表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

手を繋いで

残酷な描写があります。

苦手な方はご遠慮下さい。

 助けを求め一縷(いちる )の希望とともに絞り出される悲鳴がこの廃園には満ちている。執行は高レベルで排出される危険信号を察知していた。紗々もそうであるに違いないと思った。しかし、紗々の方は無表情で自らの裸体を執行に擦り寄せてくる。


「田川、逃げよう。ここに居たらやられる。何かわからないけどかなりヤバめだぞ!」


 執行は紗々の体を離し、急を要する事態を訴えたが、紗々は反応しなかった。


 紗々の目から一筋の雫が落ちた。それは段々といく筋にもなって両目から流れ落ちてきた。


 血だ。


 紗々を纏っていた不思議な香りは甘い血の匂いと腐臭が混じった香りだ。


 そして、首にも亀裂が走り、ぐぅっと喉を鳴らして伸び上がった。


「うわあっ!」


 執行は紗々を突き放し、目の前の怪異に目を見張った。紗々の身体も半分から裂け、ジャバラの腹が現れ、若草の下からは角のようなものが皮膚を破って突き出てきた。先端は返しのついた針のようになっている。


 それは天井に頭がつきそうなくらい伸び上がった。紗々だった化け物はゆらゆらと揺れて「好きよ……好きよ……」と呟いていた。


「ざっけんなっ! 化け物! クソッ! 」


 執行は部屋から猛ダッシュで逃げた。


 あれは紗々じゃない。紗々は殺されたんだ。アイツに。ちくしょう、あれは一体なんだ! とにかくコッチは丸腰で、まともにやり合っても殺られるだけだ。援軍を呼ばなけりゃ! 武器も! 親父が趣味で集めてる日本刀を持ってきてぶっ殺してやる!!


 そんな事を目まぐるしく考えながら最初に入った広間に来ると、そこは戦場で、屠殺場(とさつじょう )で、(いびつ )で、血と汚物と腐った匂いが混ざった異世界だった。


 引き裂かれた人の肉が散らばり、血がべっとりと床を染め、天井からも人間が血だらけでぶら下がっている。(はらわた )は引きずり出されて人の体に巻き付けられ、器用に天井から吊り下げられていた。その体は血と体液で濡れてゆらりと揺れる度にキラキラと光り、人肉のシャンデリアのようであった。


 部屋の中では職人達がせっせと仕事をしている。シャンデリアから滴る雫も気にする事なく、熟練工のように作業に没頭している。どれも様々な生物が混ざり合ったような奇妙な形をしていて、どれ一つとて同じものはいなかった。その魔に魅入られた者達は硫黄と排泄物を詰めたような臭いを発しながら、人の(むくろ )を前にして、あるものは解体し、あるものは組み立てていた。


 全てに共通する特徴と言えば、全てが出鱈目であるという事だった。


「クソッ! マジでなんなの!? コイツら!」


 突然、腹に痛みが走った。


「ツッ!?」


 執行の腹を角の先端が貫いていた。引き抜くと同時に先端の返しが体に引っかかって化け物へと引き寄せられてしまう。


 ゴボッと血を吐いて仰ぎ見た紗々の顔は少しめくれて内側の魔性を垣間見せ、尖った歯列がギラりと光った。口から吐き出される異臭を嗅いだ時、紗々の顔が半分に映りそして全てが暗闇に包まれた。


 執行は気がついた時、見知らぬ場所にいた。

ここは何処なのか……。細い道が延々と続いている。少し歩くと見たこともないような美少女がいた。全身が赤く光ってとても素敵だ。そしてとてもいい匂い。この匂いを知っている気がする。


「すみません、ここは何処? 君、知ってる?」


「知らない。私も気づいたら此処にいたの」


「それにしてもさ……君に会ったことがあるような気がするんだ」


「ふふっそんなこと言って、ナンパ? だったらお断りよ」


「へっ、ナンパなんかじゃないけどさ……君すごく綺麗だね」


「やっぱナンパでしょ。ねえ、あなたお名前は?」


「さあてね。頭が半分ないからさ。思い出そうとしても思い出せないんだ。腹もホラ、穴が空いちゃってる」


「……私も思い出せないの。頭はあるのに。身体中が痛くて思い出せないの。私ね、前は兎だったんじゃないかしら? なんだかそんな気がするの」

 

「じゃあさ、思い出すまで一緒に歩く?」


「ええ、いいわ。あなたいい人そうだもの」


「暗いから……手を繋いでいいか? 目が片っぽしかないから見えにくいんだ」


「もちろん。あ、でも私の手は濡れているから。気持ち悪くない?」


「全然…… 君はとても素敵だよ……」


「お……世辞……が……うま……いわ……」


「お世……辞……じゃな……いよ……」


 二人は細く暗い道を何処までも歩いていった。


 繋いだ手はぎゅっと握りしめたままで。




 豪華絢爛な舞踏会が今宵開かれた。人の頭がランタンに変わり、肉のシャンデリアが飾り付けられ、内蔵や骨が楽器になりかわり奇妙な音を奏で、それに合わせて城の至るところで紳士と淑女が踊り、もつれ合い、アリアの叫びに身を震わせて人生を謳歌している様を城は楽しんだ。たとえ悪魔の淫売宿に身をやつそうとも、華美で煌びやかなかつての時間が戻って来たかのようで、城は大いに満足であった。











後日、表現などを変える事があるかもしれません。

よろしくお願いします。


このお話はフィクションです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ