68:話を終えて
今回は短めです。
前世の記憶を話し終えるも、誰一人動くことも言葉を発することもなかった。
前世のことを他人に話すのは初めてだったが、精神的な疲労感が強い。話すことで記憶が清明に思い出し、当時の私に戻ったかのような気分にさせられる。
そのせいか、目の前にお父様を見ると気分が悪くなってくる。自然と視線が下におり、口元を手で押さえて背中を丸める。そうしないと胃の中の物を吐いてしまいそうだった。
目の前が霞んできたとき、膝と頭、背中に温かさを感じた。軽く視線を上げると私の膝の上にお顔を乗せてたコハクと目が合った。コハクは私の膝に顔を擦り付けながら「クゥン」と優しく鼻を鳴らした。まるで、慰めてくれているように感じた。
コハクの頬に手を伸ばすと、コハクは私の手に擦り寄って気持ちよさそうに目を細めた。その姿を見て、コハクの温かさを感じて、フッと息を吐き出して肩の力が抜けた。どうやら知らぬ間に体が強張っていたようだ。
そっと視線を上げ、私の頭を撫でているキリアさんに視線を向けると、優しく微笑まれ「よく頑張ったな」と労ってくれた。その間もずっと私の頭を撫でており、その手が離れることはなかった。そして、珍しく静かなカーナさんに視線を向けると、私の肩口に額を乗せていてた顔を上げた。涙を流しながら辛そうに顔を歪めたと思ったら、勢いよく腕で顔を拭うと、再度背中をギュッと抱きしめて、優しく笑いながら「生きていてくれて、ありがとう」と言われた。泣きそうになるのをグッと堪え、目に涙を溜めながら自然と笑いがこぼれた。
カーナさん達の温もりによって、前世に引っ張られ冷えていた体に熱が移る。強張っていた体も和らぎ、吐き気も収まり、気分が少し浮上した。
コハクのフワフワな毛を手で梳きながら、勇気を出して視線をお父様へ向けた。
私の話を信じているのか分からないが、呆然自失の状態で視線は机の一点を見つめ動くことがない。ただ、祈るように組んでいた両手だけが震えていた。よく見ると強く握りしめているせいで爪が手の甲に食い込み血が滲み出てきている。
私が見つめ続けていると、お父様は錆びた人形のようなぎこちない動きで顔上げ私と視線を合わせた。一瞬、クシュっと顔を歪め泣きそう表情をしたが、すぐに唇を噛みしめギュッと目を瞑った。
お父様が何を考えているかなど分からなかったが、何度も口を開きかけて止まり、口を閉じて唇を嚙みしめる行為が続いた。
何かを言おうとしている様子だったが、一向に時は進まず、お父様の両手の甲と下唇の流血だけが時の流れを感じさせた。
私はカーナさん達の温もりを感じながら、お父様がなにか話すのをジッと待った。周りから見たら、前世のこととはいえ、酷いことをした相手の言葉を待つなど、相手を許そうとしているように見えることだろう。しかし、私は前世の境遇に恨みがないなどと聖人君子のような考えは持ち合わせていない。ただ、恨みを晴らしたり逆襲するよりも安住の地を手に入れることの方が優先であり、お父様の言葉を待つのは国を安全に出るために、安住の地に住むために必要だと思ったからだ。
そうこうして静かなまま時が流れ、そろそろ口を開こうとしたときに外が騒がしくなった。
こんばんは(*´ω`*)
前回がちょっと中途半端で終わってしまったので、短いですがアップさせていただきました。
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