第一章 プロローグのプロローグ
第007話 1-7 プロローグのプロローグ
なんだかんだで、ユキがこの世界に現れてもそれほど違和感はなかった。
シナリオと現実の整合性がとれているようで、不自然に思う節は今のところは無い。
でも”なかった”というのは過去形の話で――
「(誰かに……)」
見られている。そう誰かに。でもそれは先程の男子勢が発していた殺気が練り込まれた視線ではない。なんというか……とても不思議な、それでいて粘っこい視線を感じるのだ。
「ユウジー食堂行こうー」
「!?」
あ、あれ? 今までに感じなかった殺気がその視線に出始めたぞ?
「どしたのー?」
「行くぞユウジ」
「参ろうかっ」
「あ、ああ」
その妙な視線(殺気含有開始)を気にしながらも俺らは食堂に向かった。
「(まだ………)」
食堂に来てもその視線はあった訳で、少し挙動不審気味。辺りを見回してその視線の主を探すのだが……
「どうしたユウジ、何かあったのか?」
「え?」
やはりその見回していたのが彼らに不審がられたようだ。ユキとユイ、ついでにマサヒロが俺を覗き込んでくる。
「いやなんでもないんだぜ?」
なぜか疑問形に返しながら、俺の平静さをアピール。
「そっかーならいいけどな」
言うものなら「見られてる? 自意識過剰すぎだろ」「アニメの見過ぎだなぁ、そりは」でもって皆から冷めた目で見られそうだし、喋るのは自重しておこう。
「飯にしようぞ皆の衆」
「うん」
「おうよ」
「ああ」
各自食堂で購入した昼飯を一心不乱に食らい始める。俺はリーズナブルで汁物で腹に溜まる温かいお揚げ付きうどんなのだが……
「(まだ見てくる……か)」
さっきの殺気(ギャグのつもりは断じてない)は薄れてきたし、恨みとかじゃなそうなんだよなぁ……
一体俺が何したっていうんだよ、視線が気になって食が進まないぜ! どうしてくれる!
「おにいちゃんおうどん食べさせて」
「あ、ああ」
その声を聞いて自分のうどんを箸で数本挟んで……ん?
「(のわっ!?)」
思わず驚いてしまった。その中学生にしては高く幼児にしては通る声、なんとも小さく発展途上な体。小学生相応の声や容姿を持つこの子は紛れもなく先程帰らせたばかりの桐であった。
そう、まぁ今の猫かぶり状態では分かりにくいが、桐がこの食堂の俺の元に居たわけだ。
「(大きい声を出すでない、鼓膜が破れる))」
「(悪い……ってなんでお前がここにいんだよ、帰ったはずだろ)」
「(ふふふ、おとなしく帰ると思ったか)」
あ、クソガキの発想だ……メンドクセー。
「(いや、帰れよ)」
「(ところで最近変わったことはないか)」
「(不都合なことはスルーするスキルは健在すね……最近ってさっきまでお前も居たじゃねえか、というか変わったこと、というか迷惑なのはお前が未だここにいることだ)」
「(揚げ足を取るな……それで?)」
俺の言った迷惑発言もスルーですか、そうですか。
「(……まぁ、あるっちゃあるけど)」
「(それはなんじゃ?)」
「(いやなんか妙な視線を感じんだよ)」
「(自意識過剰が)」
すごい、桐に言われるのが一番納得いかない! ということで一蹴された、結局は言われるのかよ……
「(それは冗談じゃが)」
冗談かよ! こっちは冗談じゃねえぞっ!
「(うむ、ヒロインの一人だと思われるな)」
「(え? ヒロイン?)」
「(ストーカー気質のようじゃ)」
なんという新感覚ヒロイン。ストーカーしてくるヒロインだなんて斬新すぎる、これは余り例がないに違いない!
……と見せかけて、結構ありそうだな。うん、主にギャルゲーではなくラブコメ漫画方面では有りそうな鉄板ネタだったな。
まぁ、でもそれをギャルゲーでやっろうってのは……そんな新感覚いらねえよって話だが。
「(厄介そうなのが来たな)」
「(そうでもないぞ、一度会えばルートに入る)」
「(はええ!? どんなやつだ?)」
「(しかし残念じゃったな、貴様はルートには入らない)」
自信あり気に胸を張って言う桐に嫌な予感をひしひしと感じつつ聞いてみることとする。
「(なんでだよ)」
「(それはな、妹ルート以外、このわしが許さぬからだっ!)」
……酷い横暴だった。
「(正確にはそのヒロインは性格に難ありなのじゃ)」
「(お前が言えた柄じゃないな)」
「(まあな)」
そこはスルーせずに認めちゃうのかよ。
「((しかしあちらの方が何枚も上手じゃ、一度選択を間違えるとバッドエンドじゃからな)」
「(……ムズすぎだろ)」
隠しヒロインの方がまだ希望を見いだせるわ。ギャルゲーって言ったら選択肢が無数にあるわけだろ? そんな中で正しいものを選び続けるとか……セーブ&ロード出来るゲーム媒体ならいず知らず、これは現実だ。まさにムリゲーじゃないか。
「(ということだ、ようこそ妹ルートへ)」
「(すまない、どういうことで妹ルートに入るはめになるのかさっぱり分からない……ということで俺は幼馴染らぶらぶルートに入る)」
「(ならば、妹いちゃいちゃらぶらぶルートへ)]
「(妹といちゃいちゃは兄妹としてはじゃれあってる的表現でギリギリセーフとしても、らぶらぶは人として駄目だろ……)」
誰だよ、こんな犯罪寸前シナリオぶちこんだのは!
「なにしてんだユウジ……ってそこにいるまさに妹キャラな人は?」
「いや、キャラとかじゃなくて俺の妹だから、なんか家抜け出してきたみたいでな」
とりあえずごまかした。いや……なんかマサヒロの言ったことは合ってるけども。見かけだけは妹キャラで合ってるからなあ。
「え! ユウジの妹さん?」
ユキが目を丸くして再度聞く。
「下之桐ですっ、よろしくおねがいしますです」
どうやら妹という設定なので俺の苗字を名乗っているようだ。
「家で寂しかったからきちゃいましたー」
それにしても。
「おにいちゃんに会えてうれしいです!」
なんという猫かぶり、むしろ清々しいね。というかその演技力は真面目にすげえ……使いどころ大いに間違ってるけど。
「桐ちゃんかわええ……っていうかユウジに全く似てないな」
こいつに素の桐を見せたら卒倒しそうだ……いやこいつの事だから「むむ、ギャップ萌えか!? これはこれでいい」とむしろ喜びそうで怖い。
そしてもう一人うっとり(眼鏡でよく見えないので推測)している者が――
「妹……かわええ、あたしシスコンだからどストライクだわぁ」
女でシスコン。更にそれを普通にさらけ出している時点でユイは半端じゃねえな。
「ユウジの妹さんかぁ」
「ああ、なんか来ちまってな、迷惑かけてすまん」
「「 大 歓 迎 !」」
満場一致の歓迎ムード……まあ、今の桐は当たり障りないからな。
「構わないよー……でも妹さんどうする?」
「先生に事情話して職員室で預かってもらうしかないな」
「えぇっ!」
今度は桐(猫かぶり)が反応した。
「私おにいちゃんといっしょにいたいですっ」
「でも授業があるからな」
「静かにしてるからっ、サイレントモード付いてるから!」
……最後のサイレント云々を無しとみても、現在の妹なら普通に良い。だからつい甘くなってしまうわけでして……ねぇ?
「……まぁ授業担任に相談してみる」
「えっ! 居てもいいの! ありがとうおにいちゃんっ!」
この妹なら悪い気はしないなぁ……
「(ぬふふ、計画通りじゃ)」
……これが聞こえなかったら素直に喜べたんだがな、ちくしょう。
「とりあえず早く飯食っちゃおうぜ」
と、マサヒロがけしかけ。
「いいねぇ、いいねぇ」
「うんー」
女子二人は乗ってしまったのだが、俺に関してだが思ったより汁モノは時間がかかり、案の定急いだのが仇となり舌を軽く火傷した。
桐の登場により、さっきの視線をすっかり忘れていた。ただその時間が楽しかったというのが理由ではなく、ただただ慌ただしかったのだ。……本当だぜ?
そんなこんなで桐のプラスされた午後の授業が始まるのだった。
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