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理想のヒモ生活 作者:渡辺 恒彦

一年目

13/94

第二章2【婚姻の儀、そして初夜】

 山井善治郎が異世界に二度目の転移を果たしてから、十五日後。
 カープァ王国では、女王アウラ・カープァと、異世界より五つの世代を歴て帰還した王族、ゼンジロウ・ヤマイの『婚姻の儀』が執り行われる手はずとなっていた。
 これは、異常なくらいに早い話である。
 準備自体は、善治郎が一ヶ月前にYESの返答をした時点から、整えていたのだろうが、それにしても一ヶ月と十五日、わずか四十五日だ。
 現役国王の『婚姻の儀』の準備期間としては、異例の短さと言えるだろう。通常であれば、一年くらい時間を掛けて、国内の王族や近隣諸国に通達を出し、国威を示すためにも最大級の贅をこらすものだ。
 それをこのような短時間で結婚までこぎ着けようとした理由は、「下手な横やりを入れられたくない」というアウラサイドの思惑がある。

 なにぜ、カープァ王国では初めてとなる、現役女王の結婚である。
 前例がないぶん、いちゃもんをつける気になればいくらでもつけられる。
 女王の結婚が権力構造を複雑にするのは間違いのない事実だし、悪い事に善治郎は「アウラ以外の女」と子をなしても、次の世代に『時空魔法』を継承可能なほどに濃い王族の血を保有している。

 そのため、アウラは善治郎の具体的な血の濃さが、対外的に広まる前に、強引に結婚まで話を持って行ったのだった。





 王族もしくは、それに準ずる高位貴族の『婚姻の儀』の時だけ使用される『竜王の間』。
 その広く荘厳な広間に、多くの高位貴族が集い、神妙な表情で式の進行を見守っていた。

『婚姻の儀』の主役は二人。新婦であるアウラは、ノースリーブの白いドレスを纏っている。フレアスカートになっていても裾は引きずるほど長くなかったり、レース飾りがない代わりに白地に白の花の刺繍が施されていたりと、細かな違いはあるものの、大筋では地球でも「ウェディングドレス」として通用しそうな作りである。

(そういえば、日本の白無垢も、西洋のウェディングドレスも、色が白ってことでは共通しているよな)

 花嫁衣装に白が尊ばれるというのは、国境どころか世界すら超える共通認識なのだろうか? 左右から突き刺さる好奇の視線を少しでも忘れようと、そんなことを考える善治郎の左腕に、ドレス姿のアウラがそっと右手を添える。

 新郎である善治郎の服装は、転移してきたときに着ていた一張羅のスーツ姿だ。
 贅をこらしたウェディングドレスを着て、王権を示す王冠を被ったアウラの隣に立つと、少々見窄らしく見える格好だが、これはいかしかたない理由がある。

『家庭の長は男』という常識が骨の随までしみこんでいるこの国で、現役女王の結婚という前例のない式を執り行うのだ。
 夫となる善治郎の服装、式場での振る舞いについては、文字通り諸説紛々飛び交い決まりようがなかった。
 原則、カープァ王国の風趣に会わせれば、新郎である善治郎は、新婦であるアウラよりも威厳を示す服装をすることになる。しかし、新婦であるアウラは現役の女王であるため、王冠を被り王権を示した形で『婚姻の儀』を迎える必要がある。
 いかに夫とはいえ、女王より威厳のある格好をすれば、王権の絶対性を揺るがし兼ねない。かといって新郎が新婦より、威厳のない服装で出席すれば、「王族が国の伝統をないがしろにした」と、避難する者が出てくる。

 結局、アウラは善治郎が異世界の生まれであることを利用して、「新郎の服装は新郎の世界の常識に会わせる」という「夫を立てる」理由で、この問題をうやむやにしてのである。

 善治郎が着ているスーツは、若者であれば冠婚葬祭に出席しても問題の無いものではあるが、間違っても『新郎』が着る代物ではない。もっとも、そんな事は善治郎本人しか分からないのだから、ここは善治郎が口を噤んでいれば、四方丸く収まる話である。

 善治郎は、周りの視線を無視するように、必死に意識を左腕に感じるアウラの体温だけに注意を払い、ガチガチに構った足取りで前へ進む。

(まずい、緊張で足の感覚がない……!)

 自分が今、足の長い絨毯の上を歩いているのか、大理石作りの床の上を歩いているのか、その区別すら付かない状態だ。
 ただ、真っ直ぐ歩く、という行為がこれほど難しいとは思わなかった。

(やばい、転ぶ。絶対に転ぶッ!)

 顔を引きつらせ、冷や汗を流す善治郎であったが、その危機は隣に立つ妻となる女が回避してくれる。

(あっ!?)

 バランスを崩しかている善治郎の様子に気づいたアウラは、善治郎の左腕に右手で掴まっている振りをして、逆にガッチリと善治郎の腕を下から押さえ、転ばないようにバランスを取ってくれる。
 アウラは、生まれたときから直系の王族として衆目に曝されて生きていた現役の女王。一方自分は、この年まで平々凡々に生きてきた、一介のサラリーマン。
 この様な場に、アウラが慣れていて、自分が慣れていないのは当然のことなのだが、流石に真っ直ぐ歩くという行為まで、嫁さんに助けて貰っては、ちょっと情けない気分になる。

 だが、そうやって思考が内側に向いたのが功を奏したようだ。
 考え事をしている間に、一時的に周囲の視線を忘れた善治郎は、どうにか必要最低限のバランス感覚と歩行能力を取り戻す。

 やがて、初老の神官が待つ檀上へと上がった善治郎とアウラは、足を止めると神官から近いと祝福の言葉を授かる。

「数多の精霊の祝福が、両者の未来にあらんことを。あとえ、その未来に七難八苦があろうとも、祖霊の声に耳を傾け、夫はその背に妻を護り、妻はその背に手を添え支え……」

 神官からのありがたい言葉が、延々と続く。
 この手の『祝福の言葉』というのも、異世界でもそう変わらないもののようだ。
 魔法が存在する世界なのだから、ひょっとして『祝福の言葉』にも本当に力があるのではないか、と聞いてみたが、どうやらそんなことはないらしい。

 緊張でろくに神官の言葉も聞き取れない善治郎を置き去りに、『婚姻の儀』は恙なく進行していった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆





 その日の夜。

「ふう、どうにか終わった……」

「フフ、流石に疲れたようだな、婿殿。まあ、私も同様だが」

 後宮の一室で、善治郎とアウラはテーブルを挟んで向かい会うソファーに腰掛け、互いの労苦を労い合っていた。
 三時間に及ぶ『婚姻の儀』の後、さらに善治郎とアウラは二時間を超える『お披露目の儀』と呼ばれる、式に主役として参加してきたのだ。

 この手の儀式になれていない善治郎はもちろん、善治郎のフォローにまで気を配っていたアウラも、十分に疲労困憊している。
 すでに、入浴を済ませている二人は非常にラフな格好をしている。
 アウラは、腰まで届くような深いスリットの入った赤いドレス姿で、善治郎に至っては向こうの世界から持ってきた、白地にブルーストライプのパジャマ姿だ。
 まあ、すでに婚姻を済ませ、この後初夜を迎えるのだから、そのような格好を晒し会うのも当然ではあるのだが。

 正面座るアウラが、スリットから除く足を組み直すたび、善治郎はこの後ベッドで行う行為について想像せずにはいられない。
 今夜、ついに、善治郎は目のまでに座っているグラマラスで妖艶な美女をその両腕に納めるのだ。

(やばい。自分でも興奮してるんだか、緊張してるんだか、分からなくなってきた)

「あ、暑いですね。アウラさんも何か飲みますか?」

 善治郎は緊張を隠すようにそう言うと、席を立つ。

「うむ。せっかくだし頂こうか」

「はい。それじゃ、ワインを空けましょう。赤は持ってきたときに割れちゃいましたけど、白とロゼは無事でしたからね」

 善治郎は、部屋の隅で低いうなり声を上げている冷蔵からワインを一本取り出すと、グラス二つを探しだし、結婚したばかりの妻が待つ、ソファーへと戻ってくる。

(まずいなあ、自慢じゃないけど、彼女なんて大学二年の時以来だからなぁ。どうやって雰囲気盛り上げればいいか、わからないや)

 正確には、善治郎の女性歴は「大学二年から三年にかける一年ちょっと間、一人の女と付き合ったことがある」だけである。おかげで、童貞でも彼女いない歴イコール年齢でもないが、その実体は、童貞の頃と大差ない。

「はい、どうぞ」

 善治郎は、二つのワイングラスに白ワインを注ぐと、グラスの一つをアウラの前へをおく。
 そして、テーブル向かいのソファーへと戻ろうとしたのだが、そこにアウラが声を掛ける。

「ゼンジロウ殿。よかったら、そっちではなく、ここに座らぬか」

 そう言ってアウラは、自分が座っているソファーの隣をポンポンと叩いた。
 意表を突かれた善治郎は、自分のワイングラスを手に持ったまま、しどろもどろに答える。

「え? い、いや、ですが、それは……」

「良いではないか。今日より私の貴方は、真の夫婦となったのだ。身を寄せ合うことに、誰憚ることがあろう」

 そうまで言われて尻込みするのも、なにやら情けない気がする。
 善治郎は頷くと、

「分かりました。では、失礼します」

 と断り、アウラの隣に腰を下ろした。

 善治郎の太股と、アウラの太股が隣り合う形でぴったりとくっつき合う。

「…………」

「…………」

(しまった。いくら何でも近すぎた)

 大の大人が三人欄で座ってもまだ余裕のある長いすに、足と足をくっつけるように腰を下ろしたのだ。ちょっと気まずいが、ここからあえて離れるのも、変に意識しているようで、気が引ける。
 先ほど、アウラも言ったとおり、善治郎とアウラは、すでに夫婦なのだ。二人だけの空間で、身体を重ねる事を忌避する理由はない。

(どうしよう、なんか言わないと……!)

 焦る善治郎が、冷たい白ワインをすすりながら、話題を探している間に、アウラのほうからいつも通りの落ち着いた声で話しかけてくる。

「それにしても、婿殿の持ち込んだ「電気製品」というのは、本当に見事なものだな。この明かり、この冷却力。まるで、シャロワ・ジルベール双王国にいるような気分になってくる」

 そう言ってアウラは、室内を明るく照らす、LEDフロアスタンドライトに目を向ける。

 LEDフロアスタンドライトとは、電球部分にLEDライトを使用した、人の背丈ほどある大型の電気スタンドの事である。
 善治郎は、一台に付き、三つのLED電球を使うフロアスタンドライトを、合わせて八つこの世界に持ち込んでいた。
 最大、三×八で二十四のLED電球を灯すことが出来るのだ。
 全開で明かりを灯せば、後宮のこの広い室内も、現代日本の夜くらいには明るく照らすことが出来るだろう。無論、真上から照らす訳ではないないし、光源も複数に渡る分、光のムラ乗じるのは否めないが。

 今明かりを灯しているのは、雰囲気を重視して、ソファー近くの一台だけだ。

 善治郎は、先に話題を振ってくれたアウラの気遣いに苦笑しながら、

「ええ、頑張りましたから。こっちに来てから最初の十日間は、ほとんど発電機の設置に掛かりきりでしたね」

 そういって、少し胸を張る。
 事実、この世界にやってきてから今日まで、善治郎が行った唯一の作業が、後宮中庭への水力発電機設置と、そこからこの部屋に電源コードを引く工事であったと言っても良い。
 無論、発電機を実際に持ち上げたり、王宮の外を流れる水堀から木製の水橋で中庭まで水を引いたり、後宮の外壁の石をずらし、コードを通す穴を空けたりしたのは、アウラが手配した兵士達である。

 しかし、連日三十五度を超える(体感ではない。実際に持ち込んだ温度計が示した値だ)、日本で言えば真夏日の中、水力発電機が無事稼働するよう、設計図を引いて、作業する者達に理解をさせ、音頭を取ったのは、善治郎だ。

 アウラとの結婚を決意してから、地球で過ごした一月の内、もっとも多くの時間をこの、水力発電機の設置方法を身につけることに費やしたかいがあったというものだ。
 おかげでこの魔法が主である異世界で、冷蔵庫も、LEDライトも、パソコンも無事稼働している。

「確かに、苦労に見合うだけの価値はあるようだ。うむ、冷たい酒のいうのも、存外悪くない」

 アウラは、グラスに入った白ワインを一気に飲み干し、音も立てずグラスをテーブルに戻す。

「フフッ」

 善治郎の緊張具合を知ってか知らずか、アウラは隣に座る善治郎の右腕を両手でそっと胸の谷間に抱き取ると、コテリと頭を善治郎の肩に預けた。

 右腕を包み込む、柔らかな肉の谷間。右肩から首筋にかかる熱く湿った吐息。鼻孔を擽る柑橘系の良い香りは、善治郎が持ち込んだシャンプーの匂いだ。

「あ、ぐ。あ、あ、そう、そう言えば、先ほど、言っていた『双王国』というのは何なのですか? その国には、この様な仕掛けがあるのですか?」

 焦ったように口数を増やす婿殿に、アウラはクツクツと笑いながら、あえて善治郎の思惑にのるように答える。

「ああ、シャロワ・ジルベール双王国。『付与魔術』の血統魔術を受け継ぐ王家を頂点の一つにいだく、南大陸中央部の大国だ。世界で唯一『魔道具』の生産が可能なその国の王宮は、夜は『光の宝玉』で明かりを灯し、夏は『風の宝玉』で涼を取り、冬は『火の宝玉』で暖を取る。

 まあ、そういった大陸の情勢は、いずれ覚えて頂くとして。ゼンジロウ殿? 先ほどから、私は一つ不満があるのだが、な?」

 アウラは急に両手で善治郎の両頬を固定すると、クッと善治郎の首を自分の方に向けさせる。

「ななな、な、何でしょうか、アウラさん?」

 ろくに抵抗も出来なかった善治郎は、目の焦点が合わないくらいの至近距離にアウラの顔を感じ、度盛りながら返答を返す。

「それだ。その、他人行儀名しゃべり方と、さん付けの呼び方。そろそろ、どうにかならぬだろうか? そのような口調、ゼンジロウ殿本来のしゃべり方ではあるまい? 昨日まではともかく、今日からは夫婦となるのだ。

 急に態度を変えろと言うのも無茶やも知れぬが、こう言ったことは形から入った関係がやがて身についてくることもあるという。どうであろうか。貴方本来の口調で話しかけてはくれぬか?」

 確かに、敬語に近い口調を意識的にしていた善治郎は、少し冷静を取り戻し、答える。

「でも、それを言えばアウラ、さんだって」

「私は常にこの口調だ。特に、畏まっているわけではない。だが、そうだな。確かに、夫を呼ぶときにいちいち『ゼンジロウ殿』と呼ぶのは、少々他人行儀ではあるな。

 良かった私も、貴方のことをゼンジロウと呼び捨てにしても良いだろうか?」

 ふわり笑い、アウラはそうねだるように問いかける。

「あ、うん、それは、いいです……いや、いいよ」

「有り難う、ゼンジロウ」

 早速アウラは、善治郎の名前を呼ぶ。

「ささ、貴方も私の名前を呼んでくれまいか、ゼンジロウ」

 まだ、了承もしていないはずなのに、交換条件のようにそう強引に自分の意思を押し通す辺り、流石に交渉になれている女王様といったところか。

 善治郎は、その勢いに押されるようにして答える。

「あ、アウラ……」と。

「ゼンジロウ」

「アウラ」

 息が掛かるほどの至近距離で、顔と顔を寄せ合い互いの名を呼び合う男女。
 やがて、その唇に己の唇を近づけていったのは、どちらが先立っただろうか?

「……ンン」

「……ム、ンウ」

 どちらかともなく、まるでそうすることが自然であると最初から理解してかのように、二人の唇が重なり合う。同時に、善治郎の両腕は、アウラの背中を強く抱きしめ、アウラの両腕は甘えるように善治郎の首に絡みつく。

「……プハア」

「……フウ」

 長く、情熱的な抱擁は、解いたのも二人ほぼ同時だった。
 唇を離したアウラは、善治郎の肩に顎を乗せ、より一層強く抱きつくと、善治郎の耳を擽るように小声で囁く。

「先に寝室に行く。女には準備がある故、ゆっくり百を数えた後、寝室に来てくれ」

「え? あ……」

 そう言い残し、アウラは善治郎の腕の中から抜け出すと、ソファーを立つ。

「あ、アウラ」

 反射的に手を伸ばす善治郎に、アウラは、首だけこちらに向けと妖艶な笑みを浮かべ、

「焦らずとも、逃げはせぬ。百を数えて、それからだ。な?」

 そう言い残し、隣の寝室へと姿をくらますのだった。





「……ふう」

 人足先に寝室へ入ったアウラは、後ろ手でドアを閉めると、まず一つ大きく深呼吸をした。それから、真っ直ぐベッドの横に向かうと、そこに立ててある寝室用のLEDフロアスタンドのスイッチを入れる。
 明るくなった寝室で、アウラは今更ながら、先ほどまでの自分の言動を思い返し、頬を紅潮させ、恥じらいでその豊満な身体をくねらせた。

「こ、これは中々くるものがあるな。世の夫婦は、毎夜毎夜、この様な嬉し恥ずかしい行為を行っているのか?」

 アウラは、赤いイブニングドレスを着た自分の身体を、自らの両腕で抱きしめる。
 心臓がバクバクわれ鐘のようになり、全身の肌という肌が、熱病にでもかかったかのように熱くなっている。

「よ、よもや、ゼンジロウ殿に気づかれたのではあるまいな? い、いや、ああして肌を合わせたのだ。気づかれぬはずはあるまい。……ど、どうすればよいのだ?」

 初夜を期待して、心臓を高鳴らせたり、肌を熱くしたりする。はしたない女だと思われただろうか?
 自分から言い出しておいて、今「ゼンジロウ殿」とまた敬称をつけている事に気づかないほど、アウラは動転していた。
 まあ、それも無理はあるまい。生きてきた年数と、命の掛かった修羅場を潜った数は善治郎に勝るアウラであるが、肝心の異性との経験は「経験人数一人」の善治郎より格下なのである。すなわち、「経験人数ゼロ人」。正真正銘の生娘だ。

 より多くの種をまくことが時には求められる男の王族と違い、確実によりよい血筋の種を腹に受けることが求められる女の王族は、貞操観念がかなりしっかりしている。
 そのため、未婚の女王族は、イコール未経験者であると考えて、ほぼ間違いない。

 さらにいえば、カープァ王国の文化では、男女の仲は男がエスコートするのが一般的とされているのだ。素直にその身を善治郎に委ねても全く問題はないはずなのだが、この期に及んでも余裕があるふりをしたがるのは、女王としての矜持か、はたまた年上としての自負心か。
 ともあれ、赤いイブニングドレスを脱ぎ去り、ショーツ一枚になったアウラは、ウルトラキングサイズのベッドに潜り込み、静かにその時を待つ。

 やがて、聞こえてくるドアをノックする音。

「ッ!」

『ねえ、もう入っても良いかな?』

 ドア越しに聞こえてくる夫の声に、アウラはもう一度深呼吸をすると、いつも通りの平静を装った声で返事をかえす。

「うむ。よいぞ、入ってきてくれ。精一杯、歓迎しよう、ゼンジロウ」

「お、おじゃましま-す。ッ!」

 そう言って恐る恐る入ってきた善治郎は、スタンドライトに照らし出されるアウラの姿を目の当たりにして、思わず息を呑む。

 ベッドに足を組んで横たわり、起こした上半身は胸元の先端ギリギリまでを上掛けで隠し、両手でそっと抑えている。

「おや、いつまでそこで惚けているつもりだ、ゼンジロウ。遠慮は要らぬ。ほら、私の横に来てくれ」

 そう、妖艶な表情で善治郎を誘うアウラの様子からは、先ほどまでの可愛らしい動揺の影は欠片も見受けられなかった。
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