かわりゆくもの。かわらないもの。
1
「面ッ!」
「甘いッ! そこッ!」
バシィ!
「今のは……有効じゃないわ。試合を続けて」
「はい……どおぉぉぉうっ!」
そうしてまた今日も武田の剣道の相手をしてやっている。実は相手をし始めてもう三日にもなる。
まあ間に入った土日にはしていないんだが。
本当は俺もこんな面倒……というか、能力が漏れかねない事はしたくないのだが、まあこんな事があったのだよ。うん。
そうだ、アレはちょうど初めて放課後に良くわからんまんま武田の練習に付き合わされた次の日のことだったんだよな。
そう言えばあの日は一週間の中で唯一授業が五時間で終わる日だったか……?
2
イエイ、今日も授業は終わったぜい。
ちなみに今日は一週間の中で唯一授業が五時間で終わる日なんだよな。なんか一時間違うだけで随分楽な気がする。
でもそれは俺だけじゃないらしい。みんなにもまだ元気があり皆は帰りに何処によっていくかとかそういう話を盛り上がっているし。
しかし俺はというと……ツルみやすい隆貴の馬鹿は例によってサボりだ。まあ流石に一人で寄り道というのも少し寂しいしな。
でもまあ最近色々あったから久々にのんびり寝れるしいいか。よし今日の今後の予定は昼寝ってことで……。
そういうわけで予定をハートの予定帳に書き込むか。右クリックの対象を上書きして保存を選んで……。
「零児!」
はれ、今の俺を零児と呼ぶのは……武田か?
でもそういえばアイツってうちのクラスじゃないんだよな。
なんか最近片山さんにと話すためかよくウチのクラスに入り浸ってるからなんかもう慣れちゃってるけど。
あれ、でも見るようになったのここ最近だよな。俺も最近まで知らなかったわけだし。まあどうでもいいか。
「何だよ武田。片山さんならさっき先生に何か頼まれて連れて行かれてたけどもうすぐ帰ってくると思うぜ?」
「ああ、そうか。いや、でもそれはいい。今回は零児に用があるんだ」
「は、俺に? 何の用?」
「うむ、今日も私の練習に付き合って……」
「断る」
「む……何故私の言うことは聞いてくれないんだ? 零児は相手が困ってるときには言うことを聞いてくれるって……」
「あーそれね。それは相手が本当に困ってるときだけ。それに武田ってスタミナありすぎて相手すると疲れるもん。それに俺の今後の予定は昼寝って心のスケジュール帳に書き込んじゃったからもう変更は効かないのです。はい」
「そ、そんな理由で。酷いではないか零児!」
「んー、酷いって言われてもなー、もう決まっちゃったことは決まっちゃったことだし。という訳であでぃおすあみーごー」
「ふむ、どうしても私に付き合うつもりは無いと」
「ああ。悪いな」
「ふう、そうか。ところで零児。賭け事は……」
「嫌いだ。嫌いだからさっさとその十円玉をがま口の財布にしまえ」
「うー……前は好きだって……」
「あのなあ、あんな理不尽な賭け事につき合わされたら誰だってギャンブル嫌いになるわアホ」
「う……む……ならば……!」
「あ、ちなみにあみだくじも嫌いだから」
「あみ……むー、昨日はやってくれたのに……」
「昨日は昨日。今日は今日。あ、明日は明日の風がふくぅーってわけで帰るから。ちゃお」
「ということは……どうしても、絶対に私と付き合うつもりは無いんだな?」
「ああ、悪いね。零児君はおねむなんです。やっぱこういう時って自分に素直にならなきゃね。うん」
「そうか……ならばコチラも考えがある」
「は?」
そういうと武田は突然すぅと息を吸い込んで……。
「何故だ零児!昨日はあんなに激しく(練習を)してくれたじゃないか……ッ!」
「ブーーッ!!」
何叫んじゃってますかコイツはーッ!
「あんなに……あんなに(賭け事を)好きだといってくれたから……。私だってあんな事やこんな事だけじゃなくてあそこまでの事までして答えたのに……。一度(練習を)ヤッた女には興味はないというのか……そうやって私を捨てるのか……」
あわわわわ……何を言ってやがるっ、そんなこと大声で言ったら……あ、隣にいた伊藤君が鼻血吹いて倒れた。
「って馬鹿ーっ! その言葉の隠し方に俺は明らかな悪意を感じるぞっ! っつうかそんなこと言ったら……」
そうして聞こえてくる周りからの囁き。
「ヒソヒソ……最上君って」
「ヒソヒソ……大人しい顔して実は」
「ヒソヒソ……鬼畜?」
「ひそひそ……変態……多分S」
「ヒソヒソ……あんな美人に」
「ヒソヒソ……何が不満なんだ」
「ヒソヒソ……羨ましいヤツめ」
「ひそ砒素で……最上殺す」
あああ……俺のイメージが……。それにしても皆バラバラに話してるはずなのに繋がると言葉の意味があるのは何故……。
関係と噂と思惑と鼻血が交差する魔境。そう、まさにココは地獄絵図っ!!!
「ってそれどころじゃねえ! オイ武田! さっさと訂正しろ!」
「私の何がそんなに気に入らないのか。そんなに私はしつこかったか?しかしそれを言うならあんな位でヘバってしまう零児が情けなくもあるんだぞ?」
そうやって上目使いで見てくる。う……嘘だってわかっているのにその仕草は中々攻撃力が高い。
「ひそひそ……最上君って」
「ひそひそ……変態なのに」
「ひそひそ……早漏」
「ひそひそ……最低」
「ヒソヒソ……最上のイ○ポ」
うわあああ……もうどんどん取り返しのつかない方向へ行っている気が。って言うか最後の一人ってただの悪口だよな。
「クソっ! 何が望みだ」
「だから言っているだろう? 今日も私の相手をしてくれれば良いだけだ」
クッ……応じるのしかないのか……?
しかし男として脅しに屈するのは……ううう、俺はどうすれば。
「さあどうする? どうしようが零児の自由だぞ」
「クソッ……汚ねえぞ」
「なんだ。もう私の相手はしてくれないのか?」
「くっ……それは……」
ガシャン!
「あれ、今何か割れる音が?」
「へ……ひ、光ッ!?」
そこのは呆然と立ち尽くしている片山さんがいた。音はどうやら先生に飾られるように頼まれたとかそんな感じの花瓶が落ちた音のようだ。
「ゆ、ユリちゃん……」
「ひ……光。ち、違うんだ。コレには深い訳が……!」
「ユリちゃんの……ユリちゃんの裏切り者ーっ!」
ズビガーンッ!!
あ、なんか武田が凄いショックを受けてる。
「ユリちゃんなんか……嫌いッ!」
そう言って片山さんはわき目も振らず駆け出していってしまった。
「ああ、光ぃ! 私は別に零児の事なんて……」
と、突然武田は俺に向かってギッっと睨みを利かせてきた。うわっ、怖えぇなあ。
「クッ……コレもすべて零児のせいだ!」
「えええ? 俺のせい? それは無いって。っつうかさ、片山さんは何に怒ってた訳?」
「ええい、そんなことも解らないその零児のへタレ鈍感っぷりがいけないって言うんだ解らないのかこの甲斐性なし!」
「うわあぁん、甲斐性なしって言われたぁ」
「泣いている暇があったらさっさと光の誤解を解きに行くぞ? さっさと来い!」
「えええ? 俺は皆の誤解を解かないと」
「皆の誤解なんてどうでもいい。光の……光の誤解を解かないと」
「だって俺の身にもなってよ。放課後に他のクラスの美女が来ていきなりエロ談義になったと思ったらうちのクラスの女子も巻き込んだ痴話喧嘩だなんて……クッ、面白すぎる。いったいコレは何処の昼メロなのか?」
「馬鹿なこと言っている暇があったらさっさと行くぞ! さあ……!」
そういって武田は俺の手を取って駆け出した。そうして後ろから聞こえる話し声。
「最上君って……たらし?」
「まさに女の敵ね。最低」
「って言うかコレって……この後3Pになるのか? 身体を使って慰めるって奴?」
「うわあ、アイツってそんなに……二人相手にするなんて……凄い体力」
「最上君あんな人だなんて思ってなかったわ。今後は目を合わせないようにしなきゃ。妊娠しちゃう」
どぅふああーーもう俺明日から学校これない。
そうしてしばらく武田に手を引かれて走りながら疑問に思っていたことを聞く。
「あのさ、武田ってなんでそんなに片山さんにこだわる訳?」
「だって、光は友達なんだ。だから、光は友達だから。友達の……誤解は解きたいんだ。私は……」
「ん……なんか解ったような解らないようなだけど、それなら仕方ないか。手伝うよ」
「ああ、すまない」
「いいって、気にするな。俺ってば打たれ強いんだ」
「うん、知ってる。でもありがとう」
3
そうだったな……そうやって武田と片山さんを探してたら体育館の近くで泣いてた片山さんを見つけて、それで二人で急いで誤解を解いたんだよ。
そうしたら何故かそこに先生も混じってきて気がついたらなし崩し的に俺はいつの間にか武田の練習に付き合うことになって……。
で、何故そうなったかは知らないがそれからは何故か練習の相手をず毎日やらされている……っと!
「面胴っ!」
「あぶねっ!」
バシィッ!
ふう、今のは少し危なかったな……と言うか。
「ちょっと待ったぁ!」
「なんだ?」
「いや、少し疲れた。休もうぜ?」
「む……まあ、そうだな。先生。休憩に入ります」
「解ったわ。休憩ね。片山さん?」
「はーい。わかりましたー」
そうしてジャッジをしてもらってた先生と実質マネージャー状態の片山さんを入れて休憩に入る。
片山さんに貰ったお茶を飲んで先生に渡されたタオルで汗を拭く。うん、相変わらずVIP待遇だな。
「うむうむ、中々じゃな。余は苦しゅうないぞ」
「ん……何か言ったか? 零児」
「いや、なんでもない。一度言ってみたかっただけだ」
「そうか」
そうしてマッタリしながらふと疑問になったことを聞く。
「そう言えばさー、元々居た他の部員はどうしたの?」
「ん……やめさせた。部長権限だ」
「は? そんなことできるのか? って言うかまたなんで……」
「いや、あんな腑抜けたちは百人いても物の役にも立たない。それでも向上心とかやる気があればいいんだが、それも無い。来てもは遊んでいるだけだ。だから追い出した」
「はあ」
でもコイツの言うことはどうも過激すぎて当てにならない。そうだな……。
「ねえ、先生?」
先生ならちゃんとした事実を知ってるだろう。
「なに、最上君」
「本当にその部員達ってそんなに弱かったんですか? こいつが強すぎるだけじゃなくて?」
「あ、ええ。確かにひどい物だったわよ。なんかさ、武田さんって美人さんでしょ?」
「う……まあ可愛いというよりは美人って感じですかね。黙っていれば……ですけど」
「それで来た人はみんな武田さん目当てだったみたいなのよ」
「はあ……そうですか」
そうして目を瞑って行儀よく正座してお茶を飲んでいる武田のほうを見る。
外から入ってくる光に照らされたその姿は、格好は防具を着けたまんまという色気の無い物だけどその彼女の持つ雰囲気と容姿があいあまって凛々しくて、綺麗だ。
「ん……まあ気持ちはわからなくもないかな」
「ん、何か言ったか零児?」
「いや、なんでも無い」
「そうか」
そうして俺もお茶を飲む。
それにしても……。
「なあ、俺っていつまでこんなことしてればいいの?」
まあ実際最近は少し楽しくなってきたんだけど……。
「私が勝つまでだ」
「さいですか。なら俺が負けたら終わっていいんだ」
「は? 何を言っている。零児が負けたら零児は部員だぞ?」
「ん……ちょっと待てよ。俺は武田に負けたら部員にならなくちゃいけないけど負けるまで相手し続けなきゃいけないのか?」
「ああ」
「それってさ、結局ずっと部員状態ってことじゃね? 実際部員になってもやることは変わらないんだし」
「そうか、ということは部員になる気になったか。さあならばここにサインを」
「いや、そんなこと言ってないっつーの」
「むぅ……。つまり違いは、部員の名簿に名前を書けないと言う事だ」
「それだけ? たったそれだけかよ」
「ああ、そうだ、だからそれならいっその事ここにサインするか?」
「それはヤダ」
「むー……」
ああ、でも実際ここの居心地は悪くない。
皆はいい人だし大福は美味いしお茶もおいしいしなんだかずっと居たくなるようなそんな微温湯のお風呂のような空間。
はあ、安らぐ。
と……。
「そう言えばさ……」
「ん……なんですか先生?」
「明日は実力テストよ。いくら成績には少ししか影響しないといっても勉強しなきゃダメよ。してる?」
「は……明日? なにそれ……実力テスト?」
「何を言っている零児。明日は実力テストだぞ。多分ウチの学校でも松山と山城以外の者は皆気にしていることだと思うぞ?」
「ね……ねえ最上君。まさか……」
「ああ、忘れてた。まあ実力テストだし実力で受けるからいいか」
「良い訳ないでしょ! ダメです。勉強しなさい!」
「えーーっだって先生、俺勉強嫌い」
「好きな人は珍しいわよ。いい? 留年なんかしたら承知しないわよ!」
「えー」
「えーじゃありません。私が教えてあげることは出来ないから……片山さんと武田さんに教えてもらいなさい」
「え……でもそんな邪魔したら悪いって」
「へ……私は全然……むしろ……」
「そうだ、私も相手をしてもらっているんだし遠慮なんかしないでいいぞ。零児」
う……でも大体俺自身が勉強したくないんだけど……そうだな。
「う……あ、ちょっとトイレ行って来るわ」
「ん……」
幕間一 山園綾子side
ふう……それにしても。
「まさか最上君が実力テストの日すらも覚えていないなんて……教師としてはショックだわ」
そうしてガックリとうなだれる。はあ、留年とかして欲しくないわ。特に最上君には。
と……片山さんが聞いてきた。
「ねえ先生。最上君の成績ってどうなんですか?」
「んー……っとね、なんて言うか良くはないわね。中の下というよりは下の上といった所。赤点こそ無い物の少しでも気を抜いたら危ないわよ。いつも赤点ギリギリで何故か赤点じゃない芸術的なまでの超低空飛行なのよ」
「そんなに……」
「零児はアホだったのだな」
「いやユリちゃんそんなにハッキリ言わないでも」
そうして私もお茶を飲んで最上君が帰ってくるのを待っている。
何故か皆黙ったまんまだ。彼が居ない間は意外と静かだ。
彼がいると何故か皆話が進む。なんと言うかそれも彼の人徳かもしれない。
うーん、案外ホストとかやったら雰囲気はホストって感じじゃないけど違うけど売れっ子になるかもしれないわね。
あれ……もう最上君がトイレに立ってから十五分ほど経つだろうか? なかなか帰ってくる気配は無い。
「それにしても……最上君。遅いわね」
「そうですね……」
ヒュルルルルル……ストッ!
突然何処からとも無く赤いかざぐるまが飛んできて針になっている先の部分が畳に刺さった。針の部分は手紙がついている。
「ねえ……この風車って」
「ああ、水○黄門のかざぐるまの弥七さんの武器兼通信手段……」
「それ以上言わないで武田さん。何処から突っ込んでいいのかわからないわ」
「取りあえず……手紙を読んでみようよ」
括りつけられた手紙を広げて読む。えー……っとなになに……?
「眠いので帰ります。探さないでください。最上零児」
「……」
「……」
「……」
「って何やってるのよ最上君はああああぁぁぁぁ……っ!!!」
その大声は職員室に残っていた他の先生にも聞こえたらしい。少しだけ反省。
でも最上君がやっぱり……悪いよね?
幕間二
「もしもしー」
「ああ、私だ。明日最上零児に会いに行くぞ?」
「えーマジでー。うれしー。俺のほうは準備万端だぜ。バナナも買ったし」
「そうか。明日は朝までに私の部屋に来ておけ」
「うひふふふうひひひぃぃっ。へいへい了解ー! うっひょう楽しみだぜぇ。じゃあなー」
「ああ」
ガチャリ。
「ふふふふふ、楽しみ……か。私も楽しみだ。ふふっ、まさかあの時の子供に会えるとは……な」
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