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ジグソー家族
作:車海老



PIECE11:旅人に死に場所を


私が通学する際、必ず用いる交通手段の中に電車とバスが含まれている。

簡単にまとめると、最寄りの駅から都市部を目指して進み、そこから出ているバスに乗り換え、学校近くのバス停に行き着く、といった感じだ。

家から最寄りの駅は、新幹線の通る都市部に続く線路の途中に位置しているため、通る電車の乗車率も意外と高い。

ほぼ毎日利用する見慣れた人の数の上に、不定期に見るような人の数が加えられ、基本的に後者の上がり下がりにより、その日の座席の確保の難易度が設定される。

今日は比較的空いていたため、連なる座席の内、出入り口近くの部位に腰をおろすことが出来た。

座席に座ると確かに楽だが、外に流れる風景を見ずらいのが難点だ。

振り返り見るのは幼い気がするし、向かいに人が座っていると目があったときなど気恥ずかしいため、満足に楽しむこともできない。

電車の中で立つ楽しみ、楽を求める風潮に逆らえない私には得難いもの。

ふて寝をするのもおかしな気がするので、自然を演じるため、膝の上の鞄から文庫本を取り出す。

表紙に書かれた題名は安物のブックカバーで隠れているが、ページの上には『旅人に死に場所を』と記されている。

何と陰鬱なタイトル、仮にブックカバー無しだったとしたなら、周りの人たちは私から少し距離を取ってしまうだろう。

しかし、だとしても気にしない理由もあることには、確かにある。

この本は、親友君に勧められて買ったものだが、今では私自身も、とても気に入っているのだ。

おおまかに説明すれば、死期を悟った旅人が幼い頃の記憶と仲間の地図職人を頼りに生家を探す道中を描いた物語だ。

『魅力的な世界観と、毎日を真剣に生きようとする旅人に惹かれる一冊』

彼は、私がこの本を持ってレジに並んでいた間、そのような概要をより熱く事細かに語っていた。

実際に読んでみると、そこには、ファンタジーと安易に位置付けられないものがいくつかあった事に驚かされた。

しかし、彼が熱くなるのはその対象が彼にとって『本物』と認識された時だけなので、ある意味では、逆に驚かなかった。

続編が刊行されていたのをその時見たことから、一巻に当たるこの一冊では、まだ主人公が死ぬということは無いらしい。

見ている限り、彼の熱の入り方は、私が比にならないほど凄まじい。

彼にこの作品に於ける登場人物それぞれの心理を語らせた物を論文にして発表すれば、そっち関係から沢山お誘いがきそうなほど、事の詳細を自分の考察も併せて述べることができるのだ。

……そのような彼を見れたことも、私がこれを若干贔屓目にして、おもしろいと思っている一因かもしれない。

厚くないから持ち運びも楽で、薄くもないから読み応えも十分あり、移動中の一時に読むのに適している点も好ましい。

栞を目印に開くと偶然にも、寝台特急のベッドの上で横になっているという場面だった。

主人公が目をつむると、『寝床の揺れから母の背を、車輪の音から母の子守歌を思い、より強く望郷の念を抱いた』と書かれている。

この物語は作者の頭の中に広がる夢想の世界、そこで暮らす彼らと共に生きることは出来ない。

だが今この時だけは、本から目を離しても、目を瞑れば、主人公が傍らで寝息をたてているのが聞こえるような気がした。

線路の枕木を車輪が越えるたび、だんだんと深い眠りへと引き込まれる。

「次は窯炉かまろ、窯炉駅でございます。寝過ごさないよう、十二分にご注意くださいませ」

窯炉駅とは、私が電車からバスへと乗り換えなければならない場所だ。

悲しいかな、ここから更にバスに乗り込んだとしても、二十分かかってしまうのだから。

ひとまず私を浅い眠りから覚ましてくれた、エセ車掌さんに礼を述べておかなければ。

「……よみし、ありがとう。でもそれ、はっきり言って似てない」

目の前の吊革に右手をかけて、こちらを見下ろしているのは、ボサボサ頭の親友君だった。


「全然構わねえよ。俺がなりたいのは、『車掌』じゃなくて、『測量士』だからな。……これ、前にも言わなかったか?」

既視感がどこかにあった彼は不満げに、椅子に座った私に訪ね聞く。

「それより、居たのならもっと早く声をかけてください。じっと黙って見ていたなんて、……少し趣味が悪いですよ?」

非難を込めて見返すと、彼は申し訳なさそうに破顔一笑すると、私の膝の上に置かれた本を左手で持った鞄の角を使って指し示す。

「……それって、あの本だろ?」

その通りなので、腑に落ちないものの、頷いた。

「やはりな。迪が本の余韻に浸っているのを邪魔出来なかったのは、俺のモラルにその本がシンパシーをかけたためか」

首を窓に向かって曲げると、高層ビルと様々な企業の宣伝文句の書かれた看板が並びはじめ、それは同時に、私にとっての終点が近いことも知らせてくる。

本を鞄の中に収め、出口付近に立ち上がると、駅のベルと共に扉が左右に向かって消え去り、人の波に乗るようにして、階段を降りていく。

嘉はどこだろう?と周りを見れば、すぐ隣で面倒くさそうに歩いている。

彼は私が見ていることに気付くと笑い返し、思い出したように告げる。

「そ〜いや、さっきお前が瞑想してた時、周りの奴らもお前のことを、静かに見てたぞ」

私は知らず知らずの内に恥ずかしい思いをしてしまっていたのか。

歩くペースを上げ、その目撃者たちから少しでも離れようとした。

あくまでマイペースを貫く嘉は、また直ぐに会うその後ろ姿を目で追いながら、迪には聞こえないことを確認した上で、もう一言を付け加える。






「呆れてたんじゃない、……見とれてたんだよ」












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