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ザイン(2)

漆黒は彼の色。漆黒は彼女の色。
纏う雷さえ、吐き出す大気さえ、全ては闇の色。
空中で何度もそれを回転させ、片手で構えた響は鮮やかな金髪から覗く真紅の瞳を見開いた。
手に馴染む感触。フランベルジュ・・・いや、それ以上の力を感じる。
ぎゅうっと握り締めて指先から伝わる様々な思いに胸を熱くする。

「この土壇場に来て理論武装を覚醒させたっていうのか・・・・君は」

最も驚いていたのはルルイエだった。いや、しかし、ならば彼はそれを認めるべきだった。
目の前にいる少年の成り果てた姿、そうなること、そうなるかもしれないということを彼は理解していたはずだ。
そう、結城刹那という少年が持つ能力レスポンスは秋風響に匹敵する事をとっくに見抜いていたのだから。
ここに来て、この土壇場、傷だらけになり血を流し満身創痍だというのにこの逆転。
天に愛されているとしか思えぬ出来事。その力がどれほどのものかなど口にするまでもない。
それはその場にいる誰もが感じていた。これならばルルイエすら殺しきれるほどの理論ぶきだと。
静かに揺れる秋風響の瞳から薄っすらと涙が零れ、それから笑顔を浮かべた。

「うん・・・・・私はやっぱり、一人ぼっちなんかじゃなかった」

エンジンが駆動する。エレキトリック・ギターのようでそれは紛れも無く武器だった。
内蔵した発電装置が唸りを上げて暴れ周り、とにかく叫びたいと訴えていた。

「みんなありがとう・・・・後は頑張るから、頑張ってあいつ、やっつけるから」

誰もが息を呑んだ。そして彼女の後ろに下がっていった。
近づいてくる無数の吟示の影を漆黒の雷で焼き払い、その残骸越しにルルイエを見据えた。
その真っ直ぐな力の篭った瞳を少年は直視できない。
そう、彼の長い人生の中で酷く久しぶりに彼は感じていた。

恐怖と言う感情と、喜びという感情を。

だから頬を歪ませて狂ったように哂う。
手にしたお互いの漆黒が激突した瞬間、第二ラウンドの幕が上がった。



⇒ザイン(2)



「そうだ・・・・!それこそが・・・!僕がずっと見たかったものだよッ!!!!」

「だったら聞いて行きなさいッ!!」

叩きつける存在ザイン。宙に吹き飛ばされたルルイエは誘うように無抵抗のまま塔から落ちていく。

「落ちた・・・・!?」

「ジャスティス!兄さんっ!!」

背後からの声に一度だけ振り返り笑顔を浮かべた。
少女は塔の頂上から何の迷いも躊躇もなく飛び降りた。
地上までどれだけの猶予があるというのか。今やこの町のどんな高層ビルよりも高く聳え立つ塔の上から地上までの長すぎる、しかし僅かな距離。

「そう、そうだ!戦いとは素晴らしい!人間とは素晴らしい!全てが君のようで君であればどれだけか!」

「あなたは何の為に、何がしたくて闘って居るの!?」

下方から飛んでくる無数の漆黒の矢。ルルイエの持つ剣は剣であり続ける必要性を持たない無形の存在。
撓らせる事などたいしたことではない。それを様々な形状に変化させ攻撃することが本来の特性。
荒れ狂う風と共に近づく殺意をギターで弾き、時に足蹴にして少女は近づいていく。

「僕はね響・・・・僕が見た夢の終わりを見たいだけなんだ」

「夢・・・・?」

時を忘れるような時。
打ち合う二人の攻防は余りにも早く、しかしそのやり取りは酷くゆっくりに感じられた。
その身を刻み、討ちつけ、焦がし、それでも尚闘いは止まらない。
なぜなら闘うことでしか理解しあうことが出来ないから。二人にとって他の関わり方なんてありえない。
なぜなら二人は敵同士だから。どんな理由があるかなんて関係ない、過去なんて知らない関係だから。
なぜならそうして生きてきた結論が今この瞬間だから。それまでの出来事に恥じない為に。

ここまできて目的を違える存在が理解しあうには、もはや闘いしかないのだ。

そうして同じ時間を、瞬間を、生死のやり取りを、ただ繰り返し、ただ行うことで少しずつ感じられる。
二人とも願っていることはそれほど差異があることではなく、ほんの少しのすれ違いで敵になっているのだと。
それすら、それすらもが関係のない。お互いが自分の過去を否定できないのならば、往くしかない。

「そう、夢だよ・・・・・この世界は夢のようだ。人とは夢のようなものだ。僕にとっても、君にとっても・・・ね!」

蹴り飛ばされる。その衝撃はただの蹴りなどではない、ありったけの力を込めた理論攻撃。
きりもみ状に回転しながら高層ビルの窓をぶち破りオフィスに突っ込んでいく響。

「全ては夢のようだ!僕にとってこの世界はすべて幻!!僕が願った・・・僕が望んだ夢だから!!」

空中で静止する。少年にとって重力も、大地も大気も関係がない。
ただそこに在りたいと願えばそこに少年は在るものだから。

「君は終わらせる事が出来るのか!?夢を!見続けている夢を!!消し去れるとでも言うのか!!」

無数の矢がビルを襲う。瓦礫の山から起き上がった響が矢を弾き飛ばしながら立ち上がる。
周囲に人の姿はない。だが響の目には見えていた。確かにここには人が居ることが。
既にこの街全体が巨大な心理領域に覆われている。この世界に居るのは、この世界を認知できるのは、ごく一部の限られた人間だけだ。
影響を受けるのがそれだけだということが何よりもありがたかった。本来の世界を見ることが出来る右目がこの場所の人々に影響が無い事を教えている。
だから駆け出した。ならばもう関係ない。町も他人も何もかも関係ない。
矢も剣も関係ない。願えばそこは自由の世界、夢の中なのだから。

「伊織ちゃん・・・一緒に行こう!」

割れた窓から飛び出した。
次の瞬間展開された自由ノ空ロマンス・フライが響の身体を上へ上へと舞い上がらせる。
自由の名を持つその理論武装は六枚の鉄板型の独立ユニットで構成されている。そしてそれは組み合わせで様々な効果を発揮する文字通り自由な武器。
背中に展開された二対のそれは翼のように輝き、響の身体に浮力を齎す。
エンジンが唸りを上げ、翼が火を噴き加速する。
引き絞られた矢のように真っ直ぐにただ真っ直ぐにルルイエに向かって行く。

「僕はずっと信じていた・・・・君や、君のような人々がこの世界を変えてくれると・・・・だが何も変わりはしなかった」

再びぶつかり合う。溢れる衝撃はビルを倒壊させ嵐のように風を巻き起こし全てを吹き飛ばしていく。
薙ぎ払われ消えていく町の上、二対の漆黒は何度も空中を交差し、何度もぶつかり合い、火花を散らす。
上下左右など関係ない奇妙な浮遊感に包まれながら落ちているのか飛んでいるのかも判らず得物を振るう。

「何も変わりはしなかったんだよ秋風響!だから僕は自らの力でこの世界を変える・・・僕だけの力でっ!!!」

激しい二人の戦いを塔の上に立つ誰もが見守っていた。
誰も追いつけない速度で、場所で、突き進む二つの影を見ていることしか出来ない。
見守る人々の中には彼女の姉である秋風渚の姿もあった。
何も感じない、何も理解出来ないはずの少女は虚ろな瞳のまま静かに涙を零していた。
その事実に村雲は驚きを隠せない。

「こいつ・・・・・からっぽの癖に・・・・判るとでもいうのか・・・?」

静かにその唇がある一定のリズムで微かに、しかしはっきりと動き始める。

「・・・・き・・・・・・・」

宙を舞い、痛みに耐えながら必死でがんばる妹に。

「ひ・・・・び・・・・き・・・・・」

長い間探してくれていたことを心は知っている。
凍えそうな寂しい夜も身を寄せ合って耐えてきた。
心の記憶フランベルジュが知っている、彼女がどれだけ今まで努力し苦しんできたか。
その背中を、自分はいままでずっと黙って見ていることしか出来なかった。
向き合う事が恐ろしかった。今でも恐ろしい。けれど心でも身体でもなく魂が反応する瞬間がある。

「ひびき・・・・」

涙を流しながら呟いた。

「がん・・・ばれ・・・・」

この世界に存在する数少ない所有者セイヴァーの中でも間違いなく指折りの力を持つ二人の戦いは続いていた。
もう倒れてもいいと、もう諦めてもいいのだと誰もが胸の中で思った。
血を流す事も武器を振り上げる事も痛みに耐えることももうしなくてもいいから。
それでもそうできないのは二人が二人とも胸の中に抱く信念を折る事が出来ないから。
許すことも、許される事も出来ないから。



そうだ。

わざわざ闘ったりしなくたって本当は分かり合える方法なんていくらでもあるはずなのに。

心のどこかでそんなことしなくてもいいと思っているのに。

ひびきはそんなことわかっているはずなのに。

理論武装は、この力は、本当はこんな風に使うためのものなんかじゃないのに。

すれ違ってすれ違ってそうして生きてきた。人はお互い上手くはやっていけないものだから。

傷つけあって間違ってそれでも生きている限り努力することだけはやめない。諦めることだけはしない。



「だからもう・・・・こんなことは終わりにしなくちゃいけないから・・・っ!」

だれも。

「泣いたりしてるの・・・見たくないから・・・・っ!!!」

だれも。

「失ったり、したくないから・・・・っっ!!!!」

もう二度と。

「泣いたりしたくないからあ・・・・っ」

もう二度と。

「後悔したりしたくないからあああああ・・・・っ」

今度こそ。

「今度こそ・・・・」

決めたんだ。

「自分の足で、進むんだあああああああーーーーーーっ!!!」

その身を何度砕かれただろう。
少年の身は限りなく不死に近く、痛みも何も感じないはずの身体だった。
ただ身体を打ち付けるのは痛みでも怪我でもなく、悲痛なまでの想いと叫び。

そのギターは、いつだって誰かに想いを伝えるためにあった。

上空からコンクリの大地へとまっしぐらに堕ちて行く。
血を吐き出しながら少年は最後の力で剣を振ろうとして・・・やめた。
決着は意外なほどあっさりとついた。少年は大地を陥没させ少女は頭上で翼を広げていた。
ゆっくりと舞い降りて膝を突くと少年は笑いながら言った。

「君に興味が湧いたよ」

「・・・・・・・・・・」

「もう少しだけ・・・・君の活躍が見てみたくなった」

気を失ったルルイエ。それと同時に響はザインを解除してふらりと倒れそうになる。
その身体を支え、刹那は深くため息をついた。

「大丈夫か?」

「うん・・・・・・・なれない理論武装って使うの結構疲れるんだよね・・・実は」

痺れる腕を押さえながら照れくさそうに微笑んだ。
その髪を撫でながら身体を支えゆっくりと寝かせると刹那は上を、塔の上に立つ男を見上げた。
佐伯村雲はその視線を不快そうに遮ると振り返り銃口を渚に突きつけた。

「なっ!?」

一同が武器を構えなおす瞬間には既に村雲は渚を盾にするように後ろに組み付いていた。

「てめぇ・・・・村雲ォ!!正々堂々勝負して負けたじゃねえかよっ!!!」

「正々堂々?誰がそんな事をすると口にした」

湧き出してくる吟示たちが村雲を覆うように展開していく。

「こちら最強のカードはそちら最強のカードと相討ち、今は塔の下だ。何も状況は先ほどと変わってはいない」

それは全くその通りなのだが、心に訴えかけてくるようなあの戦いを見て何も感じなかったとでもいうのか。
少年たちは怒りを胸に再び武装し前に出る。

「だったらこっちが有利であるという状況も毛ほども変わってねぇぞ」

万里の言うとおり、いくら量産型の吟示を並べたところでナンバーズに匹敵する実力の持ち主がこう何人も居ては太刀打ちできないだろう。
怪我をしている空也はともかく無傷の綺羅一人居ればこの状況を打破するのに十分すぎる戦力だ。
そんな事は勿論村雲は百も承知。ポケットからスイッチのようなものを取り出し、ボタンを押した。
次の瞬間塔の下部が爆発を初め、凄まじい揺れがポートアイランド全体を襲った。
立っていることもままならないほどの揺れの中、村雲は自ら渚ごと塔を飛び降りていく。

「待てっ!!!村雲ぉおおおおーーーっ!!」

空也が手を伸ばすがそれは当然届かない。使い捨てられた吟示たちに阻まれ歯を食いしばり立ち止まった。

「先輩!塔が崩れます!」

「くそ・・・・っ!」

吟示を掻き分け進み下を見下ろすとビルから飛び移ってきたエイトが村雲と渚を抱え跳んで行く。

「エイト!!待てよ、おいっ!!!」

「空也、ここから出るぞ!塔どころか街全体が海に沈む!」

「でも、おっさん・・・・・!」

「気持ちはわかるがここは引け!ここで死んだら奴らの思い通りだろうが!」

爆発は連鎖するように町の地下全体を吹き飛ばし、ポートアイランドは穴に落ちるように海へと沈み崩れていく。
高層ビルの間からそれを感じていた刹那は身動きの取れない響を背負い立ち上がる。

「町から出るぞ響・・・・しっかりしろ」

「うん・・・・・でも、歩いて出られないよ?」

「それでも行くぞ。真冬の海じゃ沈んだら死ぬぞ」

序にと倒れていたルルイエも担ぎ上げ、胴体を蹴飛ばし強引にたたき起こす。

「肩貸してやるからついてこい」

「・・・・・・・刹那・・・・僕も助けるって言うのか」

「それがオレのやり方だ。精一杯ケンカしたら仲直りすんのが華ってもんだろ?最後までやりきらないうちに死ぬんじゃねえ」

二人とも小柄とは言え人間二人を担いで歩くのは厳しい労働だった。
次々に倒壊していく町並み。ぐらつく覚束ない足元に何度も足をすくわれそうになる。
それでも刹那は諦める気など毛頭なかった。当然だ。こんなところで死ぬ気なんてさらさらない。
その背中から腕を回し、響は強くしがみついた。命の危険にさらされている今だからこそ、少年を信じられる。

「ごめんね・・・・刹那君」

「おう、任せとけ」

「君たちは・・・・それでも僕を助けるのか」

終わり行く景色の中、刹那は黙って歩き続けた。
だから代わりに響が答える。虚ろな意識の中、微笑を浮かべながら。

「あなたにもあなたの苦しみがあって、あなたにもあなたの理論があるから・・・それを否定することはきっと誰にも出来ないし、出来るわけがない。そして死んだり、死ぬことで終わったりすることも許されていないんだよ・・・私も、あなたもね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうかもしれないな」



塔が崩れていく。
町に住む多くの人々を巻き込み、多くの命や想いを消し去って。

町が沈んでいく。
思い出の溢れる学校も、必死で生きた組織も、何もかもを海水が飲み込んでいく。
町の全てが消え去って、生きる誰もが生きることに必死で逃げ回る。
誰もが見上げていた。崩れていく天の塔を。

刹那も、響も、ルルイエも。
空也も綺羅もるるるも万里も。
そして、村雲さえも。

やがて全てが終わり、消え去り、沈んだとしたら・・・・この出来事を語り継ぐ人間は居なくなるのかもしれない。
諦めはなかった。それでもここで沈んだとしても後悔もなかった。
刹那は少女のために、少女は少女のために、全力で戦えたから。
それは三年前のあの日のように誰かを責めるのでもなく誰かに押し付けるのでもない、自分の力。
指先から零れ落ちる血の雫。冷え切ったそれが白いコンクリを点々と染めていく。

「ねぇ・・・・・刹那君」

「ん?」

「刹那君て・・・・けっこう、かっこいいね」

「ふん・・・・かもな」

お互いに笑い合う。絶望的な状況でも、悲観したりしない。
泣いたって何も変わらないから、少女は少年を信じて少年は少年を信じる。
誰かに身体を預けること。誰かをその背に感じること。
愉快なまでに単純な事実が心地よい。
今度こそ、今度こそ・・・・後悔しないだけやれた。その結果がどうであれもう迷いはない。
もしもこの後も自分が生き残れるのであれば・・・・そう、胸を張って生きていける気がするから。

「私・・・かっこよかったかな?」

「ああ、よくやったよお前は。ほんとよくやった」

「そうかな・・・えへへ、ありがとね」

「ああ」

歩き続ける。どれほど歩けばこの町を出られるだろう。
そもそも物理的に大地が続かないこの街から抜け出せるはずもない。
港は逃げ惑う人々でごった返していた。だから始めてこの場所に来たあの日のように海を眺める。
フェンスに寄りかかるように二人を下ろすと刹那も方膝を着いて海を見つめた。

「お前に会ってからろくなことがないな・・・」

「かもね。でもそれはもう運命だから仕方ないよ」

「そうか・・・そうかもな・・・・確かに、悪いことばかりでもなかった」

握手するように二人は手を握り締め、それから指を絡めて強く握り合った。

「絶対に生きて帰らなきゃな」

「うん・・・・・みんなもきっと、上手く逃げてるだろうから」

霞む視界を覆うように眼帯を左目に着けて響はゆっくりと呼吸する。
視界は涙と限界を超えた疲労に霞んでいた。全ての景色が滲んで見える。
その景色の中、一人の少女が駆けて来るのが見えた。
それは懐かしい、そう、もう二度と会えない・・・居なくなってしまった少女。
緩くウェイヴした髪をかき上げながらそっと、どこかを指差した。

「いお・・り・・・・ちゃん?」

頷き微笑む少女の姿はいつの間にか見えなくなっていた。
代わりにそこに立っていたのは長い間、長い長い間、見ていなかった顔だった。
少女は慌てた様子で駆け寄り、倒れたままの響に飛びつきその名前を呼んだ。

「響っ!!あんた・・・・・まぁたこんなボロッボロになって・・・・あんたはボロボロ星人かっ!!」

「ボロボロ星人・・・・ってなに・・・・・伊佐美ちゃん?」

思いっきりぎゅうっと身体を抱きしめられ苦しい響をよそに伊佐美は何度も何度もその身体を抱き寄せ名前を呼んだ。

「響・・・・響響、ホンモノだよね・・・生きてるよね・・・・?あぁもう・・・っとに、バカなんだから・・・」

「伊佐美ちゃん・・・・伊佐美ちゃん!?伊佐美ちゃん、なんでこんなところに!?」

「気づくのが遅いわ!」

「へぶう!」

傷だらけの身体に追い討ちするように放たれたビンタ。涙目になりながらほっぺたを押さえて顔を上げると懐かしいあの頃と変わらない親友の笑顔がそこにはあった。
驚きの余り口をぱくぱくさせながら何度も何度も目を擦り、それからぼろぼろと涙を零して飛びつた。

「わあ〜〜〜〜ん!伊佐美ちゃーーーん!!」

「おぉう・・・よしよし泣くな・・・?」

「会いたかったよお〜う・・・会いたかったよお〜〜〜ぅ!」

「はいはいはいはい・・・・・そんなことよりこの街から出るわよ」

「うん・・・・でもどうやって?」

「アレで」

上空を指差す。その先に見えるものに全員が目を疑った。
空を舞う巨大な翼。鳥ではなく、飛行機でもない。
雄雄しく翼を広げたそれは恐ろしい形相と鋭い瞳で一同を見下ろし、暴風と共に舞い降りた。

「・・・・・どらごん?」

ドラゴンだった。
真紅の鱗をひしめかせながら鋭利な牙を剥き、しかし襲い掛かることなくそこで行儀良く待っている。

「さ、早く乗って」

「乗るのぉ!?」

「いいから乗れ!」

「待て・・・・誰だあんた・・・・って、アンタどっかで会ったことが・・・」

「うるさい乗れ!」

刹那の頭部にハイキックをかまし気絶させると龍の背中に放り投げた。

「この龍は・・・そうか、君もようやくやつらの仲間に・・・ぐはあ!!!」

何か語ろうとしていたルルイエも蹴倒し龍の背中に放り投げた。
残った響の手を引き伊佐美は強引に進んでいく。

そう、あの頃と変わらない強引で力強く引っ張る手で。




町が沈んでいくのを空の上から見下ろしていた。
手を繋いだまま放そうとしない伊佐美に思わず苦笑して身を寄せる。

「今度は」

「え?」

「今度は・・・・・あの時みたいに見てるだけじゃなかったでしょ?」

それは三年前の記憶。
伊佐美に出来たことは、ただ見ている事だけだった。
今は違う。けれどあの頃と何も変わらない笑顔がある。

「うん・・・・・・・・」

涙が溢れた。長い間我慢していたそれは留まることなく流れ続ける。
心の中で町を見下ろしながら繰り返し呟いた。

「さようなら・・・・」

さようなら・・・・・伊織ちゃん。




その日、過去最大級の被害を出した都市災害によってポートアイランドは海に沈み、

全ては記憶の中だけにとどめられ、何もかもは海底へと消え去った。

どわー40部いっちゃいましたよどうしましょう。
こんなに長くなるとは思わなかったんだけどなー・・・たぶん50部くらいには終わるんじゃないかな・・・と・・・期待してみる・・・・。

さてもういろいろな意味でクライマックスです。次回より三部なので最後までお付き合いいただけるとありがたいです。
それではごきげんよ〜う。
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