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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

聖剣(ナマクラ)は最強の打撃武器でした

ツイッターに勢いでネタを書いたら作家意欲が暴走して書いてみました。

 私は聖剣だ。神に選ばれし勇者の手に渡れば重さはまるで羽毛のごときでありながらその切れ味は天地を両断する、まさに無双の力を秘めた史上最強の兵器。

 だがしかし、逆に選ばれぬ者が握れば大山のごとき重さと化し、その上で切れ味を持たぬナマクラ・・・・と成り果てる。

 私は勇者にのみ力を与える存在であり、同時に勇者以外には無用の長物なのだ。

 そう──本来であるのならば。

「何をさっきからぶつぶつ言ってんだよ、ナマクラ・・・・

 そう呟いたのは、私を背負う一人の男だ。

 身の丈は二メートルに届きそうな巨漢であり、その腕の太さは並みの成人女性の胴回りにも等しい。ここまで見事な体躯を誇る者を、私が聖剣としての自意識に芽生えてからほとんど視た記憶が無い。

 この男は旅の傭兵だ。世界を渡り歩き、行く先々で何でも屋まがいの仕事をしながら日銭を稼ぎ、仕事が終わればまた別の地へと移り行く根無し草だ。

 私の現在の持ち主であるこの男への不満を数え上げればきりが無い。目下の不満は聖剣である私をナマクラ呼ばわりにすることであろう。勇者が一度握れば比類無き切れ味を発揮する私を前にして『ナマクラ』とは無礼千万である。

「だったら、その切れ味を発揮してみろや」
「やかましいぞ。できるものならとうの昔に見せつけてやるものを」

 ちなみに、私には聖剣の担い手たる勇者を導くために、人間同等の知能と音声機能が組み込まれている。なので男との会話も可能だ。どこから声を出しているのかとか、そういった疑問は一切受け付けないので悪しからず。

「それで、今日の依頼は何なのだ?」
「おいおい、聞いてなかったのかよ。さては寝てたな?」
聖剣わたしが寝るわけ無かろう。考え事をしていただけだ」
「話を聞いてなかったら大差ないだろうが。ったく」

 呆れたように男が頭を掻いた。別に私に話が通らなくてもこの男の行動には何ら支障を来さない。私は聖剣としての意思もあり言葉を交わせるが、その機能は助言の域を出ない。私が男の事情を理解したところで、結局最後にものを言うのはこの男の意思次第だ。

 だというのに、この男は何かある度に必ず私に意思の確認をしてくる。無駄な行動だが、仕方が無いのでつきあってやる。

「今日の仕事は、盗賊に連れ去られた依頼主の娘さんを救出する事、それと奪われた依頼主の財産を奪取することだ。報酬は、財産の一割」
「その依頼主とやらは、どうせ王族や貴族と何ら関わりを持たぬ村人なのだろう。やれやれ、また実入りの少ない仕事を受けたようだな」

 権力者の仕事を引き受け、金銭を得ると同時に人脈を形成していく方が効率的だ。

「そう言うなよ。聞いたところ、その盗賊ってのはそれなりの規模を誇ってるって話だ。だったら、依頼主の奪った財産よりもタンマリと金品を溜め込んでるに違いない。俺の目当てはどちらかというとそっちだ」

 ぐふふと笑う男。激しくウザい。

「それに、助け出した娘さんが俺に惚れるなんて展開もあるかもしれん。そうしたら金と同時に嫁さんゲットだぜ」

 グヘヘとだらしなく笑う男。ぶっちゃけキモい。

「生まれ直してから出直せ阿呆。仮に吊り橋効果があったとしても、その強面に惚れる女子おなごがいるはず無いだろう」
「へし折るぞこの野郎!」
「やってみろ馬鹿者!」

 ぎゃいぎゃいと男と口論しながら、盗賊の居る根城へと進んでいく我々であった。



 盛大に口喧嘩をしながら歩いてたら、当たり前だが『不審者がここに居ますよ』と喧伝しているようなものだ。

 端的に言ってしまえば、我々は盗賊の根城に着く直前で囲まれていた。もちろん、囲んでいるのは件の盗賊だ。格好はともかく、顔だけを見るとどちらが盗賊かは判断しかねるがな。

「聞こえてんぞナマクラ」

 この男、己の強面を多少は気にしているらしい。だが事実なのだからしょうがない。先ほども言ったとおり、一度生まれ直してこないとどうしようも無い問題だ。諦めろ。

「いや、俺は諦めないぞ。いつか必ず、俺を婿さんに選んでくれる人がいるはずだ。絶対に……必ずぅぅ……」

 あ、最後はちょっと半泣きであった。本気で気にしているようだし、私も少し言い過ぎたかもしれん。頑張れ、いつか必ず報われる日が……来るのか?

「そこは最後は断言しておくべきだろ! 傷口余計に広げてんぞ!」

 正直済まなかった。

 ……ただ、そろそろ無駄話も終わらせた方がいいぞ?

「見たところ傭兵だな。どうせ攫ってきた女を助けに来たんだろうが、この人数を相手に随分と余裕だな」

 盗賊の一人が馬鹿にするように男に言った。

 男は盗賊たちを一通り見回すと、ぽつりと吐いた。

「ぶっちゃけると余裕だな」
「ちっ、どうやらご大層な武器を背負ってるようだが、あんまり俺たちを舐めない方がいいぜ。これでも俺たちを討伐しに来た傭兵を何人も返り討ちにしてるんだからな」

 盗賊の一人が笑い出すと、他の者もつられて笑い出した。確かに、常識的に考えればいくら男の体躯が優れていてもこの人数を一度に相手にすれば確実に負ける。しかも、聞いた話では盗賊はこの場にいるものたちだけでは無く、更に根城の方にも多く存在しているはずだ。やはり常識的に考えれば、こちらも人数を揃え、作戦を練って討伐に乗り出すのが定石だ。

 常識的に考えれば、の話ではある。

 盗賊たちの嘲笑を一身に受けながら、男も笑みを浮かべた。

 まるで血に飢えた狂人のごとき獰猛な笑みだった。ちなみに、これは普通に好戦的な笑みを浮かべただけであって、男が正気を失ったわけでは無い。普通の感性の持ち主なら(特に女性であれば)視ただけで恐怖に怯えて泣き出すか気絶する。

 男の笑みを運悪く正面から見てしまった盗賊の一人が顔を青ざめて意識を失う寸前にまでなった。笑みを浮かべていた男の顔が今度は少し泣き顔になった。この男、見た目に反してちょっとだけ繊細なのである。

 それはともかく、男はようやく背負っていた聖剣わたしに手を伸ばした。

 聖剣わたしの柄を握りしめた瞬間、男の足が地面にめり込んだ。私は普段は不毛の軽さを持っているが、一度『聖剣わたしを使う』という意識の元に柄を握れば、たちまちに大山の重さへと変化する。

 今、男の全身には凄まじい重量が押し寄せていることだろう。 だというのに、男はまるで気にする素振りを見せずに、鞘の留め金を外し、解放された隙間スリットから私を勢いよく引き抜いた。

 遂に露わになった聖剣わたし。得物を引き抜いた男に一瞬だけ警戒を抱いた盗賊たちだったが、次の瞬間には盛大に笑い出した。

「ぎゃっはっはっは、何なんだよそのぼろっちいナマクラは! 人を警戒させておいてそんなゴミを引き抜くとか笑うしかねぇだろ!」

 そうなのだ。 

 この男、勇者では無い、ただの人であった。

 ……ただの人にしてはかなり凶悪な面構えをしているが、悲しいことに勇者とは縁もゆかりもない一般人なのである。

 ゆえに勇者に握られていない私は凄まじい重量を発揮し、刃こぼれ放題の薄汚れた刀身を晒す他ないのである。

「好き放題に言われてんな、ナマクラ」
「聖剣であるとはいえ、今の聖剣わたしは紛れもなくナマクラであるからな」
「そう気を落とすなって。俺は聖剣のお前より、今のナマクラおまえの方が好きだぞ」
「真の聖剣となった私を視たことが無い者が何を言うか」
「ま、今はそれはいいだろうさ」

 男はナマクラの聖剣わたしを肩に担ぎ、盗賊の一人に足先を向けた。

「重要なのは、俺にとってお前が最高の相棒だって事だ」

 ふんっ、ならばその言葉、証明して見せろ!

「おうさ!」
「何をさっきから独り言をぶつぶつと。野郎ども、やっちまえ!」

 これまた典型的な台詞を一人が叫び、盗賊たちが一斉に襲いかかってきた。

 それなりの名を馳せている盗賊団らしく、全体の動きは統制されていた。これであれば傭兵の数を揃えたところで相手をするのは困難を極めただろう。

 ただ、この男を相手にするには、悲しいほどに力不足ではあった。

 切り込み役らしい盗賊の一人が、素早く接近してくる。スタンダードな片手剣と大ぶりの盾を構えていた。彼は盾を前面に押し出しながらツッコんできた。正面の盾で攻撃を受け止め、その隙に己か味方陣営が攻撃を行う算段だろうが。

 あまりにも無謀だった。

 男は聖剣わたしの柄を両手で握りしめると、大きく一歩を踏み出した。

 バゴンッと、地を踏みしめたにしてはあまりにも不釣り合いな音が響いた。

 盾を構えた男がこの音に気がついていれば、彼の人生は違った終焉を迎えていたかもしれない。

「ふっっっ──」

 誰の目から見ても明らかに大ぶりの、『今まさに剣を振ります』という格好からの全力スイング。盾を持った男は余裕を持って盾を構え直し、攻撃に身構えるが。

「──っっっ飛べやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 ドゴンッッッ!

「ぐぶるあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………」

 凄まじい『打撃音』が木霊し、盗賊は構えていた盾ごと斜め上空へとはじき飛ばされ、断末魔の悲鳴を引きずりながら──。


 ──お星様になりましたとさ。


「「「「……はい?」」」」

 あまりにもあまりすぎる光景に、機敏な動きを見せていた盗賊たちは呆けた声を漏らしながら動きを止めてしまった。

 男は額に手を当て、今し方自分が『飛ばした』盗賊が消えていった空を見上げながら、悔しげに言った。

「ちっ、飛び方がいまいち甘かったな」
「踏み込みがちと強すぎたな。変な力が入って力が分散してしまったようだ」
「俺もまだまだ精進が足りんな。まぁいいさ、『球』はまだたくさんあるしな」
「「「…………へ?」」」


 ここからは──というか、最初からだが──蹂躙劇の始まりだった。

「ちょっ! まっぎゃぁぁぁぁぁぁ………………」

 キラン。

「ひぃぃぃぃ! な、何なんだよこの男ぉぉぉぉ……」

 キラン。

「ごめんなさいもうしません許してぇぇぇ………………」

 キラン。

「「「星になるのは嫌だぁぁぁぁぁぁぁ………………」」」

 キランキランキラン。

 男が私を振るう度に、盗賊がまた一人、また一人が遙か彼方に吹き飛ばされ、昼間の空に輝く星となっていく。

 盾を構えれば盾ごと。剣を構えれば剣をへし折り。岩に隠れれば岩を粉砕し。木に登ればその木もろとも。とにかく何があろうとも全てを破壊し、男は次々と盗賊たちを吹き飛ばしていった。

「おらおらおら! 次にお星様になりたい奴はどいつだ!」

 この光景を誰かが見れば呟いていただろう。

『人がまるでゴミのようだ』と。

 この現象は、男の筋肉だけが原因では無い。あ、いや、結局の所は男の筋肉に帰結するのだが。

 繰り返して言うが、聖剣の担い手たる勇者以外の存在が振るえば、聖剣わたしは大山のごとき重さを発揮し、比類無きナマクラと化す。

 ここで重要なのは『大山のごとき重さ』だ。

 ──この男は、凄まじい重量となった聖剣わたしをあえて『打撃武器』として使用しているのだ。

 男の常識を捨て去ったような超絶腕力と、私の常識外れの超重量が組み合わさった結果、生まれてしまったのがこのお星様ホームラン量産劇。『ホームラン』という言葉の意味はよく分からんが、唐突に思い浮かんだ次第である。

 未だかつて、聖剣わたしをこのような形で使う者が現れたことが無い。当然と言えば当然だ。適正者以外が握ったときの凄まじい重量に誰もが諦める。そして勇者が握ったときに発揮する無双の切れ味を前にして聖剣という存在が勇者専用に用意された兵器なのだと思い知るのだ。

 なのにこの男。聖剣わたしを初めて握ったときにこうのたまったのだ。

『お、なかなかにいい重さじゃねぇか』

 正気の沙汰とは思えない言葉だった。そもそも、まともな神経の持ち主ならば、私を『刃物』としてではなく『鈍器』として使う事など無かっただろうに。

 ふと気がつけば、あれだけ多くいた盗賊も残りあと一人。残りは全て昼間の星ホームランになってしまった。

 盗賊はもう体中の穴という穴からきちゃない液体を垂れ流しにしながら腰を抜かしていた。仲間が次々と強制的に空高く舞い上がっていく光景を見せられれば、普通は心がへし折れる。

 男はへたり込む盗賊の股間部触れる寸前の地面に私を突き立てた。脅しのつもりだろうが。

「おい、ちょっと地面に汚物が染みこんでるぞ。私は清純系なのだ。汚れキャラにする気か」

 私の声を丸っと無視して、男は盗賊へにこやかに笑いかけた。やはり凶悪な笑顔だ。

 あ、盗賊の尻部分が盛り上がった。よほど男の悪魔の笑みデモニックスマイルが恐ろしかったのだろう。大きい方を粗相したな……って、ちょ、マジでやめろ近づけるな臭いが移るだろうおぃぃぃっっ!?

「あ、済まん」

 さすがに悪いと思ってくれたのか、男は聖剣わたしを引き抜くと鞘に収めようとして。

「せめて剣を拭いてからにしろ頼むから!!」

 直接では無いにしろ盗賊の漏らした汚物やらが染みこんだ地面に突き刺さったんだぞ! そのまま鞘に収めたら鞘の中になんか色々と籠もるだろうが!! 

 私の必死そのものの声にようやく重大な事実に気がついたのか、男は慌てて盗賊とは少し離れた場所に剣を突き刺した。それでもすぐさま手を伸ばせる位置に刺したのは褒めてやろう。 だから後でちゃんと手入れしろよ。

「悪かったから拗ねるなって。後でしっかりとするから」
「ちゃんと高級な油と油紙を使えよ?」
「……ナマクラだから意味ねぇだろ(ぼそっ)」
「あぁぁあん! なんか言ったかごらぁっ!!」
「分かった分かった! ちょっとキャラ崩壊してるぞお前!」

 誰のせいだと思っているのだ!

 まったく、この男は聖剣わたしの扱いがぞんざいだ。あれだぞ? 聖剣わたしって人類最強の兵器だぞ? 無双の切れ味を誇るんだぞ? 

「今は盗賊の根城をこいつから聞き出す方が先決だろ。お手入れは依頼が終わってからな」

 約束だぞ?




 盗賊団こいつらの根城はこの先にある岩肌に出来た天然の洞窟だ。単純な構造ではあるがそれなりに広く、大人数が雨風を凌ぐにはちょうどいい形をしているようだ。

 その他の盗賊に関する詳しい情報を得た後で、星になるのを免れた最後の一人は解放した。とは言うが、二度と人様に迷惑を掛けるような真似をすれば地の果てまで追いかけて天の星にしてやる、と男が忠告した。

 生き残りはやはりありとあらゆる穴からきちゃない液を垂れ流す顔で死にものぐるいで頷き、どこかへ消え去った。彼は星空を見るたびに仲間が星になっていく様を思い出し、眠れぬ夜を過ごすことになるだろう。不憫ではあったが、今までは世間様に多大な迷惑を掛けてきたのだ。生きているだけでもありがたいと思ってもらおう。

 さて、あの生き残りから聞き出した情報を元に、男はいよいよ盗賊団の本拠地に乗り込んだ。

 ──とは言うが、やることにさほど変わりは無い。

「ふんぬっ!」

 ナマクラの聖剣わたしを男が振るえば、間合いの内側にいた盗賊は、盛大に弾き飛ばされ轟音を立てながら壁に激突し、躯が半ばまでめり込んで沈黙した、生死の是非は問うまでも無い。

 先ほど違う点を上げれば、昼間のお星様になるか、醜い壁のオブジェになるかの差だ。むしろ、仲間が視界から消えていなくなるよりも、仲間の悲惨な末路がどんどん壁に刻まれていくことで、よりいっそう盗賊団の恐怖を駆り立てた。

 我先にと逃げ出す者が現れ始めるも、男は容赦なく追いつき逃げる者の背中に聖剣わたしを叩き付け、また新たなオブジェを壁に刻んだ。

 男の行いが残酷な行為に思えるだろうが、ここで逃がしたとしても盗賊たちはまた遠く離れた場所で再び犯罪行為に手を染めるだろう。被害の拡散を最小限に食い止めるには、ここできっちりととどめを刺すか牢屋にぶち込むしか無い。そして、こいつらを捕まえておく牢屋が無い現状であれば、殺すしか無いのだ。

「温いぞ、温いぞお前ら! それでもちょっとは名を馳せた盗賊団なのか! ふはははははっっ!!」

 ……男の行為は理に叶っているのだが、端から見れば凶悪な殺戮者そのものであろう。戦闘で興奮するといつもこうだ。後で思い出すと自己嫌悪に陥るくせに懲りない男だ。

 と、盗賊団もほとんど壊滅し残っているのもあと僅かというところで、洞窟の奥から一人の盗賊が姿を現した。今まではこことは別の広い空間にいたのだろう。

 その腕の中には、今回の依頼における目標と思わしき『娘』が羽交い締めにされていた。おそらく、人質のつもりなのだろう。選択としては悪くないが、それを決断するのがあまりにも遅すぎる。ここを切り抜けたとしても盗賊団の再興は困難を極めるだろうに。

 それに、この筋肉男に人質など通用しない。

「おいてめぇ! 動くんじゃねぇ! この娘がどうながぺやっ!?」

 娘に短刀を突きつけようとした盗賊だったが、口上を最後まで言い終えるまもなく男の怪力によって聖剣わたしが投擲される。娘の真横をすれ違い、盗賊の脳天が貫かれた。そのまま短刀と娘を取りこぼし、投げつけられた聖剣わたしの勢いに引かれて背後の壁にまで吹き飛び貫通した切っ先によって壁に縫い止められた。

 この手の輩は、最後まで言わせると落ち着きを取り戻してしまうので、口上の最中に潰すのが最も楽な対処法だ。

 唯一文句があるとすれば、聖剣である私を躊躇無く投擲した点だ。今はナマクラそのものの外見をしているが、本当は貴重なんだぞ? もう少し躊躇いを持って欲しい。

 得物である聖剣わたしを投げてしまい、男の手は現在空っぽ。それを見た残り少ない盗賊たちが好機とみて一斉に男へ襲いかかった。

 全く、知らないというのは哀れだな。

 担い手でないものが扱えば凄まじい重量を発揮する聖剣わたしを難なく振るう膂力の持ち主だ。そんな男がたとえ素手であっても弱いはずが無い。

 次の瞬間、男に飛びかかろうとしていた盗賊たちの男の拳を食らって逆方向に飛んでいった。聖剣わたしを振るう膂力から繰り出された打撃だ。まず生きてはいないだろう。

 どうやら、男が今始末したのが最後だったようだ。洞窟の中で男と捕らわれていたの娘以外に気配は無くなっていた。

 ──ちなみに、娘は気絶していた。己の側をもの凄い速度で剣が通り過ぎていったのだ。男の手元が狂うはずも無かったが、一歩間違えれば壁に聖剣わたしごと貼り付けにされていたのだ。その恐怖を想像するのはたやすい。



 その後、無事に依頼主の元に娘を届け奪われた財産も取り戻し、男の受けていた依頼は完遂だ。

 そして男の目論見通り、盗賊団は依頼主が奪われた財産の他にもかなりの金品を溜め込んでいた。

 使い勝手の良い金貨や宝石類は丸ごと男の懐に収まった。他にも値の良さそうな芸術品や装飾品もあったが、これらは解禁に時間が掛かるし持ち運びも不便だ。旅の傭兵である男にとっては余計な荷物だった。それに、金貨や宝石類だけでも相当な額に上る。儲けとしては十分すぎであり、これ以上欲張るの必要も無い。

 結果としては上々、なのに男の表情は晴れやかとは程遠かった。

「婚約者がいるとか反則やん」
「ま、仮にいなかったとしても、あの状況でお前に惚れるはずが無かったであろう」
「うぅぅ……やっぱり世の中は顔なのか」

 男のもう一つの目的である嫁さんゲット作戦はあえなく頓挫。原因は今男が口にしたように、攫われた娘には婚約者がいたのだ。いくら嫁が欲しい欲しいと嘆いてはいても、人様の恋人を力ずくで奪うほど、この男は外道では無かった。

「嫁さんが……欲しい!」
「まぁ、世界は広いのだ。お前のような犯罪者まがいの強面でも慕ってくれる酔狂な者が一人くらいはいるさ」
「慰めてんのか貶してんのかはっきりしろい!」


 ──こうして聖剣わたしと男の旅路はまだ続く。その終わりがいつ訪れるかは誰にも分からない。

 もし終焉が訪れるとしたら、それは男に惚れる酔狂な嫁が出来るのか、あるいは聖剣わたしの担い手たる勇者を見つけたときか。


「おい、聞いてんのかナマクラ」
「だからナマクラ言うな!」


 とりあえず今は、この男に背負われるがままであった。
 ざっくりとした人物(?)紹介

 ──聖剣──

 勇者のために存在する人類最強の兵器であり語り部。
 勇者が持てば羽毛の軽さと万物両断の切れ味を発揮し、そうでないものが握れば超絶重量に加えてナマクラと成り果てる。本来なら勇者以外には無用の長物であったが、『男』の手に渡ることで強力無比な打撃武器に変貌した。
 本来は冷酷かつ厳格な性格であったが、現在の使い手である『男』と関わっていくうちに色々と台無しになる。
 なんだかんだと言いつつ、『男』とはよく言葉をかわす。

 ──男──

 根無し草の傭兵。
 もう少しで二メートルに到達しそうな巨漢
 凄まじい膂力を有しており、通常の武器では彼の力に耐えきれずに崩壊してしまうため聖剣と出会うまでは素手での戦いが専門であった(それでも半端なく強い)。
 一睨みで女子供が泣き出しそうな強面で、実はそのことを気にしている繊細な面もあったりする。
 傭兵としてはプロであり金の匂いには敏感。ただ働きの人助けに近い依頼であっても、副次的に発生する収入でガッツリ稼ぐことがよくある。
 夢は自分をちゃんと好いてくれる嫁さんをゲットすること。



ナカノムラの別作品はこちら

『カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー』
 第4回ネット小説大賞受賞した書籍化作品です。
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