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怪盗な季節☆  作者:レルバル

帝国群な季節☆

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くすぶる紫煙と霞

《マックスとレルバル。
 聞えるか?》

『さっきから聞えてるよ。
 なんだぁ?』

マックスのかったるそうな反応を受け止め
俺もヘッドセットについたマイクをすこし口元に近づけて

「聞えてます」

と短く返事をした。

《こっちは私達が何とかする。
 だから速いとこ逃げてくれないか?》

シンファクシが後ろで指示を出しながら
俺達に通信をしているようで時折《全開にしろ!》などの
怒号の嵐が一緒にこちらに中継されてくる。

『だが、その超兵器は……』

マックスが珍しく言葉を濁した。
十秒ほど無線が沈黙する。

《…………。
 兵装が一切使えないことは承知している。
 でも盾になることぐらいは可能だ》

『……シンファクシ………』

《ちゃっちゃと敵をひきつけるだけひきつけて
 あとは速度で振り切って私達も逃げる。
 少しの間おとりになるだけだ》

『…………だが……』

《その装置がやっと届いたんだ。
 このヴォルニーエルを完全に覚醒させることが出来る。
 そして帝国郡の希望であるこの超兵器をみすみす元帥の私が
 壊すわけがなかろう?》

ふん、とマックス臆病かげんを戒めるかのように
鼻で笑ったようだ。

『姉貴……』

マックスの本当に心配そうな声に思わず背筋が凍った。
というか姉ちゃんだったのか。

《なんだ?
 それに姉貴と呼ぶなと何度言わせるんだ?》

『………死ぬな』

マックスそれ以上は駄目だ。
完璧な死亡フラグになる。
案外バカに出来ないんだぞそのフラグ。
やめとけ、本当に。

「えっと、シンファクシ。
 シエラを置いていこうか?」

そのフラグをへし折るには少しでも勝利の要素を
加えておいたほうがいいだろうという勝手な判断だった。

《……いや別に構わない。
 このヴォルニーエル一隻だけで十分やりあえる。
 マックス!》

こ、断られた……。

『な、何だぁ?』

マックスは急に自分に話が振られたことに驚いたのか
声が裏返りつつも応答していた。

《さっさとレルバルをつれて逃げるんだ。
 分かったな!》

『……了解だ。
 任せてくれよ。
 おいお前ら!
 しっかりと捕まっておいてくれよ!?』

マックスの声がスピーカーの網を破って出てきたかと思うと
機体が軋み大きく右へと旋回した。
Gに耐える鼓膜に

《かかってこいよ、三機ともっ……!》

というシンファクシの勇む発言が飛び込んでくる。
Gに耐え切れない首が自然と窓の外を向き
しぼんだ肺が空気を口から漏らした。

《イージスの出力は常に全開だ!
 一機たりともここを通すんじゃない!
 なんとしてもあの輸送機を帝国郡の希望を守りきるんだ!》

窓から見えるヴォルニーエル全体の光量が一気に増したようだった。
星空が掻き消えるほどの強い光が超兵器を覆い
三機のメガデデス級を真上から照らし上げる。

《機関全速!
 方位二一〇に進路を取れ、右八十度ちょい艦首上げ!》

ヴォルニーエルの艦尾から紫の光が長く伸びた。
ハイライトでもみたあの奇妙な光だ。
ナクナニア超光と呼ばれるベルカの万能光……。
ヴォルニーエルの巨体を見つけたメガデデス級の三隻が
まるでその光を食らうかのように襲い掛かった。
まだ機体から煙を出しているにも関らずヴォルニーエルの前に出たのは
おそらくネメラデスだろう。
上部に着いた三十センチ砲から煙がたなびき砲弾が飛び出す。
それをいなし敵を撃ち落とす絶好のポイントに達したのに関らず
ヴォルニーエルは兵装を解き放つことは出来ない。
だがそれはあまり問題ではなかったようだ。
ネメラデスの艦長はヴォルニーエルの異常な接近に気がついたに違いない。
泡を吹いて緊急回避を指示したときにはもう遅かった。
ヴォルニーエルの尖った艦首がネメラデスの右舷に突っ込んでいったからだ。
火花が大きく弾けネメラデスの砲台が基礎からもげ落ちる。
右舷という翼が砕け散り
洋上に鋼鉄同士がこすれあう悲鳴が長く尾を引いた。
右舷をもがれたネメラデスは急速に高度を下げてゆく。
やがて大きな水柱をたて、水面へとその巨体が飲み込まれた。
全長二百メートル強、十六万トンもの物体の衝突を受けた海面が
大きくうねり飛び散った水は二百メートルあまりも吹き上がった。
ネメラデスを落としたときヴォルニーエルは艦首にイージスを
集中していたようでまったくといって良いほど無傷だった。
落ちて行くネメラデスを見たのか即座にシグドデスが迎撃体制に入る。
対イージス貫通レーザーが発射され空に青い柱が伸びた。

《ちっ……!
 左舷光タンクに注光!
 傾斜と同時に左舷エンジン後進、右舷エンジン全開にしろ。
 きついのが来るぞ!》

ヴォルニーエルの全長千四百メートルちょい、質量千百六十万トンの巨艦が
見るものを圧倒する三次元運動を展開する。
空から降りてきた対イージス貫通レーザーをその巨体でありながら
左に大きく旋回することにより皮一枚で避けて見せた。
機動性も半端じゃなく高いようだ。
左に旋回した艦体は水平をすぐに取り戻し左舷も全開にして重力も借りて
一気に速度を上げた。
そしてその艦首先には対イージス貫通レーザーを放ち
機動性の鈍ったシグドデスがいた。
この時、シグドデスの艦長の緊急回避の命令は悲鳴にしかならず
コンマ三秒の後にヴォルニーエルの鋭くとがったバルバス・バウ部分が
シグドデスを真正面から串刺しにしていた。
ナクナニア航空機関が割れたシグドデスからあの危ない光が
あちこちに花火のように飛び散る。
そしてその光がシグドデスの弾薬に引火したのか膨れ上がるような炎が上がり
ヴォルニーエルの半分を覆った。
その炎を艦首で引き裂き星夜楼が高度を上げる。
燃え尽き、ばらばらになったシグドデスだった超兵器の
大小ばらばらの部品は海面に落ちていった。

『……無茶ばっかりするなぁ』

マックスもその光景を目の端で見ていたに違いない。
ぼそっと呟いたのが聞えた。
俺もそう思うぜ、マックス。
ヴォルニーエルと残りの一隻は窓の後ろに流れ見えなくなった。
ぐんと輸送機の機首が上がり高度も上がってゆく。

《すぐに私達も行く。
 先に行って待っていてくれ。
 貴官の幸運を祈る》

『……そっちこそ』

これの交信を最後にヴォルニーエルとの通信は途絶えた。
俺は窓の外に張り付いていた目を引き剥がし座席に深く腰掛ける。
目にかかるものがあるので拭ってみると大量のべったりした
汗が額を覆っていた。
いつの間にかこんなに大量に汗をかいていたらしい。

『連合郡のレーダー網を抜けた。
 もうシートベルトを外しても大丈夫だ』

きつかったシートベルトよさらば。
伸びをしようと思い立ち上がる。
だがそれを邪魔する警報に俺は小さく舌打ちした。

『海面に敵艦隊を捕捉!
 ごめん、完璧に見逃してた!』

メイナもきっとパンソロジーでヴォルニーエルの戦いを見ていたのだろう。
あれだけすごい戦いはめったに見れるもんじゃないからな。
かといって仕方ないで済ますつもりはない。

「バカ、何やってんだ!」

手に取ったマイクでメイナを思わず怒鳴りつけた。

『ご、ごめんって……。
 っ、敵艦隊ミサイルを発射!
 目標は間違いなく私達!』

「……僕が行く」

「シエラ?」

シエラは頭に載せたヘッドセットを外し座席の上に置いた。
とことこと歩いて開閉レバーの前に立つ。
ぐいっと下から上ににレバーを上げるとくるくると赤ランプが回り
ゆっくりと格納庫の扉が開いた。
まだそれほど高くない高度のおかげで吸い出されなかったが
もう少し高かったら間違いなく吸い出されてたぞ今の。
シエラは両腕を広げると目を閉じた。
背中から盛り上がるようにして銀色の翼が現れる。
服の破れ目から見える白い皮膚とは対照的な銀色に
痛々しさを覚えないでもないが本人はまったく痛くないらしい。

「じゃ、行って来る」

赤く見える月を背にした顔に影がかかり、赤紫の瞳だけが光っている。
その目がすっと細まり俺の顔をみて笑ったのだと理解した瞬間
風を残してシエラはもうそこにはいなかった。
自動でしまってゆく格納扉の隙間の向こうで銀の流星が
下の艦隊に向かって堕ちて行くのだけが分かっただけで。
俺はふと思いついて下部銃座に入ろうと床のハッチを開けた。
輸送機の中央より少し機体の尻側についている銃座は
全体が強化防弾ガラスで覆われている。
磨かれたガラスのおかげで三百六十度をぐるりと見渡すことが
この場所だけで出来る唯一のことだった。
そのガラスの中には椅子が一つつるされるような形で置いてありその椅子の前には
黒々とした機銃とそれを操るシステムがおいてあった。
ハッチが開くと人が一人やっと入れるような隙間が出来て
その中に体を押し込んだ。
下もガラス張りになっているので気を抜けばまっさかさまに
落ちてしまうという連想をどうしてもしてしまう。
ちなみに俺高いところ嫌いなんだ。
じゃあ何で入ったんだって話だけどまぁ気にするな。
椅子から少し体をずらし薄い雲海をガラス越しに見る。
薄い雲の下がちかちかと光っているのが分かった。
おそらくシエラが戦っているのだ。
ひときわ大きな光が発され白い雲の中にうっすら黒煙が混ざる。
おそらく一隻撃沈されたのだろう。

「おい、波音」

呼ばれたのでハッチ口を見た。
仁だ。

「どうしたんだ?」

仁は答えず手招きをした。
疑問に思い、また発した一つの光を後に銃座から出る。
銃座から出た瞬間目の前におにぎりがずいと出された。

「お腹減ってないか?」

いきなりどうしたんだよ……。
俺結構色々考えてたんだぞ?
でもまぁ言われて見れば――減ってるかもしれない。
あまり考えもせず『こんぶ』と書かれたおにぎりを受け取った。
ビニールを破りぱりぱりの海苔が巻かれたおにぎりをかじる。
塩の効いたただの海苔がなぜかすごくおいしく感じた。





思っていた以上に敵の妨害工作は無く無事にアフリカの
帝国郡基地にたどり着くことが出来た。
シエラは艦隊を駆逐艦の一隻のみ残して全部潰してきたらしい。
甲板一杯にまで負傷者と生存者を乗せた駆逐艦の艦長に
「あとはよろしく」とだけ言って。
皮肉だぞお前それ。

「レルバル、お疲れだったな」

輸送機から降りたときマックスは煙草を咥えて空を見上げていた。
太陽が昇る前のうっすらとした明るい空に消えた星達の形跡を眺め
マックスの隣に座る。
しばらく沈黙が乾いた風と一緒に流れていた。

「……なぁ、あの装置はよ。
 一体どれほどの価値があるもんなんだ?」

マックスは格納庫から降ろされ、輸送車両にのせられた装置を顎でしゃくった。
俺は空を見たまま

「さぁ?
 分かるわけないだろ俺が。
 シンファクシにでも……」

口を押さえた。
シンファクシの弟であるマックスにそんなこと言うなんて
なんてバカなことを言ったのだろうか。

「……姉貴もバカだよなぁ。
 俺達を守るためにわざわざ来るなんてよ。
 ――それもわざわざ……」

マックスは煙草の灰をポケット灰皿に入れると俺の隣に足を投げ出して座った。
無精ヒゲの目立つ顎を右手でなぞりながら空を見上げる。

「あんな装置のために……」

「…………」

俺は何も言えずに次第に太陽光の霞が増してゆく滑走路に目線を落とした。
今飛び立とうとしている二機の戦闘機をしげしげと眺める。

「ベルカ守護四族の末裔だかなんだかしらねーがよ。
 なんで姉貴はここまでがんばるんだろうな?
 バカなのか賢いのか分かりゃーしない。
 お前もだよ、レルバル。
 まさか本当に取ってくるなんて誰が思った?
 今だから言うが俺は失敗するに二十ドルも賭けてたんだぜ?
 見事に外れちまったよ……」

マックスは煙草を大きく吸い込んだ。
赤く光った炎で煙草が短くなる。

「この連合郡と帝国郡の戦いもいつになったら終わるんだろうな。
 俺がまだガキだったときからずっと続いてるんだぜ。
 いい加減講和を結んだりしても良いと思うんだがなぁ」

揺れる紫煙が空にゆっくりと昇っていく。
ぽつんと明るい空に暗闇が出来た。

「俺が生きているうちに戦争は終わるんだろうか?
 俺達の子供までこんな理不尽な戦いだけはさせたくないもんだ。
 いくら守護四族のネメルシエア家だとしてもだ」

その暗闇が次第に大きくなってゆき艦の形に変わり始める。
はしゃぐ心を抑えて

「……マックス」

「なんだ?」

「帰ってきた」

俺は暗闇を指差した。

「……本当だな」

マックスは煙草を灰皿に放り込むと笑って立ち上がった。

「元帥さまのお帰りだ」

腰に手を当て今までの憂鬱を吹き飛ばしたように
笑顔になるマックスを見て俺も胸をなでおろした。
これでひと段落ってところだな。





               This story continues.
ありがとうございました。
さて一気にラストへ向けて進んでいきます。
おかげさまでもう八十話になりました。
第一話はもう二年前に書いたことになるのかな?
今度計算してみます。

こんなに長いのに……。
本当にありがとうございました。
+注意+
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