恋の詩
「コイノウタを歌おう」と、君は言った
そのカタコトな響きが、僕は好きだった
歌っている君は、溶けていた
空に大地に空気に、溶けていた
僕には君と世界の境がぼやけて見えていたんだよ
ただ君は、とっても音痴だったね
不協和音
君の声だけが世界と混じることができず、一人ぼっちの三角座り
僕は目をつぶって耳を済ます気にはなれなかったから
耳をふさいで目を済ましたんだ、あの日
無音の中、君はより一層輝いて
それはまるで、無音がはびこる深海で最古の巨生物に遭遇したような景色だった
僕には君が大きく見えた
だって、君と世界の間に境界など存在しないのだから
どこまでも世界に溶けだす君は、どんどんどんどん大きく広がった
気がつくともう、僕は君に飲み込まれていた
君が僕の境界に触れた瞬間、怖かったんだよ、本当は
でも、飲み込まれた今は、心地い
恋の詩は最後にこう、締めくくられる
「君のことが好き」
この言葉を言ったのは僕だったのか君だったのか
でも、二人の心は溶けあっていたのだから、それは大した問題じゃない
「ちゃんと聞いてたの?」
歌詞はわからなかったけど、僕は君の歌う姿に恋をした
「次は僕に歌わせて」
歌詞なんかなくても、メロディーなんかなくても
”恋の詩”は今ここに、完成した




