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この手はきっと届かない
作:沢上澪羽



3.拓斗


兄貴と俺は、小さい頃からよく比べられてきた。

そう、よくある話なんだろうけど、兄貴と俺は
『よくできる兄』と『特徴のない普通の弟』
というやつだ。

兄貴は小さい頃からしっかりしていて、礼儀正しくて、努力家で、勉強もできた。
一方俺は、特に頭がいい訳でもなく、努力家ということもなく、かといって別に悪いということもなかった。
とにかく『普通』この言葉がぴったりだった。
俺はよく
「圭ちゃんは可愛い顔しているね」
なんて褒められたけれど、それ以外のことで人から褒められた記憶はほとんどない。
それ以外に特徴がないんだから、仕方ないことだ。

兄貴は両親の期待を一身に受けて、中学高校と成績は常に5番以内だった。
両親は兄貴を有名な塾に通わせ、したいということは何でもさせた。
いつも兄貴に向かって「頑張れ」ばかり言っていた。
いつしか兄貴の将来は、兄貴だけのものではなくなっていくようだった。
あれだけ期待をかけられたら、少しぐらいひねくれてしまいそうなものを、兄貴はひねくれるどころか、絵に描いたように完璧な人間だった。
正義感が強く、明るく、運動もできて、信頼されている。
確かにあんまりかっこいいというタイプではなかったけれど、兄貴はモテたと思う。
それでも優月一筋なんだから、余計に周りからの好感度も高かったことだろう。

俺はいつもそんな兄貴の存在に隠れていた。
でも一度もそれを悲しいことだなんて思わなかったし、まして兄貴になりたいなんて、ただの一度だって思ったことはない。
兄貴が立派だったおかげで、俺は好きなようにやれたし、期待されることもなかったんだから。
俺が兄貴の立場だったら、きっと色んなプレッシャーに耐え切れなくて逃げ出していただろう。

だから俺は、至って普通で本当によかっとさえ思う。

兄貴は両親の期待に応え、有名大学に進学して、その後一流企業に就職した。
全てが順風満帆だった。
誰もが兄貴を、そしてうちの両親をうらやんだ。
正直俺だってうらやましかったさ。
兄貴になりたいと思ったことはなかったけれど、それでも兄貴の才能とか、そういうものはうらやましかった。
でも兄貴はそれを努力して手に入れたんだから、本当にすごいことだと思うよ。
弟の俺だってそう思うんだから、ずっとそばで見てきた優月なら、尚更そう思ったに違いない。
だから俺は、二人の間に入り込めるなんて思ったこともなかった。
かっこ悪いけど、俺の完全な片思い。
俺の思いは、俺の中でずっと昔から敗北が決まっているようなものだった。

そう思うことで、俺は逃げていたのかもしれないけれど。

でもそんな兄貴が今はベットの中、指の一本さえ動かすことができない。
誰がこんな兄貴の姿を想像しただろう。
でもこれが現実。
これが運命。







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