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モブに恋した英雄

作者: リック

 猫を追いかけて道路に飛び出し、トラックに轢かれそうになった子供を庇った結果、俺は異世界へ行く事になった。


 お決まりの女神様からの「この世界を救いたまえ、選ばれた少年よ」 との声で魔王退治へ。


 その際のパーティーメンバーときたら……。浄化の力を持つ国王陛下の一人娘の王女、デレデレ聖女。魔法使いな神官の娘で、攻撃魔法とツンデレ担当。闘技場で名を馳せる格闘ぅゎょぅι゛ょっょぃ。治癒魔法使いとパーティーのブレーンのグラマラス美女、脱ぎ癖のお色気担当。要するに俺ハーレム。


 魔王の城まで人助けをしながら俺は旅を続けた。道中には触媒探しやら武器強化やら成長イベントやらあったけど、女神に愛された俺には攻略本を見ているかのように楽勝。


 でもそれだけではなかった。途中で俺は出会ってしまった。地方領主ニールのもとで一泊した夕べ、暇つぶしに一人で街を散策していると「あれが勇者だ」 「まああれが」 「ありがたい、寿命が延びる」 との囁き声にふんぞり返って歩いていると、突如ぶつかってきた少女。


「あいたた……もう、前見て歩いてくださいよ」

「……お前こそな。俺を誰だと思ってる」

「上見て歩いてた変な人? ああもう構ってられない。早く勇者様に会って異変をお伝えしなくては」

「俺に?」


 話を聞くと、少女の名前はロニーナ。数日前から猟師や木こりが山へ入ったきり戻らないそうだ。よくある魔王の罠で、勇者の俺が倒して終わり。


「貴方が勇者って本当だったのね」


 全てが終わった後の領主の館で、ロニーナは腑に落ちない様子でぼやいた。


「うん! ゆーしゃはすごいのよ!」

「王女様、下々の者に気安すぎます。それと、ロニーナと言いましたか? 貴方の勇者への無礼な数々の振る舞いは場合によっては極刑にもなりうる……」

「あら……勇者は気に食わないって言ってたのはどこの魔法使いだったかしら……?」

「な!」

「働いたあとのお肉おいしいですー」


 俺は不思議と後ろの仲間達を気にせずロニーナだけを見ていた。考えてみればこの世界に連れて来られた時から監視つきの日々で、仲間や女神、王族以外と話した事はなかった。ロニーナみたいな子がこの世界の普通の少女なんだろうか。


「ごめんね。疑ったりして。それと、ありがとう。お父さんを助けてくれて」


 最初の生意気な印象は消えうせ、ロニーナは野良仕事で薄汚れた顔いっぱいに笑った。



 その後しばらくはニールの館付近の魔物退治に明け暮れる日々。なので拠点がニールの館になるのは当然。



「また来てくれたの?」


 町外れのロニーナの畑に行くと、彼女は鍬振りをやめて俺に笑いかけてくれる。


「あ、うん。やっぱり、この普通に仕事ができる生活を守らなくちゃなと、ここに来る事で俺は自分を奮起させるんだ」

「??? よく分からないけど、勇者様ってすごい!」

「こらロニーナ!」


 二人でたわいもない話をしていると、後ろのぼろい小屋から彼女の父親が飛び出してきた。


「お前という娘は! 勇者と気軽に口をきける身分ではないと何度言ったら理解するんだ!」

「だって最初の印象が強くて……それに全然偉そうじゃなくて気さくで……」

「言い訳はいい! 申し訳ありません勇者様、このように学の無い我らですので……助けてもらった恩を仇で返すようなことを……」

「いや! いいんですって!」


 娘の頭の上に手を乗せ無理矢理下げさせる父親。その光景に、まるで見えない壁が存在しているようだと思った。



「これ、旅の食料にしてください。うちの畑で取れたものです」


 いよいよ魔王討伐の旅が再会され、俺はここを立ち去る事となった。お世話になった面々に挨拶をした後、俺はロニーナの家へこっそり向かった。ロニーナは喜んで迎え入れ、餞別だと畑の取れたての作物を寄越してくれた。


「ああ、ありがとう」

「こんなことくらいしか、私できないから……仲間の方々のように特別な力や権力や支援とかできないから……せめてこれだけは頑張ろうって思ったんです」

「……ロニーナ」

「うん?」

「この旅が終わったら……いや、何でもない」




 そして魔王を倒した後、俺は英雄として祭り上げられた。やることはやったんだから、俺の我侭もこれで通るはず……。


「それは、できません」


 女神からは否定の言葉が返ってきた。


「何が不満ですか? 仲間達にロニーナに劣る者がいますか?」

「いない。みんな上等な女ばかりだよ。でもスペック高ければ、顔が良ければ惚れるってものじゃないだろ!」

「人間の考えは分かりません。何にせよ、無駄なこと。ロニーナには後ろ盾がない。この目には貴方と婚姻したのち、彼女が不幸になる未来しか見えない」

「じゃあ俺を帰せよ!」

「元の世界では貴方は死んでいる。魂だけをこちらに取り寄せ、それをもとに身体を構築したのだから」

「あんた、女神なんじゃないのかよ……」

「人々はそう呼びますね」



 結局、俺は王女と結婚した。それが一番無難な道だからだ。それ以外にも、王女が一番ロニーナに好意的だったというのもあるが。「ロニーナ? ゆーしゃのことほめてたねー」 と。


 異世界に呼び寄せられ、好待遇で受け入れられ、魔王を倒し今なお人気も高く……。


 そんなすごいかな。俺は所詮、異世界人だ。 

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