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冬は僕らに似合わない

作者: 若槻風亜


 身を刺すような鋭い寒気が世界を包む。老若男女が身を震わせて行きかう道を、レレもまた同じように歩いていた。


「ああもう、ひどい寒さだよ。早く冬なんて終わればいいのに」


 ぶつぶつと呟きながら、早足で道を駆け抜ける。日差しこそ暖かいのに、吹く風が、包む空気が、冷たすぎて足を止める気にもなれなかった。早くいつもの店に行こう。そう思いながら、レレはひたすら足を動かす。


「あ、ダイゴ」


 ふと視線の先に顔見知りを見つける。レレが声をかけると、建物の陰で茶色のふさふさした毛を手で撫でていたダイゴは視線を向けてきた。


「おはよー、レレ。今日も寒いね」

「本当にね。ダイゴはこんな所で何してるの?」


 ダイゴの隣に立つと、レレより少し大きな体が寄り添ってくる。触れ合った部分の暖かさが心地よかったのでレレはそのまま受け入れた。


「多分レレと目的地は同じだよ。でも、さっき子供に頭くしゃくしゃされてね……」


 ため息混じりにダイゴはまた手で頭を撫でる。彼はとてもふさふさしているので、その子供とやらの気持ちはよく分かった。


「もういいかな。一緒に行こうレレ」

「いいよ。……ああ寒い。早く行こう」


 ダイゴが歩き出したのに続いてレレも建物の陰から出る。遮られていた風を真正面から受けてしまい、レレは身震いして歩く速度を速めた。


 そのままふたりで当たり障りない会話を興じながら歩くこと数分。レレとダイゴは目的の店にたどり着く。しかし。


「あれ、お店しまってるね」


 いつもならレバーをおろして軽く押せばすぐに開く扉が今日は開かない。見上げると、扉には「CLOSE」と書かれている看板が下げられていた。確かこの文字は、店を閉じている時の文字だ。レレとダイゴは顔を見合わせる。


「今日おやすみなのかな……」

「うーん、でもここのお店の人おばあちゃんだし、もう少し待ったら開くかも。少し待ってみよう」


 この寒い中、これ以上動き回る気にはならない。レレとダイゴは目的の店と隣の店の間の路地に身を滑り込ませ、身を寄せ合って店の主が来るのを待つことにした。


「あれ、レレとダイゴ。おはよう~。何で外にいるの?」


 レレとダイゴが来た方向とは逆側から前を通りかかった娘がレレたちに気付いて声をかけてくる。


「おはようユキ」

「おはよう、まだお店開いてないみたいなんだ」

「えー、そうなの? じゃあ私も一緒に待ってていい? 寒くて」


 言いながらユキは答えも待たずにダイゴの隣に身を寄せた。


「ユキそっち行くなら僕の隣来てくれればいいのに」

「だってダイゴの方があったかいんだもん。無理やり真ん中のあったかい所に入らなかったんだから許してよ」


 ふたりに挟まれてポカポカ作戦は安易に見破られていたようだ。ちぇー、っと

不満げに頬を膨らませるレレの横で、挟まれたダイゴは大変暖かそうだ。


「ユキの上着ももこもこであったかいね」


 ダイゴが笑顔で言うと、ユキも笑顔を見せる。


「そうでしょ? お母さんがユキにって買ってくれたの。チョーカーも新品の〝フユシヨー〟なんだよ。お兄ちゃんと色違いのおそろいなの」

「あれ、そういえばウルシは?」


 ダイゴを挟んで首を伸ばしてレレが尋ねた。ウルシはユキの双子の兄だ。真っ白なユキに対して、ウルシは真っ黒の毛をしている。


「お兄ちゃんはレレとダイゴと違って真面目だから、お仕事行ってる~」


 からかいを浮かべてユキが笑うと、レレとダイゴはそれぞれどことも言えぬ場所に顔を向けた。その反応にユキは楽しそうに笑う。


「あれあれ、あんた達こんな寒い中で待ってたのかい」


 声をかけてきたのは背筋のしゃんとした老婆だ。もふもふと派手なコートを着込み、顔には化粧もばっちりしている。レレたちの目的の店のオーナーだ。どうやらレレたちの声を聞いて覗き込んできたらしい。


「仕方ないねぇ。ほら、お入り。10分もすれば暖かくなるよ」


 ドアに鍵を差し込み音を立てて回すと、締め切られていた扉が開かれる。招かれたレレたちは軽い足取りで室内へと入った。外にも負けないほどの寒さに思わず怯むが、こんなに寒くても少しすれば暖かくなる。そう思い直して我先にストーブの前に陣取った。


「ちょっとおどき。ストーブつけられないだろう」


 邪魔そうに老婆に手でどかされ、ユキとダイゴがストーブから離される。唯一残されたレレは今日はついているとにんまりし、老婆がどくと共にさっと真正面に座りなおした。


「レレずるいなぁ」

「ホントだよ、そこ私がいたのに」

「ふふーん、もう僕の席だもんね~」


 べたりと寝転がると、ダイゴとユキが半分のしかかる勢いで同じく寝転がる。少しばかり苦しかったが、まだ寒い室内では暖かくて離れがたい。仕方なくレレはふたりをどかすことなく、組んだ腕に頭を乗せる。


 少しすると、ストーブからの熱気で周囲の空気が暖められてきた。ほぉと安堵の息を吐き、レレは両の目蓋を落とす。


「ああやっぱり、猫の僕たちに冬は似合わないね」


 いつも通りの結論にたどり着き、レレは今日も暖かな部屋で仲間たちと暖を

取りながらのんきに過ごすのであった。 




窓から見る外と空気の冷たさとごろごろする猫を見て思いつきました。

すぐに「猫だ」と言わずに進めてみたのですが、どうでしょう? 「あ、猫だったのか」となりましたでしょうか?


個人的にこの表現方法は小説にしか出来ないものだと思っています。漫画・アニメ・ゲームはビジュアルありきなのですぐに猫と分かってしまいますからね(あ、ドラマCDはいけるかな?)


「そうだったのか!」とか、「やっぱり!」とか思ってもらえたらこの作品は成功です♪


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