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教会
作:荒木ヒロ


 帰郷の際、10年前の「約束−10年後、また教会で会おうね?−」という単純でありきたりなものを果たしに、街角の教会へと足を運んだ。取り壊されてはいないだろうかという不安をよそに、今も街角にぽつんとあり、痕跡すらもなくなっているよりかは、逆に寂しかった。いや、なけりゃないで寂しいと思うのだろう。そういうものだ。
 
 10年という歳月は人、ないし俺を狂わせるに十分だったようで、それこそ何かの「救い」を求めてきたのかも知れない、俺はばからしいなぁ。と思い、自然に笑みがこぼれていた。

 ため息を一つ吐く。

 その昔、この教会では、両親が忙しい子供を夕方だけ預かってくれるというほぼ自費による慈悲的サービスをしていて、俺も預けられていたのである。他にいたのは、優しいお姉ちゃんただ一人だけであった。俺はほぼ毎日優しいお姉ちゃん、先生、優しいお姉さんと遊んでいた。

 優しいお姉ちゃんと優しいお姉さん、両者の違いはとても大きい。前者はロリ萌えだとか、俺との結婚適齢だとか、絶対的に若いとか……後者はセックスできるとか、豊満バディだとか……ホラ、結構狂ってる。確かに、女はそれだけじゃないはずだし、現に、俺はこうしてここに来たのである。いわば最後の砦としてだった。

 これがダメだったら、きれいサッパリと諦めて、女はただそれだけのために存在していると思おう。なぁに簡単さ。これまでと同じだ。


 礼拝堂に繋がっていた正面の扉は、クサリがんじがらめ閉鎖されていたので、試しに俺は裏口へと回ってみた。真裏である。

 草は生い茂っている。掻き分けて進むと、鍵は壊されていた。ナイス。
 大方、どいつらかの肝試し場にでもなっているのだろう。俺も、それに便乗させて貰うとした。

 一階の礼拝堂は面白いくらいにめちゃめちゃだった。もう、椅子はなぎ倒されていたし、ステンドグラスは粉々に砕け散っていたし、蜘蛛の巣ファイヤーであったしありとあらゆる物が、吹っ飛んでいて、埃臭い。

 手で払った。無意味であった。

 俺の向かって右端に、二階への階段がある。それを登るため、俺は椅子を二度またぎ、一つ退かした。ごうごうごうと床が鳴る。埃まみれの手を払い、期待感と共に階段を上った。

 二階には先ず廊下があり、突き当たり正面にトイレ、左に教室(俺達が毎日遊んでいたところ)がある。俺は教室の渋い引き戸を開けた。この戸はもともと渋く、子供の俺は手を焼いていた。

 中に入ると、始めにオルガンが目に入った。音はもう出そうにない。木の正方形のタイルは真っ白に削れていた。右の黒板に「ファック! SEX!」という落書きで、書くならもっと、メッセージ性のあるものを残しておいて欲しかった。何故、落書きと言えばセックスなのだろうか?

 ……?
 
 部屋の真ん中に、背を向けた状態でピアノ椅子に座る何か、いや骸骨がいた、もしくはあった。もとは、優しいお姉さんがいつも座っていた物である。
 俺はつばを飲んでいた。呼吸が速くなり鼓動も鳴った。肝試しにしてはすっ飛んでいる。約束もクソもない。
 ゆっくり、何が起きても良いように、身構えながら近づく。頼むから振り向かないでくれと願っていた。横まできてゆっくりと覗き込むが、やはり人骨である。人骨は人骨らしく力なく座り、口がかぱっと開き、首がもたれていた。
 
 一体誰のだろう。
 ふとそう思った。俺の知らない誰か、いや、約束の主ではないか、だとしたらそんな長い年月を経て成り立つようなイタズラ、その犯人を見つけたら殺して犯してやる。逆だ。犯して殺してやる。どっちでもいいか。
 実際、もしかしたら、俺は優しいお姉ちゃんとの肉体関係を目的に来たんじゃないのか?
と思った。純愛の最終結末はセックスなのであろうか?
 気持ちの問題? 今の俺にそんな漠然とした物が信じられるかと言えば、それこそ自信はない。
 
 お。
 骸骨は華奢な手に、真っ黒の封筒を持たされていた。
 まだ新しいようだったので、俺は引き抜いて開けた。入っていたのは、真っ黒い便せんに真っ白の字で書かれた手紙である。

 俺宛か?

 『 こんにちは。わざわざ約束を果たしに来てくれたのにとっても残念だけど、優しいお姉ちゃんは私が預からせてもらったわ。その骸骨は、趣向を凝らしてみただけの偽物よ。もう。後でエッチしてあげるから怒らないで? 優しいお姉ちゃんを返して欲しいんだったら、ここまで来なさい。入り口はトイレ。じゃ、優しいお姉ちゃんが待ってるわ。バイバイ。
 優しいお姉さんより 』

 悪くない演出と、わかりにくさだ。俺は無意識に片笑んでいた。
 手紙をジーンズのポケットに入れて、トイレに向かった。

 トイレのドアには赤い字でトイレと書いてある。昔はこれが少し怖かったものだ。今は面白くも感じる。思い切ってノブを捻り、開けた。素早く開けるとドアは軋まない。

 便器などはなかった。もしかして、ふたり裸で座っていてくれるのかなぁなどと考えていたのにあるのは、ボウとした闇へと続く階段だけであった。トイレという空間が階段に変わっている。昼間であるというのに暗い。

 降りろってことか?

 どうやら、大変なことになりそうであるのに、さっきから何故か、ワクワクとしていて躍動感に溢れている。
 これが10年で得た狂気であるのだと思う。

 さて、いくか。



作者です。
この作品は、俺の家の近くに教会があり、それを夕方眺めていた時にすすすーと浮かんできた物です。そしてガイコツを出したのには、ただガイコツを書きたかっただけです。文章を改訂しました。













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