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どうぞ。
dioxin
作:荒木ヒロ


 やぁやぁ。今日は何をやっているのかと思えば、たき火ですか。

 学校から家に帰ると、アパートの前で火を焚く女性がその隣にしゃがんでいた。隣にコンビニのビニール袋(ボクがキチンと畳んでプリンターの上にためて置いた物)と、その上にマッチがバラバラとある。遠い目をして、ゆらゆら揺れる灯を眺めている美女に、ボクは声を掛けざるを得なくて掛けた。

 「こんにちは」先ずは挨拶から入るのが、会話の基本でしょうと言いつつ、ここで怒鳴りつけたところで、彼女にはてんで無効果なのである。そう。の一言で済まされる。
 なにぶんボクも、今この状況をワクワクと楽しんでいたりする。彼女の行動は常軌を逸し、見ていて飽きず、聞いてその災禍に巻き込まれてみた方がひょっとして、ボクの得になるのではないかと思わせるのが、彼女の魅力なのである。

 おはよう。
 
 と、見ずに返すがもう夕方である。多分、起き抜けで何かを思いつき、その足でボクの部屋に侵入しビニール袋を調達したのだ。彼女はボクの部屋の合い鍵を勝手に作った。見れば、ボクのTシャツと余りをめくったジーパンを履いている。昨日洗濯したものだ。

 「今日は何をと、見れば分かります。たき火ですか。確かに、最近は寒いですよねぇ。ボクも、よいしょっと、当たらしてください」彼女の隣にしゃがむ。
 
 もう良いかな。「何がです?」
 彼女は立ちこめる煙の中に美しい顔を突っ込んだ。直後咳き込む。

 「……何か分かりましたか?」
 
 げほ、けほけほっ。これ、見て。

 ビニール袋を一枚にゅっと出す。ある文章を細い指が指した。

 『この袋は、ポリエチレン製で無害です』

 ここまで読んだ時点で、ボクは彼女が何をやろうとしたのか大体は把握できた。
 『焼却しても塩化水素等の有害ガスを発生しません』
 
 「それで、有害なガスは発生していなかったですか?」

 首をプルプルと振った。
 すごく臭かった。だから、多分有害。これ嘘つき。

 ボクは、彼女の方がもしかすると害なのではないかと思った。

 そのまましばらく、二人で火を見つめていた。
 彼女は時々煙をつまんだり、切ってみたりした。

 後片付けが終わり、階段を上る。

 「そろそろ暗くなってきましたし、実験も終わったんでしょう?(こくこく) じゃあ、ボクに夜ご飯作って下さい。服と、ビニール袋の使用料として」

 別に良いでも何?

 「あなたがいいです」
 
 お腹膨れない。
 少し悲しそうな顔をした。彼女はセックスのメタファーに気づいたのだろうか?

 「大丈夫。性欲は食欲を凌駕します」と押してみる。

 ふうん。
 
 どうやら興味がないご様子だ。

 「はぁ、嘘です。作ってくれるなら何でも良いです」

 そ。

 彼女は、ボクが渡した部屋の鍵で開けて入り、内側から鍵を閉めてしまった。

 悪意なのか善意なのかは、正直なところわからない。そういう人なのだ。

 仕方がないので、ボクは逆に彼女の部屋の鍵を開けて、ベランダから入る。ボクの家のベランダは、こういう時のために(あるいは彼女のために)開けてあるのだ。

 「あなたの部屋のベランダの鍵も、開けて置いて下さいよ。念のため」
 ソファに座りながらボクは言う。彼女はエプロンの代わりに、ボクが昨日洗濯したばかりのバスタオルを巻いていた。おそらく、彼女は今日もぐちゃぐちゃに汚す。後片付けは、ボクがやることになる。
 その頃彼女は、新しい興味を見つけているのだ。

 たまにならいい。

 「どうも」

 これで終わり。
 
 「?誰に話しかけてるんです?」



作者です。
この作品は、ある日コンビニのビニール袋を眺めていた時に、「これホントに有害なものが発生しないのかなぁ?」と考えて書いた物です。無口で奇行に走る女性については、「もしこういう人が俺の家の前でたき火をしていたら面白いだろうなぁ」と思って書きました。













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