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割戸学園高校より
作:春野エックス



相談(2)


「はい、何でしょうか。高額の寄付は無理ですが、……」
「はははは、見損なってもらっては困ります。お金はいりません。いや、少しは頂く事になりますが、要するに当道場に入門して貰いたい。
 入会費、家賃、道着、その他諸経費込みで、たったの二十万円ですが、即金で頂きたい。支払って頂ければ、七、八、九の三月みつきの間、他に如何なる金銭も頂きません。
 もし更に延長したいのならば、月五万の格安料金で、何ヶ月居て頂いても宜しい。どうでしょうその条件で。ただし食費は実費となりますが、個人で食べるのならば、自由にされれば良い」
 大元は一気に言った。

「今七、八、九の三月と言いましたが、まだ六月なのですが?」
 光輝は条件をむ前提で聞いた。
「はははは、その位おまけしますよ。今、持ち合わせが無ければ明日でも宜しいが?」
 大元は太っ腹なところを見せた。光輝は一瞬考えたが、三月居られれば十分だと思って決断した。
「それじゃあ何か領収書の様なものを頂けますか。お金はありますので、今ここで支払います」
「ほほほほ、手回しの良い事ですな。ならば少々お待ち下さい。受け取りを書いて来ます」
 少なくとも損はしないと感じ、幾らか安心して障子戸を開けて部屋を出て行った。

『冷暖房無しのこの部屋が月五万か。安くは無いが、べらぼうに高いというほどでも無い。まあ中本大元的に言えば多分妥当なところだな』
 ひょっとすれば、命のやり取りがあるかも知れないと思っていただけに、やや、拍子抜けしたが、
『それにしてもミルクさんの名前が如何に影響力があるか、思い知ったな。しかし、俺にホの字だなんて言ったのはちょっと拙かったかな? 少し言い過ぎだったかも知れない』
 などと反省した。程なく大元は戻って来た。

「お待たせした。正式の入門という事で、住所氏名を書いて頂きたい。ああ、住所はここでしたな。ここは、割戸市三丁目、……」
 言われた住所を書いて、署名した。
「印鑑をお持ちならここに押して貰いましょうか」
「はい、……」
 判を押した後に、右のポケットから二十万円を出して支払い、正式の入門手続きが終ると、
「ここの仕来たりで、手続き完了の後は握手で締めくくります。お願い出来ますかな?」
 大元はニヤリと笑ってそう言った。
「ああ、良いですよ」
 光輝は気軽に右手を差し出したが、ギュッと握られたその手は骨がきしむほど痛かった。
「痛たたたたたっ!」
 悲鳴を上げた。

「ははは、失礼、ちょっと力が入り過ぎました。……早速ですが、明朝五時から、当道場恒例の日曜早朝練習があります。ここに宿泊している内弟子達と亜美、勿論私も稽古致します。みっちり三時間、午前八時まで練習しますので遅れない様にして頂きたい。
 ああ、それから、これはちょっと私からは言い難いのですが、今後、私を先生又は館主かんしゅと呼んで貰いたい。宜しいかな」
 大元は次第に威厳のある言い方になって行った。
『うまく行けば、この男を丸め込めるかも知れないぞ!』
 そう感じての事だった。

「はい、これからは、先生、と呼ばせて頂きます。宜しくお願い致します」
「うむ。今日一日は自由にして宜しい。それでは」
「はっ!」
 大元は事が意外に上手く行ったと思った。反抗的な態度を取るかと思っていた光輝が実に素直なのだ。光輝自身も自分の態度に驚いていた。
『俺は一体どうしたんだ? すっかり大元先生の内弟子になり切っている。……ああっ、自分が分からん!』

 大元が部屋を出てから直ぐ、光輝はバックの中身を取り出して、押入れの中に着替え等を仕舞い込んだ。その中には亜美との戦いで威力を発揮した全身用の防具もある。
 きっちり折り畳めばさほどかさばらない。専用の袋に入れてあって、それは押入れの奥に仕舞い込んだ。勉強の道具等はテーブルの上に並べた。荷物が少ないので、片付けるのに十五分程度しか掛らなかった。

 時間はそろそろ午後一時。大元と話していた時は緊張していたせいか、感じなかったが、急に空腹感に襲われた。
『今日は特に何も無いから、外に出てどこかでお昼を食べて、それから、ゆっくりミルクの館まで歩いていこうか。ちょっと距離があるけど、二時間は掛からないだろう。
 明日は朝っぱらからハードなトレーニングがある。付いて行けない様な気もするけど、やれるだけやってみよう。今日歩くのはその前練習という事にしよう』
 歩きながら、今日自分がとった大元に対する従属的な態度について考えてみることにした。

「はーっ! 外は暑いな!」
 部屋の中が涼しかったのは、風通しが良くて日陰になっていた為なのだろう。まだ六月だったが外は眩しい真夏の空だった。

「光輝! やっぱりここだったんだ。マンションに行ったら、もう出た後だったんで、心配したんだぞ!」
 ハルカがちょっと怒った顔で近寄って来た。

「ああ、わ、悪かったな。あれ、ミルクさん、それに舞ちゃんも来てたんだ」
 光輝は内心冷や汗を掻いていた。
『ハルカがかなり怖い子だって知ってから、何と無く見え方が変った気がする。それにミルクさんをだしに使った後だからな、何ともバツが悪い!』
 都合を悪く感じたのは、大元の手下の様になってしまった自分が、情けなく思えたからでもあった。

「い、今、その、昼飯を食おうと思ってね。ああ、そうそう、ここに住まわせて貰える事になったよ」
「へーっ! さすが光輝だ。どうやったのか教えてくれよ」
 ハルカは尊敬の眼差しで光輝を見た。

「私達もお昼は食べてないから、何処かで食べましょうか?」
 ミルクが提案すると、
「そうですわね。そこで色々お話を伺いたいですわ」
 何時いつもとは何か違う舞が言った。












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