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怪盗な季節☆  作者:レルバル

救明な季節☆

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救愛

「いえ、別に大丈夫ですよ。
 迷惑だなんて思っていません。
 それに、捕虜を助けなければならないのはいつかしなければならないことでしょう?」

シンファクシにそう伝えて俺は目の前に置かれたコーヒーのカップを掴む。
メイナが入れたこのコーヒーおいしいようなおいしくないような。
というかコーヒーのおいしい、まずいはまだ俺には早い気がする。

「まぁ……。
 そうだが――うん」

シンファクシが口をつぐんで黙り込む。

「とにかく、明日のお昼に出発するんですね?
 分かりました。
 じゃあ多少なりの用意だけはしてこうと思います」

「あー波音。
 シエラにもこの作戦は一応伝えてあるから安心して。
 セズクも知ってるはず。
 当然仁もね。
 もう色々と根は廻してあるから安心して」

「ん、分かった。
 じゃあ、明日の昼だな。
 明日の昼十二時に出発なんだな。
 ん、分かった」

俺は最後に元帥へ礼をすると部屋から出た。
廊下の窓から差し込んでくる月光が床を照らす。
ふと、気配を感じて後ろを見る。

「波音君……」

「……なんだ」

アリルか。
青白い光の中にうっすらと浮かび上がった少女が俺を見つめていた。
いったいいつからそこにいたのだろうか。
色々と忙しいせいで構ってあげることが出来なかったからな。
ほったらかしっぱなしだった、そういえば。

「行くんですか……?
 助けに……?」

話を聞いていたのか。
一体いつからいたのやら。

「行くよ。
 そりゃ行くよ」

俺はアリルの問いに即答した。
行かないという選択肢が見つからないんだものだって。

「でも……波音君」

何を言いたいんだろう。
行くな、とでも言いたいのだろうか。
最終兵器になった俺に力を使ってほしくないと言っているのだろうか。
それは残念だけど無理な話だ。

「…………」

俺はしばらく黙りこむ。
アリルが何を言いたいのかが分からないとどうしようもないからな。

「私、心配です」

アリルは言うか、言わないかで迷っていただらしい。
うろうろと考えていたのだろうか。
両手を力強く握り締めるとアリルは口を開けたり閉じたりしていた。
が、ようやく決意が固まったらしい。
それだけの言葉を吐き出してまた黙ってしまう。

「何が心配なんだ?」

その心配を打破しなけりゃどうしようもないわな。
ずっと、ぼそぼそ言われ続けるのも俺としては寝つきが悪いし。
アリルが俺を追ってここまで来るのもなかなかに珍しいと言えた。

「私、波音君が遠くに行ってしまうって……。
 今よりも遠くに。
 そして私の知らない波音君になってしまうような気がして――」

それが心配と。
なるほど。
セズクと同じようなことを言うのな。
俺は変わらないし、変わったつもりもない。
マックスも変わったって言ってたけども……。
俺自身が変わったつもりはない。

「心配は、それか?」

「はい。
 そうです……」

それだけなら安心した。
もっとすごいかと思っていたが。

「俺は別にどこにも行かないし、どこへ行こうともしてない。
 気のせいだよ全部。
 俺は何も変わってないだろ?」

アリルの肩を掴んで目を覗き込む。
そして見つけてしまった。
今まで俺を見るときにはなかったへの光。
怯え、そして恐怖の色。
……アリルもか。

「ですが……」

「だから、何がそんなに心配なんだ?
 大丈夫だ。
 大丈夫だから」

逆になんて答えればいいのか分からない。
だから俺は大丈夫、という言葉を連ねることしかできなかった。
肩に置いた手を離してアリルに背を向ける。
これ以上顔を見ていると色々と頭が混乱しそうだった。

「あのっ……でもっ……!」

「なに。
何がそんなに気になるんだよ」

それだけ言っても頑なに食い下がってくるアリルにイラッとしてしまう。
必然的に言葉遣いも荒くなってしまう。
アリルはびくりと体を震わせると俯いてしまった。
罪悪感がひしひしとこみ上げてくる中、アリルが口を開く。
一言一言、確かめるようにゆっくりと。

「波音君……。
 私は、普通の恋愛がしたいとかそんな欲はありません。
 本当は毎日メールをしたい。
 寝る前ぐらい、おやすみ、の電話が欲しい。
 それでも私は我慢してきました」

そう言って唇を引き締めるアリルの顔には苦悶が見える。
言うか、言わないか何度も何度も迷ってきていたのだろう。
そのたびに胸の奥に秘めて感情を殺してきていたに違いない。

「…………」

「少しぐらい、心配させてください。
 そして安全でいることを教えてください。
 そうでなきゃ私が耐え切れないです。
 波音君、だって私は――」

俺は振り返るとそっと、アリルの唇に自分の唇を重ねた。

「んっ!?」

言葉を遮られたアリルはびっくりしたように目を見開いたがすぐに目を瞑る。
柔らかい、この感覚は何と言ったらいいのか。
一応言っておくけども軽く、しかしてないからな。
舌入れるほどディープなのは俺出来ないしそんな勇気もないわ。
アリルの唇から離れると俺はもう一度アリルの目を覗き込んだ。
そこにさっきまで見えていた光はもうない。

「心配させてごめんな。
 というか、お主はあれだなんだな。
 心配したいんだったな。
 えー……じゃあ、心配させてあげれなくてごめんな?」

「……はい」

はいって、なんだ。

「えー……と。
 えー……なんて言えばいいんだ?」

「何も、言わなくていいですよ。
 ねぇ、波音君?
 その……も一回……」

「何を」

いや、あれなんだよ。
何かっていうのは分かってる、言われなくても一応。
でもやっぱりさ。
男としては聞きたいじゃない。
分かる?
聞きたいのよ。
だから意地悪を仕掛けてしまうんだよ。
アリルは顔を真っ赤にしていたが決心がついたのか

「……ちゅう」

と蚊が飛ぶような声でひねり出した。
なんだ、こいつかわいいぞ。

「ん、おいで」

「……はいっ」





「っはぁー……」

自分の部屋に戻ってきた。
ただいまんぼう。
明日の昼十二時に出発ということで今夜はたくさんご飯を食べたいと思う。
購買に行ってほとんど残っていなかったもののパンやおにぎりを買い占めることに成功した。
いとしのあんぱん、しかもこしあん。
袋を開けてふんわりふっくらしたパン生地をつまむ。
やっぱりあんぱんはこしあんだろう。
それ以外は認めない。
常識だろ。

「ん……うま……」

このあんぱんを頬張ったら次はあのおにぎりに手を出そうと思う。
ツナマヨ。
こいつもこいつで王道だ。
王道すぎるがゆえにたくさん作るんだろうけど毎回売れ残るんだろうな。
もったいない。
半額とかかれたシールを剥がしながらフィルムをはぎ取る。

「明日か……」

自分の唇を触り、ほんのりとした温かさを感じる。
あの時の俺を思い出すと死にたくなる。
「おいで」じゃねーよ。
そういうのはイケメンがやってこそのもんなんだよ。
俺はイケメンじゃないんだからやったところで……。

「あほらし……」

天井の蛍光灯にぼやくとあんぱんのごみを丸めてビニール袋に詰める。
おにぎりが三つとカレーパンが一つ。
机の上に転がっているが正直食べれる自信がない。
明日の朝ごはんの代わりになるだろうから別によしとする。
飯を食ったらやることもない。
かといってテレビを見るわけでもない。
ポケットに入っている携帯を見てみるとメールが一着来ていた。

「?」

誰だろうか。
メニュー画面からメール一覧へと飛び送り主を確かめる。
アリルか。

『夜遅くにごめんなさい。
 なんだかんだで私に構ってくれてありがとうございます。
 私、はじめは後悔してました。
 といっても、波音君が最終兵器だと分かってからですよ?
 でも、最終兵器だろうとなんだろうと波音君は波音君です。
 変わらない、って分かってます。
 でも私が変わってしまった、って感じたのはきっと……。
 とにかく、今日は話せて本当によかったです。
 お願いします、波音君。
 また私に会いに来てください。
 私からも行きますから。
 それでは、長文ごめんなさい。
 おやすみなさい』

長文すぎるだろう。
んー……うん。
ようするに、そういうことか。
寝よう。
よく分からん、寝よう。





               This story continues.
ありがとうございました。
まったく、「おいで」じゃないんだよ。
お前はあれか。
プレイボーイなのか。
そういうのはセズクさんがやってこそなりたつものだとry

ではでは!
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