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理想のヒモ生活 作者:渡辺 恒彦

二年目

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第十一章3【国外訪問の準備】

「待たせたな、オクタビア。かけよ」

「はい、失礼します、アウラ陛下」

 それからしばらくして、女王アウラは、後宮の一室でマルケス伯爵夫人オクタビアと相対していた。

 オクタビア夫人の役割は、王配善治郎・カープァの家庭教師である。そのため、善治郎とは定期的に顔を合わせているのだが、アウラと顔を合わせる機会は意外と少ない。

 だが、全く顔を合わせないわけにもいかない。元々、善治郎に『家庭教師』をつけたのはアウラなのだから、その経過を見守る義務がある。善治郎がどの程度、礼法、知識、教養を身につけたのか、それを把握しないことにはアウラとしても、夫に仕事を割り振ることが出来ない。

 そのため、おおよそ月に一度、こうしてアウラはオクタビア夫人と面会の時間を設け、進捗状況を報告させているのであった。

 女王は、長テーブルの対面に腰を下ろした伯爵夫人を正面から見据え、単刀直入に切り出す。

「では、報告を聞かせてもらおうか。婿殿の教育は順調か?」

 静かではあっても威厳を感じさせる女王の言葉に、艶やかな黒髪の淑女は口元に小さく笑みを浮かべ、肯定の言葉を返す。

「はい。相変わらずゼンジロウ様は学習意欲も高く、常に真面目に取り組んでおられます。現在は陛下のご指示通り、『目上の者』に対する礼法をお教えしている所です」

「うむ。どの程度進んでいる?」

「はい、とりあえず公的な場での一般的な受け答えであれば、すでに問題なくこなせるでしょう。定型から外れた受け答えには多少まだ不安がありますが、大きな失態は犯さないかと。問題は、私的な場での受け答えですね。こちらはまだ、これからの課題です」

 善治郎はこれまで『目上の者』への礼法を後回しにしてきた。『王配』である善治郎にとって、カープァ王国内に『目上の者』は、女王アウラしかいないからだ。

 そのため、『目下の者』『同格の者』に対する礼法を優先的に徹底的にたたき込んだのだが、これから先は『目上の者』に対する礼法が必要となる。

 その理由は言うまでもあるまい。善治郎がかねてから企んでいるシャロワ・ジルベール双王国訪問のためである。

 アウラが第二子を出産するまでに『瞬間移動』の魔法を会得して、ジルベール法王家の『治癒術士』を呼べる体制を整える。そんな善治郎の目的を達成するためには、事前に双王国王都を訪れておく必要があるのだが、仮にも王配である善治郎が双王国を訪れるとなれば、双王国の二人の王――国王、法王の両名との謁見は必須である。

 つまり、例え善治郎が『瞬間移動』の魔法を会得したとしても、目上の者に対する礼法が身に付いていなければ、善治郎は目的を果たすことが出来ないのである。目上の者への礼法を知らない人間を、国の代表として他国に送り込むほど、アウラは剛胆な人間ではない。

「とりあえず、他国を敬意訪問させても問題がないところまで仕込むのに、後どれくらいかかる?」

 自分とこれから生まれてくる子供のため、夫が全力で努力している。その実感に、背中がむずがゆくなるような喜びを感じた女王は、努めて無表情を装ったまま、夫の家庭教師にそう尋ねる。

「はい、今まで通りの頻度で教育時間を設けて戴けるのでしたら、おおよそ一月で最低限問題が無いくらいには、身につくかと存じます。ただ……」

「ん? ただ、なんだ? 申してみよ」

 常に明朗な答えを返すオクタビア夫人が、珍しく言葉を濁す様子に、女王は少し首を傾げて先を促す。

 黒髪の淑女は、一度小さく息を吐くと、意を決したかのように口を開く。

「ただ、ゼンジロウ様は、陛下のような生まれついての王族ではありません。非常に高い修学意欲を持ってその差を着々と埋めてはおりますが、立ち振る舞いはすでに王族のものではないもので完成しております。
 ゼンジロウ様は、『王族として振る舞う』という技能を身につけているだけです。そのことをお忘れ無きよう、差し出がましいとは思いますが忠言させていただきます」

「ふむ……?」

 女王は、あごに手を当てて、しばしオクタビア夫人が言った言葉を考える。

「つまり、婿殿にとって王族としての言動を取る事はそれだけで負担だ、とそう言いたいのか?」

「はい。陛下にとって王族としての言動は意識せずとも出来る当たり前の行為なのでしょうが、ゼンジロウ様にとっては一から十まで意識して神経を張り巡らせなければ出来ない技能なのです」

 例えてみれば、アウラに取って王族として公式の場に立つことは、現代日本人が『箸と茶碗で行儀良く食事を取る』程度の負担なのに対し、善治郎にとっては『フォーク・ナイフ・スプーンで行儀良く食事を取る』くらいの負担だといえば少しはわかりやすいだろうか。

 アウラにとって公式の場での礼法は、日常生活の言動の延長線上でしかないのに対し、善治郎にとっては日常の言動とは全く別次元の特殊な立ち振る舞いなのである。

 その差に思い至らず、『出来ている』という表層の事実だけを見て、アウラが自分と同じだけの公務を善治郎に課せば、遠からず善治郎はパンクする。

 そう忠告するオクタビア夫人の指摘の正しさを理解した女王は、小さく一つ頷いた。

「理解した。貴重な忠言、礼を言う。オクタビア、貴様の忠誠には必ずや、何らかの形で報いよう」

「もったいないお言葉です」

 女王の言葉に、年若い伯爵夫人はその長いつややかな黒髪をさらりと流すように、ゆっくりと頭を下げるのだった。





「礼法については分かった。では、魔法技術についてはどうなっている? 魔法に関しては、夜間に私も多少教えているが、貴様の進捗も聞かせてもらいたい」

 続いて、そう尋ねる女王に、王配の家庭教師は最初から答えを用意していたかのような、よどみのない口調で答える。

「はい。魔力視認能力に目覚めて以降は、主に魔力出力操作訓練に時間を費やしております。こちらについてもゼンジロウ様は、非常に真面目に取り組んでおりますが、率直に申し上げて成果は芳しくありません。私の指導力不足を棚に上げるようで恐縮ですが、これ以上魔力出力操作に時間を費やすよりは、特定の呪文習得に切り替えるべきだと考えます」

「むう、やはりか。多少残念ではあるが、まあ順当なところだな」

 オクタビア夫人の報告に、女王は少し眉の間に皺を寄せたものの、すぐに納得したように首を縦に振った。

 呪文発動には、適切な魔力量を注ぐ必要があるのだが、『魔力出力調整』という能力は無情なことに、才能がかなりの部分ものを言う。

 もちろん、今善治郎がやっているように日々鍛練を積めばその分上手くなるのは間違いないのだが、その上達速度は生来の才能に由来するし、才能がない者にはある程度のところで、壁も存在する。

 実際、アウラ自身、出力を絞るのは苦手なため、大魔力を必要とする『時空魔法』と一部の火魔法は得意としている反面、『水浄化』や『発火』のような日常的に使用頻度の高い、小魔力の呪文はほとんど使えない。

 たとえて言えば、それは文字の練習に似ているかも知れない。習字や書き取りの練習に真剣に取り組めば、誰でもある程度の文字は書けるようになるが、『書道』として通用したり、『達筆』と呼ばれるようになるには、どうしても生来の才能が必要だ。

 それと同じように、魔力出力調整能力は、練習すればするだけ上手くなるのは確かなのだが、『魔法使い』という仕事につけるくらいにあらゆる呪文に対応した出力調整を自然と出来るようになるには、才能がものを言ってしまう。

「となると、使用頻度の高い呪文を優先的に覚えてもらう必要があるな。次はいっきに『瞬間移動』にいくべきか……?」

 女王はあごに右手を当てて考える。

 特定の呪文の魔力出力を優先的に身につけるというのは、文字の練習で言えば特定の文字の練習に終始するようなものである。

 文字全般が下手なものでも、「自分の名前」や「季節の挨拶」など、よく使う文字列だけを集中して練習すれば、その文字だけは人並み以上になるのと同じような理屈である。

 もちろん、才能のなさを修練の集中で補うのだから、どうしても才能のある魔法使いと比べると、習得できる呪文の数は圧倒的に少なくなる。

 故に、必要な呪文を優先的に覚えさせるというアウラの意見は、至極真っ当なものである。

「はい、それがよろしいかと」

「分かった。この後、婿殿が来るのだったな。私はこれで王宮に戻るが、今日からしばらくの間、魔法の練習は行わなくて良い。婿殿の魔法習得は、『血統魔法』を中心に行う故、しばらくの間は私が直接指導する」

「はい、承知いたしました」

 女王から退出の許可を得た礼法の家庭教師は、その肩書きを裏切らぬ洗練された仕草で、その場で立ち上がると流れるように頭を下げ、立ち去る女王を見送るのだった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆





 善治郎がフランチェスコ王子との対面を済ませて後宮に戻ってきたほんの少し前、オクタビア夫人からの聞き取りを終えた女王アウラは、丁度すれ違うように王宮へと向かっていた。

 あわよくば短時間でも妻と顔を合わせられるのではないかと期待していた善治郎は、後宮侍女からそのことを伝えられ、少し残念そうに舌を鳴らしたが、すぐさま気を取り直して、客室に向かう。

「待たせたな、オクタビア夫人」

「いいえ、とんでもございません、ゼンジロウ様」

 客室の中では、先ほどまで女王アウラと面談を果たしていた美貌の家庭教師が、優雅な立ち姿で善治郎を迎えていた。





 いつもであればまず善治郎が席に着き、その後善治郎の許しを得てオクタビア夫人が対面に腰を下ろすのだが、ここ最近は少々勝手が違う。

 直立不動を保つ善治郎の横にオクタビア夫人がそっと寄り添い、『対面に座る架空の王の存在』を意識して、善治郎に指導する。

「『陛下』はすでに席についておいでです。もう少し目線を上げて下さい。他国の王の前ではゼンジロウ様は確かに目下の存在ですが、その上下は決して大きくありません。目を伏せるのはもう少し階位に差がある場合です。はい、そうです、そのくらいです。おおよそ相手のあごから喉に視線を向けるくらいのつもりで、あまりあごをそらせると、今度は不遜と取られてしまいますから」

 オクタビア夫人の指導を受け、善治郎は微妙に顔を動かす。

 今まで受けてきた指導と比べると格段に内容が細かい。当たり前と言えば当たり前である。大国カープァ王国の王配である善治郎にとって、『目上の者』といえば、これはもう他国の国王以外に存在しない。前国王や王太子でも、善治郎とは同格なのだ。

 つまり、『目上の者』とはイコール他国の国王のみを指す。そのための指導が細かく、厳しくなるのも当然である。

 オクタビア夫人は、『架空の王』の言葉を善治郎に伝える。

「陛下は、腰を下ろして良いと仰せです、ゼンジロウ様」

「はっ、失礼します」

 その言葉を受けて、善治郎はやっと椅子に腰を下ろす。その際の身のこなしや、椅子に座る手順は基本的に王の前でもそう違いはない。

 一方、言葉遣いは完全に別物だ。しかし、それは敬語に近いものであるため、むしろ日頃王宮で使っている目下の者に対する言葉遣いよりは善治郎にとっては違和感がない。

「はい、結構です。強いて申し上げれば、もう少し深く腰を下ろすとよりよかったですね」

 緊張感こそあるものの、礼法の勉強は比較的順調に進んでいた。





「……陛下は退出されました。それでは、礼法の授業はここまでにいたしましょう、ゼンジロウ様」

 架空の王が部屋から去った宣言を受け、善治郎は少し肩の力を抜く。

「お見事でした、ゼンジロウ様。先ほどの遣り取りであれば、他国の王宮に招かれてもさほど大きな問題は起こらないでしょう」

「そうか。オクタビア夫人の保証とあれば、心強いな。むろん、油断は禁物なのだろうが」

 家庭教師役からのお墨付きに、善治郎は少し頬を緩める。オクタビア夫人は典型的な『褒めて伸ばす』たぐいの指導者のため、褒め言葉自体はさほど珍しくないのだが、過剰に褒めることはあっても具体的な嘘はつかない。そのオクタビア夫人が「大きな問題は起こらない」と断言した以上、事実その通りなのだろう。

 そう遠くない未来、他国を訪問する予定がある善治郎としては、そのお墨付きは実にありがたい。

 無表情を装いながらも、喜色を隠せていない善治郎を、美貌の家庭教師はほほえましいモノを見るような目で見守る。やる人間次第では、悪意に取られかねない目つきなのだが、たおやかな美女であるオクタビア夫人の場合、悪意と取る男はほとんどいない。

「それでは、続いて双王国についてご説明いたします。よろしいでしょうか、ゼンジロウ様」

「うむ、始めよ」

 オクタビア夫人の言葉に、善治郎は小さく頷き返す。

 用意が調い次第、善治郎が双王国を訪問する心づもりでいるというのは、公式発表こそされていないものの、特に隠す気もない公然の事実である。

 そもそも、善治郎が『瞬間移動』を覚えて双王国と行き来出来るようになることで、不利益を被る者はいないのだ。

 善治郎はアウラの第二子出産に間に合わせて、双王国から治癒術士を連れてくるために『瞬間移動』を会得しようとしているが、善治郎が『瞬間移動』でジルベール法王家の治癒術士を連れてくることが出来るようになれば、その恩恵を受けるのはアウラだけに限らない。女王であるアウラの魔力は国の根幹をなす力であるため、容易には使えないが、王配である善治郎の魔力はもう少し融通が利く。

 命に関わる傷病を患った者が出た場合、善治郎に頼めば双王国から治癒術士を呼ぶことが出来る。それは、カープァ王国貴族にとっては大きな心の支えとなることだろう。実際、大戦前の王族がもっと数多くいた頃には、そうして双王国とカープァ王国を行き来していた王族は数多くいた。

 もちろん、カープァ王家の『瞬間移動』でジルベール法王家の『治癒術士』を呼んでもらうのは、とてつもない金がかかる。ララ侯爵家、ギジェン侯爵家、ガジール辺境伯家、マルケス伯爵家などの大貴族でも、十分に『痛い』と言えるだけの経済的損失だ。

 中小の貴族ならば、諦めるしかない金額だろう。

 だが、金銭で命が拾える伝手を手にいれることは、決して悪いことではない。最低でも『一縷の望み』をつなぐことが出来る。

 故にオクタビア夫人は、善治郎に積極的に双王国の知識を伝授する。

「ゼンジロウ様もご承知の通り、双王国は二つの王家が並立する南大陸では他に類を見ない国です」

 大国が周囲の小国を支配して、『事実上の連合王国』となっている例は他にもあるが、公式に一つの国の中に二つの王家が存在する国はシャロワ・ジルベール双王国のみだという。

「南大陸では? ということは、北大陸では勝手が違うのか?」

 善治郎の素朴な疑問に、オクタビア夫人は首肯する。

「そうですね。北大陸には血統魔法を持たない王家もございますから、そういう国同士ならば複数の国家による連合王国もなくはないそうです。ですが血統魔法を持つ複数の王家が一つの国を治めている例は聞き覚えがありません。過去にも存在していないはずです。
 正確な歴史が残っていない太古の時代まで遡れば、かつて北大陸を支配していた白の帝国と呼ばれる超大国は、十二王家からなっていたと聞きますがこれは、もう完全におとぎ話ですね。実際白の帝国の存在を裏付ける証拠は何一つ見つかっておりませんから、賢者、学者の間で白の帝国の実在を信じている者は、よほどの変わり者だけです」

「なるほど」

 言ってしまえば、白の帝国というのは、『古代アトランティス大陸』『古代ムー大陸』『夏王朝』のたぐいか、と善治郎は納得した。どこの世界にも「かつて存在した、現代より優れた超文明』にロマンを求める人種はいるということなのだろう。

 善治郎としてもその手の話に興味が無い訳では無かったが、今の主題から見ると明らかに脱線である。

「つまり、シャロワ・ジルベール双王国は、他に実例のない特異な権力構造の国だと言うことか」

 そう話を戻す善治郎に、オクタビア夫人はふわりと微笑み首肯する。

「はい。左様です。そのため、双王国を訪れる際には、他の国を訪れるときとは異なる、注意点がいくつかございます。
 まず、第一に双王国の王都には王宮が二つ存在します。シャロワ王家の『紫卵宮』とジルベール法王家の『聖白宮』です。当たり前の話ですが、人間の体は一つだけですので、初めて双王国王都を訪れた国賓は、必ず『どちらの王宮を先』に訪問するか、選ばなければなりません」

(うわあ、なんでそこまで意地の悪い選択を強いるのかな……)

 善治郎は引きつる表情を抑えるのに、全力を費やさなければならなかった。

 それはそうだろう。並立する二つの王家に、訪問者が順番をつけなければならないのだ。普通に考えれば相当に意地が悪い。

 だが、そんな善治郎の僅かな表情の変化から、その考えを読み取ったオクタビア夫人は上品に笑い、善治郎の懸念を否定する。

「とはいっても、もちろん一定の定型はございます。『内政のシャロワ王家』『外交のジルベール法王家』という区分が出来ておりますので、一般的な訪問者はジルベール法王家の『聖白宮』を先に訪れれば問題ありません。『治癒術』を施してもらいに来る者も当然ジルベール法王家が優先ですね。
 逆に、魔道具の購入に訪れる者はシャロワ王家を先に訪れます。
 例外は、『治癒の秘石』購入の目的で訪れる者ですね。あれだけは、シャロワ王家とジルベール法王家が力を合わせて作成するものですから、両家に同等の権利がございます。そのため、『治癒の秘石』を購入しようとする者は、非常に難しい交渉を迫られるのだそうです」

 そうすることで双王国は『治癒の秘石』の値をつり上げて、財政の足しにしたり、外交の武器にしたりしているのだが、そのあたりはあまり善治郎には関係ない。

 問題は、オクタビア夫人の次の言葉だった。

「いずれにせよ、ゼンジロウ様の場合は、ジルベール法王家と誼を結ぶという目的が明確にございますので、難しいことは考えずに真っ直ぐ『聖白宮』を目指せば問題ないかと存じます。
 まず最初にこちらから来訪を希望する書状を送れば、両王家から招待状が同時に送られてくるはずですが、それは形式上のものです。向こうによほどの事情が無い限り、シャロワ王家は理解を示してすぐに引き下がるはずです」

 安心させるように、にっこりと笑うオクタビア夫人であったが、善治郎は声を震わせずに言葉を返すのがやっとだ。

「……なるほど」

(つまり、よほどの理由がある場合は、シャロワ王家も引き下がらないってことだよね? 「付与魔法の血統を内包する他国の王族を籠絡する」っていう理由は、たぶん『よほどの理由』に……なるんだろうなあ)

 どう考えても、善治郎が『聖白宮』を先に訪れることを、シャロワ王家が見逃してくれる可能性は低そうだ。

 とはいえ、そのような裏の事情を、この有力貴族の妻である目の前の淑女に教えるわけにはいかない。

 善治郎は、全身全霊の力を振り絞り、平静を装った声で返事をする。

「それならば、問題はなさそうだな」

「はい、ゼンジロウ様」

 カープァ王家とシャロワ王家の間で取り交わされている裏の外交内容を知るはずもない黒髪の淑女は、年齢からすると不相応とさえ言えるほどに邪気のない笑顔で答えるのだった。
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