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この小説は【五分企画小説】の参加作品です。
風上の福寿草
作:鋳金ダラ


「サボり、発見!」
 校舎の屋上。
 穏やかなる午後。
 燦々と輝く太陽と和やかに流れる雲を包容する碧空、そんな美しい視界に栗毛の女・神崎百合のマヌケ顔が領空侵犯してきた。一年前なら驚愕と飛び起きを彼女にプレゼントしていただろうがとっくの昔に耐性は付いた。それでも天然混じりの彼女の行動に狼狽することが多いけど、そこは定評があるポーカーフェイスでカバー。
「翔太!」
 藤原翔太。俺のフルネーム。
「また授業、サボったでしょ〜?」
 授業? ―――ああ、成る程。寝過ごしたというわけ、か。
「うるせぇ」
 神崎は両手を両腰に当てて頬を紙風船みたいに膨らませた。それを俺は一瞬視界に収めて直ぐに目を伏せる。頬を膨らました神崎が可愛すぎて直視できませんでした、とはたぶん一生言わないだろう。
「そんなこと言ってたらセンター落ちるよ?」
「いいの」
 そう言うが、俺が走る道は浪人確実コース。そろそろ本気で勉強なる物をした方が良いかもしれない。まぁ、いざとなったら神崎に泣き付こう。土下座してでもご教授願おう。そう思い、目を開けた。
「も〜。後で泣き付いたって土下座したって教えてあげないからね!」
「誰が頼むか」
 神崎のエスパー擬き能力に戦々恐々。けれどポーカーフェイスを貫く。本当に感情が表に出にくい性格で良かったと安堵しながら目を再び閉じる。
 と、隣に気配を感じた。
「んぁあ? サボるなって言った人間がソッコーでサボりかよ?」
「いいでしょ。あたしは何処かの『不良君』と違って素行が良いから少しぐらいサボってもいいの」
 俺の隣で寝ころんだ神崎を横目に溜め息を付く。何か悔しかったから俺は、そんな『不良君』と付き合ってるお前が素行良いわけ無いだろと毒気付くが、神崎は愛嬌抜群の笑みを持ち出してきて、あたしは何処かの『不良君』と違って素行が良いから少しぐらい『不良君』を愛したっていいの。だ、そうだ。辻褄が合っているようで合っていないような、嬉しいような悲しいような。複雑な気分である。
「ハッ」
 鼻でいなしてやるも、神崎は笑う。
 俺は神崎に一生、勝てない気がして更に溜め息を一つ。
 と。風が、吹いた。
 それは夏のクセして和やかな、まるで春のような風。
「ねぇ、『カミサマ』っていると思う?」
「いねぇ。絶対。いたら世界中の不幸が無くなる」
 即答する。神崎はしばらく黙って、
「そう、かもね。でももし『カミサマ』がいたら、翔太だって、ね」
「…ここまで捻くれなかっただろうな」


 俺の『世界』は真っ白から始まった。
 十歳の記憶。それが俺の始まりであり、俺が俺として生まれた瞬間でもあった。
 理由は単純。生まれてから保護されるまでの十年間、親から非道い虐待を受けていたらしい。一番初めの記憶は真っ白の病院のベッドの上、俺は身体中あちこち包帯で覆われたミイラ人間。その後は親戚の家、孤児院を盥回し。気がついたら一人になっていた。
 泣いた。啼いて、鳴いて、慟哭した。
 恨んだ。怨んで、憾んで、怨嗟した。
 真っ白だった俺の『世界』は、いつしか真っ黒に変わった。
 この『世界』は驚くほど俺たちに無関心だ。
 俺が殺そうと、殺されようと。何しようと人々は俺らに構おうと、手を差しのべようともしない。
 所詮、俺たちが生きている『世界』はこんなモノ。
 所詮、俺たちが生きている『世界』なんて腐敗の集合体。
 人一人を満足させる幸福すら転がっていない。
 人一人を救ってやれる優しさすらない。
 腐りきった『世界』。
 だから、壊そうと思った。
 俺をこんなめに遭わせたこの『世界』を壊そう。
 腐ったクズ共がのうのうと生きているこの『世界』なんて壊してしまえばいい、と。
 この下らない『世界』の住人を、仕組みを、思想を、全て無に返してやろう。
 こんな『世界』しか創造できない権力者など全て消してしまえ。
 全てを成し遂げた後、瓦礫と『世界』の住人全ての亡骸の上で狂ったように嗤ってやろう。
 嗤いながら傷だらけの手で握るナイフで自身の首を掻き斬って死んでやろう。
 俺のような境遇は俺だけでもう沢山。この手で非道の連鎖に終止符を打ってやろう。
 俺を虐待し尽くした両親に報復を。
 俺を壊したこの『世界』に復讐の鉄槌を―――
 
「哀しくないの?」

 ―――振り払った。
 突然舞い降りた優しさ、救い、暖かみを。
 その、無邪気で独善独自独裁が怖かった。
 知ってしまった、覚えてしまった、味わってしまった。
 その、染み渡るように心に広がった優しさが途切れるのが怖かったから。
 だから、振り払った。
 けれど。
 振り払っても、突き放しても。その暖かさは、俺の闇を優しく照らさんとするその暖かさは、俺がどんなに拒絶しようとも、闇に溺れていたことさえも見えていなかった俺に手を差し伸べ続けた。
 ある時、理由を問うた俺にコイツははんべそで言った。
「あたしはあなたを見過ごせないの。だって好きなんだもん。だから手を差し伸べるの。確かにそれはあたしのエゴ、自己満足しれない。でも、でもね私は諦めたくない。諦めるってことが自分の心にもの凄い嘘をつくっていう事を知っているから。あたしはもう自分の心に嘘をつきたくないから。他の人がどう言おうが私は絶対に諦めない。決めたの。あたしはあなたを助ける。あたしはあなたと笑いたいの」


 笑う。
 俺は起き上がって、
「前言撤回」
 ふえぇ? と、神崎もつられたように起き上がってポカンと俺を見ている。
「やっぱ『カミサマ』はいるわ」
「ホント?」
「ああ。世界一暑苦しいのがな」
「どこにっ!?」
 途端にコイツは目を輝かせる。
「…さあな」
 戯けてみせると、神崎はクスクス笑って、
「あたし、なんか幸せ」
「ばーか」
 幸せだと密かに想って、つまらなそうに欠伸。
「授業に遅れッぞ!」
 流石に次の数学はサボるわけにはいかない。
 頬に生温い風を感じながら、バカみたいに笑ってる神崎の頭に手を置いた。


どうも。鋳金ダラです。初心者ながら弥生 祐様の【五分企画小説】に参加させて頂きました。文字数制限ギリギリですが何とか仕上げられました。このような場を用意して頂いた弥生様には多大なる感謝を。ありがとうございました。ご意見ご感想を頂けると幸いです。ではではm(_ _)m













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