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短編集

美味しいモンスター

作者: 枝鳥

 およそ100年前、この世界に多くの転生者が生まれ、多くの文化が花開いた。

 それまでほとんどの民衆は、麦の堅パンと野菜屑のスープを日常の糧としていた。

 そんな時代も今は昔。

 塩田が整備され、香辛料の育成がすすめられ、小麦やジャガイモなどの農産物も多く収穫されるようになった。

 そんな中、とりわけ革新的だったのは魔物の調理だった。

 きちんと血抜きされ、様々な香辛料でもって調理された魔物の肉は民衆に少しずつ受け入れられ、やがて魔物の肉を食べることは常識とまで言われるようになった。


 その中でも、多くの文献に記された筆頭は何と言ってもドラゴンだろう。

 それまでは硬すぎて、調理はともかくとして、文字通り歯が立たないドラゴンの肉を民衆は決して食用とは考えてもいなかった。

 ところが、転生者による発明品の圧力鍋。この登場によってドラゴンの肉は一気に注目を集めることとなった。

 下茹でをしたドラゴンの肉を香草と香辛料と共に圧力鍋にかけ、その後にソースでさらに煮込んだ「森の木陰亭のスペシャリテ、ドラゴンの煮込み森のきのこを添えて」は、ドラゴンの肉を語るにはまずこれを食べたことがなければモグリだろうと評されるまでとなった。多くの人々がその美味に舌鼓をうったと言われている。


 次に有名なのは諸説はいくつかあるが、クラーケンがその一つであることは間違いない。

 鮮度のいいクラーケンを細切りにして醤油とワサビで食するクラーケンそうめん、パン粉をまぶして揚げたクラーケンフライ、すり潰して揚げたクラーケン団子など、幅広い調理法によって民衆に広く受け入れられた。干しクラーケンやさきクラーケンなどの乾物としても民衆に愛されたのは言うまでもない。


 しかし、これらとはまた違って最も広く民衆に受け入れられ食されるようになった魔物と言えば、オークであるということは間違いない。

 オークカツ、生姜焼き、オーク丼、オークしゃぶしゃぶ。そしてオーク骨ラーメン。様々な美味が、民衆の生活を彩った。

 かつて、転生者が生まれる前の書物にはこんな一節がある。

「貧しき者は飢えの果てには、オークなども食らわねばならず(後略)」ベルゲンシュタイン著作「貧しき人々」より

 他に食べるものがない貧しい人々が、飢えるよりはましだと食べるものが、オークであったのだ。

 冒険者により討伐証明部位を切り取られた後の肉を、貧しい人々が拾い食べる時代があったということなのだ。


 さて、魔物とその食の文化について長々と筆をとってきたが、今一度、賢明なる諸氏に問いたい。

 なぜ今、我々はドラゴンやクラーケン、オークを日常で食することがないのか。

 なぜ今の我々の食卓にこれらがあがることがなくなってしまったのか。


 かつてドラゴンは各国の平均面積に対して一匹はいたという。

 かつてクラーケンは洋の一つに一匹はいたという。

 かつてオークは人里から二日も歩けば出会う魔物だったという。


 人々による乱獲により、これらの種もこれら以外の種も消えて久しい。

 我々は、食の欲求の前にこの世界のバランスを崩してしまったと深く反省しなくてはならないのである。

 近年の環境変化、その原因が我々自身であることを再考すべき時期である。


 環境保護団体SAVE the MONSTER代表アーグナー氏による代表作「THE MONSTER〜我々とモンスターの関係〜」より

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり絶滅の理由は「美味いから」なんてしょうね。 子供の頃、曾祖父が「オヤジは朱鷺食ったことあったらしい。美味いそうだ」と聞きました。 まずくては食えない上に、それほど驚異でもない魔物たけが…
[一言] だから人間ってやつは・・・(沈痛な面持ち 狩りまくって絶滅させるのはやっぱりお家芸か
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