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理想のヒモ生活 作者:渡辺 恒彦

一年目

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第七章2【秘密の交渉、わずかな進展】

 数ヶ月後。女王アウラは、王宮の一室でシャロワ・ジルベール双王国の使者と、会談の場を設けていた。今は一年で一番涼しい時期だ。真昼でも二十五度を超えない柔らかな日差しが、開け放った窓から差し込み、室内を心地よく照らし出す。

 つわりが収まり、代わりに腹部の大きさが目立つようになってきたアウラは、日頃はあまり着ないゆったりとした作りの赤いドレスに身を包み、ソファーに身体を預けたまま、対面の席で畏まる双王国の使者に悠然と声をかける。

「見ての通り身重の身でな。砕けた格好で失礼する」

「いえ、とんでもございません。陛下にお目通りがかない、恐悦至極に存じます」

 女王の言葉に、双王国の使者は型どおりの言葉を返し、礼儀に乗っ取り頭を下げた。
 紫と白を基調とした双王国の正装に身を固めた、中年の男だ。爵位も領地も持たない平貴族だが、今回の大任を任されているのだから、その人格や能力にはそれなりの信頼を置かれているのだろう。
 事実、こうして大国の王であるアウラと差し向かいで顔を合わせても、男は今のところ泰然とした落ち着きを保っている。

 アウラがこの男と会談の場を設けるのは、これが五回目である。男がカープァ王宮入りしたのが二ヶ月前ということを考えると、五回目の対面というのは、議題の重さに比べていささか暢気な感があるが、機密保持を最優先としているため、それも致し方ない。

 一国の女王であるアウラが、いかに大国シャロワ・ジルベール双王国の使者とはいえ、一介の騎士に過ぎない人間と頻繁に一対一の面会を果たしていては、周りに「何かよほどの事態が起きた」とふれ回るようなものである。
 互いの主張はぶつかり合っている両国首脳だが、内密に事を運びたいという思惑だけは一致している。

「理解しているとは思うが、貴様との会談に、長い時間を割くわけにはいかぬ。手短に始めるぞ。双王国は、私と婿殿の婚姻の際、祝福の言葉を贈られた。その言を翻す意思はないのだな?」

 アウラは最初に断ったとおり、単刀直入に威圧的な言葉を、威圧的な態度でぶつける。

「はっ、無論、我が国は陛下のご成婚を心からお祝い申し上げております。決して嘘偽りはございません」

 双王国の使者は、畏まって頭を下げつつも、怯むことなく答えた。

 アウラと善治郎の結婚を祝う言葉を取り下げる意思はない。それはつまり、アウラと善治郎の間の子については、干渉する意思がないという双王国からの意思表示である。
 この言葉を引き出せただけで、アウラとしては最低限の目的を果たしたと言える。少なくともこれで、カープァ王国の正当な血統には、横やりを入れられる心配が無くなったわけだ。当たり前と言えば当たり前の話だが、はっきりと言質の取れたアウラは、内心安堵の溜息を漏らした。

 だが、安心する間もなく、使者は丁寧な言葉でアウラに切り込んでくる。

「ゼンジロウ様はカープァ王家の一員として、認められた身です。その身の振り方に他国の人間が口出しをするいわれはない。それは理解しております。しかし、我が国の置かれた立場も、理解して戴きたいのです」

「……確かに、な。言いたいことは分からんでもない」

 一転、アウラは難しい表情で頷いた。
 すでに善治郎がカープァ王国の王配として、大陸中の国から認められている今日、本来ならば双王国には、善治郎の血筋に干渉する正当性はどこにもない。

 しかし、血統魔法の流出という問題の大きさは、場合によっては表向きの正当性を蹴飛ばしかねないだけの代物であることも事実だ。しかも、シャロワ・ジルベール双王国は、南大陸中央に覇を唱える指折りの大国。
 万が一の暴発を考えれば、アウラとしても強気一辺倒で押すわけにはいかない。

 業腹ではあるが、どこかで一歩譲る必要があるだろう。

 アウラは、組んだ両手を腹の上にそっとのせ、意図的にトーンを下げた声で提案する。

「婿殿は、そちらの立場を理解し、私以外の女とは子を成さないと言っている。私の子には干渉しないと言うのであれば、それで十分なのではないか?」

 現在血統魔法の継承者が二人しかいないカープァ王国にとって、血の拡散を意図的に制限するというのは、十分すぎる譲歩だ。アウラとしては、これ以上譲るつもりはない。

 だが、双王国の使者には、また異なる価値観がある。

「それは、非常にありがたいお言葉です。ですが、王族の方の婚姻はままならぬもの。やむにやまれぬ事情が生じて、ゼンジロウ様が側室を迎える場合、そしてその御子が『付与魔法』に目覚めた場合はいかが致しますか?」

 気後れすることなく、突っ込んだ意見を述べる男に、アウラは余裕の笑みを崩さないまま、内心舌打ちをする。

 実際、男の言うとおりである。王族が側室を娶らない、などという約束を未来永劫守りきれる保証はどこにもない。破ったときの罰則を決めていない密約など、あってないようなものだ。
 当然、アウラもそんなものを後生大事に守り続けるつもりはない。無論、いたずらに双王国を刺激するような愚行を働く気はないが、いざという時は、適当な謝罪の言葉だけで約束破りをするくらいの事は考えていた。

 ここまで率直に釘を刺されるとは正直思っていなかった。少なくとも、胆力は十分にある男のようだ。

 とはいえ、アウラも相手の言い分を正面から受け止めてやるほど、容易い女ではない。

「それは、仮定に仮定を重ねた話だな。現状でそこまで答えねばならぬ理由が見つからないのだが?」

 切り捨てるアウラに、男は落ち着いた声色のまま食い下がる。

「しかし、現実になってもおかしくはない仮定ではないでしょうか。後日、もめ事の種となり得る可能性は、事前につめておいた方が良いと、愚考します」

「なるほど、一理ある。ならば問うが、私と婿殿の間の子には干渉しないという約定を、シャロワ王家の方が破られた場合はどうする? 婿殿の素性が分家王族に漏れ、その情報を知った分家王族の方が先走った行動に出た場合だ。仮定に仮定を重ねた話ではあるが、現実になってもおかしくはあるまい?」

「む……」

 アウラの切り返しに、男はこの日初めて口ごもった。単純な意趣返しだが、非常に効果的である。国のトップであるアウラと違い、本国の代弁者に過ぎない使者は、アドリブをきかせてよい幅が決まっている。

 その隙にアウラは畳みかける。

「まあ、貴様の言うことももっともだ。一考の余地はあるだろう。今私が提案した言葉と同程度には、な」

 回りくどい言い方だが、ようは「こちらの提案と、そちらの提案を平行進行させるべきだ」と言っているのだ。平行進行というと平等な提案に聞こえるが、事実は異なる。
 アウラは自己の判断で全てを決定できる女王なのに対し、男は制限された権限しか持たない一介の外交官に過ぎない。

「……了解しました。早急に本国に問い合わせます」

 結局男は、この場ではそう答えるしかなかった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆ 







 夕暮れ時、双王国の使者との会談を終えたアウラが後宮へ戻ると、そこにはまだ愛する夫の姿はなかった。

「そう言えば、婿殿は今日、私の代わりに式典に顔を出しているのだったか」

 思い出したアウラはそう呟くと、部屋のすみの籠の中からオレンジ色のバスタオルを取り出し、ソファーに腰を下ろす。

 そして、ドレスの紐をほどいた腹部に、そのバスタオルをソッと掛けた。

「ふう……」

 妊娠中と言うことで、極力身体を締め付けないドレスを選んでいるアウラであるが、女王という立場上、外に出るときはそれなりの服装が求められる。
 こうして、腰の紐を緩めるとホッとする。バスタオルは、最近目立ち始めた腹部を冷やさないための用心だ。

 だらしなくソファーの背もたれに体重を預けたアウラは、ふと喉の渇きを覚えて、声を上げる。

「誰かっ」

「はい、陛下」

 女王の言葉を受けて、隣室に控えていた侍女が即座に姿を現す。
 アウラは、ソファーに身を預けたまま、目線だけを畏まる若い侍女に向けて、命令する。

「喉が渇いた。飲み物を出してくれ。ああ、あと何か軽く摘む物を頼む」

「畏まりました」

 女王の指示に、若い侍女は小さく頭を下げると、テキパキとした仕草で、部屋のすみの冷蔵庫を開け、砂糖と果汁で味を付けた水をグラスに注ぎ、ソファーの前のテーブルへのせた。

「お摘みは、もう少々お待ち下さい。なにかご要望はございますか?」

 侍女の言葉に、アウラは少しだけ考えて、答える。

「ん……そうだな。何か、甘い物が良いな。ああ、果物の類はやめてくれ。別に急ぐ必要はない」

「はい、承知いたしました。少々お待ちください」

 侍女は一礼をすると、部屋から出て行った。

 残されたアウラは、テーブルからガラスのグラスを取り、その中身に口を付ける。
 良く冷やされた甘酸っぱい飲み物が爽やかに喉を潤し、アウラはもう一度安堵の溜息を漏らす。

「ふむ。最近は婿殿も侍女に慣れてきてくれたようだからな。こちらとしては過ごしやすくなった」

 以前は、プライベート空間に他人が入り込むことを嫌っている婿に遠慮して、後宮では些細な用事では侍女を呼ばないように気をつけていたアウラであったが、妊娠してからは逆に善治郎の方がアウラに配慮して、近くに常時侍女が控えることを許すようになっている。

 母子の安全の為、善治郎が妥協したのだが、最近は善治郎も隣室に侍女が控えている日常に慣れてきているようにみえる。それが当たり前として過ごしてきたアウラとしては、喜ばしいことだ。
 無論、善治郎が「やっぱり慣れない。侍女は外に出してくれ」と言えば、受け入れるつもりだが、身重の間は夫の好意に甘えてもよいだろう。

 グラスをテーブルに戻したその時、アウラは背中でガチャリと後ろのドアが開く音を聞いた。

 一瞬、ツマミを頼んだ侍女がもう持ってきたのかと思ったが、侍女であれば入室の前に必ずノックをするはずだ。この部屋のドアを、ノックも名乗りもなしに開く人間は、一人しかいない。

 ソファーに腰を掛けたまま、アウラが振り返ると、そこには思った通りの顔があった。

「ただいま、アウラ。どう、具合は?」

 アウラの代理として、行事に出席していた善治郎は、カープァ王国の男王族の正装に当たる、飾りボタンの多い白い上着と、太めのズボンをきっちりと着こなした姿で、部屋の入り口に立っている。

 帰ってきた夫――善治郎の顔を見たアウラは、自然と口元をほころばせ、明るい声で答える。

「ああ、問題ない。最近はつわりも治まったし、業務を中断するようなこともなかった。お陰様で、順調そのものだよ」

「それはよかった、何よりだね」

 笑顔でそう答えた善治郎は、後ろ手でドアを閉めると、足早に絨毯の上を進み、部屋の隅にある洋服かけへと向かう。
 そして、脱いだ上着をハンガーに掛けて身軽になった善治郎は、途中冷蔵庫の中から果実水の入った銀の器と自分のグラスを取り出すと、アウラの隣にドスンと腰を下ろした。

「ふう」

 気温はそう高くないはずなのだが、慣れない正装と公式行事で疲れたのか、全身にじっとりと汗をかいている。善治郎は、肌着の襟に人差し指を引っかけて、パタパタと風を送りこむ。
 善治郎がアウラの代役として、公式行事に出席するようになってから二ヶ月以上たつが、子の様子ではまだまだ慣れたとは言えないようだ。

 ストレスから解放されたように、弛緩させた身体をソファーに放り出す夫を見つめ、アウラは口を開く。

「そちらはどうであった? 式典に出席したのであろう? なにか、気になることはなかったか?」

 それは、善治郎が後宮外で動くようになってから、毎日行っている問いかけである。我ながら少々心配性が過ぎるとは思うのだが、確認を怠って手遅れになるよりはよい。幸い、夫もその考えに賛成してくれていて、邪剣にあしらうようなこともない。いつも笑顔で「いや、特に何もなかったよ」と答えてくれる。

 しかし、今日の善治郎は急に顔をしかめると、真剣な面持ちでいつもとは異なる答えを返す。

「うん、それなんだけど。ちょっと気になることがあってね」

「む……?」

 なにか問題があったのか。夫の様子に緊張を高めたアウラは、ソファーの上で座り直し、真剣な面持ちで夫の言葉を待つ。
 善治郎は、隣に座る妻と視線をあわせ、ゆっくりとした口調で話し始める。

「実は、今日の式典で俺の名前が呼ばれたとき、『王家を代表して』と言われたんだ。『アウラ陛下の代理として』じゃなく、ね」

 無論、すぐに訂正しておいた、と善治郎は付け加えた。

「それは……確かに、少々問題だな」

 善治郎の言葉に、アウラも善治郎と同じ渋い顔を浮かべた。

 善治郎が、式典や夜会にアウラの代理として出席するようになって数ヶ月。自分は身重のアウラ陛下の代役に過ぎない、というスタンスを崩していない善治郎であるが、男の王族が公的な場に一人で出席するようになれば、例え女王といえども女であるアウラより、男である善治郎を重要視する人間が現れるのは、この国の文化から見て必然と言える。

 無論、妊娠中の現在でも、公的行事に顔を出す数はアウラの方が遙かに多い。善治郎が代理を務めるのは、あまり重要ではない行事や、アドリブをきかせた対応が不要とされる、一部の式典だけだ。

 それでも、女王の代わりを男の王族が務めるとなると、「権力の移譲」という言葉が囁かれる。
 やはり、妊娠に伴い業務が滞るところを目の当たりにすると、女の王という存在に、不安と不満が噴出するのだろう。

 アウラと善治郎は見つめ合い、ほぼ同時に口を開く。

「もし、それがわざとだとすれば、問題だな」

「もし、あれがわざとじゃないとしたら、問題だよね」

 ちょっと聞きにはよく似た、全く正反対の言葉を同時に発した夫婦は、しばしの沈黙の後、揃って首を傾げる。

「……は?」

「……え?」

 沈黙を破り先に口を開いたのは、善治郎だった。

「ええと……なんでわざとだとしたら問題なのかな? 説明してもらえる?」

「うむ。それはそうだろう。わざと間違えたということは、明確に私とそなたとの離間工作を行う意思があるということだ。その動きが問題にならないはずがない。そなたはなぜ、わざとではないほうが問題だと思ったのだ?」

 明朗な言葉で自らの感想を告げたアウラは、その後に続けて善治郎の意図を問いただす。

 一方問われた善治郎も、アウラほどハキハキとした言葉遣いではなかったが、それでもしっかりと自分の考えを言葉にする。

「うん。わざとじゃないとすれば、王宮の人間が無意識のうちに、俺を『アウラの代理』じゃなくて、『一人の王族』とみなし始めてるってことだよね。そうだとすると、この国の価値観からして、俺がアウラの操り人形をやってることに、不満を感じる人間がでてくるんじゃないかって、思ってさ」

 例え女王とその伴侶といえども、男社会のカープァ王国で、女が主で男が従の関係というのは好まれない。これまでは、アウラが築いてきた実績と、善治郎の異世界出身といううさんくささのせいで見逃されていただけだ。
 下手をすれば、王宮に『女王派』と『王配派』という対立構造が生まれかねない。

 さらに厄介なのは、アウラを下げて善治郎を上げようとする人間の言に、現実問題として一理も二理もあると言う点である。
 この世界では、王族イコール血統魔法の使い手である。王族の数は、そのまま国の力となる。
 しかし、現在カープァ王国の王族は、アウラと善治郎の二人だけ。二人の間により多くの子が望まれるのは必然であり、そうなると母体であるアウラは長期の間、妊娠・出産を繰り返すことになる。
 ならば表向きの政務は善治郎が担当し、アウラは健やかな子を産むことに専念するほうが効率がよい。なるほど、筋は通っている。善治郎の政務能力が、アウラのそれと同レベルのものがあればの話だが。

 いずれにせよアウラにも善治郎の言いたいことは理解できた。

 アウラはソファーの背もたれに身重の身体を預けると大きく溜息をつく。

「なるほどな。つまり、故意に間違える一部の人間の暗躍より、無意識に間違える全体の意識の変化のほうが問題が大きいというわけか」

「うん。俺はそう思うな。まあ、どっちにせよ、俺が表に出る以上、遅いか早いかだけの問題だったとは思うけど」

 善治郎はそう答えて、だらしなくソファーの背もたれに身体を預けたまま、小さく肩をすくめる。

「確かにな。ならば、対抗手段は私とそなたが離間工作や風評に負けないよう、情報交換を密にすることか」

「うん。それと、俺があまり権限や財源を自由に出来る立場にならないことかな。これはアウラの側から提案すると、『夫の権利を阻害している』って悪評が立つから、俺の方から『面倒ごとはごめん』というスタンスを全面に押し出すべきだね」

 側室問題でも泥を被った善治郎は、ここでもまた自分が泥を被ると極平然とした口調で言い切った。

「うむ……確かにそれが一番無難だが」

 思わず渋い顔をするアウラであるが、善治郎の言葉通りにすることが、王家にとって最善であることが理解できるため、反論は難しい。
 しかし、それでは、現時点でも側室を断るため『女王の色におぼれた男』という悪評を被っている夫に、『仕事嫌いの怠け者』という悪名までなすりつけることになる。
 あわせれば、「女色におぼれる仕事をしない怠け者」である。まあ、アウラに一目惚れをして、サラリーマン生活から抜け出すために異世界に逃げてきたという善治郎の行動を考えれば、意外と『正当な評価』なのかも知れない。

 中々素直にうんと言えない妻の背中を押すように、善治郎は言葉を付け加える。

「ここに戻る途中、ファビオ秘書官にも相談したけど、あの人も「それが無難でしょう」っていってたよ」

 当事者が言い出し、腹心もそれを認めているのであれば、アウラの立場から否とは言い出せない。アウラ自身、罪悪感のような感情を無視すれば、その有効性を理解している分尚更だ。
 溜息を漏らしつつ、結局、アウラは首を縦に振る。

「分かった。また、そなたの好意に甘えるとしよう。しかし、その様子だと、ファビオとは上手くやっているようだな。安心したぞ。あいつは有能ではあるが、間違っても人当たりの良い人間では無いから、少し心配していた」

 すり替わった話題に、善治郎はスッと視線を逸らし、あっちを向いたままぼそりと答える。

「うん、まあ、『上手く』はやってるよ。『仲良く』はやってないけど……」

 渋い表情を隠せていない夫の様子に、アウラは思わず口元をほころばせる。

「それは、何よりだ。そなたがあの男と「仲良く」やれるような性格では、私がたまらぬわ。職場でも、家庭でも、あの手の男が待ち構えていたら、私の気が休まる空間がないではないか」

 最初は冗談めかした口調で言い始めたアウラであったが、最後は吐き捨てるような口調になる。どうやら、自分で思っている以上に、腹心の歯に衣着せぬ物言いには、言いたいことが溜まっていたらしい。

 妻の物言いから、どうやらファビオという男に、夫婦で同じ感情を抱いていることを悟った善治郎は表情を緩めて、妻の方へ向き直る。

「確かに。あれは一人で良いね」

「うむ。だが、一人は必要だ。正直、たまに引っぱたきたくなるが、王族の耳に不快な言葉を怖れずに届ける人間は貴重だ。そなたも出来るだけ上手く付き合ってやってくれ」

「分かってる。『出来るだけ』上手く付き合うよ」

 頷く善治郎の顔には、隠しようのない苦笑の色が滲んでいた。
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