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どうなんだろね
第九章 G.O.D.<始まり>
第239話 √2-44 G.O.D.
「ホニさん、これに履き替えてくれるか?」
「う、うん」

 少しぎこちなくホニさんは答えると、俺が鞄の中に入れていたビニール袋と折り畳みスリッパ(新品を)を専用の袋から取り出して手渡す。
 ホニさんは受け取るとの子の近くまで歩いて出会った当初から履いているスニーカーをビニールに入れて履き替える。
 羽衣のごとくゆらゆら揺れる長い黒髪と、長くもなく短くもないこの学校の制定とは異なるセーラーを舞わせて、次々登校をする生徒たちの注目の的となる。 
 
「じゃあ行くか」
「うん」

 手を繋ぐことはさすがにしないが、直ぐ隣でホニさんはひょこひょこという可愛らしい効果音が合うほどに歩いている。
 隣を歩く俺の後ろにはいつものメンバーが連ねるのみならず、俺たちの向かう方向へと行かないはずの他クラスの生徒も間を空けてついてくる。
 今のところ話しかけられてはいないが、確実に月曜の気だるげに満ちた空気を掻っ攫って好奇に溢れ視線を向ける廊下となっていた。

「ユウジ」
「……ん?」

 いつもは隣か、少し前を歩くユキが俺とホニさんの隙間に顔を近づけるようにして俺の名前を呼ぶ。
 その声に不機嫌さは感じられないが、名前の呼び方に少しの疑問とニュアンスを含んでいた。

「なんで急にこの子が?」
「……すまん、とりあえずは教室に着いてからな」
 
 この質問はユキから一回目で、マサヒロを数えれば二回目になる。ちなみに一回目のマサヒロの質問の返しと今の返し派同一だ。
 状況が複雑で、歩きながら語るというのは難しすぎる。なにより一応ユキ達は”ホニさんが神様であることを知っている”という前提が有って話すことなので、他の生徒や教師などに聞かれるのは少々困る。

 そうしていつもより俺に向けられる圧倒的敵意の視線が増している中、またいつもより長く感じる廊下を歩きながら教室へと向かう――


* *


 姉貴に電話をかけて、先に帰ってしまったことを伝えたあと。桐は突然に「お主の部屋に話の場を移そう」と言いだした。
 少し痛みこそ引いてきたとは言え、絶賛筋肉痛なので今体を動かすのは非推奨で「なんで?」と聞いてみる。
 
「お主の部屋は色々と都合がよいのじゃ」

 理由があるのだろうが、なんというか誤魔化すかのようにあやふやにした。
 問い詰めてもそこまでこだわる事柄でない以上は、これ以上なにも言わずに桐の言うとおりにする。
 そうして三人階段をあがり、俺の部屋へと入って行く。ホニさんが来るのは二回目だろうか? 前回はちょうど一週間前の家事を覚えてくれた日。
 その時から俺のことを「ユウジさん」と呼ぶようになり、俺も「ホニさん」と呼ぶようになったのを思い出す。
 そっか、そんなに前でなかったか……まだ一週間しか経ってないんだなあ、としみじみ思う。
 まさか一週間でここまで状況が一変しうるなんて、想像すらつかなかった。

 カーペット張りの地面にあぐらをかいて座る桐にならって、俺も地べたに座る。ホニさんもそれにならって座るものの。

「ホニさん、正座とか疲れないか?」
「うん、大丈夫だよ」

 さっきから沈んでいた表情ばかりだったので、久しぶりにホニさんの神々しく可愛らしい笑顔を拝むことができて内心ほっとしている。
 あー、言ってはいるものの。少し責任みたいなものを感じて重くなってるんじゃないかと思っていたものの、体勢のことも今の心境も大丈夫のようだった。
 ……にしても桐はあぐらか。うん、なんというか女の子座りは似合わないと思っていたけどあぐらは違和感ないな。
 どういうことなんだ、容姿相応ならば正座か女の子座りが丁度良いと言うのに……やはりオーラと性格の違いでこうも変わるのか。

「……お主、今何か失礼なこと考えたじゃろう」
「まあな」

 気軽にそう答える。まあ嘘では確実にないし。

「まあな!? なぜにそこまで軽々と返すのじゃ! 少なくとも話題を逸らすなり白を切るなりすればよいものを……!」
「てかどうせお前は俺の心読めてるんだろうから、後だしで怒るつもりだっただろ」
「う……」

 桐の策略はそれほど上手くはイカなかったようで、表情には「読まれてるのは実はわし?」とかいう悔しさときまずさを併せ持った複雑な表情をしていた。
 なんとも桐は相変わらず表情が福笑いで出来るであろう顔パターンのように豊かで、からかい甲斐があって面白い。
 からかうのが得意な桐でも、カウンターを食らってしまえば一溜まりもないようだった。
 ……まあ、お遊びもここまでにして。一応部屋まで移動した理由は分からないが先程の続き、本題を再開させる。

「それで、桐。ホニさんが学校に一緒に行って貰える事になったとはいえ、どうすんだ?」
「どうする、とは?」 
「公立高校で結構フリーダムな学校だけども、ホニさんを連れていくのは難しいんじゃないか?」

 容姿ならば少し幼い、という解釈でも良さそうだが書類上はどうしようも出来ない。
 教師にかかれば、一瞬クラスを見渡した途端に気付いてしまうだろう。

「まあの、高校じゃからの」
「……でも離れない方がいいんだよな」
「うむ。じゃがわしがこれを考案したのじゃぞ?」

 まさにドヤ顔で、まさに自分だからぬかりなく出来たんだぜ。的な偉そうな表情を向ける桐。
 イラつくとは言え、桐の表情は自信に溢れていて。こういう時はそう間違っていない場合が多い
 
「……何か桐には策があるってことか」
「うむ。では少し待たれよ――」

 そう言うと勢いをつけるようにぴょこり飛びあがるように立ち上がると、部屋を出て行く。
 少なくとも階段を下りずにこの二階の間を移動し、扉を開く音が聞こえた。
 そして突然に聞こえる桐が誰かと話しているかのような声……そうか誰かに電話してるのか、と解釈しておく。
 少なくともあの桐が一人芝居を打つほど痛い訳ではないのだろう、きっと電話の受話器の向こう側には桐と話す誰かが居るのだろう。
 そう思って桐が来るのを待っていると――

「ユウジさん」
「ん?」

 またまただんまりを決め込んでいたホニさんが口を開いた。
 きっとホニさんもああいう表情もつくってくれたけどもかなり気負ってるんだろうな、と思う。

「我が神様だって……本当に信じてくれてる?」
「? なんでだ?
「ユウジさんがそんな風に見えたとこじゃなくてね! ……我って神様には見えないと思うから、ね」

 ……確かにこんなにも中学生神様ことか●ちゅな可愛らしい神様がよく居たものだなあ、と思ってもいた。
 守護霊というせいか、どこかホニさんとは繋がっている気がしていたとはいえ。容姿と声までもがしっかりと普通の女の子だった。
 でも聞いていて分かる。こんな幼き姿の中にとにかく膨大な時を過ごして得たものが見え隠れしていることを俺は感じていた。
 桐のようにあからさまな老婆喋りはせず「我」という一人称以外は極めて幼さ残る女子中学生のような声。
 それでも時折みせる寂しそうな瞳と言葉は、彼女の幼い姿を包み隠してしまうほどに深い。
 それがイコール神様とは言えないが、俺には彼女がホニさんが嘘をついている風にはみえなかった。
 彼女は本の内容をそのまま信じてしまうぐたにとても純粋で、山を降りて景色や真新しいものを見る度に瞳を輝かすほど殆どを知らない。
 ……例えそれが違っていたしても、あの時一回だけ触らせてもらった頭頂部から左右にぴょこりと出た確かに脈打ち生きている耳は、俺とホニさんとは何かが決定的に違うことを指していた。

「……ユウジさん、我は神様で良いんだよね?」
「どんな意味だ?」
「我はユウジさんに真実を見せてもいいのかなって」
「……?」

 不安に表情を曇らせて俺を見上げるホニさんの顔がある。そしてその声はあまりにも真剣だった。

「ユウジさんは、我を守ってくれると言ってくれて……嬉しかった。今までは頼られるだけだったから」

 その幾年を過ごしたホニさんの言葉の示す意味を恐らく何分の一も汲み取れていないであろう、それだけに深く重い言葉。

「でも我も……頼り切ってはいけないから」
「…………」

 そして立ち上がって。
 途端に目をつぶる。何をするのだろうと、身構えていた……その時。


「延々に続き包み込む母なる大地よ――深く蒼の色へと染まるすべての源の海よ――永遠とわに続き遠く広がる遥か空よ――全ての自然よ我に見方せよ――!」

 
 ホニさんは瞬く間に全身を包み込むように輝く光を帯びて、長い髪が風もないのにゆらゆら揺れ宙に浮くかのように舞う。その光景は本当に神々しいという表現しかでないほどまでに美しく、それでいて力強く、全ての人が性別問わず見惚れてしまうような神秘的な光景だった。
 信じていないわけではなかった。けれども俺は見誤っていた――ホニさんが俺とはどれほどまでに異なり違う存在であるかを――


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