きっかけ
序
ふう、今日も空は晴れてるな。平和だぜ。
そうやって今日もこの俺、最上零児は、放課後の学校をポクポクと歩いているのであった。
今日はこの菊城高校の一学期の始業式の日だったのだ。
ちなみに俺は今日2年……になった。
父さんが死んで俺がこっちに来てからもう今年で9年にもなる。
今は親父の兄さん、つまりは伯父さんの家で世話になっている。
親父は今際の際に言った通り普通ほど良い物は無いと思う。
それに俺は今のこの生活を愛しいと思う。
授業は退屈だけど毎日が楽しい学校。
美しい世界。
朝には鳥の歌に迎えられ朝日が昇り、昼間には青い空の下に広がる人々の営み。
風に吹かれる花たちやざわめく木々の枝葉を見ているだけでもとても嬉しい気分になれる。
夕方には屋上から燃えるような夕日が見れるし。
あ……でも夜の星だけは集落に居たときの方が良く見えたかもな。
そして……今日も桜が咲き誇り、そして散っていく。
なんて、綺麗なんだろう。
そして何よりたくさんの人が生きているこの世界。
電車に乗ったときに窓から見えた家の窓の中で人が生活しているのが見えたとき、それが当たり前のことなのにとても驚いてしまった。
それは自分が知らないところで知らない人が生きている不思議。
その明かりの一つ一つに、人の生活が、一人ひとりの人生の物語が存在している。
ずっと狭い世界に居たからだろうか。そんなことにとても感動してしまう。
特に夜に高台から見える沢山の家の灯なんかとても良い。
それは沢山の人の生活が抽象化され一枚の絵になったものだ。
人を感じる……そんな当たり前のことがとても嬉しい。
だから俺は、その普通を壊してしまうかもしれない「力」なんてもの、普段はそうそう使うわけが無いんである。
ああ、父さん。
俺は、今この時代、この場所に居られて、この時間を生きる事ができて、とても幸せです。
1
そうして和みつつポクポク歩いていると何か声が聞えてきた。
「…てく……い」
「…いじ……えか。な?」
はてな?
この放課後の学校で何やってんのかな。
そう思い声の方へ歩いて行く。
と、それはトイレの裏と言う微妙な場所で話している男女の姿だった。
男子の方はこう俺ヤンキーどうYOスゴイッショって感じの金髪ピアスの男。
女の子はこう雰囲気がなんとも可愛らしい感じの女の子だった。
やや茶色い髪の毛をこう、アレだよ……なんて言うんだったっけ?
だからアレだってば、帰ってきたウルト○マンに出てきた怪獣にもいた……。
そう、ツインテール、ツインテールだよ。一般的にはそう言わないかもだけどそうとしか言いようの無い見事な、ツインテール。それにしたのが目を引く可愛い子だった。
ただどうも、雰囲気が少し普通じゃない。
こう女の子が顔を紅くしていて引いていて、男が言い寄ってる感じ。
はっはーん。これはアレだな? 告白って奴じゃね?
そう言えばあの娘可愛い感じでモテそうだし。
はあ。良いねー青春だねー春真っ盛りってか?
若いって良いね。この青春野郎め。
うん、場所はトイレの前って微妙だけどヤンキー君よ。
ぜひとも頑張れよ。同じ男として成功を祈っているぜ。
と邪魔しないようにその場を去ろうとした所でハッキリと声が聞えてきた。
「いい加減にしてください!!!」
「な……? 良いだろ? っつうかさ、俺誰だと思ってんだよ。あんまし舐めてるとさーマジでキレるよ?」
「イヤです」
「しゃあねえなあ。大人しくしてくれないんなら。それじゃあどっか連れ込んで取り合えず写すかな……」
…………。
……………………。
って全然告白じゃないじゃないか!!!
それにさっきからなんか物騒な単語聞えてんな。
キレるって……やっぱりキレる十七才なんだろうか。
あれ?
もしかしていまさら17才はキレるとか思ってるのって古いですか?ロートルですか?
ああそうですかそうですか。ごめんなさい。
「いい加減にしてください。人呼びますよ!?」
「バーカ、この時間のこんな場所に誰もいねえって。だから大人しく俺の言う通りにすりゃ良いんだって。わかる?」
あらあら、そう言ったアホな事を考えているうちにも事態は進展していくのだった。
まいったな、俺が居ますが。
ってそろそろアホな突っ込み入れてる場合じゃねえな。
さすがにこれは見逃せんだろ。
こう俺の在り方としては。
と言うわけでっと……
「ちょっとゴメン。なにしてんの?」
そう声をかけた。
ハッとして俺に気づいた女子のほうは明らかに嬉しそうな顔をしている。
そう思うと俺の行動はプラスなんだろうけど……。
けどけど……俺に気づいたヤンキーはこう心底鬱陶しそうな顔をしている。
うむむ、という事はトータルで歓迎ムード五十パーか。ってなんのこっちゃい。
「あのね、最上君。実はこの人が私に話したいことがあるからって呼び出されて、それで来たんだけど、そしたらいきなり……」
「うるせえっ!!!黙れ!あんまし余計なこと話すとマジぶっ殺すぞ!!」
むむむ……ヌッ殺すですか。穏やかじゃあねえな。
と、男は女の子から目を離して俺のほうに向き直った。
こう、チンピラ特有の気だるそうな仕草をしながら。
「あのさ、お前誰かしらねえけどさ、俺達は今お取り込み中なわけ。わかゆ? 判ったらさっさとどっかうせてくれん? マジウザイから。っつうかオマエだって俺のことくらい知ってるだろ?」
むむぅ、俺コイツのことは知らんのだが……。
視線を女の子の方に向けるとこう視線で行かないでって訴えかけてくる。
ふう、さすがにこれで無視したらやっぱマズいよなあ。
ここは俺が何とかするしか無いか。
「おい!シカトすんな!何とか言えよテメエ!」
と言うわけで取り合えず喧しく怒鳴りたてている相手を観察する。
まず目が行くのは取り合えず背が高い。ガタイがデカイ。
ふう、こんなゴツイ奴正攻法だと疲れるから……。
「舐めやがって…オマエいい加減にしねえとマジでコロ……」
「あ? あ、あぁ。悪い。邪魔したな。すぐ行くからさ」
「す……ってならさっさと失せろよ。マジでさ」
「ああ。悪いな。だけどその前に……」
狙い澄ませて取り合えず金的蹴り!!!
「ふごうっ!!?」
やった、入った!!
なら次は前のめりになった相手の頭部はちょうど拳の位置。
と言うわけでカウンターの形になるようにアッパーカットで止めをせっ!
「へぼしッ!!!」
よっしゃ、ジャアストヒイーット!!!
そうして金髪ヤンキーは奇声と共に地面に倒れ伏した。
敵艦沈黙。
正義は勝つのだッ!
いや、まあ今の俺ちょっと、いや、めっちゃ卑怯だけどさ……。
ふう。でもコイツが悪いんだし、流石にちょっとやりすぎな気もするけど5分もすりゃあ起きるだろ。
と、
「あ、あの……?」
女の子が声をかけてきた。
「ありがとう……」
「お、おう。気にすんなって。俺通りかかっただけだから」
「あのさ、あの、最上君……だよね?」
「あれ、なんで俺知ってるの?」
「うん。だって私達今年から同じクラスだよ?」
はてな? あー、でもそう言われれば、この娘今日の教室で見たかもしれん。
「あ、ああ、ごめん。そう言えばそうだったよね。俺ってさ、人の顔覚えるのが少し苦手でさ」
いやこれホントの話。
「それで君の名前なんて言うの?」
「私? 私は片山光。よろしく」
「ああ、悪い。さすがに覚えた」
「ふふ、別に良いよ。それよりホントにありがとうね」
「ああ、それはいいさ、ホント偶然通りかかっただけなんだから。んだけどさ、コイツ」
そうやって地面に転がってる金髪ヤンキーを軽く蹴る。
「なに言ってたの?」
「それが、あの、そのね……」
「なに、言いにくいことなの? なら良いけど」
「え……いや、そう言うわけじゃ……」
むむむむむぅ、なにか事情があるのだろうか?
でもそうなら、いくら俺が助けたからってこの娘の個人的な問題にまで立ち入る権利があるわけじゃねえしな。
「う……そうだよね、助けてもらったんだし最上君になら……」
「あーなんか考えてるみたいだけど別に話しにくいことなら良いから。じゃあもうこんな事無いように気をつけて帰れよ。また明日なー」
「あっ、ちょっ……ふう、もぅ」
そうして俺はこの場を去ったのだった。最上零児はクールに去るぜ!
まあ正直言うと、この足元に転がっている奴が起きたときの事を考えたくなかっただけなのだがな。
クール&クレバーの最上零児はそうして去っていくのだ。
ふふふふふ、ああ、今日も平和だぜ。
と、後ろから聞こえる片山さんの声。
「最上君ー、また明日ねーっ!」
「おーふ。またなー」
ふう、少し動いて喉も乾いたしなにか飲み物でも買うかな……?
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