面会(4)
幕間1
体育館脇の目立たない入り口から入って人が居ないかどうか確認してから目立たないように、見つからないように気をつけて慎重に前に進む。
隣にいる片山さんもかなり緊張した面持ちでゆっくりと前に進んでいる。でも、不思議とあまり脅えている様子はなさそうな感じ。
凄いよね、相手は暴力不審者なのに、いざって時には強いのね。この子。
あーあ、それにしても私も何やってるんだろうなー、曲りなりにも教師なのにこんな悪い事一緒にやっちゃってて。
最初に最上君に会えればいいけどそうじゃなくて不審者や、或いはそろそろ突入しそうな警官隊とかに先に会っちゃうと話しややこしくなるよね。
って言うか先に不審者に会っちゃたらややこしいじゃすまないか。
でもそういえば何処に行けばいいんだろう。
そうだな……うーん。どこだろ。うーん。うーんうーん。
「どうしたんですか先生? お腹でも痛いんですか?」
こ、この子は……。
「そんな訳無いでしょ! ちょっと考え事してただけよ。何処へ行けばいいのかなーって」
「そうですね……」
「それで思ったんだけどね、やっぱり職員室が一番確率高いんじゃないって思ったんだけど」
「不審者がいたからですか?」
「うん、もし不審者がすでにそこに居なかったとしても居たとしても最上君が中に入る理由っていうのはきっと不審者がらみなんだろうからまず最初にその場所に行くと思うのよ」
「そうですね……それじゃあとりあえず職員室のほうに行くんですね?」
「ええ、そうしましょ。職員室は二階だから……こっちの階段から……」
そうして階段を上っていくとなんかだんだん変な音が聞こえてきた。なんかボケンベケンとか言う金属と木がぶつかるような変な音。
「ねえ片山さん……こっちっぽいわよね?」
「はい。でもあの音は……?」
「う……ま、まあ、行って確かめて見ましょ?」
「そうですね」
そうして階段を上りきって曲がり角から顔を覗かせてみた職員室前の廊下の光景は……理解の範囲外。まあ解りやすくいうと意味不明だった。
まず赤い髪にサングラスにタンクトップて言う意味不明の格好で両手に警棒を持った若い男が一人。多分あれが話の不審者ね。
そしてそれと対峙して……というかそれと木刀で打ち合っている片山さん。どうもあの変な音はその打ち合っている音らしい。
「ユリちゃんと……?」
隣で片山さんが呆然としながらも呟いた。
そう、ユリちゃん「と」なのだ。
さらにその隣のやや奥のほうでは黒い印象のやけに背の高い男。そしてその男の拳を交わしながら突っ込んでいく・・・
「最上君ッ!?」
思わず大声を上げてしまう。
「へ?」
そしてその瞬間最上君の動きが一瞬鈍った。そして口を開く黒い男。
「隙あり・・・だ。」
ベキィ!
「ぐわあぁぁ!」
そう言って黒い男はその長い足で最上君の腹ををカウンターになる形でで思いっきり・・・蹴り上げた。
蹴られた最上君は後に吹き飛んでその後で戦闘してる武田さんたちをも超えて私達のすぐ近くの地面に倒れその後二回転ほど転がって動かなくなった。
「え……?」
何が起きたのか良くわからない。
隣を見てみると片山さんもなにがおきたのかよくわからないみたいで口を開けたままポカンとしている。
何が起きたか全く解らない。全く信じられない。
信じられない、信じられない、これが現実なんてとても信じられない。
何が信じられないって、もうそれは沢山ありすぎて困るけどこの異常な状況や、なんで戦ってるのとか、人間の力で人の体がそんなに飛ぶ訳が無いとかそれはもう色々あるけど何より信じられないのはその蹴られて飛んできたのが最上君だと言う事だ。
だって、あんな攻撃を人体に受けたら普通は死んでしまう
そう、あんな攻撃を受けて生きていられる訳が無い。
と言う事はここに転がっている最上君は死んでいるという事になってしまう。
嘘だ、そんなこと、信じられるわけが無い。最上君が死んでしまうなんて。
私はそのまま呆然と立ち尽くしていた。
と……。
「クッ……零児!」
いち早く状況判断が出来たらしい武田さんが相手の警棒を二本とも吹き飛ばして最上君のところへ駆け寄った。
あ……そうだ、最上君!
「ちょっ、……と、最上君ッ!?」
「ユリちゃん……最上君は? 大丈夫なの!?」
同時に叫ぶ片山さん。
「最上君ッ! 大丈夫なのッ!?」
「起きて、起きてよ最上君、お願いだから……」
急いで駆け寄る。
しかし三人掛かりで声を掛けても揺さぶっても彼は反応しない。
「イヒ、イヒヒヒヒ、アハハうひゃ、うへへ、うひゃひゃひゃひゃ」
「ふむ、すでにチェックメイトか。詰まらん」
後ろから聞える耳障りな声。
一つ気配が立ちあがって……恐らく武田さんだと思うけどそちらへ向かったのはわかったけど私達はそれも気にせずひたすら声を掛けつづけてた。
起きて、眼を開けてと。
だって、私達にはそれくらいしか出来る事が無かったのだから。
1
それは賭けだった。
しかも分の悪い賭けだ。
正直今の自分に人が、特に奴程の手錬を殺せる気はしていなかった。
頭では出来るとは思っていてもそれは失敗の可能性が高いのは何処かでわかっていた。
そして今回は第三者の介入によって賭けに負けた。
しかしそれは彼女達のせいなのだろうか?
いや、恐らく違うのだろう。今回は偶然そうだったがアレが起きなくとも俺は負けていたと思う。
奴の足は俺の身体を破壊した。
その正拳には能力が乗せられていたのだろうか。体は浮き薄れつつある意識の中、自分が空を飛んでいる事は解ったが背中が地面に当たる衝撃でその最後の意識も吹き飛んだ。
そうして、俺の人格は落ちる。
肉体の損傷度合い。内臓破裂に肋骨の骨折。衝撃は背骨にまで渡り脊椎の大きな損傷。
そのままでは死、在るのみ。例え奇跡的に回復しようと脊椎が損傷している以上腰から下は不随となる。
しかし例え最上零児の意識が落ちようと、この身体は永き最上の血脈に守られた一級の肉体。
自分が死ぬ気になっても、肉体はそれを許さない。
肋骨の骨折は短期での修復は不可能。しかし生命の維持に支障を与える内臓の傷はすぐにでも塞ぐ必要がある。
能力装填、そしてトリガーを弾け。
能力を使う事による脳の出血はあるが無視しろ。今求めるはコノ瞬間の生命維持だ。
しかし今生命活動を再開しようが目の前には「敵」がいる。
奴はこちらが生きていることを確認し次第頭を潰すだろう。ならば闘える身体が必要だ。
まずは脊椎。損傷をチェックし今この瞬間を生きるために必要な補強をする。
最低限の肉体稼動領域は得た。ここまでが私の仕事。
あとは、貴方の………。
2
どこかから声が聞える。
これはアレだよ。まさにキリスト教のコラールの題名の「目覚めよと呼ぶ声あり」みたいな?
頭は霞が架かったようで考えは纏らない。でもその声が酷く必死な事は伝わって。心が生きるんだという気持ちが起きた。
そして少しずつ聞えてくる声。
「起きてよ……お願いだから……ねえっ!」
「そうよ……本当は聞えてるんでしょ、もう、もう駄目なの……!?」
ああ、聞えてるとも。すぐに、起きるからさ。
でも、身体は動かずに、彼女達の鳴き声だけが聞えてくる。
それが酷く悲しげで、俺がそんな声を出させてるんだと思うと死にたくもなった。
そしてそこに響き渡る凛とした声。
「ええぃ、光、先生、とにかくここから逃げるんだっ! こいつら、何するかわかったもんじゃあない、こんなの、マトモじゃあ……っ!」
この声は……武田か。
「そんな、だってユリちゃんはっ!?」
「私は、ここで足止めをする。マトモに逃がしてくれる相手でも無いだろうから私は殿だ!」
「そんな……貴方達を置いてなんて……」
「煩いです先生、なんで、なんで来たんですかッ、光だって……危ないのはわかってただろうに!」
「だって……それは……」
「とにかく異論は認めない。早く二人だけでも逃げて……」
ふん、なんかわからんが切羽詰った状況らしいな。あれ、でも、そう言えば俺は、何を……?
「おいおい、俺達二人を相手に何とかするつもりか?」
「勿論、お前はともかくあの男に勝てると思っているほど甘いわけでも無い。でも、時間稼ぎくらいはして見せるッ!」
「ハッ、抜かしやがって。お前なんか脳に穴開けて俺の玩具にしてやるぜ」
「クッ、貴様の物になる位ならいっそ……とにかく早く逃げるんだ」
オイオイ、なんか穏やかじゃあねえなぁ。
「そんな、出来ないよ、ユリちゃんッ!」
「そうよ、そんな酷い事……」
ってこの声は先生と、片山さん……ってそうだ、思い出した、早く起きろ俺っ!
って言うか体が動かん、クソっ! 動け、動けよっ!
「五月蝿いっ! 議論してる時間は無いんだ、行けっ! クソッ、せめて零児さえ健在ならば……」
「オイオイ、女の子がクソなんて言うもんじゃあねえぜ……ってやっと動いたーっ!」
やったぜ、やっと体が動いたけどよりによって第一声がこれかヨ!
「零児……ッ!」
「最上君!」
「最上君……無事なの!?」
「おう……ってイタタタタタ」
そう言いつつ何とか体を起こす。身体の損傷具合は……うん、アバラが数本逝ってる以外は特に問題ねえな。
「ほう」
とそこで耳に入る宗全の感心したようなムカツク声。
「んだよ?」
「あそこから持ち返したか。確かに私の足には貴様の肉体を内蔵も含めて悉く破壊しつく甘美な感触が在った筈なのだがな」
「へえ、残念だったな。あいにくアバラ以外は無事だが?」
「ふむ、貴様程ならばその肉体と血が恐らく死を認めてくれなかったのだろう。相変わらず生き汚さだけは一人前だな」
「ハッ、抜かせ」
「まだ吠えるか。だが……」
そう言って赤毛野郎を押しのけて一歩前に出る宗全。
「それでどうするつもりだ」
「アンタにはここで退場してもらう」
そう言って心を集中して自らに侵入する。
左手は拳を握って頭の前に、右手は身体の後ろでナイフを開きなおし感触を確かめる。
「ほう、面白い冗談だなそれは。どうやってだ?」
「ああ、貴様が精神干渉型ならば、俺は貴様より早く動けるように自らを高める」
ああそうだ、今この現在生き残らなければ死んでしまう。俺だけで無く、皆が死んでしまう。
ならば俺の寿命や身体が痛もうとも、今現在奴を倒す事だけを考えろ。
「ほう、私より早く動く、どうするつもりか知らんがそんな事が可能だと思っているのか最上零児?」
「ああ、出来る……筈だ」
能力を装填しそれを発射する、全てのプロテクトを外すために。
ターゲットは、自分自身の脳。
「ふむ、或いは貴様ならそれが可能かもしれんが、貴様はそれで私に勝てると思っているのか?」
「なに?」
乱されるな乱されるな。プロテクト、解除。
今この瞬間裸になった無防備な俺の脳に誰よりも先に俺の能力を侵入させ行動原理を書きかえる。
「貴様が私より早く動けても私に勝てるわけでは無い。あの村でもそうだ。貴様は叶わぬ夢を見て吠えるだけの負け犬だ。生き汚さだけが取り柄のな。」
「なんだとっ!」
行動原理は何よりも早く、何よりも強く、身体の強度など関係無く、限界を超えてただただ強く、全ての性能を敵を倒す事のためだけに。
限界を 超える。
「貴様の様な出来損ない、赤子一人をも殺せない欠陥品と言う事、教えてやる!」
「宗全……貴様はここで死ね」
そうして、禁行である行為を行う。
頭に入る能力を感じながら。口にする。
「肉体可動制限解除」
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