第八章 ※独占禁止法は適応されませんでした。<寒空>
第189話 √1-94 ※独占禁止法は適応されませんでした。
「なんで、おばあちゃん!」
それほどの怒鳴り声を上げるマイを初めて知った。離れてからは俺の知らないマイを知ってばかりだ。
訪れたマイの家――佐藤さんの家にはマイが居た。
崩れた部屋着で目を真っ赤に腫らしながら……目元に残る雫、マイは泣いていた。
佐藤さんが帰り、俺を連れていることを知らずに玄関に出たマイは驚愕していた。
なんで、ここに? なんでおばあちゃんと? なんで、なんで――俯きながら小さく呟いていた。
「マイ、私はあなたを想って――」
それがマイの逆鱗に触れる。
「望んでない、望んでない! 私は、そんなこと――」
ここまで喋りのくずれたマイも初めてだった。
気持ちをここまで真っすぐにぶつけられている佐藤さんは内心少し羨ましかった。
しかし、そんな佐藤さんにマイは応えない。そして思わず名前を零してしまう――
「マイ……」
「っ!」
もしかしたら今まで俺がいないように振舞っていたのかもしれない。
だから俺をまた見た時には、かつての口調へと戻り。
「ごめんなさいっ」
「マイっ! 何処行くの!」
マイはまた俺を横を走り去る。何度目か分からない拒絶に今にも心は折れそうだった。
でも、俺は。
「マイっ、マイィィィィィィィィィィィ!」
力の限り。声の限り。近所迷惑なんていず知らず。全力で走るマイを追いかけて行く。
なんでこんなことになったんだろう、と改めて思う。
俺がいけなかった。俺に全て非が有った。でも、それでも……
「こんな別れは――」
無理だ。こんな最後は悲しすぎる、切なすぎる。それに俺は伝えなければならないことがある。
俺が拒絶されていても、それでも声を大にして一つだけ伝えたいことがあるんだ。
「俺は……俺はっ」
マイが好きだ、と。
届かなくてもいい、その言葉で終わってもいい……でも、言わないと気が済まないから。
俺は駆けて、駆け抜いて。彼女の元へとスニーカーで地面を蹴飛ばしながら走って行く――
HRS√1-6
散々笑い泣いた私は、無感情になった。私に残されたのは何もなかった。
弟は私よりも若く死に。あれだけ憎んでいた父は母を道連れにして死んでいった。正確には違う、母が道連れにしたのです。
分かっていても私はそうは思わない。責任を感じて、これから手を汚したまま生きて行くのが辛いものだと悟ったから。
だから、父だけ死ねばいいのに。母自身も自殺したのだと思う。
でも出来れば考えてほしかった。私がいることを。私を残して皆が消えてしまったら、私はどうすればいいのか。
いっそ、私も死ねれば良かったのに。そう考えていた――
母を憎むことは出来ないけども、最後の最後に見捨てられ私にとっての”裏切り行為”は私を大きく傷つけられた。
その後は本当に親切な母方の祖父母にひきとられた。本当に親切で、逆に困って仕舞うほどだった。
私を強く想ってくれていた。ただの孫娘と祖父母の関係なのに、直接な繋がりはないはずなのに。
だけど祖父母はこう言った「私の娘が残してくれた最後の孫でもあるの……それに、マイ自身がとっても大切なんだよ」
その愛を感じなかったかと言えば嘘になる。でも信じることは出来ない――
もしかしたら、父はないにしろ母と同じ”裏切り”をするかもしれない。そう思ってしまうと心を開くことは出来ませんでした。
中学生になっても人を信じることは出来ませんでした。
クラスメイトとは友人関係を築くことは出来ず、いつも一人ぼっちでした。
それでも私は寂しくなかった。そもそも寂しいという感情をあの時に失くしていたから何の問題もありません。
それから二年は時が過ぎて行く。消化試合のように、機械的に過ごす日々。
死んでもいいけれど、死ぬ理由もなかった。それに祖父母のことも心の片隅にはあったのです。
……少なくともあれほどに親切にしてくれる祖父母に迷惑はかけたくない、と。
変わったのは三年の初めでした。
いつも通り、何も感じない日々を過ごしていた。そんな時に一人の男子生徒とすれ違ったのです。
「…………」
その男子生徒はひどく沈んでいた。まるで、私を鏡でみたかのように暗く憂げで絶望に満ちていました。
だたの同類としかその時は考えず、記憶の海に流れ去って行くかに思えました。
翌日また男子生徒とすれ違った、しかし様子が違いました。
今度は話相手が居て、延々と聞かされることにたまに相槌を打つ程度です。
それも彼が変わっていっているように思えました。
そのまた翌日にすれ違えば今度は自分から話題を切り出していました。
大きな進歩だった。かつての同類だと思った彼は数日で様変わりしているのです。
「(どうしてそこまで、変われるのだろう)」
その男子生徒が気になり始めていました。
更にそのまた翌日。
すれ違うことはありませんでしたが、こっそりと休み時間風景を覗く。
そこには普通に笑いあいながら話す男子生徒が居て、もう同類とは呼べないまでの変わり様でした。
「(!)」
さらにもう一人やってきた。茶色い短髪の変な眼鏡を掛けた女子が話す二人に話しかけていました。
口車にのるよう――いえ、ごく自然にその女子は会話の輪へと入って行き、会話は弾んでいます。
「(どうして……どうして)」
疑問でした、なぜ人が集まるのか。かつての同類になんでここまで人が集まって来るのか。
その後にも、女子が輪に入り。若干噛み合っていない場面こそあれど会話は弾んでいました。
その時私は「羨ましい」そう思うのと同時に「あの男性生徒は私と何が違ったのだろう」と思うようになりました。
その頃から、男子生徒を付けるようになり――そして名前を知りました。
「ユウジー、はやく見せてくれよー」
「いや、まてって……このキャラメルパッケージが――」
……ユウジ。
ユウジ。ユウジユウジユウジユウジ。
ユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジユウジ。
「……ユウジ」
名前を覚えてからは、彼を目で追うようになりました。
もしかしたらその頃にはもう私は好きになっていたのかもしれません。
それは羨望か憧れか……分かりはしませんでしたが、気になって行くのです。
そして想うのです。あのように人を寄せ付けるような人に。
私は愛して貰えるのではないか、想ってくれるのではないか。
決して”裏切らない”のではないか。
そうして私は深みに嵌っていきますが、結局中学時代には会話を交わすことは一度もありませんでした。
それでも私は変わろうと思いました、私をいつか愛してくれるように……手入れしていない髪を整え前髪を切り――
印象が変わる頃……三年も終盤に差し掛かった頃には、色々な男子生徒が集まってきましたが。
どれもこれも私の容姿だけで、いつかきっと”裏切り”をするであろうと考え、告白も断り続けました。
私はもう心に決めていたのです。
ユウジ様という方に愛してもらいたい、だから私からまずは愛そうと。
そして、高校になってから念願の同じクラスメイトになって。
最初の遭遇はあの時……ユウジ様が私のペンケースを落としたあの時です。
それから、私の世界はまた動き出したと言えるのかもしれません。
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