

そうふてぶてしくのたまうクロネコの頭を、気がついたら私はグリグリと押さえていた。

「ちょ、ど、どういうことよっ!」

「いででででででぇええええ、ちょ、ブレイク、ブレイク!!」

 クロネコは足と尻尾をジタバタとさせる。



「魔法だよ、魔法」

 恨めしそうに言う、頭を私に押さえられたまま、私を見上げる黒猫。

「魔法?」

 押さえたクロネコの頭を上から覗きこむ私。

「そう。それで、おれっちが、おまえの兄貴っていうことにしたわけよ。なにか問題でも…」

そうのたまうクロネコの首筋を、私はつかんで持ち上げる。

「問題おおありでしょうがっ! 飼い猫ならまだしも、“おにいちゃん”って!?」

 つまみげた黒猫をにらむ私。黒猫は、

「ああ、大丈夫、大丈夫。ほら、ソ○トバンクCMの“お父さん”的な? ああいうポジション。これでおまえ、人前でもおれっちと堂々と会話できるぜ?」とにゃぁと口をあける。

「ばかでしょ、あんた、ばかでしょっ!」私は黒猫に怒鳴りつける。「だいたい、あんた、お兄ちゃん、ってことは、学校は? 仕事は? ご近所になんていうつもりよ? その他、もろもろの設定は……」

 黒猫はすかさず「ああ、おれっち、ニートで軽〜いひきこもり、という設定だから」とさらっと言う。私は納得がいかない。「つーかね、百歩譲って、あんたがうちの家族になったとしてだよ、なんであんたがうちの“子”なのよ! そんなオッサン声で、どう考えても無理があるでしょうがっ」

 その私の問いに対し、つまみあげられている黒猫は、にゃぁと笑うように口をあける。

「だってよ、おれっち、14歳の少女から、おにぃ〜ちゃん♪って言われるのが夢だっだぁっ……!」その言葉の途中で、私は、つまみあげていた黒猫を床にたたきつけ、「この変態がっ!」とチョークスリーパーをかけていた。



 しばらくして……。

 深いため息をつき、なんとか理性を取り戻した私と、傍らで「……まじで死ぬかと思った……」とぜぇぜぇと舌をだしながら喘いでいる黒猫。


 そして私は、今一度ため息をつくと、

「……。とりあえず……、サブってのが、あんたの名前?」

腕を組み、クロネコを横眼で睨む。

「おうよ、ったく」

 クロネコは、後脚で耳の後ろをカキカキしながらいう。



「……」「……」

 しばしの沈黙。

「なんのために、うちに?」

 私はゴホンと咳払いして確認する。

 そして黒猫のサブが、

「なんのためにって……、そりゃおめぇ、おれっちがお前の相棒としてだな――」

と言いかけたところで、私は、床をバンと叩く。

「ちと、待てィ!」


 私は、サブの顔をじろじろと見ながらいった。

「……あんた、朝の黒猫でしょう?」

「おう。運命的な出会いだったなぁ」

 サブは、あくびしながらいう。

 私は目をとじ、頬をポリポリとかく。

「私がドジでおっちょこちょいの主人公という時点で、んで、あんたがクロネコという時点で、なんとなく……、こういう流れは読めていたけどさ……」

「おう、物わかりがいいなぁ。最近の魔法少女物ときたら、使い魔がフェレットとか、ハムスターもどきとかさぁ、チャラチャラしてていけねぇ」

 サブが身も蓋もないことを言う。私は閉じていた目を開けて言った。

「な・ん・で、私のところに?」


 サブは、私をジロジロと見る。そして言った。

「まず第一の理由。おれっちの元相棒、前任者がこの春、高校卒業してよぉ。なんていうの、19歳じゃ、もう、魔法“少女”とは呼べねぇじゃん? 魔法少女に不可欠のツインテールヘアスタイルもそろそろヤバい年齢だし。それで相棒、引退しちまってさ」

「……」

 反応に困る私。

 尻尾をなめながら、ふてぶてしく言うサブ。

「んで、新しい相棒、“活きのイイのを探せ”っていわれてさぁ、ずっと探してたんだよ。魔法少女の主人公にふさわしい、普通の女子校生で、ちょっぴりドジで間抜けで、心やさしい――つまりバカ――で、ある日魔法を授かる、っていうおめでたいシチュエーションにバッチリはまるやつ」

「……」

 反応に困る私。

 前脚を舐めながら、ふてぶてしく言うサブ。

「今どき、いねぇぜ。“遅刻、遅刻”って走ってこける奴。普通、遅刻しそうになったら諦めてばっくれるもん、最近のゆとりは」


 反応に困りながら私は質問を続ける。

「……第二の理由は?」

「んでさぁ、相棒を近日中に決めないと、おれ、クビきられちゃうんだよ。この不況で……使い魔クラスは“派遣”扱いだから、真っ先に狙われるんだよねぇ」

 溜息に、おっさん風のダミ声を交じえるサブ。

「……」

 ますます反応に困る私。

 サブは、遠くを見る様な目つきで言った。

「ほら、ドラマ“アイボウ”も……あの“相棒”ってタイトルのくせに、水谷豊が長ら~く一人だった刑事モノ、あれももうすぐ新しい相棒が決まるって話じゃん? ミッチーらしいぜ」(※2009年3月現在)

「……」“アイボウ”は、私もファンだし、ミッチーときたか! それはちょっと楽しみ! って……その情報にはさすがにぐっとくるよ、ああ、ぐっとくるさ……でもちょっと待て、なんだ? このネコ? と反応に困る私。

 サブは、そんな私の目つきに気づかず、哀愁漂うダミ声で続ける。

「んで、上司のバカが、あのドラマ、好きでさぁ、“お前も早く相棒を決めないと切るぞ”って脅すんだよ。この年で野良ホームレスはキツくね? せちがらい世の中だよなぁ」

 そしてサブは、私の顔を見て言った。

「それで焦っていたところに、お前と運命の出会いを果たした、ってわけ。わかった?」

「わかるかーっ!!!」




 サブは、ふぅとため息をつく。

「あー、じゃバカでもわかるように言うよ。“コレハ前世カラノ宿命ダ、たぶん”。以上」サブは“明らかに嘘です”というような投げやり口調でいう。そしてヤッツケ感全開で続ける。「――というわけで、“目覚めよ、アイ。魔法少女となり、悪の勢力と戦――”」

「やだ」

 即答する私。……それで、うん、といったら、ホントのバカじゃん!

 サブがゴホンと咳払いする。

「……おい、最近の“小説を読もう”の短編によくある、起承転結の転の時点で、主人公が何も行動を起こさずに話の腰を折って、強引に結末を迎えるパターンか、それ?」

「なに作家先生からの反感を買うことを言うの? そんな奴のいうこと、誰が何と言おうとヤだ、なんで私が魔法少女なんかに!」

 私はそっぽを向く。……だいたい、この作者だって、物語、投げてんじゃない! 

 サブは「た、たのむよ〜、アイ〜」さっきの、私とお母さんとの会話から目ざとく私の名前を知ったらしく、前足を擦り合わせて拝む。

「なれなれしくすんな、このドラ猫!」

 私はそう吐き捨てる。

 まだ、この猫が美少年の化身だったり、かわいい女の子の声なら許すところだ。

「お願い! アイさま〜、アイお嬢さま〜っ」

 けど、このダミ声は、どう考えでもオッサンだ。

 おそらく往年の海外ドラマ“サブ○ナ”に出てきたセーレムの類だ。


「あんた、魔法が使えるんでしょ。なら、私に魔法をかければいいのに」

 私はつっこみ、サブは恨めしそうに言う。

「それができたら苦労しねぇよ。魔法少女との契約は強制できないんだよ。児童労働法と風営法違反になるから。それに無理やり契約させたとしてだな、それが魔法少女組合にばれたら、それこそ俺、破滅だ」

 その言葉に、なんだかわからないけど、魔法界も大変ね……、と一瞬同情しかけてしまう私。

 そんな自分にハッとして「ふん!」と今一度、そっぽを向く私。


 つれない私に、サブはなおも食い下がる。

「とりあえず、いま魔法少女になると、正社員扱い!! つまり厚生年金、健康保険がついてくる。もちろん労災と危険手当もばっちり! この不況のご時勢で、ないよ〜、こんな条件」

「あのねぇ。厚生年金っていうことは、給料からひかれちゃんでしょ。汗水たらして働いたお金を、なんで社会のために天引きされなけりゃ……」

 まだ、お子ちゃまな私は、自分が稼いだお金を社会のために一部国に差し出す、という発想にはいきつかない。

「おい、そりゃねぇぜ。今の発言、怪我してもなんの保障もない、おれっち派遣扱いの野良猫からみたら、暴言だぜ。お前も今に思い知るよ」

 サブの断定的な発言にむかっとする私。

「決めつけないでよ。私は、将来、ぜったい勝ち組になるんだから。あんたみたいな負け組には、ぜったいにならないから!」

 私の言葉にサブもムカッとしたらしく、

「このゆとりめ……。若いうちに、せいぜい夢みときな……」

トゲトゲしく言うため、 ……それが、人にものを頼む態度か!? と、私はますます腹を立てる。

「なんだと! もう、絶対にあんたの言うこと聞かない。言うこと聞いたら、負けだね」

「あっ! 取り消すっ! 取り消しますからぁ」

 はっとしたサブが、必死になって頭を伏せる。

「お願い、話だけでも聞いて!」

 本人は土下座のつもりのようだが、ネコにやられてもありがたみがない。

「お願いだからぁ、話だけでもさぁ」

そうしつこく続けるサブを……まるで保険の勧誘のおばちゃんみたいでうざっ、必死なのはわかるけどさ、と思わず睨む。


 と、サブが尻尾をクルンと振った。

 すると、その尻尾が振られた空間が一瞬輝き、何かが出てくる。


 サブは、その現出した四角い物体を前脚で掴みながら言った。

「今どきの魔法少女の変身アイテムは携帯! というわけで、今ならこの最新機種が0円、2ギガのSDカードもつけちゃう! 通話料も全額うちの組織が負担で、しかもパケ放題――」

「のった!!」

「はやっ!!」

 身を乗り出して即答する私に、逆に驚くサブだった。



「やった、やった! うわ、ワンセグにぃ、GPSにぃ、MP3再生機能にぃ、もちろんカメラ……」……そして何より通話料がタダ、というのはでかいのよ……女子には……!

 喜ぶ私は、呆れ気味にサブが「契約、成立だな……、ふぅ」と溜息をつくのに気がつかなかった。





 

「で、具体的には、何をするの?」

 私は、サブに尋ねる。

「やっと、まともなことを言ったな……」 

 私の古い携帯のデータを新しい携帯へと移す作業をさせられているサブは、顔をあげる。そのサブの目は、明らかに“人使いの悪いやつめ”という目だった。

 一方の、“猫の手を借りてるだけよ”という目で見つめ返す私に、サブはあきらめたように首をふり、ごほんと咳払いする。

「この世界に、悪い奴らがいる。われわれは、そいつらから世界を守るため闘わなければ……」

「なんでそんな奴がいるの? んで、なんで闘わなきゃならないの?」

 私の素直な質問に、

「それは……」“話の腰を折るんじゃねぇよ”とサブ。今一度ゴホンと咳払いしたサブは、

「まぁ……、世界には絶対的な正義と絶対的な悪しかいないという二元論と、正義は我々だ、というプロパガンダを、朝8時30分からアニメを見ている純心な子供たちに刷り込ませるため。そして、親とオタどもにキャラクターグッズを買わせるためだ」

と答える。


……ま、うすうす気づいていたけどね……と言おうとした私だが、その時、携帯がブーッとなる。

「メール?」

 私は携帯を取る。

 私の知らないアドレスからだった。

 メールを開く。


“魔法少女ゴスロリーヌ、出動せよ”とあった。


「……」“なに? このネーミング……、なに? この騙された感……”

ぷるぷると震えている私に目もくれず、

「おっと早速出動要請だ! いくぞ、アイ!」

サブが紫色の目を光らせながら、立ち上がって言った。




 

“ここ数日、我が組織の管理下にない魔法力の波動を検知。当該ポイントで何が起きているか、確認を頼む”

 メールの続きは、そうあった。



 私はクロネコのサブと一緒に、携帯のGPSを頼りに街をぶらついていた。

 

 と、前方から一人の男子が歩いてくる。

 その男子の顔を見て、私はハッとした。

 整った顔立ちだけど、いかにも優等生面した、冷酷そうな銀色のフレームの眼鏡をかけた男子……生徒会長……!!

 

 私のお腹に、今朝の腹立たしさが再び煮え立つ。

「ふん!」

 私はツンとしてすれ違う。

 

 しかし、生徒会長、瀬居木は、私には目もくれず……、というか私に気づかず歩み去る。


「な……、なによ!」

 私は思わず振り返り、

「べーっ!」

飄々と歩み去る瀬居木の背中に赤んべぇをくれてやる。


 と、私のすぐ脇を歩いていたクロネコのサブが「……」物言いたげに私を見上げているのに気づく。

「あによ!」

 私がサブを睨むと、サブは、ダミ声で、ふっと笑うように言った。

「やっぱり、お前を魔法少女にスカウトして正解だった……」

「?」

「あっかんべぇなんて……、いまや無形文化財として保護対象だぜ」

「うっさい!」

 私はサブを蹴ろうとし、ふぎゃっとサブが逃げる。 



「ここが、まず……、第一の地点ね……」

 古い民家の前にたどりつく私。

 GPSで指定された地点――メールでいうところの“非管理化の魔法力の波動”の発生地点がここらしい。


 と、サブが、

「おれっちは家の様子をみてくる。アイは、ここの景色を写メールで組織のメールアドレスに送るんだ」 

と言って、ひょい、と民家の敷地に入る。

「……」

 私は肩をすくめる。

 そして言われたとおり、パシャリと民家の様子を写真におさめ、“組織”こと“財団法人、魔法管理協会”とやらのメルアドに送った。



 私がメールを送っている間に、サブはネコであることを利用して民家の庭に侵入したらしい。 しばらくして戻ってきたサブが、私に話してくれた。


 サブが窓から室内を覗くと、お婆さんが一人ベッドの上に寝込んでいたらしい。

 そしてベッドの脇では、お爺さんが、

「なんとか生活が自立していたのに……。動けなくなるなんて……」

とつぶやいていたらしい。


 

 私はサブに言った。

「……? じゃぁ、次、行こうか?」




 次のGPSが指定した地点は、市営住宅だった。

 私は、さっきと同じように風景を写メールする。その間、サブは民家の様子を覗く。


 しばらくして、サブが戻ってきた。

 サブが言うには、民家の中では中年のおばさんがベッドに休んでいて、

「今まで、なんとか働けていたのに、これで完全に働けなくなちゃった……。ごめんね……」

と、小学生ぐらいの娘に言い、

「ううん……。病気が悪くなっちゃったのは……お母さんのせいじゃないよ……」

と健気にその娘が返していたらしい。




 あたりは暗くなり始めていた。

 私は歩きながら、

「……なんなの、かな?」 

とサブに聞く。

 サブは首をひねる。

「わからん……。でも、2か所に共通するのは……、家の住人が病気で……それが悪化したということ……」


 と、その時、「ん?」ポケットの中から携帯が、メールの着信音が響かせた。

 私は、携帯を開き、メールの内容を読み上げる。

「え……と。写メールを分析した結果、魔法の種類が判明……。“元気を奪う呪い”と推察!」

 語尾をうわずらせる私。

「なんだって!」

 サブも思わず叫ぶ。


 そして「くそ、“奴ら”め!」サブが続けた言葉に「“奴ら”ってなによ?」私は思わず聞く。

 サブは返した。

「詳しくはわからん。だが、われわれと同じ魔法使いの一派だ。その目的は不明だけど、とりあえず悪いやつらだってことには間違いない! 2.5Ch魔法界カテに、反“魔法管理協会”スレッドを乱立させたり、擁護派のスレッドを荒らしまくる極悪人だからなっ! この前も、うちの組織が天下り組織だってことを個人名入りでネットにさらしやがった!」

「なに? そんなやつら! 絶対に許せない!」

 私の素直な反応に、

「やっぱり、おめぇをスカウトして正解だったぜ」

にゃぁと顔をにたつかせるサブ。


 その時、再び、メールの着信音がなる。

 私は素早く携帯を操作する。

 そして携帯をみながら叫ぶ。

「新たな魔法力を探知、急行せよ、だって! 探知された魔法力は……、私の送った写真の分析から判断するに……今までの魔法力とは逆の波動の励起だって!」

 サブは、目を細めて私を見る。

「……逆の波動の励起……、ということは、奴ら、奪った元気を転送しようとしている!」

 私はメールの続きをみる。GPSの座標が指定されたURLがある。それを開く。

「これが、その地点、って。あ、こっからすぐじゃん!」

 私は、地図をサブに見せた。

「今ならまだ間に合うかも! 奴の尻尾をつかめる!」

 サブが言った時には、私はもう、駈け出していた。



 そこはとあるビルだった。

 私がそこの入口に駆けこむと、ついてきたサブが、髭と耳を動かしながらいう。

「アイ! 屋上だ!」

 サブは、近距離なら、魔法力を自身で探知できるらしい。

「わかった!」

 私はサブを従えて、階段をみつけ、屋上を目指す。




 そして、ビルの屋上。

「くぉらぁ、悪党!」

 私は、バンと屋上の階段を蹴り開け、屋上に飛び込んだ。

 あたりはすっかり暗くなっている。


 その屋上を見渡す……、と、一人の男が立っていた。



 その男の傍らでは青白い光が光っており、なんらかの会話が、その光から聞こえていた。 

「“自立が不可ってことで、要介護認定の点数があがったよ! よかった……、本当によかった! これで、今まで以上に、介護要請が認められるよ!”」 

「“病気になったことで、ようやく生活保護が受けられるよ! ○ク○には腰を低くして生活保護を適応するくせに、私たちみたいな本当に弱い人には、働けるだろ、働けよって悪魔みたいに冷たい役人に小突きまわされずにすむのね! 医療費もこれでなんとかなる!”」

 なんだかよくわからないが、何かを盗聴している様子だった。



「人から元気を奪って、ベッドに縛り付けておいて、あまつさえ、盗聴!? このカス!!」

 私は、腹立たしくなって怒鳴る。


 青白い光が消え、男が振り返る。

 男は、髪の毛を今風な感じで7:3にした、銀色のフレームのサングラスをかけて目元を隠した、黒いスーツに黒いネクタイの男だった。


 サブが言う。

「気をつけろ。あの格好、敵の“エージェント”だ」


 その映画マト○ックスや映画M○Bに出てくるような出で立ちの男が声をあげる。

「ほう。しゃべるクロネコをつれた少女……、“魔法管理協会”の“ウィッチ”か。相変わらず問答無用だな」


 私は、その男の雰囲気と声に、思わず、

「……あれ? どっかであったことがあるような……」

感じたことを言う。



 その言葉に、その“エージェント”は、

「ん? 君……、どこかで……」

私をまじまじと見ながらいう。

 辺りは暗くなっているうえ、その“エージェント”は、サングラスをかけているので、彼の方からは、私の姿がよく見えていない様子だった。



 と、サブが、私に向かって言う。

「わ、やばっ、お前、まだ素顔じゃん! 変身だ、変身するんだよ!」

 いきなり言われ、私は混乱する。

「え、へ、変身って?」

 サブは、あきれたような眼で私に吠える。

「さっき階段で教えたろ! その携帯のカメラで自分を撮るんだよ、その瞬間に、教えた呪文をとなえろ!」 


 私は、さっき、屋上への階段を駆け上がりながら、サブから、敵に遭遇した場合の対処を教えてもらっていたことを思い出す。



「よ、よーし!」

 私は、魔法少女らしいポーズを決めると同時に、眼前に携帯を構える。

 指を動かし、携帯を操作する。電子音とともに携帯がカメラモードに切り替わる。


 そしてシャッターを切ると同時に言った。

「コスチュームプレイ♪ ヒャウィゴー!!」



 そして……、

「……」「……」「……」

何の変化もない時間と空間で沈黙する、私と、クロネコと、エージェント。


 


 ひゅぅ、と、一陣の風が、静かに空気が凍った屋上に吹いた。




 ようやく、その居心地のわるい静寂を破るようにサブが言った。

「すまん、ちょい、携帯貸して」

「へ? あ、うん……」

 こっぱずかしさに死にそうな私は、言われるがままに携帯をサブに渡す。

 サブが器用に前脚で携帯を操作しながら言った。

「あ、わりぃ。バージョンが古いわ。…いま修正パッチダウンロードするからちと待ってな」


 サブはブチブチいながら携帯の操作をつづける。

「……ったく、最新OSってのはよぉ、そりゃ開発が大変で発売予定日に完成が間に合わないのはわかるよ、けど、そういう欠陥品を強制的に買わせるな、つうの」

 と、エージェントがすかさず突っ込んだ。

「おまえらの携帯のOSって……、ウィ○ドウズ?」

 携帯をいじくりながら、サブが返す。

「もしかして……、あんたもVISTA買わされた口?」

 エージェントは頭を振りながらいう。

「ああ。最新、最新、っていうけど、なにが最新なんだか。彼らは熟成という言葉をしらない」

 サブもため息まじりに言う。

「まったくだよ。まだXPの方がいい。つか、今度、また新しいOS、セブンってのがでるらしいぜ」(2009年3月の情報)


 二人の会話が、

「……?」

何のことかわからない私。そんな私に、サブが携帯を渡す。

「今度こそ、大丈夫だ」



 私は、ゴホンと咳払いする。

「よーし、つ、次は決める!」

 そして、携帯を構えようとした時、

「ちょっと待て!」

 エージェントが言った。

 

 その瞬間、彼は自身の黒のジャケットを脱ぎ、私に向かって投げつけた。

「!」

 私が驚く暇もなく、エージェントは指をならす。と、ジャケットが広がり、1枚の布へと変化し、私に襲いかかって来る。


 サブが、

「お、おい!」

と驚きと心配の声をあげる。


 と、その次の瞬間、エージェントのジャケットから変化したその布は、カーテンとなって、私の前に立ちはだかった。

 

 エージェントが言う。

「たぶん変身シーンは児童ポルノ法に違反する。変身するなら、その中で変身しろ」

 そうカーテン越しに言われ、私は、

「あ、ありがとう……」

と、思わず顔を赤らめながら言った。

 そして、私はカーテンの中でポーズをかまえ、叫ぶ。

「コスチュームプレイ♪ ヒャウィーゴー!!」


 その掛け声とともに、私の服が吹っ飛ぶ。光の中、ワタシは言いようのない恍惚感に、思わず声をあげ、目を閉じる。

「あ……、はぁ……、あぁん……」

 光がリボンとなって、私の★★をなめるように★★★し、熱い★★が★★★、★★★に這うように★★★、★★★★………



 一方、カーテンの向こう側では、締め出されていたサブ(と視聴者)が、私の喘ぎ声をカーテン越しに聞きながら、エージェントに吠えていた。

「こ、この極悪人め! 魔法少女モノの唯一の見せ場である変身シーンを覆い隠すとは……!」

 エージェントの紳士的な声が響く。

「どーせ、その変身シーン、使い回しの尺稼ぎだろ。楽しみにするほどのものか? それにそのシーンを見逃しても心配するな。動画サイトにアップされているはずだ。それをみてハァハァいってろ」

 サブが狂ったように言う。

「ネットにアップしても、どうせ削除されちまうんだよ! つか、そもそも変身シーンを見せない魔法少女モノが成立すると思ってんのか!」



 そしてカーテンが落ちる。

 サブと、エージェントが、私を凝視している。


 私は、ツインテールの髪型はそのままに、目が紫色になっていた。その紫の瞳のなかの瞳孔はネコのように、縦長になっている。そして、口には小さな牙が生えていた。

 これで素顔を隠したことになるのか? とつっこんだら負けなので、その疑問は放置することにする。


 私の体を包むのは、ゴスロリの衣装。腰からが、小さなコウモリの羽にも似たリボンが揺れている。

 この衣装って、何らかの戦闘における優位性コンバットアドバンテージがあるの? とつっこんだら負けなので、その疑問もあえて放置することにする。


 そして私は、おパンツが見えないのが不思議なぐらい短いスカートをなびかせ、

「モエ要素♪ 詰め込めるだけ詰め込めば♪ まずあたるだろという昨今の♪ アニメを憂う♪ つるぺた黒魔法少女ゴスロリーヌ、ここに見参!!」

ポーズを決めながら言った。


「おまいら、ぐだぐた言わず、わたしに萌えてろぉおーっ! ★″(きらっ)」



 その間、変身の様子を遮っていたカーテンは、すぅと地面を這うようにエージェントの手へと戻る。地面を這う間、カーテンはジャケットへと姿を戻し、エージェントの手に収まる。

 エージェントはそのジャケットを着こみながら言った。

「相変わらず、君たちんとこのコスチュームは痛いな」

 そう呟く彼に、サブが吠える。

「“痛い”言うな! この魔法装束は夢で出来ているんだよ! オレ達の夢でな!」



 エージェントはため息をついて、私を見つめる。

「さて、ウィッチくん。私は集めた元気を、とあるところに送らなければならない」

「どこによ」

 私は不敵に笑いながら問う。

 普通の女子高生から、黒魔法少女ゴスロリーヌと変身をとげた私は、いまだ知れぬ敵を相手にしても、不思議と恐れを感じなかった。


 エージェントは、冷静に言う。

「私が元気を奪った者達は、必ずしも元気があったほうが幸せとは限らない人たちだ」

 その言葉に、私は感情にまかせて叫ぶ。

「なに言っているの、元気はあるに越した方がいいにきまっているでしょ!」

 一方、いらいらするほど、あくまでも冷淡なエージェント。

「そうか? 不幸せになる元気だってある。そんな元気を、もっと元気を必要としている人たちに、たとえば病気の子供たちに送るのが、魔法使いの役目だとは思わないか?」

 何言ってんの、こいつ!

「そんな元気…もらって子供たちが喜ぶとおもっているの!? ふざけんじゃないわよ!! この悪!!」

「悪……、曖昧な基準を持ち出すか……。話すだけ無駄……か」

 エージェントがつぶやく。

 

 

 私は、エージェントを睨みながらもサブに話しかける。

「で、どうやって戦うの?」

 サブが言う。

「まずは妖魔を召喚だ! 携帯から呼び出せる。その妖魔を使って……」

 “妖魔”……その言葉に、「ん……?」私は、少しだけ引っかかって尋ねる。

「それって、魔法少女ものでは、悪の組織が使う手法じゃない?」


 サブは、頭をひねる。

「そう? ポケ○ン的なものだと思えよ」

「あ、そ」

 私は納得する。



「じゃぁ、いくわよ!」

 私は携帯のカメラフォルダを開く。そこに保存されている写真のなかから、直感的に選んだ写真を展開した。

「サモン! ドーリー!!」

 そして携帯を構えて叫ぶ。


 次の瞬間、

「ゲンキダッカーン!!!」とわかりやすい咆哮とともに、白いヌメッとした巨体で歯をむき出しにした怪物が現れた。

 前方に突き出るような頭は口と歯だけ、わかりやすく言うと、量産型E○AをSD化したような怪物だった。


 私は、その妖魔「ゲンキダッカーン」に命令する。

「ゲンキダッカーン!! やっておしまい!!」


「ゲンキダッカーン!!」吠えるゲンキダッカーン。

 次の瞬間、ゲンキダッカーンの口が開き、光線が照射される。その光線が、エージェントをかすめる。


「くっ、集めた元気が!!」

 そう叫ぶエージェントの体から、緑色の粒子が飛び散り、空へと舞う。そして、導かれるようにどこかに還っていく。



「いけぇ! ゲンキダッカーン……」私は高らかに笑いながら言う。

 ……と同時に、ハッとしてサブに訊いた。

「……ねぇ、私って、本当に魔法少女でいうところの正義役よね?」

 サブは、ネコ特有の目をそらす仕草をしながら言う。

「ん? 正義ってのは、思いこむもんだよ。自分が正義と信じるんだ!」





 一方、エージェントは、元の持ち主へと帰って行く緑の光――“元気”を見ながら、

「きさまら……、なんてことを!」

ちっと舌打ちをしながら叫ぶ。

 と、次の瞬間。

 エージェントは、宙返りを放つ。そして、

「せやぁああああああああああああ!!」

咆哮とともに、踵落としをゲンキダッカーンの頭に放つ。


「ゲ、ゲンキダッカーン!!!」

叫ぶゲンキダッカーンの頭に、エージェントは、

「おおおおおおおおおおおお!!」

踵をめり込ませ、そして、着地する。



 ゲンキダッカーンの頭から股へと、その体を二分するように光が走り、そして、

「ゲンキダッカーン!!!」

お約束の咆哮とともに、まっぷたつに裂けるゲンキダッカーン。

 そして、ゲンキダッカーンは爆音とともに光へと還元された。




「あ……」

 その様子を見守っていた私は、光の中、立ち上がるエージェントの勇姿に一瞬たじろぐ。

 でも、

「ま、負けない!! この世界の正義を守るために!!」

と力強く吠えて、勇気を振り絞る。


 そして、

「こうなったっら、最近の魔法少女的に、肉弾戦だぁ!!」

と叫ぶサブ。


「よぉし!!」

 私は、短いスカートを靡かせて、

「おおおおおおおおりゃぁああああああ!!!!!」

エージェントに向かって駆けだした。、

 そして、

「うりゃぁあああああああああああああ!!!!!」

渾身の力をこめて拳を突き出す。



 だが、「ふん!」と、その拳をエージェントは掌で受ける。

 バンと大きな衝撃音がして、殴りつけた私と、その拳をうけとめたエージェントは、その姿勢のまま、地面をすべる。

 だが、エージェントは無表情だった。

「!!」

 一方、私は渾身の突きが塞がれたのを自覚し、

「えぇええい!!」

脚を思いきり振りながら、エージェントの頭を蹴り飛ばそうとした。


 短いスカートが翻り、わたしの足が、エージェントの頭にめりこもうとする、その直前。

 その足は、衝撃音とともに、エージェントの頭ではなく、エージェントのあいた腕の掌で受け止められていた。 


 ついで「……」エージェントは涼しい顔で、私の足をいなす。


「っ!?」

 私は、すかさず後ろに飛んで、間合いをとる。


 私は、牙をむき出しにしてエージェントをにらむ。

 対するエージェントは、まったくの無表情だった。


 彼から感じたのは、違和感だった。

 なに、この違和感……?

 私は、彼を見つめ、違和感の正体に気づく。

 彼の姿からは、不可解なことに、まったくの戦意を感じないのだ。


 私は問う。

「なぜ、闘わないの?」



 エージェントは、無表情で、咳ばらいすると言う。

「まず、そのパンチラ寸前の、明らかに読者サービス的な戦い方は、不潔だ!」

「……」

 沈黙する私に代わって、サブがドラ声で吠える。

「貴様!! パンチラがないバトルが女の戦いといえるか!!」

 

 サブは続ける。

「それに、スカートの中はパンツじゃない! 縞模様の“見せパン”だ。だから、恥ずかしくないもん! な、ゴスロリーヌ……ぎゃぶぅ」

 そして、じーっといやらしい目で私のスカートの中を覗きあげているサブを、私はふみつけていた。

「あんたねぇ……!!」



 と、エージェントは踵を返し、背中を見せる。そして肩越しに言った。

「それに、敵とはいえ、女を痛めつける趣味はない……さらばだ!」

 そして彼は、ビルの屋上から飛び出し、夜の闇へと消えた。



 私の足の下で、サブが吠える。

「あ、ちょっとまて!!」

 一方、私は、

「……素敵……」

ぽーっと立ちつくして、彼が消えた闇をいつまでも眺めていた。サブを踏みつけたまま……。




 次の日の朝。


 また私は走っていた。

「遅刻!! 遅刻!!」、

  

 横断歩道を駆けながら、腕の袖をめくって、腕時計で時間を確認する。


…時間は……8時29ふ…… 

 

 ずてぇん

 

 気づいたとき、私は落ちていた空き缶に足をすべらせ、頭からずっこけていた。


 そして、


 りーん、ごーん!


「……」無言で伏せている私の頭上に、無情なチャイムの音が響く。



 その時だった。

「また君か……」

との冷徹な声が響き、私は顔を上げる。


 顔をあげた私。その私の視界に、銀色のフレームの眼鏡を直しながら私を覗きこむ、今風な感じに7:3に髪を分けた、整った顔立ちの男子が飛び込んできた。


……女の子が倒れているのに、また君か……は、ないわよ! 優しく手を差し伸べるのが紳士でしょ! と私が思った瞬間。


「ほら……」

と、冷血生徒会長、瀬居木が私に手を差し伸べてくる!?



「へ?」私は、不覚にも顔を真っ赤にしてしまった。

 

 そして私は、その差し出された手を拒否するように、勢いよく自分で立ち上がった。

 ついでに、

「また、あんた?」

と憎まれ口を浴びせてやった。


 

 ため息とともに、手をおさめる彼と、つんとしながら突っ立つ私。


「……」「……」

 私たちは沈黙に飲まれる。


 その時、一瞬、私達の間に、柔らかい風が吹いた。



 私は彼の顔をみる。

 彼も私の顔を、無表情ながら真っ直ぐに見ている。


 そして私は耐えられなくなって、吠えた。

「なにみてんのよ!」


 彼は無表情に言う。

「いや……」

 そして、

「別に」

ぶっきらぼうな返事とともに、さっそうと踵を返す。



 その飄々とした態度に、ますますイラっときた私は、

「この冷血漢!!」

次の瞬間には、彼の背中に向かって飛びヒザ蹴りを放っていた。


「うわっ!」不意をつかれ、前のめりになる彼。


 そして「何をする」と、あくまで感情を見せずに振り返る彼。

 その冷たい彼の顔に向って、私は「べぇええええええ!」と、特大のあっかんべぇをくれてやった。


 その時、

「おい、皆野。女の子がはしたないぞ!」

と連葦先生が声をかけてきた。

 私は一瞬、げっ! とし、すぐに笑顔を取り繕って「やだ、先生!」と先生に振り向く。


 先生の「んむ。元気がいいのはいいが、元気がよすぎるのは考えものだぞ」との甘い笑顔から放たれる言葉に、うっとりする私。

 と、横目でふと見ると、生徒会長が「……」じーっと私を見ているのに気づく。


「……」その視線に気づいた私は、何故か、意地悪? したいような気持ちに襲われる。


 なぜ意地悪したいのか、何をしたら意地悪になるのか、ぜんぜんわからなかった。

 

 ただ、気がついた時には「きゃぁん、先生ったらぁん!!」連葦先生の体に甘えるように寄り添った。生徒会長に見せつけるように。



 その時、生徒会長の眉がぴくりと動く。

「ふ、不潔だっ!」

 そう感情的な声で吐き捨てる様にいうと、生徒会長は校舎へと歩み去っていった。


「……」

 その生徒会長の後ろ姿を、ぼーっと見送る私。


 暖かい日差しが、清々しい朝の空気を貫いて、私の頬に降り注ぐ。

 

 そして、

「おい、皆野、おまえ、今日も遅刻だな。もうアウトだかんな」

との連葦先生の声に、私はハッとしたのだった。


「……瀬居木先輩、遅刻アウトの宣告……、私にしてない……」



 その時、私は自分でも気がつかないまま、いつのまにか笑顔になっていた。






             続…かない






ぷろでゅーさー:「続かないんですか!?」

すぽんさー  :「この内容じゃ、資金が回収できない。小さい子どもは、話に置いてけぼりにされるだろうから、グッズが売れないだろ」

ぷろでゅーさー:「大丈夫ですよ。修正して露出を高めたバージョンのDVDによるコアな大人のファン狙いで行きますから」

すぽんさー  :「あのなぁ、もう、そういうエロモエアニメは巷に氾濫しすぎちまってんだよ」

ぷろでゅーさー:「大丈夫ですって! EDでキャラを歌にあわせて踊らせます。これ、ガチっすから。これで大きなお友達をハァハァさせて……」

すぽんさー  :「いや、それ、もう、古いから。ありふれているから」

ぷろでゅーさー:「それでも大丈夫です。なぜなら、狙いすぎだろ、とわかっていてもついDVD買ってしまうのが真のオタク道ですから」

すぽんさー  :「昔はな。だが、このご時世、DVDが売れねぇんだよ。みんな動画サイトのファンサブやらなんかで違法視聴しやがるんだから……」




 人は、大空を飛ぶことにあこがれ、科学を駆使して飛行機をつくった。

 やがて、科学の発展は、無人機を生み出した。

 そして、人は、科学によって、大空を追われた。


 アニメファンは、感動を皆で共有できることにあこがれ、インターネットを活用した。

 やがて、録画したアニメを違法にアップするという直接的な手法を生み出した。

 そして……、てなことにならないよう祈る。






 日本中からキモッといわれようが、世界中からHENTAIと言われようが、モエとエロというのは、人間の根柢の感情を素直に表現する、高度な文化形態だ。


 その文化の担い手であるアニメ。

 マンガと合わせて、美の要素と人間の素直な感情を二次元世界に大胆にデフォルメしつつ凝縮する、浮世絵文化から連なる立派な文化だ。(ちなみに……浮世絵の最高峰は春画であるが、内容が内容だけに表だって評価されることはない)



 だが……、


 日本国内でのアニメーターの低賃金労働。

 アニメ文化が国策化される危機。

 制作作業のコストカットで、海外に作業を移転したあげくの技術流出。某国に関しては「これは私達の誇るべき文化です、世界のみなさん、“マンガ”ではありません、“マンファ”と呼んでください」とのたまいかねない前科(パクルのはいいとして、乗っかるのもいいとして、だな、“日本由来の文化ではありません、3000年の文明を誇る我が国が起源の、我が国独自の誇るべき文化です、日本人がマネしただけです”、と言いだしたあげく、世界中に国をあげて、刀に剣道、侍と忍者、桜、茶道、寿司に刺身に醤油、みーんな我が国が発祥、と大々的に発信しているのが腹立たしい)がありまくり。(あー、あかんあかん。これじゃ、俺、レイシストじゃん! ちなみに私自身は嫌韓右翼のつもりはないんだけど…、近隣諸国との友好を望む典型的な穏和な日本人だとおもってんだけど……が、そんな私でさえ、時折、…なんかもう、んな国とは仲良くできないんじゃないか、とすら思ってしまう。もうあきらめて、今以上に、台湾や東南アジアの方々との交流のほうを大切にしたほうがいいんじゃないか? とすら思ってしまうのが怖い)……、あ、脱線した。

 

 一方、目の肥えすぎたアニメファンを納得させるべく、奇抜な設定、内容で息切れしながらも突っ走りつづけなければならない日本アニメ界の現状


 ……など、素直にアニメを楽しめない。


 そして、最近はDVDの売り上げが(海外で、だけど)落ちているらしい。

 ただ、ファンそのものは増えているらしいので、原因は、違法にアップされるファンサブ動画ではないか、と言われている。


 作者自ら反省と責念をこめて、本作品を書きました。



 でも、でもさぁ! DVD発売されても、それまで待つ忍耐と、それを買う金がないんだよぉおお!! 


 あ、ちなみに、言い訳がましいかもしれませんが、作者の嗜好として、魔法少女とかハーレムとかはありませんので、あしからず。

 SFアニメ好きなので……、ん? でもマクロス(7以外)に手を出した時点でアウトなのか? エヴァや攻殻に手を出したのは、ある意味、セーフのようなアウトのような……。ゼーガは……マニアックすぎ? 


 そういえばTrue Tears、号泣したあげく、DVD買っちゃったな……。新海作品は……これはセーフか?


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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。 最後まで拝読いたしましたので、感想を少しばかり。 まず始めに。 読者サービスなのに何も見えないなんて……。 文字媒体の悲しい性というやつでしょうか。湯気や光の規制とどっちが残…
2009/03/10 01:07 退会済み
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