面会(1)
1
目が覚めた。朝……か?
あれ……俺、は、何を……何か、とても、大切な事を見ていた気が。
何があったんだったっけな。うん……。
思い出せない、な。まあ良いか。思い出せないんなら仕方が無いな。今日は実力テストだし早く起きて準備しなくちゃな。
そうして洗面所に言って顔を洗おうとしてふと自分の顔の異変に気付く。これは……涙の痕?
なんで俺、コレ……は?
そうしてその涙の痕に気付いた途端心がとても寂しくなりまた涙が溢れ出す。
なんで、俺は泣いて……その原因がわからない。
しかしわからないままただ透明な涙は自分の意思に関係なくずっと流れ続けている。おかしいなあ、何も悲しい事なんか無いはずなのに。
しかし、唯一悲しい事があるとすればそれはただただ流れ続けているその涙の原因ががわからない。
その事実だけが何故だか無性に悲しかった。
2
そういうわけで今日は実力テストなんだよね。
そうしてついに目の前に置かれたテスト用紙を前に気合を入れなおす。名前の所に最上零児……っと。そういえば名前書かないと0点になるってホントかな。
フッフッフ、でもさ、俺の名前って結構カッコいいよな。などと自画自賛してみる。まあいいや。
さあ、問題はこれからだ。さてこの実力テストというのはある意味すべてのテストの中で俺的には一番つらい物だ。
何しろ普通のテストは数日に別れて行われるので一日あたりの時間は三時間ずつ位で、日数はあるが一日当たりはそれほどつらくは無い。
しかし、この実力テストというのは主要五科目を一科目50分ずつで一日でテストしてしまおうという物なのだ。
全く日本の教育界は何を考えているんだろうね。少しは生徒の体力の事も考えて欲しいってもんだよ。
そうして一時間目のテストは……よりによって俺の一番苦手な英語だった。
もう何が書いてあるのか全くわからん。なんだかもう外国語読んでるみたいな気分だね。まあ外国語なんだけど。
しかしセンター試験対策なので実は別にマークシートと言う訳ではないが、結構選択問題が多い。
まあ俺は記述問題は答書けないから、せめてコレだけでも埋めておくことにする。
そうして一から六までの数字の書いてある鉛筆を転がす事にする。フッフッフ、まあすべては運任せってことになるがな。
まさに神頼み、ああ、キリエ・エレイソン(主よ憐れみたまえ)……まあ別に俺はキリスト教信者じゃあ無いんだけどね。
でも昔のグレゴリオ聖歌とかはコレとあとキリスト・エレイソンだけで歌詞ができてたりする曲もあるわけだし、神頼みしとくのも良いでしょ。
大体グレゴリオ聖歌と言うのは、六世紀ごろに教皇グレゴリオ一世がローマ中コレで統一せいって命令出して使われるようになった聖歌だったようなムニャムニャ。
だから実に歴史のある呪文(?)だと思うんだよね。うん。
だからそれを使えば少しは運もでるかも知れん。
と言うわけで一問目の四択は……鉛筆の3の数字が書いてある面だから3……と。
二問目は……2だな。三問目は……1。四問目も……1だな。
そうして五問目は……何ぃ! 七択だと!? 俺の鉛筆は六面だから一つ足りんではないか!
ああ、神は俺を見捨てられたのか、ああ、もう神も仏も無いこの魔境。生まれてきた事が最初の悲しみだったのかも知れん。
…………。
まあいいか。俺は神になど頼らんくても大丈夫な男なんだよ。フハハハハハ!
神は死んだ。そんな物はルサンチマンに過ぎん。俺は現実を直視できる「超人」なのだよ。
そうして現実を直視するため問題用紙を見る。
…………うわぁ、何にもわからん。なんか外国語読んでるみたいだよ。まあ外国語なんだけど。
あ、コレさっきも言ったな。
幕間一 片山光side
そうして名前を書いて私の実力テストは始まった……始まったわけなんだけど。
集中できない。いや、確かに長すぎる一日になるであろう今日のこれからのテストを考えて気が滅入っているって言うのもあるんだけど。
一番の原因はさっきから聞こえる……。
コロコロコロ……カラコロコロ……。
って言う音なんだよね。
ああもう……うるさいなぁ。この静かなテスト中の教室で音がすると集中できないじゃないもう!
いったい誰よ、多分松山君かな……?
そうやって松山君のほうを見ると……さすがに今日は来ているのはいいんだけど……開始五分にして……寝てる。
金髪の頭を机に突っ伏して……お休み中みたい。まさかもう全問解いたとか……訳無いよね。
良いのかな……まあ良いか。松山君だし。でもそうなるとこの音はいったい誰が?
そうして音のほうを辿ると……うわぁ。
よりによって最上君だった。しかも音の発信源は鉛筆。どうやら鉛筆を転がしてその面で選択問題の答を決めているみたい。
ふと先生のほうを見てみる。と……監督に来ている山園先生も最上君の方を見て頭を抱えてる。
それはそうだよね。何しろ自分の気にしている生徒があんな問題の解きかたしてたら。
でも最上君どうするんだろ。問5なんだけど……七択だよ?
そうして最上君のほうを見てみると……どうやら彼も問5に到達したらしい。
そうして突然顔面蒼白になって頭を抱えて机に突っ伏す。うん、わかりやすい反応だね。でもどうするんだろ。
そんなことしてても問題は解けないけど。
そうして最上君を観察してたら突然彼は顔を上げて晴れ晴れとした表情で問題用紙に向き合った。
ああもう、何がなんだか訳がわかんないよ……って!
もう時間十分も過ぎてるじゃない。自分の問題とかなくちゃ、時間なくなっちゃうよ。
3
そうして一時間目が終わった。結果は……うわはははは、そんな事はどうでもいいじゃないか。そうなんだ。そうだぜー。
故に俺は後悔しないぜっ! すべては覚悟の上。過ぎた事は過ぎた事だもんねー。過去に囚われるほど愚かじゃないもんねー。
っつーか実力テストなんて成績ほとんど影響しないからいいんだよ別にさ。
と……金色の頭を揺らしながら隆貴が話しかけてきた。
「よう零児。今のどうだった?」
「くっ……武士の情けだ。聞かないでくれ。まあそれでもお前よりはマシだと思うけど」
「ひどっ!」
「にしても、お前久しぶりに学校来たよな。何、今日実力テストだから流石に出ないとマズイって思った?」
「いんや、久々に暇つぶしガッコでも行くかなと思って来たらテストだった。全く、こんなんなら来るんじゃなかったぜ」
うわぁ……。
「流石我がクラス馬鹿代表のお前だな」
ちなみに俺も昨日までテストの存在を忘れていたのは黙っておく。まあわざわざ相手に自分の弱みを見せる事もあるめえ。
「そんな称号いらんて。にしてもさ……」
「何だ?」
「ちょっと聞いてみこのクラスから聞こえる話し声を……」
「ん……」
そうしてクラスから聞こえる姦しい女たちの話し声を聞く。
「どうだったー悠美ちゃん。今のテスト?」
「もーダメ。絶対最低、もう嫌になっちゃう」
「そんなー絶対私のほうが酷いって。絶対もう色々ミスしちゃったもん」
「えーマジでーでも私のほうが悪いって」
「あれの事か?」
「おう、俺ああいう事言う女嫌い」
「ん……まあ気持ちはわからなくも無いけど」
「実際そんなに悪くないくせにさ、私は本当ならもっと出来るんだって見栄が混じってて嫌になるよな。結局はあいつらは自分を良く見せたいってそれだけで動いてるんだぜ? そういう現実を認めないで自分を良く見せたい女って俺は嫌だね」
「ふうん」
「どれくらい嫌かって言うと頼まれても抱いてやらないくらい嫌」
「ほぉう? それはなんか嘘っぽいな。リビドーの塊のお前が抱ける状態の女を抱かないってのは」
「う……まあそのそれはアレだよ。状況によっちゃ抱くかも知れん」
「やっぱり」
「まあなんにせよ何より気に入らないのは……実際悪いって言っても俺とか零児に比べれば百倍は良いだろうって所だな」
「結局そこかよ!」
と、そこに今度はツインテールの頭を揺らしながら片山さんが来た。
「ねえ、最上君鉛筆ころがしで問題解いてたみたいだけど……大丈夫なの?」
「ゲッ、見てたの? 恥ずかしいなあもう」
「う……うん、でもさ、最上君の英語の成績ってどれくらいなの?」
「それがさ聞いてくれよ片山さん。前近所の予備校でセンターの模試やってたから受けにいったんだよ」
「うん」
「そしたらさ、マークだけなのに40点だった」
「それって……まさか?」
「うん、200点満点で」
「う……うわぁ」
そうして片山さんは頭を抱えてしまった。
「あれ、やっぱり40点はまずいかな?」
「まずいよそれは。もうすっごく」
「まあいいんだよ。俺国語は得意だし」
「そ……そうなんだ。でも英語がそんなに悪いと大学いけないよ?」
「うーん、まあ別に進学しないでも良いしな」
「へ? じゃあ就職するの?」
「うー……ん、少し違うけどまあそんなもんかな」
「?」
「まあ仕事はいくらでもあるって事さ」
「そ、そうなんだ」
「おう、ってそういえばさっきから隆貴の馬鹿が妙に静かだけど……おーい、隆貴?」
と……隆貴は何故かこっちをありえない物を見るような目で見ている。
「おーいどうしたー隆貴ー。帰ってこーい」
「……っておい、零児! テメエいつの間に片山さんと仲良くなりやがったんだよ。俺そんなこと聴いてねえぞ?」
「うい、だって言ってないも」
「言ってなかっただとぅ親友? 何だ水臭いじゃないか」
「アレおかしいなぁ。俺はチミと友達になった記憶は無いぜよ?」
「HAHAHAHA! そうだよ! お前は昔からそういう奴だったさ。そうやって抜け駆けするんだろ。この女誑しめ」
「そのセリフをお前に言われるのはこの上なく理不尽だな。っつうかお前だけは言う資格無いぞ? 後その笑い方やめろ」
「ほら、酷い奴でしょ片山ちゃん。だから零児なんて放っておいてぜひこの僕と結婚を前提としたお付き合いを……」
「あ……ゴメンね。私、松山君とはちょっと……」
「あーあ、フラれちゃったな。隆貴」
「OH! ガッデム! なんで俺の好きになる子は皆俺の魅力をわかってくれないんだ!」
「いや、そんなものは無いぞ隆貴?」
「なにおぅ!」
何だこの会話。
「ふふふ……」
あれ? 今のは、片山さんか。
「ん……どうかしたの片山さん」
「ううん、ちょっとね、最上君と松山君って随分仲がいいんだね」
「はあ? 俺が隆貴と? 何処をどう見たらそう見えるの?」
「そうだよ片山ちゃん。俺はね、零児とは生涯敵同士なのだよ」
「ううん、そんな事ないよ。だって二人とも凄く気が合う見たいじゃん」
「いや、そんな事は無い」
「ああ、そんな事は無いぞ?」
「ふふふ……やっぱり気が合うんだね」
ううむ……どうも片山さんの思考回路は良くわからん。
隆貴の方を見ると……やはり隆貴も良くわからないみたいだった。
「あ、それよりももうすぐ二時間目始まるよ。次は国語だから頑張ってね最上君」
「あ……ああ」
ふう、なんだか嵐のような休み時間だったな。
まあいいか。
幕間二
「しっつれーしまーっす」
へひひひ、久しぶりだなあ学校の職員室に来るなんて。おう、4人くらいの教師がいやがらぁ。
「ん? 君は……制服じゃない所を見るとウチの生徒じゃないね?」
ん……? 何だこの教師。ジャージなんか着てやがんの。だっさー。
「ふいひひひ、そうですよーだって学校って色々うるさいんでしょーそれよりアンタ誰」
「私は体育教師の佐伯だが……君は何だね?」
「うるせえよ、俺が誰かなんてどうでもいいだろ。それより名簿何処だ?」
「ちょっと君。質問に答えなさい」
うるせえなあ、なんでコイツに命令されなきゃなんねえんだよ。それより名簿はっと。
「君、何勝手に漁ってるんだ。いい加減にしなさい」
「うるせえよ、それより名簿何処に置いてあるんだよ」
「なんだね? 誰かに用か?」
「お前に話す義理はねえっつーの。ええっと名簿名簿」
「君、いい加減にしなさい。部外者にそんな物を見せるわけにはいかないんだから」
「ンだとコラ! さっきからうるせえんだよテメエ。いい加減にしろたボケがぁよう!」
バキッ!
「フグぁッ!」
ふう、全く、警棒で殴ったらようやく静かになりやがった。全く教師っつーのは何処でもうっとおしいもんなんだなイピヒヒ!
と、なんか周りがざわめき立ってる。
「おい、不審者だ。警察に連絡して、後生徒の避難だ!」
何だあのハゲ。
「しかし教頭先生、皆テスト中で」
「馬鹿かね君は、テストなどより安全のほうが大事だなどと言う事小学生でもわかるぞ。急いで放送を入れなさい」
「は、はい」
んー、なんかよくわかんねえけど妙に焦ってるのねー。でも放送入れて避難のときにアイツに逃げられたらかなわねえから、
まあ警察はどうでもいいんだけどー、でもあの放送室に向かった教師でも殺すかなーウプフフフ!
4
ふう、まあ国語はなんとかなるな。だって日本語だもん。しっかり読めば解けない問題なんて無いね。
と……その時。
ピンポンパンポーン
「全校生徒に告ぐ。急いで避難しなさい。凶器を持った不審者が入りこみました。今職員室にいますので各先生の指示に従って職員室には近づかないように速やかに避難しなさい」
何だこの放送? 変なの。
流石に皆ざわめきたってテスト中にもかかわらず話し声も聞こえる。
「なあ、何だ今の?」
「わからん。誰かの悪戯じゃね?」
「もう一度告ぎます。不審者が入り込みました。急いで避難しなさい。急いで……ふぐわぁっ!」
何だ何だ何だ。今のは?
「あーマイクテステスー。はいはい皆さん聞こえるー今のはただのタチの悪い悪戯ですからそのままお勉強続けてねーウヒャヒャハハハハっ!!」
おいおいマジかよ。ッつーかなんか今の声聞き覚えあるような……。
「ねー今の何ぃ?」
「わかんね、誰かテキトーなヤンキーの悪戯だろ」
「マジありえなーい。なに、コレでテスト中止になんないかな?」
「ならないんじゃね? こんな悪戯一々付き合ってたらきり無いだろ」
「そうだよねー」
と……監督に来ていた山園先生は突然立ち上がって言った。
「いい? みんな、急いで避難するわよ。場所は校庭。解ったわね?」
「えーでも先生? 多分今のただの悪戯だよ?」
「ええ、そうだったら勿論いいけど何かあってからじゃ遅いでしょ? 私が責任取るから取りあえず全員廊下に出なさい」
「はーい」
そういって皆ラッキーとかなんとか言いながら廊下に並ぶ。
廊下に出てみるとどうやら他のクラスも警戒してか非難に移っているらしい。
「ぽーれぽーれ、コレでテスト休みになったら嬉しいな零児」
「ん……ああ、隆貴か。そうか? 多分今日休みになってもそのうちまたあるぜ?」
「ふーん、まあそのときは休むからいいや」
「おい! それでいいのかお前は」
「うん」
はあ、まあコイツはこういう奴だよな。まあいいか。
そうして一階まで降りてくる。しかし本当に何事だろうな。
何より気になるのがさっきの声。どっかで聞いた事があるような気がするが……まさかな。
お……そろそろ校庭だな。
パリイィィン!
は……何事?
そうして音のほうを見るとどうも二階から人が降って来た。
ドサッ!
「はぐぅっ!」
って……アレは名前は忘れたけど……ウチの体育教師か? 降って来た元の場所は二階の窓……職員室か?
なんて事をしやがる。いったい誰が……?
「おい、救急車! あと警察も呼べ! 避難急がせろ!」
教師の怒号が飛び生徒はざわめき出す。
皆もまさかそんな重大事だと思っていなかったからか、そうして辺りは一気に騒然としだす。
まさか……これは……。いや、しかしこんな事をする奴が……?
そうだな、念の為だ。調べてみるか。
そうして能力を開放する。その瞬間……!
反応あり。
強烈な能力の反応あり。方向は校舎二階……職員室の方向。
という事はこの騒動の犯人は……能力者か!
拙い! 奴らは簡単に人を殺したりする。早く行って止めないと。
そうして走り出そうとした所突然学生服の袖が誰かに掴まれた……ああもう、誰だよ!
「ちょっと! 最上君……何処に行くの?」
「あ……片山さんか、いや、ちょっと教室に忘れ物をね」
「へ? 何言ってるの最上君。忘れ物なんていいじゃない。今の見たでしょ!? 佐伯先生が……人を二階から放り出すような相手よ? もし出会っちゃったりしたら大変でしょ?」
「あ、ああ。でも大丈夫だって。すぐ戻ってくるから。急いでるんだ」
「あ……わざわざこんな時にいったい何で……忘れ物なんて嘘でしょ?」
「う……ま、まあ何でもいいじゃないか」
「よくない! よくないよ! いったいなんでわざわざ危ない所に行くの?」
「まあ、色々と事情があってね。あと危険だから片山さんは絶対来ちゃダメだよ。それじゃあ急ぐから」
「あ……」
そうやって片山さんの握っていた袖を振り払い駆け出す。
ふう、なんとか振り切れたな。取りあえず現場へ……急ぐぜ!
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