女怪獣三体+α 南海の死闘
1
ぐぼああ……ふう……。
もうずっとトイレで吐いているが吐き気はおさまらない。
さっきの目に浮かんだ光景が脳に焼き付いてはなれない。
確かに網膜に映し出され焼きついたその光景が。
人は肉に過ぎないのに、それが皮を着ているに過ぎないのに……。
なぜこんなに心があって、でも殺すと壊れる。あぁ、それは、なんて。
壊れた物は帰ってこない死体骸骨火葬場へ入る遺骸戻ったときはただの骸骨喉仏などの仏を取り出しあとは頭蓋骨を割り蓋をするああごばめ。
それは違う違う今回は。
彼女の美しい顔。
その顔面の目から入った竹刀は眼球をつぶし心である脳をも破壊していく命を破壊しながら棒はは後頭部を貫通し脳漿と血が撒き散らされて、ぐぼうべ。
血が、広がって、広がって、まさかあれが俺の欲望……?
そうして吐き続ける。
何度も、何度も、あ、もう出る未消化物もない。
これは……胃液、か?
出血し血が混じっている。うぼあ。
痛い、喉が。
喉……切れてる?
さらに限界を超えた肉体行使をしたからか、全身の筋肉が悲鳴を上げている。
これは俺の能力の欠点でもある。
俺の住んでた集落の中にも二種類の能力者がいた。
細かくは人それぞれだが大きくわけると肉体強化型と精神干渉型だ。
俺の家は代々精神干渉型の宗家だったから俺も当然精神干渉型だ。
肉体強化型は能力の行使することによってその間は純粋に肉体が強化される。
よって長時間人間離れした動きも出来るらしい。
しかし俺のような精神干渉型は本来身体能力は常人と同じままだ。
だから戦闘のときは相手の精神に侵入して相手を壊す、または操るか、あるいは相手がどう動くかを読みとると教わった。
つまり敵の行動の情報を読込しそれに対する最適の方法を検索する戦闘方法がとるのだ。
しかし稀に強力な能力を持つ物は自分にも能力を侵入させることが出来る。
本来能力者には皆、能力に対する抵抗力がある。能力に対してのプロテクトがかかっているのだ。
それは自身の能力にも例外ではない。よって自分の能力の影響を自分が受けることは無い。
しかし強力な能力を持つ物はあえて自身のプロテクトを突破し自分の精神に自らの能力を侵入させることが出来る。
今回俺が使っってしまったのはこの方法で自分の精神に自分で干渉することによって、自分の脳のリミッターを解除し自分の肉体の能力を限界以上まで行使する方法だ。
よって肉体自体は強化されていないので長時間の行使は禁止だ。
肉体の限界を超えているのだから最悪の場合肉体の強度がが持たずに空中分解するらしい。
親父の話によると曾爺さんはそれが原因で身体が崩れて死んだと言う話だ。
いやあ、その死に方はホラーだね。ああイヤダいやだ。
と……。
別のこと考えたのが良かったのかやっと吐き気が収まった。
それにしてもさっきの幻覚はなんだったんだ?
あんなの初めてだぜ。
あんな嫌な、目から竹刀が入って……。
ってオエッ! うわあああっ!!!
また思い出したら吐き気が出てきた!
って言うか思い出したらダメだろ俺の馬鹿野郎ッ!!!
そうして出る物もなくただただ唾液と胃液と血の混ざった液体を吐き続ける。
痛い痛い痛いいた……早く収まれッ!!
止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれええッ!!!
ならば、俺が……。
能力開放
幕間1
武田由里香SIDE
殺されると思った。
こちらの竹刀が飛ばされ無呆然として無防備になっていたあの瞬間。
初めて死の恐怖を感じた。あれが本物の殺気。
今の最上零児との戦闘を思い返し背筋に震えが走る。
しかし、戦いに夢中で私も能力を知らないうちに使ってしまった。
今の私攻撃は、本来は当たっただけで骨折はするという打撃だ。さらには防具もしていない。
当たっていたら大変なことになっただろう。
しかし私も迂闊だったが、あの一撃が並の人間に受け止められるわけはない。
しかし彼はそれを受け止めた。だけでは無く私の竹刀を吹き飛ばした。
さらにあの戦闘の途中から感じていたあの感覚。あの匂い。
夢中で戦っていたから確かではないがあの感覚は……。
となると考えられるのは……彼も能力者?
しかしそうなると辻褄が合わないことが出てくる。
研究者の話によると、欲望に正直になってしまう初期に精製された能力者。
その本来の能力者たちは皆能力を開放していない時点でもきわめて自己中心的らしい。
しかし彼の性格はその正反対な物だ。
さらに本来能力者は能力を開放すると欲望に忠実になり特に殺戮を好む面を持つ。
だから彼がもしも能力者ならあそこで間違いなく私は殺されていた
しかし彼は私を殺さなかった。
さらに情報によると今この町にいる能力者はハッカータイプの若い赤毛の男だけらしい。
ならば、彼は、いったい……?
「ねえ、大丈夫ユリちゃん?」
あ、この声は……ひかり……か。
「あ、ああ。すまない。大丈夫だ」
「そう、良かった。でもユリちゃんこんなに強かったんだね。いつも一瞬で勝負がついてるところしか見たこと無いからわからなかったけどすっごい動きしてたよ?」
「そ、そうかな?」
「うん、もうなんていうか速すぎてよくわからなかったもん」
「あ、まあ……」
拙い、本気を出しすぎて変に思われて無いだろうか。
「あと最上君凄かったね。ユリちゃんのあの動きについて来て最終的には勝っちゃうんだもん。最上君ってあんなに強かったんだぁ」
「ああ。確かに彼は、強い」
そう、彼は強い。
最初のほう、彼は確かに能力を使ってなかった。にもかかわらず私の攻撃をよけ続けた。
私も伊達に何年も剣道をやってきたわけではない。並の人間なら一撃で倒せる自信もある。
しかしその私の攻撃をよけ続けた彼は間違いなくもともとの運動神経もよく、さらにずば抜けた格闘センスを持っている。
特にあの瞬間の判断力。
剣道のセオリー通りにしか動けない自分では思いつかない動きだ。
ああ、勿論怖かったのだけど、こんなに全力で戦えて、そしてこんなに楽しかった試合は初めてだ。
もう一度……今度は気をつけて力を使わないようにするからまた彼と試合がしたい。
強くそう思う。
そうだ。こうなったら彼には何とかして剣道部に入ってもらわねば……。
と、そんなことを考えていたら最上零児が帰ってきた。
「うっぷ、ふう、すまん。迷惑かけたな……」
「最上君!」
「ちょっと、大丈夫なの?」
ふう。確かに顔色は悪いが、あれ、調子が悪いって、もしかしてチャンスか?
「ああ、実は昼飯食ったのが遅くてちょうど満腹だったんだって。それでいきなり動いたもんだからちょっと気持ち悪くなっただけだって」
またそんな下手な嘘を。
見るといい。明らかに先生も光も納得していない顔をしているではないか。
まあそんなことはどうでもいいのだが。
取り合えずもう一回勝負して何とか勝ってさっきの約束通り彼には剣道部に入ってもらわなねば。
とりあえず……。
「最上零児!」
「ひいっ、あ、あんたか。って、おえ……」
そうして、突然私の顔を見ると何かを思い出したようにえずく最上零児。
「む、人の顔を見てオエッと来るとは随分いい度胸だな。そんなに私の顔は醜いか?」
「いや、そんなことは無い……ちょっと」
「ふん、まあいい。いや、良くはないが後で追及さしてもらう。取り合えずもう一試合だ。早いとこ私が勝って君には剣道部員になってもらうからな?」
「って、あの賭けってまだ続いてたのか……っつうか俺それいいって言ってないのに」
「ええい、男ならごちゃごちゃ言うんじゃない! さあ竹刀を取れ!」
「ちょっと、マジ今日は堪忍してくれ。死んでしまう」
「泣き言を聴く耳は無い。さあ、行くぞっ!」
「いやあああっ! ちょっと、マジ今日はもう。誰か……助けて」
と、光が間に入ってきた。
「ちょっとユリちゃん? 最上君も調子悪そうなんだし、そんな状態でやったってフェアじゃないでしょ?」
「う、それはそうだが……。しかし」
「もう。あんまり聞き分けないと本当に怒るよ?」
「ぐ……。わかった。最上零児、今日の所は見逃してやる!」
「そ、そうか? ああ、ありがとう片山さん。き、キミは命の恩人だああっ!」
「へっ? い、いや、そそそんなことないよ? 私こそ最上君にはほんとに感謝してるんだからね」
む、光の顔が赤いな。
「いや、本当にありがとう。君が居なければ俺は今日殺されていたかもしれない」
殺すって、誰がだ?
まったく、この男……私を一体なんだと。
「む……。失礼な物言いをするのだな。それより最上零児。明日は暇か?」
「うぅ、暇と言えば暇だけど、なぜにそげなこと聞くかんね?」
「その言葉遣いの意味はわからないがまあいい。そうか。暇か。ならば明日も来てくれ。そうして明日こそは私が勝つからさっさと剣道部員になれ」
「はてな? …………ってなんじゃそりゃーっ! 来るわけねーだろこのアホ! 俺はね、入らないの。勝ったんだし」
「そんなにつれない事を言うな。いいじゃないか」
そう言って最上零児にしか聞こえないように話すため彼に擦り寄りそのの耳元に口を寄せる。
「次からは生身で戦うから……」
「へ?」
と何か最上零児は意外そうな顔をしてこちらを見た。
「ッて何やってるのよユリちゃんッ!! そんなに接近しちゃダメーッ!!」
「ええ、先生命令よ! 今すぐ離れなさい!!」
む、何を勘違いして……って。
成程、う、よく見たら私、結構すごい格好だな。
最上零児の肩をつかんで顔を引き寄せて耳元に口を寄せていると言うのは……。
その、なんだ。少し恥ずかしい格好ではある。
そうして最上零児のほうを見ると……彼も顔を赤くして無言で私のほうを見ている。
なんだ、存外ウブなのだな。と、私も人のことは言えないらしい。
その以外に整った顔の潤んだ瞳を見ていると……なんだか変な気分になる。
顔が火照っているのが判る。自分の鼓動音がうるさい。
なんだ? この感覚は……初めて、こんな。
「だから離れてよユリちゃん! ッてなに見詰め合ってるのよー!?」
「先生の言うことが聞けないの武田さん!? 離れなさいって言ってるでしょう」
ハッ! いけない。ちゃんと二人に釈明しなくては……。
「いやそのコレはだな、べべべべつに二人の邪魔をしようとかそういうのではないんだじょつッ?」
いかん。噛んだ。
「だじょつって、めちゃくちゃどもってて怪しいじゃないのよ。うわーん! ユリちゃんが裏切ったよー!」
「そんな……まさか武田さんまで」
「いや、だから違うと言っているではないか。零児も何とか言ったらどうだ」
「は? 今なんて?」
となぜか最上零児は意外そうな顔をした。
ブチッ!
「「零児ですってーッ!?」」
む……。
「ねえ、今なんて言ったのユリちゃん!?」
「ねえ、今なんて言ったの、武田さん!?」
「いや、零児も何とか言ったらどうだと……」
「「だから零児ですってーッ!!?」」
はてな? 何か間違えたか……?
「ああ。あれ、もしかして君は零児と言う名前じゃないのか? なら「もがみれ・いじ」とか「もが・みれいじ」とかそんな……」
「いや、零児で合ってる。って言うかそんな名前いやだ」
「うん。そうだろう? 何か変だったか?」
「だからなんで名前呼び捨てなのよ!? 私だって……」
「そうよ。それにどうして武田さんは突然呼び捨てに……。せめて最上と呼べばいいじゃないのよ!?」
むぅ。良くわからないがそれは気に入らない。
「いや、私がそう呼ぶと決めた。ダメか零児?」
「いや、別に……」
「え、最上君いいとか言っちゃうの? そんな……」
「裏切るのね。最上君……」
「うわー、もうなんなんだよコレ? っつうか何? 何この空気? いやだ俺もうおうち帰るー!」
「待ってよ最上君!」
「待ちなさい最上君!」
「まて! 零児!」
「だからなんでユリちゃん呼び捨てなのよー!」
「そうよ。取り消しなさい。わたしなんか立場的に名前で呼びにくんだからね!?」
「うわあああっ! つうかいい加減にしろよ! 俺の呼び方なんかどうだっていいじゃないかよーッ!?」
「「「良くない!!」」」
「ってなんでだああッ!!つぴきゃーーーーーーーーッ!! いい加減にしろーぽぺらペーーーーッ!!!!」
「あ……最上君が壊れた……」
ふ、ふふふふふ。楽しいな。初めてだ、こんな気持ち。
2
うがーふざけんなばひゅー俺は帰るんじゃアホー
「・え……わる……」
今日は速く帰らないとマジで鏡子姉さんに殺されるかも知れねえじゃねえかようだからかえるの帰るのー。
「っと……だい……」
ああ帰るぜ外もう暗いじゃねえかよう。……らりほーらりほーらりほー。
ん……何か聞こえるな……。
「ねぇ、悪かったから、ごめん」
と、ケンカは収まったのか。
「ふぅ、もう落ち着いたか? 三人とも」
「ッてそれは最上君の話よ! いい加減に落ち着いた? まったくもう」
う、怒られちまった。
「あ、あぁ、流石に悪かった。ちょっとはっちゃけ過ぎたかな?」
「ああ、流石に引いたぞ」
グサッ。武田さんの精神攻撃。零児はガラスのハートに108のダメージを受けた。
零児は力つきた。
「じゃなくてっ、悪かったな。でもおまいら三人も悪いんだからな?」
「おまいら? まあいい。確かに少し大人気なかった」
「うん。ちょっとね。ゴメンね最上君?」
「ふぅ。確かに教師ともあろう私が……とりみだしたわ。ごめんなさい」
よし。三人とも反省してくれたな。
「ってもう外真っ暗じゃねえか。帰ろうぜ」
「そうね。あ、最上君? 途中まで一緒に帰りましょ?」
「あ……わたしも、いいかな?」
「光が行くなら私もだ」
「よし、じゃあみんなで帰ろうぜ」
3
と、言うわけで下校ターイム!
そうして皆で闘技場の鍵を閉めて外に出る。
日はすでに沈みあたりはすでに真っ暗になっている。空気が冷たい。
春とは言え流石に流石に少し冷えるな。
そうして校門の所に来たときに謎の人影が見えた。
あれは……よくは見えないが二人の男女か?
同年代くらいと思われる女の子とそれより少し小さい男の子。
見た感じの年齢からいくと……姉弟か?
にして二人ともやけに美形だな。
「あっ、姉ちゃん。あの人じゃない?」
「ん、そう……かな」
ん? 何か話しているな。
と、突然その二人はこちらに向かって走ってきた。
「はあ、はあ。やっぱこの人だよ姉ちゃん」
「そ、そうね。その、昨日は本当にありがとうございました」
はてな? 誰に言ってるんだろう。俺こんな二人は知らないし。
そういうわけで後ろを振り返る。
当然誰もいなく校舎が聳え立っているだけだ。
「あれ、もしかして俺?」
「もしかしなくても零児だ。視線を追えばわかるだろう?」
う、相変わらず武田さんは突っ込み厳しい。
「え、でも俺こんな人たち知らんよ?」
「「へ?」」
「いや、俺と会った事あるのあんたら?」
「え、なにいってるんだよ?」
「そんな、昨日は……」
はてな? 昨日はなんだ?
「もーがーみーくーん? 昨日は何してたのかなー?」
「はっ、先生。だから覚えていないんですって!」
「じゃあこの人たちはなんなのよ!」
「いや、取り合えず落ち着いて……それ本当に俺なの? っつうかその俺っぽい人は何してたの?」
「え、その私……実は、昨日」
「いや、姉ちゃんの口からは言いにくいだろ? 俺が話すよ。実は昨日の昼間俺と姉ちゃんが町を歩いてたらいきなり背の高い金髪のヤンキーがいちゃもんつけてきて、それでそいつの仲間たちに路地裏に連れ込まれたあと変なバーの一室に監禁されてたんだ。そのときの奴は……なんか酔っ払ってたのか薬でもやってたのか変な感じだった。で、そのまま夜中になってそいつらがはいってきて二人とも襲われそうになったんだ」
「へ? 二人共って……弟君。君のほうもか?」
「う、そ、そうなんだよ。で、もうどうしようもないってなった時にいきなり貴方がドアを蹴破って入ってきたんですよ」
「へ? そうなの?」
「そうなんです! それで相手は二人いて二人ともナイフ持ってたのに、貴方は肩を刺されながらも一瞬でやっつけちゃったんですよ! ヒーローみたいに強かったですよ!」
と……先生が突然会話に入ってきた。
「ッ……! ねえキミ? その刺されてた肩って左肩じゃなかった?」
「え、ええ。確かそうだったと思います」
「やっぱり。最上君。キミの左肩の傷はそのときのなんじゃない?」
「へ……うーん、そうかもしれないですけど、覚えてないので判らないですね」
と、弟君が不審そうに話してきた。
「本当に覚えていないんですか。あ、でも本当に感謝してるんですよ。あと、コレ忘れ物です」
そういって弟君がポケットから出したものを受け取る。
「ん、コレは、生徒手帳? 2年B組 もがみ、れいじ。本当だ、俺のだ」
「あ、やっぱりそうでしょ?」
「うーむ。まあそれじゃあ俺なんだろうな。まあ夜中だし寝ぼけてたのかな」
と、取り合えずごまかす。
となると昨日意識が無い間は「俺」がそんなことしてたのか。
周りは納得してなさそうだったが特別に追求する動きもなさそうな感じだ。
と……。
「あ、あの……」
突然今度は姉のほうが声をかけてきた。
「はい?」
「あの、コレなんですけど……」
そういって姉はその綺麗な顔を真っ赤に染めて、持っていた袋から綺麗なリボンのついた箱を取り出した。
「あの、良かったら食べてください。本当にお礼にもならないものですけど」
「あ、それ今日姉ちゃんが焼いたクッキーです」
む、中身はクッキーか。甘い物好きの俺としては嬉しいが……。
「ううむ。でもホントに俺がもらっちゃっていいの?」
「はい。最上さんに食べてもらおうと思って焼いたので……」
うぅ、その言葉は正直来る物がある。
と言うかこの顔でこんな風にこんな事頼まれたら断れる奴はいないだろフツー?
「あ、ああ。大切に食べさせてもらうよ。ありがとう」
「いやそんなありがとうだなんて……受け取ってもらえて嬉しいですっ」
「へへっ、よかったな姉ちゃん」
と、その弟君の声でお姉さんのほうは更に顔を赤くしてうつむいてしまった。
うんうん、こういう反応って可愛いよねぇ。
ジーーッ。
う…………。
なぜかおもむろに背中に突き刺さる視線×3。
振り向きたくない……が振り向かないわけにはいかないだろうな。
そうして振り向くとジト目の美女三人。
ええい、もうなんだっつーのさ!
「あのー、なんでしょうかー?」
「そうやって理由なしに人を助けられるのは素晴らしい事だって思うけど……最上君ってそうやって助けたあとの女の子の気持ちには疎いよね」
「そうね、あーあ私も馬鹿な女だなー」
「そうやってあちこちで女性を喰い物にしているんだろう。鬼畜だったのだな零児は。新月の夜は背中に注意した方がいいぞ。刺されかねないからな」
「おいおい、三人そろって何言ってるか訳わかんねえぞ。特に最後の一人。誤解を招きそうなことを言うのはやめなさいっていうかやめて」
っつうかさ、このノリ疲れるって。
「あ、あの」
ほへ、ああ、お姉さんのほうか。
「それで、お礼がコレだけって言うのも、その……」
「あ、そんなん気にしないでいいって。コレだけでも十分嬉しいから」
そういってクッキーの入った箱を持ち上げる
と言うか覚えていない時のことだから本来報酬があるって言うだけで分不相応なんだがな。
「いえっ、それだけではあんまりなんで……出来れば明日にでも私たちの家に招待したいんですけど」
「はあ、それはよろ……」
「ダメだ!」
「ダメです!」
「ダメよ!」
「こんで……って何でチミたち返事してるんだよ!」
「忘れたのか零児? 明日は一緒に仲良く剣道の練習をする約束してただろ?」
「いや、してない。パーフェクトにしてないぞそんなモン?」
「いや、したんだ。零児は馬鹿だから忘れただけだ」
「嘘付けー!」
と……なにか片山さんがぶつぶつ言っている。
「そんな……家に上がって……お礼で出されて飲んだお酒が回って……寝室に運んだとたん最上君の野性が目覚めて……」
はてな? 何を言っているんだろう。
「そんな! いきなりそんなに自宅にあっがって親公認でその……なんて、いくらなんでも早いと思うよ最上君!!」
「いや片山さん、何妄想しているのか知らんがその推測は激しく間違っているぞ!」
「そうよダメよ。ただでさえ実力テスト近いのに……そんな不純異性交遊なんて先生絶対に許さないんだからねーッ!!」
「いや、先生も前提から間違ってますから」
なんだこのボケ軍団は。
って言うかツッコミ疲れた。
とその時。
ピピピピピッ!
響き渡るアラーム音。
む、この何の変哲も無い着信音は……俺のだ。
と言うわけで出る。
ピッ!
「うぎゃあああああああああああああっ!零児早く……早く帰ってきてくれええっ! お前の姉ちゃんに……このままでは鏡子さんに殺されてしまう……プグォワッ!!」
なんじゃこの電話?
「この声は……隆貴か。おい、一応義理で言っておいてやる。大丈夫か?」
と携帯が落ちた音がする。どうやら姉さんにかわったようだ。
「ふふふふふ、隆貴の命は預かったわよ。無事に帰して欲しかったら早く家に帰って着なさーい。そうねー、タイムリミットは10秒後ねー」
いや、それ無理だから。
「それじゃあお姉ちゃん待ってるからねー」
「ぴ……ぴぎゃああああああああああッ!!」
ピッ。
取り合えず、隆貴の犠牲はありがたく受け取っておくか。
そう、我々は勇敢に戦ったさ。
取り合えず携帯に向けて……合掌。
さて、そろそろ十秒経ったな。隆貴が死んでるころだな。
我々のまあ大して愛してはいなかったが一応友人だった松山隆貴は死んだ。何故だ?
馬鹿だからさ。
うん。馬鹿じゃあしょうがないね。
と、今まで騒いでた面子のほうを振り返る。
皆呆然としている。あ、音漏れてたのか。
ちょっと恥ずかしい。
でもこれは……丁度いいチャンスだな。
「と言うわけで皆さん。私は親友を見殺しに出来ないので帰ります。では、あでぃおーっす!」
と言うわけでタッタカター!
さり気なーく、情に厚く見せかけて最上零児はクールに去るのであった!
「逃げたな」
「逃げたわね」
「うん、逃げたね」
あれ? バレてる?
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