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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

もう済んだことだろ? ~昔いじめてた奴にそう言ってしまったばかりに……~

作者:冷えた麦茶
その日、赤網(あかあみ)小学校では同窓会が開かれていた。同窓会といっても集まっているのは卒業してから5年しか経っていない高校生ばかりだ。この少し早めの同窓会は赤網小学校では25年前より行われている恒例行事だ。

見違えるように変わった数年ぶりに会う懐かしい仲間達を相手に、お互いの近況報告や思い出話に花を咲かせ楽しい時間を過ごした彼らはまたそれぞれの道に帰っていった。

卒業生の一人、6年2組卒業生の磯石(いそいし) 郁雄(いくお)は帰り道、一人でいるところを呼び止められた。振り返るとそこには同じクラスの卒業生、牛内(うしうち) 海人(うみと)がいた。 彼はいきり立った顔で磯石をにらみつけている。

「なんだよ」、磯石がそう返すと牛内は「お前、自分がなにをしたのか覚えてないのか」と言い出した。牛内によると磯石に小学校、中学校と散々にいじめられた、そのことを謝れと言うのだ。

ああ、そういえばこいつで遊んでやったっけ、磯石は懐かしい思い出を振り返った。小学校の頃はからかってやると反応が面白いのでよく仲間と一緒にバカにして遊んだものだ。中学校に入ると校舎裏で殴ったり倉庫に閉じ込めたりと更にエスカレートしてそれはそれは楽しかった。

牛内の家はそれなりに金があったのでカツアゲをしたり家の貯金を下ろさせて学校に持ってこさせては遊ぶ金に使ったものだ、いい資金源になってくれた。

(なんだ、こいつそんなことを恨んでるのか)

磯石はそう思った。彼は自分が牛内にやったことが悪いことだとは何一つ思っていない。そもそも良い悪いという概念は他人に押し付けるべきものであり、他人に傷つけられたことを責め立てるのに使うのはおかしい、そう磯石は思っている。

そもそもいじめられるような人間に生まれ育つのが悪いのでありそれは牛内の責任である。むしろそういう劣った人間が社会に出る前に潰してやって、社会に迷惑をかける事を未然に防いでいるのだから感謝してほしいと思う、それが磯石の価値観だ。

高校は牛内とは別の学校になったが、高校に入っても社会の落ちこぼれであるいじめられっ子をいじめる事で社会に出る前に芽を摘み、ゴミを掃除するという奉仕活動は継続中だ。

大体、そんな前のことをいまさら持ち出して文句を言う姿勢が男らしくない。そんなことだからいじめられるのだ。磯石はそう思い、侮蔑するような薄ら笑いを浮かべながら牛内にこう告げた。

「もう済んだことだろ?いつまでも昔のことを引きずるなよ」

磯石がそう言った途端、牛内は隠し持っていたハンマーを持ち出し磯石の頭を殴りつけた。磯石は意識を失った。



意識を取り戻した磯石は自分がどこかの廃墟の一室のテーブルの上に縄で縛られて仰向けに固定されていることに気づいた。

あたりをよく見ると学校の近くにあった廃墟の中らしい、よく遊びに来たから覚えている。この廃墟で小学校から中学校にかけて牛内や他のいじめられっ子を連れ込んでは仲間と一緒に殴ったり蹴ったり虫の死骸や犬のフンを食わせたりして遊んだものだった。

しばらくすると牛内が部屋の中に入ってきた。

「俺をどうするつもりだ」

そう言ったが牛内は反応せずに無言でノコギリを取り出す。

「お、お前、そ、それをどうするつもりだ……?」

その内容は聞くまでもなく磯石はわかっていた、ただそれを信じたくなかっただけだ。牛内は磯石の四肢を無表情で淡々と切り落とした。

廃墟の中に磯石の狂ったような叫び声が響き渡る。苦しい、死にたい、磯石はそう思った。しかし牛内はどこで覚えたのか切り落とした四肢の切り口を丁寧に止血したために磯石は生きながらえることとなった。

(こいつ、俺を生かさず殺さずで長く苦しめようとしているんだ……
 やめろ!死なせろ!殺せ!殺してくれ!)

磯石の願いは虚しく、牛内は四肢を切断された磯石の身体を火で焙ったり、歯を一本一本抜いたり、耳を切り落とすといった残虐な行為を「かつて遊んでもらった相手」に対して執拗に行った。

そして、地獄のような拷問の末に、牛内は全てを終わらせようとしているのか、先ほどのハンマーを取り出して磯石の脳天に打ちつけようとした。

(お、俺はこれで死ぬのか……)

磯石は恐怖と絶望と、そして「ようやく終わる」というわずかな安堵感の中にいた。しかし、牛内はなにを思ったのかハンマーを持った手を収め、ポケットから取り出した携帯で電話をかけはじめた。

「警察ですか?今、赤網小学校の裏にある廃墟……、
 はい、あの市の施設だったところの、
 そこで今、人の手と足を切り落として……、いえ、やったのは僕です。
 はい、待っていますので捕まえに来てください、お願いします。
 はい、その人は今のところ無事です、ちゃんと止血もしてますから」

そう言うと牛内は携帯を再びポケットに収めて磯石の方を振り向いた、そして笑顔で言うのだった。

「お前の言うとおり、もう済んだことだもんね。
 いつまでも恨んでいても仕方がない。
 だから僕、お前を殺すのをやめるよ。これで許してあげる」

磯石はその言葉を聞くと同時に気を失った。



事件から5年の時が流れた。自力で生活が出来なくなった磯石は家族から見放され施設に入れられ余生を過ごすこととなった。

四肢を切り落とされ、歯も全て失い、また事件の時のストレスから失語症にもなり声も出せなくなっていた。

この5年間、これからの人生に対する絶望に苛まれると同時に、どれだけあの牛内を憎んできたことだろう。あの卑劣な男は憎んでも憎みきれるものではない。

「弱い方が悪い、被害にあう方が悪い」
磯石はそういった持論を信奉しており今でもその論理が正しいと信じている。彼のその論理に当てはめるなら牛内の暴行の被害を受けた磯石自身は悪となる。

しかし、彼の信じるその論理は他人に適用されるべきものであって彼自身に適用されるべきものではない。だからあの事件に関しては悪いのは全面的に牛内であり自分に否はないのだ。磯石はそのようにあの事件を受け止めていた。

彼は生まれつき自省するということを知らない、そしてだからこそ他人に自省を求めることができるのである。「他人のせいにするな」と言いながら自分はあらゆる物事を平然と他人や世の中のせいにできるのだ。

この5年間、磯石にとって楽しいことはなにもなかった。唯一あったとすれば、牛内の家が自分への慰謝料の支払いや息子の犯した犯罪に対する世間からのバッシングを受けて一家離散したらしいという話を聞いたことくらいだった。

磯石にとっては牛内とその家族が不幸な目にあっているという事だけが、彼の人生にとって今唯一の希望となっているのだ。



今日もまた退屈な一日が始まる。深い絶望と共に目を覚ました磯石の元に施設の介護士が声をかけた。

「磯石さん、お客さんが見えてますよ。お友達です。」

部屋の中に20代前半くらいの一人の男が入ってきた。あの男だ、大分顔つきは変わったが忘れもしないあの男だ、牛内だ。

牛内は表情が明るくなっていた。昔のように暗そうでジメジメしていたあの牛内とは打って変わって、自身に満ちた明るい顔をして磯石のベッドの側に椅子を持って来て座った。

「やあ、僕は牛内だよ。覚えている?
 2年前に少年院出て、今は支援者の人のところで住みながら
 弁護士目指して勉強してるんだ。」

磯石の心の中に激しい憎悪が燃え盛るように湧き上がってきた。弁護士だ?俺はこうやってベッドの上で動けない生活を強いられているのに、どうしてお前は自分の好きなように人生を送っているのだ。

「支援者の人達がいい仕事を紹介してくれてね、
 今は弁護士の先生のところで働かせてもらっているんだ。
 結構いい生活してるよ」

仕事まで持ってるのか、俺はこんなみじめな人生を送らされているのに。死ね、地獄に落ちろ、磯石は心の底からそう思った。

磯石の希望が一つ打ち砕かれた、牛内はみじめな生活をしているはずだった、していなければならないはずだ。それなのに……。牛内の話は作り話だ、と思い込もうとした、しかし目の前の自身に満ち溢れた牛内を前にしては、そのように信じ込もうにも信じ込めるものではない、おそらく彼の話は本当だろう。

「なんか、僕の家族、みんなバラバラになっちゃったらしいんだ。
 まあどうでもいいけどねあんな家族、僕が君にいじめられていても
 『いじめられるお前が悪い』とか言ってなにもしてくれなかったからね」

そしてもう一つの希望を磯石は再び打ち砕かれてしまった。牛内は自分の家族を疎ましく思っていたのだ。牛内は磯石のそんな気持ちなど露知らず、上機嫌で話を続けるのだった。

「しかしね、君にあんな酷いことをしてからわかった事があるんだ。
 どうも世の中の人ってのは加害者って存在に極端に甘いらしいんだよね。
 僕が捕まった時も警察の人達は真剣に僕の話を聞いてくれたし、
 テレビとか見ると世の中の人も僕に同情的な声が多かったらしい。
 変な話だよね、それまで君たちにどれだけ酷い目に合わせられても
 誰もまともに話を聞いてくれなかったのにさ」

牛内は口に歪んだ笑みを浮かべながら得意げに話を続けた。

「世の中ってのはいじめにあう人間を虫ケラみたいに扱う癖に、
 いじめにあった人間が報復をすると急に手のひらを返して称賛するんだ。
 要するにみんな僕達が被害者だから優しくしてくれなかったのさ、
 そして僕が加害者になった途端手のひらを返したんだ」

その論理を磯石はこの5年間で身をもって知らされた。事件が起きてから学校の連中は誰一人、自分を見舞いになんて来てくれなかった。親ですら鬱陶しそうに自分を扱っているのはわかっていた。

結局世の中は加害者にならなければ生きることを許されないのだ、そして自分はこの目の前の元被害者に、自分が加害者に返り咲く可能性を永遠に奪われてしまったのだ。

許せない、お前のせいだ、牛内お前が全部悪い。お前さえいなければ……。磯石は牛内を全身全霊を込めて睨み付けた、体を動かすことができず声も出せない今の彼にとってそれだけが出来る唯一の抵抗だった。

牛内は勝ち誇ったような顔をして席を立ちあがり磯石の部屋から出ようとする。彼が入り口のドアノブに手をかけた時、磯石は絞り出すような声を出した。

「おまえ……おまえの……せいだ……おまえなんて……しんでしまえ……
 くるしめ……くるしみぬいて……しんでしまえ……」

5年ぶりに出す声だった、5年間の恨みを全て込めた地獄の底からの怨嗟のような声だった。牛内は磯石の言葉に笑顔で返答した。

「もう済んだことだろ?いつまでも昔のことを引きずるなよ」

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