第一章 プロローグのプロローグ
第003話 1-3 プロローグのプロローグ
「い」
一体、何が起こったというんだ。
ゲームのパッケージに描かれたキャラクターと同じ容姿の女の子が俺の部屋の窓から外には居る。
これなんてギャルゲ?
……まさにこれは男の夢の実現だが、どうしてこうなったんだ?
もしやこれは夢の延長線上なのか? それとも愛に飢えた俺が見た幻か……そもそも今までのが本当に現実と言えるのか、断言出来るのか、否出来ない。
もしかしたら俺は空想世界の住民で、今まではあまりに平凡であまりに並みの生活を送っていたのも自分がゲームやマンガで言う主人公ではなく友人A的立ち位置で――
「まあ……いいか」
短絡的な俺は(本来自分では言わない)
そんな細かいことは放り投げ、素早く制服を着、焼けていない食パンを口にくわえながら玄関へと辿りついて靴を履き替えると玄関戸を勢いよく開けた。
「あー、遅いよユウジー」
そこには天使がいた。
そんな彼女は一瞬花開くかのようなぱぁっとした笑顔を見せるが、すぐにムスっとしてそう言った。
「ユウジ、何でユキの顔じろじろ見てるの? 何か付いてる?」
顔をぺたぺたと不安げに触り始める彼女。
ユキというのか……いい名前だ。
全女子高生が羨むような白い肌と、身長も程良く俺の顔分ほど小さく、それでいて出るところが出て引き締まるところは引きしまる俺の眼から見れるスタイルは抜群で、大きくくりっとした茶色の瞳のある小さな顔に、長い黒髪をキュッと束ねたポニーテールが表情豊かで活発な彼女にはよく似合う。
でもって、首を傾げる描写まで花がある……正直たまらんね、うえぃ!
「いや、なんでもない(棒)」
し、しまったかなりの棒演技だ! イカンイカン、イメージはそうだな……主人公ボイス! よし主人公っぽく行くぞ。
「待たせて悪かったなユキ、いやぁ目覚ましがストライキしててさ」
「単にセットし忘れてただけだよね、二つなかったっけ?」
「さらに一つは電池切れだった」
「もー、ちゃんと確認しといてよ?」
「へぇーい」
す、スバラシイエークセレントォ! この楽しい女子との会話! 本当今の今まで生きててよかったわぁ。
「あっこんな時間」
ユキは取り出した携帯に表示された時計機能を確認して言う。
「急ごうっユウジ」
「あ、ああ」
女子、と、かける、通学路。
前には、フリフリ揺れる、ポニーテール。
人生、で、一番、幸せな時、かもしれない。
しかし、そんな時間は長くは続かなかったのじゃ。
「ユキっ早いから」
「ユウジが遅いんだよー♪」
こちらを向いてべぇーと指を目もとに宛てて言う彼女。
まさに「まって~、捕まえてごらんなさ~い」という構図……だっ!?
「! ユキ前っ前!」
「え」
鈍く耳をつんざく様なタイヤのゴムがアスファルトで滑って削れ擦れる音。
けたたましく鳴り続けるクラクションと聞き辛いブレーキ音。
「…………」
何が今起こったのか、理解するのには数十秒かかったと思う。
それはあまりにも衝撃で、あまりに突然で、あまりに残酷だった。
「っ!」
余所見をしながら俺に目を向かわせながら走っていたユキは交差点へと差し掛かった。
しかしその同じ交差点へは車が向かっていたのだ。車道側にミラーの設置が無く見通しの悪い場所。
そして次の瞬間。ユキがはねられた。
傍から見ればユキが飛び出して行った、車もそれほど速度は出ていなかった。だがそれはあくまでも法を犯さない制限速度で、きっと時速四、五十キロ出ていたのだろう。
それで人と車が接触したらどうなるか。その車にユキは弾き飛ばされ、その華奢な体は宙を舞う――
かたいざらざらとしたアスファルトの地面へと衝撃とともに叩きつけられたユキの体は大きく歪む。
白いセーラー服が皮肉にも染み出る血の多さ示しアスファルトに着実に流れ出す鮮血。口元からも垂れ溢れる鮮血。
「ユキ!」
俺は思わず名前を呼んでユキへと駆け寄っていた。細い体でなくともその衝撃に耐えることが出来なかったのは当然のことと思う。
「ユウジ……ユキばかだね」
「何も話すなっ!」
「ユウジともっと……話したかった。ごめん……ね」
眼は閉じ、俺の顔に近づけようとした左手は地面へ落ちた。
それがユキの力尽きる。命尽きる瞬間だった。
「ユキっ! ユキ!」
名前を呼んでも、答えは返らない。
次第に生気の抜けていくユキの体に触れながら俺の意識は堕ちていった――
「!?」
目が覚めるとそこは見慣れた自室で、俺はベッドに寝ていた。
汗をびっしょりとかき、目元には涙と思われるものが線を描いていた。それは悪い夢から起きた直後のような感覚。
「今のは夢……だったのか?」
あまりにもリアルで、とても恐ろしく怖い夢。最高に気分が悪い。
記憶は鮮明に残り、今でも思い出すだけでユキの死に絶えて行く姿や血を溢れさせるユキの姿を思い出すと寒気と吐き気が同時に襲いかかって来る。
「ぅお……」
必死で吐き気をこらえながらベッドの下へと目を落とすと、
『Ruriiro Days』
そんなタイトルのソフトが落ちていた。
「(嫌な夢……だったな)」
きっとあの幼馴染キャラのユキが出たのも夢の話なのだろう。
少し残念に思う反面、あんな最期を遂げるというなら出てきてほしくない気もする――気分の悪さもあるが、彼女の扱いが残酷すぎる。
「ああ……」
いつまで過ぎ去った夢を思っていても仕方ない。俺はベッドから足を下ろし腰を上げる――
「!!」
窓の外から声が聞こえた。
「ユウジー遅刻するよー」
「!?」
さっきのは夢、じゃないのか!? でもユキは――
お主よ。その訳を知りたいか?
「え?」
ふいに部屋へと響く声。それは小学生の女の子のような高い声だが、喋り方が少し変だった。
まるでイタズラに老婆のマネをする少女のような――
「誰かいるのか!」
わしじゃ。ほら、すぐ近くにおるじゃろう?
「え」
声の主へと目を向けると、パソコン机の前にその声の持ち主がいる。そして明らかに女子小学生な容姿がそこにいたのだ。
「おはよう、主人公」
喋り方だけがなぜか古めかしい女の子がそこに居た。
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